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日本でも「60歳以上のコロナ患者」は人工呼吸器を諦めるべきか

プレジデントオンライン / 2020年4月9日 17時15分

2020年4月7日、イタリア・トリノの病院で、デカトロン社の「シュノーケリング・フェイスマスク」を使用する新型コロナウイルス患者の様子。 - 写真=AFP/時事通信フォト

■日本は年寄りに冷たい国だ

日本は年寄りに冷たい国である。私は、長年そういい続けてきた。

今回の新型コロナウイルス肺炎の蔓延(まんえん)で、さらにその思いを強くしている。

勤め人や学生たちは、企業や学校から指示が出るから、それに従って動けばいい。

だが、働いていない年寄りには何の音沙汰もない。情報源は新聞かテレビしかない。ネットの情報は玉石混交で、フェイク情報との見分けがつきにくい。新聞は情報が遅いし、小さな活字を読むのが面倒になった。

結局、朝のワイドショーをボーッと見ることになる。テレビ朝日の「モーニングショー」などは、スティーヴン・キングのホラー映画を見ているかのように、コロナの恐怖をこれでもかと煽り立て、一日中気が滅入る。

■もしコロナに罹っても、不運だったとあきらめろというのか

多くの国の死亡者の統計から、はっきりしてきたのは、そのほとんどが高齢者で、生活習慣病などの持病を抱えている人だということである。

「WHO(世界保健機関)と中国の合同ミッション報告書によると、生活習慣病がない新型コロナウイルス感染者の致死率は1.4%だ。これに対して、糖尿病の感染者の致死率は9.2%、高血圧患者は8.4%と軒並み高くなっている」(平野国美ホームオン・クリニック院長=週刊現代4/11・18号)

日本の死亡者数を見ても50歳から上がほとんどで、特に70代、80代が死亡、重症者数ともに圧倒的に多い。

したがって、早急にやるべきは、高齢者のコロナ感染検査と、陽性と判明した高齢者たちの隔離、入院、治療であるべきことは言(げん)を俟(ま)たない。

だが、緊急事態宣言の中にあるのは「老人福祉施設の使用停止」要請だけである。

年寄りは家に籠っておとなしくしていろ。もし、コロナ肺炎に罹っても、不運だったとあきらめろというのか。

これでは現代版「楢山節考」ではないか。

しかし、こうした「命の選別」は、日本だけのことではない。コロナ禍に見舞われている国では、それが堂々とまかり通っている。

■「70歳以上の患者にはモルヒネで安らかに逝っていただく」

イタリアのコロナウイルス“爆心地”ロンバルディア州のベルガモの病院の医師は、「わが国では、70歳以上で新型肺炎が重症化した場合、2人にひとりが亡くなっている状況です。彼らに人工呼吸器を着けさせなかったらどうなるか。(中略)ただ、どうすることもできない。人工呼吸器の数が足りない以上、若く、助かる見込みの高い患者を優先して治療しなければなりません」(週刊現代4/4号)といっている。

ミラノ在住のヴィズマーラ恵子も、「地元の新聞では、一部の病院で、『70歳以上の患者さんに対しては、大量のモルヒネを投与して安らかに逝っていただく』措置を取っているという内容が報じられています」(同)と話している。

ニューヨークでも同じことが起きていると朝日新聞(3月30日付)が報じている。

「これまで高齢の患者が肺炎で呼吸困難に陥ったら、『挿管してほしくない』と意思表示があるケース以外はしていました。何歳であろうが、患者の意思を尊重し、生きるチャンスに懸けてみる。当たり前のことです。

ただ、いまはそんなことはとてもできません。患者や家族がいくら挿管してほしいと言っても、『生き残る可能性が高いひと』を選ばざるをえない。患者に決定権を与えられない。平常時なら助けられるかもしれない患者を助けられないんです。これは、医師としてやりきれない。でも、そんな『命の選別』のようなことを、せざるをえない状態です」

