息子に罵倒されても覚醒剤をやめる気がない男の言い分
プレジデントオンライン / 2020年4月14日 9時15分
■薬物は芸能界だけの話ではない
薬物をめぐるスキャンダルは定期的に報じられる。だが、薬物をやっているのは芸能人だけではない。筆者の住む沖縄県では、普通の主婦、性風俗店で働いている人、在留米軍の兵士など、「知り合いの知り合い」が薬物使用者というケースは珍しくしない。
本稿では、覚醒剤を使用している2人のケースを紹介したい。いずれも沖縄県に住む“覚醒剤の依存症から抜け出せた人”と、“いまだに抜け出せない人”の2人だ。
前者をAと呼ぼう。Aの親は公務員で、母親は専業主婦だった。家庭環境は恵まれていたが、Aは中学生からシンナーやライターのガスを吸っていた。
■地元の先輩から「ちょっと舐めてみる?」と言われ…
Aによると、シンナーを吸う方法には瓶、ペットボトル、ティッシュなどがある。ガスはライターの詰め替え用のガスをそのまま吸うか、ビニールに移してから吸う。本人いわく「いろんな薬物に興味があったんだよね。ガスとシンナーは薬物じゃないけど。あと、せき止め薬のブロンも使っていた」という。ガスについては「シンナーより早く幻覚が見える。でも、人によって違うかもしれない」と説明する。
Aが覚醒剤をやるようになったのは、地元のヤンキーグループの先輩から「渡すものがあるから一緒に車で行こう」と誘われたからだった。何をくれるのかと聞いたら覚醒剤だという。先輩から「ちょっと舐めてみる?」と実物を渡され、舐めてみたけれど「苦いだけだった」。覚醒剤の量によっては、舐めるだけでも効き目はあるそうだ。そのため、本当に“ちょっと”だったのか不明であるし、もしかすると本人が覚醒剤に強い体質だったのかもしれない。
その先輩は、那覇市辻にある性風俗店で働いていた。Aはまたもや先輩と会った時に、性風俗店内のトイレに呼ばれ、今度は“あぶり”をやっている姿を見る。覚醒剤には、注射器を使う方法と、アルミホイルや瓶に入れて火であぶり、煙を吸う方法がある。先輩に「お前も吸ってみろよ」と勧められ、Aはそこでも覚醒剤に手を出してしまった。
最初のうちはハマることはなかったが、誰かと会うたびに覚醒剤を吸うようになってから、少しずつハマっていったという。ついには自分の方から「シャブないですか?」と先輩に聞くようになった。それをAは「知らず知らずにハマっていったのかな」と話す。
■なぜ「覚醒剤に興味がなくなった」のか
そうしてシャブにハマり始めてしばらくたった後、今度は「売りをやらないか?」という話が同じ先輩からまわってきた。そして、言われるがままに覚醒剤の売人を始める。この頃にはもう、自分でも覚醒剤をやめられなくなっていた。そのうち、「組織(暴力団)から自分で引いて(仕入れて)、客に売らないで自分でやるようになって、いつの間にかやめられなくなった」とAは語る。
その後、Aは覚醒剤取締法違反(使用)とは別の容疑で逮捕された。懲役1年9カ月の有罪判決を言い渡され服役することになった(現在は出所している)が、この懲役がきっかけで覚醒剤の依存症から抜け出せたという。
![那覇地方裁判所(那覇市)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/6/670/img_464d38f2a8e6c936d611245307279b0c1374393.jpg)
Aは服役中の様子も語ってくれた。刑務所や懲役作業をする工場では、自分と同様に覚醒剤を理由に服役している人が少なくなかったそうだ。そのため、「シャブで6回、7回、刑務所に入っている人もいたし、(注射器で)打つのと、火であぶるのとは全然違うっていう話を聞いていたんだけど、出所してから覚醒剤そのものに興味がなくなったんだよね。ブロンも買わなくなったし」と、話す。
その理由を問うと、ちょっと恥ずかしげに「薬よりも女の子が恋しくなったから」と言った。
■中学に入ってから生活が荒れ始めたB
次は、“覚醒剤への依存をやめられない人”の話をしよう。名前はBとする。Bはある事件を起こして逮捕された後、覚醒剤の陽性反応が出て覚醒剤取締法違反(使用)容疑で再逮捕された。ちなみに同法違反での逮捕はこれで2度目だ。また、再逮捕後にあった家宅捜索でも0.7グラムを所持していたと地元紙で報道されている。
Bは、地元の人間として筆者も昔から知る人物だ。Bの家庭環境は複雑で、母親は水商売、父親は暴力団関係者。両親は離婚し、母親のもとで育てられた。本人によると中学に入ってから生活が荒れ始め、危険ドラッグの使用はAと同じくブロンとシンナーからスタートしたという。
Bとは10年以上疎遠だったが、筆者は今回、取材のためBのいる那覇拘置所(沖縄県)を訪れた。以下はBとのやりとりである。
■「子どものことなんて頭から消えてしまう」
——初めて覚醒剤に触れたのはいつか
「19歳くらいのときだったはず。でも、あの頃は、まだシンナーを吸っていたからシンナーのほうが自分に合っていた」
——ハマりだしたきっかけは?
