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在宅勤務の急増で「バリキャリ女性」のメンタルが懸念されるワケ

プレジデントオンライン / 2020年4月15日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

新型コロナウイルスの感染拡大で、在宅勤務に切り替える人が増えている。産業医で精神科医の渡辺佐知子さんは「私の実感では約7割はスムーズに移行できていますが、3割は在宅勤務でストレスが増えています。特に“バリキャリ”の子育て女性はメンタルを崩しがちで、注意が必要です」という——。

■「狭い部屋にひとりぼっち」「自分もコロナ感染するのかな……」

「家ではオン・オフの切り替えができない」
「狭い賃貸マンションにずっとひとりぼっちなのがつらい」
「オフィスにいたら、仕事で懸案事項があっても上司などに直接相談すればいいけど、チャットだと細かいニュアンスが伝えづらい……」

新型コロナウイルス感染拡大を受け、リモートワークをする人が増えている。それに伴い、家に閉じ込められ鬱々(うつうつ)とした気分だとため息をつく人も増えている。

オフィスでは時々、仕事の手を休めて職場の仲間と雑談して息抜きできるが、それもできない。自宅のテレビをつければ、コロナ情報の嵐。自分も感染するかもしれないという恐怖心に加え、仕事環境が激変して困惑しているという読者も多いのではないか。ネット上では「コロナ鬱」という言葉も見かける。

主に働く世代のメンタルヘルスを専門にしている精神科医の渡辺佐知子さんはこう語る。

「産業医現場の実感として、『リモートワークにフィット』にできた方が7割。世界的危機にも負けず、オンライン効率化を加速させてうまく乗り越えています。しかし残りの3割の方は仕事もプライベートも崩壊して苦しんでいるようです」

リモートワークなら、コロナ感染のリスクを抑えられ、通勤時間のストレスもない。会議もビデオチャットで済ませられ、また、ビデオチャットで「オンライン飲み会」をすればストレスも発散できる。

「もともと低血圧、自己免疫疾患(ステロイド内服中)などの持病がある場合は、在宅勤務になったことでのびのび働けるようになり、症状が軽快(*)したという人も少なくありません」(渡辺さん)

*いまだ治癒には至らないが、入院時より症状が好転

■テレビ会議が日に3本、「自宅でも残業」してしまう人々

しかし、渡辺さんのもとには次のような声も届いている。

「在宅勤務でテレビ会議する際、“画像OFF・音声のみ”の設定の人が多いチームだと、表情が読み取れずコミュニケーションに不安を感じた。社内の会議でこの意見が多かった」
「ソフトウエア開発などのチームが使う会社のパソコンは持ち帰りができないので、出社しないと仕事にならない。午前リモート、午後出社としているがメリットは少ない」
「在宅でのテレビ会議が午前中に3つも入ると、もう自分の作業は何もできない。気付くと自宅で残業することになっていた」

こうした、仕事環境の変化による働きづらさが原因のストレスが今後も積み重っていくと、イライラがもとで家族間のトラブルになったり、心身が不調になったりするリスクもある。

■リモートワークで「人生が狂ってしまう」5つの重大ケース

■夫婦の不和・離婚・DVの危険

例えば、共働き夫婦でともにリモートワークをするケースだ。リモート長期化によって想定されるシチュエーションをこう語る。

「もともと残業が多く仕事依存気味の既婚男性は、在宅勤務になっても朝から晩まで仕事にのめりこみがちです。奥さんが何か声をかけてもパソコンを見つめながら『好きにして』と文脈のつながらない返事。家事も全部奥さん任せ。3食の食事を用意しながら、『私もリモート会議が入ってるに……』と奥さんのイライラが日に日に増していきます。こういうご夫婦は、そのうち夫婦不和になって、最悪の場合は離婚やDVにも発展しかねません」

緊急事態宣言を受け外出自粛の傾向が強まる今後、リモートワーク人口がさらに増え、家庭内の人間関係が悪化するリスクは高まるだろう。SNSでも「#コロナ離婚」というタグがはやり始めている。

「もともと合わないな、と思っていた夫婦はこれをきっかけに一気に夫婦関係が破綻するリスクもあります」

在宅勤務する父親と一緒にいる息子
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara
■独身者が自堕落な生活で心身に不調をきたしやすい

リモートワークは出社の必要がないので、ついつい起床時間が遅くなりがちだ。それにより、生活全体のリズムが狂い、ルーズになりやすい。

「特に独身のひとり暮らしの方の場合、睡眠時間が不規則になって気が緩みがちです。実際、社員の中には『職場では身だしなみを整え周囲の目を気をしますが、在宅勤務では人目を気にせず昼寝をしたり、ネットサーフィンもしています』という方がいましたた。また、別の社員からも『家から出ないので運動していません。通勤時は1日6000歩以上歩いていたのですが600歩ぐらいになり、たちまち数キロ太りました』という声が届いています。自堕落な生活は、それだけで心身の不調や生活習慣病のリスクを高めてしまいます」
「会社によっては勤怠管理をアプリで行っていて、社員が自宅でパソコンを使っているかどうか会社側が把握できるようにしています。『仕事に向きあえず自己管理できない人間は出社しなさい』と指示を出すなど、会社側も社員の生活リズム対策には手を焼いているようです」