これからは日本でも、病院の入り口に「犬と高齢者は入るべからず」という張り紙が貼られ、疾患のない高齢者でも、検査を受けられないという事態が出来するかもしれない。

■敬老精神などこの国にはない

何しろ、麻生太郎財務相は4年前、北海道での講演で、「90歳になって老後が心配とか、わけのわかんないこと言っている人がこないだテレビに出てた。『オイ、いつまで生きてるつもりだよ』と思いながら見てました」といい放ったことがある。これは1700兆円という個人資産の6割以上を保有する高齢者に消費を促したいという文脈での発言だった。

麻生は自著の中でも、年寄りたちが貯めているカネを吐き出させる工夫をしなくてはいけないと述べている。「オレは年寄りだが、カネは唸るほどあるから、老後なんか心配していない」という本音を隠せない度し難い人間である。

こんな連中が政治をやっているのだから、敬老精神など、この国のどこを探しても見つかりはしない。年寄りは貯めこんでいるカネを吐き出して、さっさといなくなってほしいというのが、奴らの本音である。

だが、高齢者たちから、「命は平等だ」「治療を受ける権利を我らに」という叫びは聞こえてこない。声を出せず家に籠って、迫りくる恐怖と闘っているのである。彼らの気持ちを代弁して、齢74の私が声を大にしていうしかないのだ。

■閣僚、役人たちが率先して覚悟を見せるべきだ

週刊新潮(4/2号)で作家の楡周平が珍しくこの問題について書いている。

新型インフルの発生に備え、国は「プレパンデミックワクチン」を備蓄している。だが、その量は1000万人分しかない。

そこで「新型インフルエンザ等対策特別措置法」で、「住民接種」を行う順位を、「妊婦を含む医学的ハイリスク者」「小児」「成人・若年者」、その次に「高齢者」として、この国の将来を守ることに重点を置き、高齢者を最後にするとしてあるという。

今回のコロナウイルスの場合も同じことだが、そのことをどれだけの高齢者が知り、受け入れる「覚悟」ができているのかと、楡は問いかけている。

正直にいおう。私にそんな覚悟はない。それをいうなら、感染爆発を前にして、今頃になって、各家庭にマスクを2枚ずつ配ろうなどといい出した、安倍を含めたアホな閣僚、役人たちが、率先して覚悟を見せるべきである。

WHOもマスクで感染は防げないといっているのに、何百億円も浪費して無駄なものを送りつける輩たちに、国民の命を守ろうという気概などあるはずはないが、それを示してから、我々高齢者に、覚悟を問うべきである。それでも私は拒否するが。

■空咳に発熱、体の痛みで病院へ行くと…

「成人病」の宝庫である私は、コロナ感染への怯えと、為政者たちの無為無策に怒り、呆れ果てていた。そんなストレスがいけなかったようだ。

先週の金曜日あたりから体に異変が起こった。コロナ肺炎に感染したのでは、そう思う症状が出始めたのである。

空咳が出る(以前から少しはあるが)。体温を測ると37度を超えている。耳から首にかけて痛みが走る。頭痛がする。体が重い。

私は今年の11月で後期高齢者になる。おまけに糖尿病で高血圧。さらに、毎晩、酒を飲む。酒を飲むと免疫が下がり、新型肺炎に罹りやすいといわれる。感染症への抵抗力は、普通の年寄りよりも極めて弱いと考えるべきだろう。

日曜日を除いて、新宿・早稲田のオフィスに出ている。中野駅から地下鉄に乗るが、マスクはしない。買えないのではない。マスクは息苦しくて嫌いなのだ。

4月6日時点で、中野区の感染者は41人となっている。

カミさんは病院へ行けというが、大勢の人がいるところへ出ていく勇気はない。近所に、先代からかかりつけの内科医がいる。普段は小さな子供や主婦で混雑しているが、新型肺炎の感染を恐れて閑散としているようだ。

電話でやっていることを確かめて、行ってきた。

医者は私の話を聞き、ウイルスによるものだが、新型肺炎ではなく、帯状疱疹だという。50代以上が罹ることが多く、潜伏していたウイルスが疲労やストレスで免疫力が低下すると発症するそうだ。