「多分、23歳くらいかな。大阪に働きに行っていたんだけど、仕事先の先輩が覚醒剤をやっていて、自分も一緒にハマっていった」
——逮捕された今、また覚醒剤を使いたいと思うか
「無ければやらないけど、手元にあればやってしまう。我慢しようとしても体が震えるんだよ。(自分の)子どものことなんて頭から消えてしまう」
![依存症](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/0/670/img_d04a04d66889bbf9ef622e7de2e66ca8383554.jpg)
Bには小学生の一人息子がいる。一度目の逮捕時は面会に来てくれたそうだ。息子から「『パパ、バカじゃないの?』って言われた」とうれしそうに振り返っていた。その口ぶりからは覚醒剤をやめようという気持ちはうかがえない。
短い面会時間の中で、筆者は最後に「将来、自分の環境を変える気はないのか?」と問いかけた。するとBはこう言い切った。
「それはない。いまさらできることなんて限られているし、何かに縛られて生きていくくらいなら今の生き方を選ぶ」
■画一的なプログラムでは根本治療に結びつかない
Bのように、依存症から抜け出せず、本人にも抜け出す気がない場合には、どうすればいいのか。筆者はBを責める気にはなれない。というのも、Bが今後服役し、刑務所から出てくる頃には40代後半になっている。そこから新たな環境を自分ひとりの力で作り上げていくことを諦めてしまうのは理解できる。
現在、刑務所で行っている特別改善指導の中に「薬物依存離脱指導」というプログラムがある。具体的には、テキスト、VTR、グループワークなどで「なぜ薬に手を出してしまったのか」について自らを省みる内容となっている。しかし、受刑者が薬物に手を出す背景はさまざまかつ複雑で、画一的な内容では根本治療に結びつかないという指摘もある。
これは女性の薬物使用者に限った話ではあるが、札幌刑務支所(札幌市)が民間団体の力を借り、薬物使用の罪で服役する女性受刑者のための回復支援策を導入し、新たな更生プログラムを開発する方針を決めている。
毎日新聞の2月13日付の記事「脱薬物へ女性受刑者支援 男性より回復難、出所後につなげ 札幌刑務支所で検証」によると、女性の薬物使用者の特性として、幼少期からの虐待やDVを経験した割合が男性に比べ少なくないことから、心を落ち着かせる行いや出所後へのフォローも手厚くするとのことだ。刑務所における薬物犯罪者への処遇については、平井秀幸の『刑務所処遇の社会学』(世織書房)に詳しい。
筆者が取材している範囲だと、男性も幼少期にネグレクトを受けた経験があったり、家に親がいなかったりなど、複雑な環境で過ごしている場合がある。女性受刑者のみならず、彼らが出所後に開き直って薬物を繰り返すことのないよう、新たな枠組みのサポートが必要ではないだろうか。
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フリーライター
1988年沖縄県生まれ。高校中退後、キャッチのアルバイトをきっかけに、沖縄県内のキャバクラやクラブで働く。2015年高校卒業後、現在は佛教大学社会学部現代社会学科(通信制課程)に在籍。社会学を勉強するかたわら、キャバクラ時代に知り合った人脈を生かし、取材・執筆活動を行っている。
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(フリーライター 上原 由佳子)
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