■バリキャリ女性は仕事環境の変化に弱い

リモートワークになると、会社で集中して仕事をするというこれまでの習慣を変えなければいけない。長年体にしみついた「ルーティーン」ができないことにストレスを覚える人も少なくない。渡辺さんは「とりわけ仕事を最優先してきた“バリキャリ”の女性が心配です」という。

「彼女たちの中には、働くことに全力投球するだけでなく、妻として、母としても万全を期したいという方もいます。もちろん、子育てにも手抜きはしない。そうなると、在宅勤務で小さい子供がいると、仕事の傍らにその面倒もみなければならず、会社にいるときより神経を使います。テレビ会議をしている最中にふざけて仕事を邪魔することもあるかもしれません。仕事に没頭できないことに強いストレスを感じて、感情を爆発させてしまうリスクがあります」

「子供のマネジメントができない自分」を責めて、落ち込むバリキャリも出てくるかもしれない。こうした時、愚痴や弱音を夫などに吐ければいいのだが、渡辺さんによれば「有能な彼女たちは責任感もプライドも高く、旦那さんなどに上手に相談することが苦手な人も多い」という。そうなると、ますます仕事にもプライベートにも悪い影響が出るリスクが高まる

■入社10年以内の若い人事部社員は“もらい鬱”になるリスク

■マジメで有能な「人事部」社員が危ない

また渡辺さんは「企業の部署の中で、もっともコロナの影響が大きいのは人事部ではないか」という。優秀な人材確保・育成は会社の命運を握り、人事部員にとっても最も重要なミッションだが、新型コロナの感染拡大で採用計画は変更を余儀なくされている。

「そうなると、新卒採用がうまくいかず、新入社員向けの研修もできない。本人のせいではないのですが、人事部員は性格上、責任感が強くまじめな人が多いだけに、自分を追い込み、精神的につらくなる人も出るかもしれません。コロナ騒動によりメンタルが弱ってしまう社員への対応にも追われ、“もらい鬱”のような症状になるリスクもあります。特に入社10年以内の若い人事部社員は注意してください」

在宅勤務する女性
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi
■メンタルがもともと弱い社員は「パニック状態」

上記の事例は主に健常者だが、もともと精神的に病みやすい人はコロナ騒動によりどんな影響を受けるだろうか。

「強迫性障の傾向があると診断されている方の場合、感染拡大のニュースを見るたびに悪化するリスクは十分にあるでしょう。例えば、手を洗っても洗ってもすぐウイルスや菌がついてしまうのではないかという恐怖感が高まります。洗いすぎて手はボロボロになりますし、触るところすべてをアルコール消毒して、触ったらアルコール消毒して、の繰り返しです」

リモートワークでは、もともと責任感が強くまじめな人や、思い込みやプライドの強い人が影響を受けやすい。平時では有能なビジネスパーソンだが、仕事環境の劇的な変化についていけず、対応できないのだ。

■業績急降下で産業医を解雇する動きが……

今後、リモートワークが長期化すれば、企業業績のさらなる悪化が懸念される。渡辺さんが知る産業医仲間でも、「来月(4月)からはけっこうですので」と解雇された人がいるそうだ。業績悪化を理由に社員のメンタルヘルスをフォローする産業医を置かない企業が増えれば、リモートワークで病む社員もますます増えてしまうだろう。

「今後も予期せぬトラブルがあるでしょう。もし精神的に『危ないな』と思ったら視点を変えてください。リモートワークの悪い面だけにとらわれないこと。できるだけ家の中でのオン・オフを意識して、この生活にも終わりが来ることをイメージしながら乗り切っていきましょう」

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渡辺 佐知子(わたなべ・さちこ)
精神科医・精神科指導医
金沢医大卒業後、同大学の神経科精神科勤務。同大学女性医療センター外来を担当後、厚生労働省医系技官として、がん対策を中心とした政策立案や医療行政に携わる。ミャンマーでの海外医療ボランティアでは駐在員のメンタルヘルス対応に従事。現在は、クラウドサービスで社員のメンタルの問題を解決するメンタルヘルステクノロジーズが手掛けるサービス「ケアーズLite」などのアドバイサリーボードとして国際的で多角的な視点から助言・提言を行っている。

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(精神科医・精神科指導医 渡辺 佐知子 構成=藤本光)

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