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「韓国が大嫌いな日本人」を、世界はどのように見ているのか

プレジデントオンライン / 2020年4月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MikhailMishchenko

■欧米人に日韓関係の精通者は少ない

欧米人の中で日韓関係に精通している者は残念ながら少ない。

先の大戦で日本が中国大陸を侵略し、その延長線上でパールハーバーをやったことは知っていても、その間、日韓がどのような関係性であったのかを知る者はやはり少ない。ただし戦前・戦後の日韓関係を「フランスとアルジェリアの関係に似ている」と説明すると得心が行く場合がある。

フランスは北アフリカのアルジェリアを伝統的に植民地支配していたが、フランス本国と同じく併合して県を設置し、その扱いを内国と同等とした。日本の朝鮮支配もこれと似ている。朝鮮総督府を最後まで解散することはなかったが、半島全土を1910年に併合したので本国と同じ内国扱いにした。アルジェリアは戦後、独立戦争を経てフランスから独立。

一方朝鮮半島は日本の敗戦によって強制的に独立(実際は連合国軍統治を経る)した。アルジェリアはいくらその扱いが書類上本国と同様だと言っても、植民地支配をされたという被害者の立場から現在でもフランスと精神的しこりがある。朝鮮・韓国もこれと同様である。「戦前・戦後の日韓関係はフランスとアルジェリアの関係と相似的」というのは、欧米人に現下の日韓関係を伝えるのには乱暴ではあるが手っ取り早い。

■いわゆる”保守派”のとんだ勘違い

しかし、いわゆる日本の「保守派」は、国際的な認識として、欧米人の中に「韓国嫌い」が存在すると誤解している。とりわけ世界各地で韓国系市民団体が慰安婦像を設置する動きは2010年代から活発になったが、この問題に関して欧米人は日本の主張の味方をしてくれるものだ、と勝手に勘違いしている。日本の「保守派」の中に強固に存在する朝鮮半島の植民地統治への考え方は、「そもそも朝鮮統治は植民地支配ではない」「朝鮮統治は朝鮮人が自ら望んだもの」という1990年代末から出現した歴史修正主義の亜種で、実際には日本の「保守派」以外、この主張を信じている者は誰もいない。

さらに韓国側や韓国系団体が主張する「従軍慰安婦」については、「彼女たちは単なる売春婦で、(日本)軍に勝手についてきただけの追軍売春婦(*注:日本の保守派による造語)なのだから、謝罪や賠償などをする必要はない」というトンデモで、これが国際的に通用すると信じ込んでいる。

一例を挙げよう。2015年、アメリカの韓国系市民団体がサンフランシスコ市で慰安婦像設置を求めた際、同市でこの問題に関する公聴会が開かれた。

■日本人のヘイトスピーチに「恥を知れ」

日韓双方から発言者が出たが、日本側からはいわゆる草の根「保守」団体の構成員や自称市民が答弁した。曰く「(韓国側の元従軍慰安婦は)単なる売春婦で、嘘(うそ)つきで、証言は捏造(ねつぞう)である」。まさしく日本の「保守派」が「従軍慰安婦は単なる売春婦で追軍売春婦」というトンデモ主張をそのままトレースして絶叫したのである。

これに対して同市のデビッド・カンポス市議(同委員)は、日本側出席者のヘイトスピーチを「恥を知りなさい」として一喝。日本側出席者はトンデモ論を繰り返すばかりで、かえって欧米人の心証を著しく悪くした。結局、サンフランシスコ市における慰安婦像設置案はそのまま韓国系市民団体の希望のまま通ってしまった。「従軍慰安婦は捏造で実態は売春婦」などという嘘の発言が、欧米人にも通用するものとして勇んで現地入りした日本の「保守派」が、一顧だにされずに逆に説教をされて完全敗北する。これが欧米人にとっての日韓問題に関する常識的な回答なのである。

■朝日の誤報の有無はそんなに関係ない

それでも日本の「保守派」は、従軍慰安婦報道は朝日新聞による捏造で、欧米人はこれに騙(だま)されているだけ、という手前勝手な主張を展開している。現在も、である。確かに、著述家・吉田清治による済州島における慰安婦強制連行証言は、早い段階から実証史学者の秦郁彦らによって矛盾や捏造が指摘されていた。結局吉田の証言は完全な作話であると朝日新聞も認めるに至るのであるが、欧米人はこの朝日新聞による誤報があろうとあるまいと、日本軍による従軍慰安婦への戦時性暴力を「認定」して、日本が加害者であるという「常識」を崩していない。

