尾木ママが嘆く「超アナログから抜け出せない、日本の教育という病理」
プレジデントオンライン / 2020年4月13日 9時15分
■日本の教育の“アナログ”ぶりが露呈した
突然の一斉休校で、eラーニングなどのITを使った教育「EdTech(エドテック)」に世界的に注目が集まっています。先進諸外国と比較すると一目瞭然なんですが、日本はものすごく遅れています。それが今回、露呈しました。
新型コロナで一斉休校の状況になっても、中国やアメリカでは公教育が途切れることはほとんどなかったようです。子どもたちは自宅からオンラインで授業を受けている。大学も、オンラインに切り替えて始まっているところが多いようですね。
一方日本は、この春からプログラミング教育が導入されることになっていますが、今の全国の国公立小中学校でのパソコン普及率は5.4人に1台です。ようやく2023年度中に学校でパソコンが子ども1人1台になるというくらい。一斉休校でも、eラーニングを活用して学校の授業ができたところはほとんどありませんでした。
■この危機を「多様な学び方改革」の契機に
このように日本の教育のデジタル活用はとても遅れています。でも、ただエドテックを進めればいいとは、私は思っていないんですよ。
これは、エドテックだけの問題ではないと思います。一斉休校という危機を、「多様な学び方改革」につなげられたらと思うの。学びの多様性を実現するための一つの手段です。
例えば、ホームエデュケーション(学校に代わる家庭学習)を認めて、不登校の子どもは家庭でオンラインで学んでもいいし、図書館で学んでもいい。現在通信教育があるのは高校や大学だけですが、義務教育でも通信教育を取り入れて、選べるようにすればいい。子ども一人ひとりに合わせた、多様な学び方の選択肢が必要なんです。
■1クラス20人以下に減らすべき
働き方改革では、テレワークやフレックスなどを使って、多様な働き方に転換しようと言って進め始めていたわけですが、同じように、「学び方改革」で多様な学び方ができるように転換にするのです。
また、これは以前から提言してきたことでもあるのですが、クラスの人数も、思い切って20人以下に減らしたほうがいいでしょうね。そのほうが、いろいろな問題を抱えた子どもたちもきめ細かく見てあげられるし、今回の新型コロナによる一斉休校のような突発的なことが起こったときにも、対応がしやすいはずです。
それに、少人数だと、先生から知識を与えるような一方通行型でなく、大学のゼミのように討論しながら学ぶことができるようになります。アクティブラーニングが進めやすくなるはずです。
■全然アクティブじゃない日本の「アクティブラーニング」
小学校では今年2020年4月から、中学校では2021年4月から、子どもたちが対話をしながら主体的に学ぶ「アクティブラーニング」が全面導入されます。
小学校の教科書はもちろんですが、来年から使われる中学校の教科書も既に出ているので、その中でアクティブラーニングがどのように扱われるかがわかります。
ぜひ皆さんにも見ていただきたいんですけれど、これが「むちゃくちゃアクティブじゃない」んですよ。「ここでグループに分かれましょう」「課題を決定しましょう」「決定した課題をこの欄に書きましょう」と、ものすごくマニュアル化してるわけなんです。こんな手取り足取り誘導していたら“アクティブ”になんて学べませんよ!
そもそも、アクティブラーニングのためのマニュアルが存在することが、まず本末転倒。教師は、教科書に従ってその通りに授業を展開していけば、いかにもアクティブラーニングをやっているかのような錯覚に陥ってしまいそうです。でもそれはものすごく危険なことです。こんな様子では、スタートから失敗しますよ。もっと現場の先生の意欲や力を信頼しなくちゃいけないし、もっと先生をいい意味で悩ませなくちゃダメなんですよ。試行錯誤をさせてね。マニュアルありきでは教師をつぶしてしまいかねない。ちょっと絶望的だなぁと思いました。
■今、尾木ママなら子どもにどんな課題を与えるか
私が教師ならどうするか? そうですね、新型コロナウイルスの問題を探究させますね。新型コロナウイルスとは一体どんなものなのか、国の対応策や社会の反応、メディアの取り上げ方などについて、日本は台湾、韓国、イタリアなどの取り組みとどう違ったのか、何が一番的確だったのだろうか、世界がどんな風に協力したらいいのか……。いろんなテーマが考えられます。子どもたちそれぞれのレベルや関心によって、テーマを決め、自分で調べて研究して、レポートにまとめさせるといいでしょうね。パソコンをつかってまとめて、オンラインで世界に送ってもらうこともできます。それこそがアクティブラーニングなんですよ。
■「地域が子どもを育てる」原点見つめて
これほどに、世界規模で戦わなくてはならないような大きな難題を、取り上げない手はないと思います。アクティブラーニングにはぴったりの題材でしょう?
日本は、いつ大きな災害が来るかわからない国ですし、新型コロナウイルスのような感染症が、今後いつまた上陸するかもわかりません。
少し先の話になるかもしれませんが、今回の新型コロナウイルス拡大への学校対応については、各学校や教育委員会、文部科学省で忌憚ない意見を出し合い、振り返って総括する必要があると思います。反省すべきところは反省し、今後に繋げないといけません。
家庭では、自然災害のときと同様、今回も地域のつながりの重要性を、あらためて実感されたと思います。子どもは親だけでは育てられません。「地域が子どもを育てる」という原点を見つめて、地域のつながりを大切にしてほしいと思います。
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教育評論家・元法政大学教授
1947年、滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、私立海城高校、東京都公立中学校教師として、22年間子どもを主役とした創造的な教育を展開、その後大学教員に転身して22年、合計44年間教壇に立つ。「尾木ママ」の愛称で親しまれ、テレビ出演や講演活動にも精力的に取り組んでいる。
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(教育評論家・元法政大学教授 尾木 直樹 構成=大井明子 写真提供=尾木直樹氏)
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