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「理美容とホームセンターの休業要請」で、なぜこんなに揉めているのか

プレジデントオンライン / 2020年4月9日 18時15分

記者会見で両手を大きく広げる東京都の小池百合子知事=2020年4月7日夜、東京都庁 - 写真=時事通信フォト

「緊急事態」の主役になろうと息巻いていたのだが、スタートでつまずいてしまった。安倍晋三首相が緊急事態宣言を行った4月7日夜、小池百合子都知事は肝心の「休止要請リスト」を示せなかったのだ。繰り返し安倍氏に宣言を迫り、宣言が出たら直ちに対応すると「予告」までしていたが、なにがあったのか——。

■「宣言前」にわざわざ予告していたのに…

7日夜。午後7時から安倍氏が首相官邸で記者会見を開き「非常事態宣言」を行った。それを受けて小池氏が午後8時から会見に臨んだ。

「本日、国が7つの都府県を対象として緊急事態宣言を発しました。都におきましては全域がその対象区域となったわけでございます」

会見を聞く者は都民に対する具体的な要請の内容を待った。小池氏は、外出の自粛は求めたが、焦点となっていた民間施設への休業要請の対象は、明らかにしなかった。「国との間で調整を行っているところで、9日に成果を得て10日発表、11日から実施というスケジュール感でいきたい」と語るのみだった。

記者たちは耳を疑った。小池氏はこれまで、政府に対して早く緊急事態宣言を出すよう要求。6日夜の会見では「都民、そして事業者が適切に事前の準備を行えますように」ということで宣言後に都が行う緊急事態措置の案を事前公表していた。

7日に宣言が出るのは織り込み済みだったとはいえ、首相が正式に宣言する前に、それを前提として対応をオープンにするのは異例中の異例。「フライング」の声も出た。

■前線を仕切る知事という立場に前のめりになっていた

小池氏は3月25日ごろから、コロナ対応に全力を挙げる姿勢を強調してきた。前日の24日、東京五輪・パラリンピックの1年延期が決まったことで、この問題に集中し、政治的プレゼンスを高めようとしたのだ。このあたりは3月28日公開の記事「この状況で安倍首相と『グータッチ』をする小池都知事の危機意識」を参照いただきたい。

いずれにしても、初の緊急事態の前線を仕切る知事という立場に前のめりになっていた小池氏。待ちに待った宣言を受けた7日の会見は、あまりにも不自然で、あまりにも歯切れが悪かった。

予兆はあった。6日に明らかになった都の案では、理髪店や美容院、ホームセンターも休業要請するリストに入っていた。ところが7日昼、衆院議院運営委員会で西村康稔経済再生担当相は、理美容やホームセンターは「安定的な生活を営む上で必要だ」などとして休業を求めない考えを明らかにした。国と都で齟齬(そご)が明らかになったのだ。

■都民の命を最優先で考えれば、当然のことではあるが…

どちらに問題があるのかは、今後の検証が必要だ。恐らく双方に誤解と調整不足があったのだろう。

政府は宣言を発令した7日、従来の対処方針を改正。施設の使用制限を要請する場合は、自治体と国が協議して、外出自粛の効果を見極めた上で実施する、という内容に変えている。そして政府は、外出自粛の効果を見極める期間について「2週間」を念頭に置いている。

そのような重大な変更について国と都が十分に意思統一できていなかったことは心もとない限り。都など自治体との調整にあたっている西村氏は、政策立案能力は定評があるが、根回しなどの泥臭い仕事は不得手だ。小池氏1人を悪者にするわけにはいかない。ただし、宣言前にいち早く案の内容を公表してしまったことから考えて、小池氏の意向を受けた都側の勇み足があったことは間違いないところだろう。

東京以外で緊急事態の対象となった6府県は、現段階では宣言に基づく休業要請は民間施設には行わない方針。神奈川県の黒岩祐治知事は8日、記者会見で「(都と)足並みがそろわない現状が浮き彫りになった。大変悩ましい」と語り、西村氏に調整を委ねる考えを語った。隣接する都の小池氏の突出ぶりへの苦悩がうかがえる。

それにしても、このような齟齬は、なぜ起きたのだろう。

まず、それぞれの立場の違いがある。都としては手遅れにならないように一刻も早く、しかも広く投網をかける形で制限をかけたい。都民の命を最優先で考えれば、この方針にたどりつくのは当然のことではある。

■国は「コロナ疎開」での感染拡大を恐れた

一方、国は厳しすぎる要請をして首都を縛ると、日本全体の経済に甚大な影響を及ぼすことを警戒している。政府・自民党のもとには、休業要請される可能性のある業界関係者が、対象から外すように要請しているとの見方もある。業界団体の陳情で、緊急事態下の対応が変わるようなことがあれば由々しき事態だ。

さらに言えば、過度に都民の自由を縛ると、都民が地方に流出する可能性があるのを国は心配している。いわゆる「コロナ疎開」だ。

東京で陽性となった都民が他の道府県に移動、移住し、それが原因で感染が全国規模で広がるのは、国にとって最悪のシナリオなのだ。

ここまでは、立場の違い上、ある程度やむを得ない食い違いともいえる。

だがこの問題は、国と都、安倍氏と小池氏の意思の疎通が乏しいことが底流にある。

■安倍氏と小池氏の「微妙な関係」が緊急事態に露呈した

小池氏は2006年、第1次安倍政権で首相補佐官に就任。そのころまでは良好な関係だったが、次第に疎遠になった。

安倍氏が復権した2012年の自民党総裁選で小池氏は、安倍氏の天敵ともいえる石破茂氏側についた。2016年の都知事選では自民党などが推す増田寛也元総務相を蹴散らして勝利。安倍政権は大きな傷を負った。

小池氏は最近は自民党に接近。7月の都知事選では自民党も小池氏を推す方向となり、雪解けは進んでいた。しかし、2人の間にはまだ、わだかまりが残る。それが、緊急事態宣言の日に露呈したともいえる。

都の方針が発表されるのは10日、実際に休業要請を求めるのは11日からとなる見通し。当初は8日から始める予定だったから3日スタートが遅れることになる。

たかが3日というなかれ。緊急事態宣言の効力がある期間は5月6日までの1カ月。3日間は、その1割にあたる。この遅れが重大な結果を招かないのを願うばかりだ。

(永田町コンフィデンシャル)

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