国連の戦時性暴力を扱った「クマラスワミ報告書」では、日本軍の従軍慰安婦問題について多くの元慰安婦から膨大な証言を引用しているが、その中で吉田証言の引用はわずかに2カ所だけである。これを以て日本の「保守派」は、「国連が韓国に騙されている」と主張しているが、吉田証言がなくとも同報告書は十分に成立するので、残念ながら欧米人の有識者は日本の「保守派」の主張を「火星の人面岩」と同等にトンデモ扱いしているか、あるいは考慮するに値しないとして無視している。

■日本の保守派の嫌韓に唖然とする台湾の学生

日本の「保守派」が如何に「従軍慰安婦は売春婦で、日本は韓国統治(朝鮮統治)で良いことをしてやった」と叫んでも、欧米人の認識はまったく動かない。そしてこんな理屈が通用するのは、自閉した日本の「保守サロン」だけで、大学の学部レベルですら同じことを論文にしたら「君は馬鹿か」と言われて即時F(不可)をもらうだろう。実際に同じような趣旨をツイッターで叫んで東京大学特任准教授を解雇された例もあるくらいである。

一方アジアに目を向けると、事情は少し違ってくる。落ちぶれたとはいえ日本はアジア第2位の経済大国であり、地域に与える影響はきわめて大きい。当然周辺諸国は日韓の歴史認識の違いや対立については、欧米人よりもはるかに興味をもってその推移を見守っている。しかしここでも日本の「保守派」による「嫌韓」はまったく支持を得ていない。

筆者が台湾の学生(院生含む)と話したとき、彼らは日本による戦前の台湾統治についておおむね肯定的評価で一致していた。ただしそれは「日本による台湾の植民地統治」という前提を是認していることを踏まえている。「日本の一部右翼は、朝鮮半島の統治がそもそも植民地支配ではない、という言説がまかり通っている」というと、皆一様に「信じられない」という反応で、「日本による朝鮮統治が植民地支配ではないのだとしたら何だというのか」と返す。

■なぜフィリピンの慰安婦像は撤去されたのか

台湾の青年知識層に対して、日本の「保守派」による身勝手な嫌韓は全くお話にもならないほど低次元のトンデモと受け入れられている。

同じく隣国のフィリピンではどうか。自治領(比コモンウェルス)やマルコス政権時代を含めると約1世紀にわたるアメリカ従属体制を経験した同国では、民族主義的傾向の強い歴史学者が先の大戦での日本軍の戦いを評価する動きもある。しかし、「大日本帝国は朝鮮と台湾を植民地統治していた」という歴史事実は揺るぎがないほど普遍的認識として共有されており、「日本軍による戦時性暴力」についても日本の「保守派」の味方をする気配はない。ただし在比華人団体の支援により2017年にマニラ市に設置した慰安婦像は翌年撤去されている。これは比政府が「従軍慰安婦は単なる売春婦」という日本の「保守派」の身勝手な主張を認めたものではなく、経済的に影響力が強い日本政府の遺憾の意を考慮したものと推察される。

■一貫して敗北し続ける「歴史戦」

日本の「保守派」は、2010年代前半から、こういった特に日韓関係における日本側(保守派)の主張を国際社会に受け入れさせることを「歴史戦」という呼称を用いて正当化させようとしている。例えば自民党の杉田水脈代議士は、下野時代この運動の最前線にいたが、ことごとく敗退した。なぜなら日本の「保守派」が唱える「歴史戦」が、あらゆる意味で基礎的歴史事実に基づいていないからである。現在、対日感情が比較的良い隣国である台比両国でも、「朝鮮統治はそもそも植民地支配では無かった」とか「従軍慰安婦は売春婦だった」などのトンデモは論外として全く受け入れられていない。

しかし日本の「保守派」は、日本国内の学部レベルですら論外とみなされる異様な主張を、サンフランシスコやヨーロッパでも壊れた機械のように繰り返し絶叫し、そのたびにファクトを述べる韓国側の主張が皮肉にもあぶり出される格好となり、敗北を続けている。「歴史戦」と自称しているのに、一貫して敗北し続ける戦線も珍しい。欧米人を含めた国際社会に日本の「保守派」による「嫌韓」が共感を持って迎えられる日は恐らく永遠に来ないであろう。

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古谷 経衡(ふるや・つねひら)
文筆家
1982年、札幌市生まれ。立命館大学文学部卒。保守派論客として各紙誌に寄稿するほか、テレビ・ラジオなどでもコメンテーターを務める。オタク文化にも精通する。著書に『「意識高い系」の研究』( 文春新書)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)など。

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(文筆家 古谷 経衡)

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