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経営の神様・松下幸之助から教わった「メモの魔力」

プレジデントオンライン / 2020年4月22日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

■メモだけではダメ!清書も必ずセットで

松下電器産業(現パナソニック)の創業者は、松下幸之助さん。私は松下電器に入社後、PHP研究所の松下さんの秘書として23年間務め、その後半は経営責任者を担当しました。その間、常に私は松下さんとの仕事において、「メモをとる」ことを心掛けていたと思います。

松下さんには、松下電器担当の「業務的秘書」がいましたが、私はどちらかというと、「思想秘書」。松下さんの考えることや思うことを聞いたり確認したりという、思想面というか、考え方の面での仕事もしていました。  

松下さんは、私に大抵は雑談で話しをします。しかし、その雑談は単なる雑談ではありません。松下さんの思想であり、哲学です。雑談だからといって聞き逃すことはできない。ですから、これもメモしよう、あれもメモしておこう、という思いで最初からメモをとるようにしました。

もちろん仕事の話、特に後半は秘書の仕事だけではなく、PHP研究所の経営も担当しましたから、そういう経営に関する話も当然するわけですが、それでも会っている時間の7割ほどは、雑談。経営、哲学、政治、経済、教育、社会全般にわたりました。時に、個人的な話もよくしてくれました。今考えても、よく話し合ったと思います。土曜も日曜もなく、夏休みや年末の休みもなく呼び出され、年がら年中、お互い雑談をしていました。

松下さんと雑談しているときはもちろん、仕事の指示を受けているときもですが、先ほども言いましたようにメモをとることを心掛けました。私は常に、A4のノートにメモをとりました。

大学時代の話ですが、私は毎日、一冊のノートしか持っていきませんでした。教室では、必ず一番前のほぼ中央。どの講義も、すべてその一冊のノート、言ってみれば、雑記帳です。その雑記帳に講義内容をメモしていました。そして9月頃になると、清書することを習慣にしていました。そうすると、清書しながら内容が頭に入る。

ですから、試験前にノートを見返すだけで準備が終わり、苦労せずに結構良い成績が取れました。私の清書したノートはクラスメートから「貸してくれ」とよく頼まれましたし、卒業するときは後輩からも欲しいと言われ、ほとんどの清書したノートは後輩にあげて、感謝されたことを覚えています。ちなみに、そのノートが数冊、なんと半世紀以上経って、後輩たちからお返ししますと送られてきました。送ってもらったことより、50年以上も持っていてくれたことに驚きましたね。

そういう習慣が身についていたので、松下さんの話も、メモをとることが自然にできました。やり方は、まったく学生時代と同じ。もう、なんでもメモをとりました。そして、時間があれば、すぐに清書。遅くとも翌日には清書するようにしたのです。

■経営の神様が語ったメモの極意

残らずメモをとろうとしたら、録音をすればいいという方もいらっしゃるかもしれません。ただ、当時は今のような小さなICレコーダーではなく、弁当箱のような大きさのカセットテープレコーダー。結構大きいんです。だから、私は使いませんでした。それはそうでしょう、そのカセットテープレコーダーを目の前に置いて、雑談できますか(笑)。

大きなレコーダーを前に置けば、お互い気楽に雑談など、できないでしょう。それで、カセットテープレコーダーを使わず、メモをとりました。しかし、そうなると目はノート、顔を伏せたままになる。仕方ないですよね。そんな状態でメモをとっていたら、あるとき松下さんに次のように言われました。

「キミ、人の話を聞くときは、ワシの顔を見て、たまにはうなずかんとあかんで」

そう言われて、「そうか。松下さんの顔を見て、うなずくことが大事なんだ。顔を見てうなずくことで、私がしっかりと聞いていること、理解していることが、松下さんに伝わるのか。伝われば、松下さんも話がしやすくなるのか」と気づきました。

それからは、松下さんの目を見て、ノートに目を落とさずにメモをとるようにしました。手元を見ていませんから、乱暴な字であったり、意味不明の平仮名が続いたり、途中で文章が終わっていたり、行が重なって、一見わからなかったりしますが、さっき聞いた話、昨日聞いた話ですから、そういうメモでも解読できるものです。

松下さんの思いを理解することができるようになるそのメモを読み解けば、松下さんの考え、思想、哲学などが、頭ではなく、腹で理解できるようになります。仕事の指示も、なにをすべきか、松下さんの思いを理解することができるようになる。そういうことを繰り返していると、松下さんの考えとか、思想、哲学だけでなく、仕事の指示でさえ、頭ではなく、腹でわかるようになります。 メモをとる第一のメリットは、そういうことです。

■メモをとり、清書し、読み返すことが大事

最近の学生は、授業のときに先生が黒板に書いた字を、ノートに書き写すのではなく、スマホのカメラで撮って済ませるそうですが、それでは頭に入らないのではないでしょうか。1つは、撮ったという安心感から、清書しない。だから、頭に入らない。1つは、書き写すときに、考えて読み解く必要がない。書き写すだけ。だから、頭に入らない。やはり、メモをとり、清書し、読み返すことが大事だと思います。

メモをとる、もう1つのメリットは、とったメモの内容がスケジュールであれば、読み返すことによって、次の準備、事前の準備をすることができるということです。社長や上司が1週間後や1カ月後に誰かに会うということであれば、どんな資料やデータを揃えればいいか、頭の中に浮かんできます。 目で聞いて、表情を見て、メモをとり、考え、判読しながら整理していますから、なにを準備したらいいか、わかります。社長や上司にとって安心して仕事を任せられるのは、指示する前に準備をしてくれる人です。メモをもとに、しっかりと準備ができる人は、社長や上司に安心感を与え、頼りがいがある存在です。

松下幸之助さんが亡くなってから、私はそのメモをもとに、何十冊も執筆しています。すべて松下さんから直接聞いた、折々の話のメモをもとにしています。人の話を聞いてメモをとるということは、その人について、後日文章にしたり、話をするときにも役立ちます。これがメモをとる3つ目のメリットです。もう2000回以上の講演をしていますが、その講演も、松下さんが話してくれたときの、私のメモをもとにしています。本や雑誌に原稿を書いてくれと頼まれたときも、手元にかなりのメモがありますから、大抵は、すぐに書くことができますね。ですから、私は原稿の締め切りに遅れたことは1度もありません。

もちろん、今でもメモをとることを心掛けています。やっている方もいらっしゃると思いますが、枕元にノートと鉛筆を置いてますよ。夜中でも、ハッとなにかを思いついたら、メモをとる。最近では、スマホの手書きメモ機能も使って、いつでもどこでも思いついたことを書き留めています。

メモ術は早い話が、成功術。そのように、私は思っています。

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江口 克彦(えぐち・かつひこ)
江口オフィス代表取締役
一般財団法人東アジア情勢研究会理事長。松下電器産業(現パナソニック)元理事、PHP総合研究所元社長、元参議院議員等を歴任。『凡々たる非凡松下幸之助とは何か』など著書多数。

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(江口オフィス代表取締役 江口 克彦 構成=大越 裕)

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