ホッとして思わず崩れ落ちそうになる。だが、免疫力が落ちているということは、新型肺炎にも罹りやすいということではないか。あわてて家に帰り、布団をかぶって寝た。

■1カ月の行動制限で起きる弊害は想像を超える

安倍首相は4月7日に緊急事態宣言を出した。期間は5月6日までとし、実際の措置を講じるのは対象区域の都府県知事となる。

「各知事は、感染拡大防止などのために必要と判断すれば、住民への不要不急の外出の自粛要請や、施設の使用停止、イベントの開催制限の要請・指示など私権の制限を伴う措置をとることができる」(4月6日付の朝日新聞)

小池百合子都知事は、以前から「ロックダウンもある」といっていたから、都民の生活はかなり厳しく規制されることになるのだろう。

罰則はなくても、盛り場に出向いたり、居酒屋で仲間と飲みかわす、近くの公園などで子どもたちを遊ばせれば、厳しい視線が注がれることであろう。

1カ月近くの長きにわたって行動を規制されることで起きる弊害は、想像を超える大きなものになるに違いない。

日本中の経済活動がほぼ停止することで、新型肺炎蔓延以上のリスクが広がるのではないか。

■今後、高齢者の検査は後回しになるのでは

「新型肺炎の感染拡大は国の責任ではない」とツイッターでバカなことをつぶやいたのは、自民党の佐々木紀(はじめ)国土交通政務官である。

こんな連中のいる中で、安倍政権が、行動規制で起きる莫大なリスクをすべて負い、雇用を失ったり、売り上げの激減した企業や店舗経営者たちに、手厚い補償をする覚悟があるのだろうか。

一世帯に30万円を配るという一見“大盤振る舞い”のように思える補償も、手続きや収入が減ったことを証明するための煩雑さで、本当に困っている人の手に届くのか、まだまだ不透明である。

私のような高齢者が危惧しているのは、ただでさえ運動不足になりがちなのに、さらに行動を制限され、家に幽閉されてしまうことである。

週刊現代(4/11・18号)でも、高齢者が適度な運動もせず、家に閉じこもりきりになると、免疫力が低下していくと指摘している。

さらに生活習慣病などがあれば、うつ病などや認知症を発症する可能性が高いというのである。

さらに、高齢者が「新型肺炎に罹ったかもしれない」と思っても、どこへ駆け込めばいいのか。

一応、東京なら各区の保健所の「帰国者・接触者相談センター」になっているが、電話しても、かかりつけの医者に行けと、受け付けてくれないケースが多発しているようだ。

感染者がさらに増えていった場合、高齢者が後回しになるのではないか。

■死に目に誰とも会えないまま火葬されてしまうのか

年寄りの僻みといわばいえ。世界中で起きている「命の選別」が、年寄りを軽視するこの国で起きないわけはないと、私は考えている。

人工呼吸器は日本全国で3万台近くあるといわれ、政府も増産を指示しているから、今後増えることが予想されるが、肺機能が低下した重症患者の血液に酸素を送る装置であるECMO(エクモ=体外式模型人工肺)は1400台ほどしかないそうだ。

亡くなった志村けんもこれを使ったようだが、ECMOを用いる治療には専門の医師と看護婦、臨床工学技士が必要だが、人材が極めて払底しているといわれる。

イタリアでは、人工呼吸器さえも60歳以上にはつけないという「シンプルな基準を設けた」(坂本知浩済生会熊本病院循環器内科部長=週刊現代4/11・18号)そうだ。

ユダヤ人虐殺のためにつくられたアウシュヴィッツ強制収容所では、労働力とみなされない妊婦、女性、病人、老人、身長120cm以下の子供らは右、それ以外は左へと「選別」されたといわれる。右に送られた者たちの先にはガス室が待っていた。

新型コロナウイルス肺炎では、私のような病気持ちの年寄りは、普通の肺炎か新型コロナウイルス肺炎かの判別もされず、満足な治療も受けられないで、死に目に誰とも会えないまま火葬されてしまうのかと思うと、夜も眠れない。(文中敬称略)

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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