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孫正義のメモ術「ピンときた数字・単語だけメモる」

プレジデントオンライン / 2020年4月21日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

■ツイッターで自らを追い込む

孫正義といえば、「やりましょう」というツイートが有名ですが、新たなビジネスになりそうなアイデアを思いついたとき、普通の人なら手帳にメモしておくような事柄を、彼はお客さんに向けてツイートしてしまいます。

例えば「人型ロボットPepperに手話機能を搭載する」「ソフトバンクショップでの待ち状況リアルタイム公開」など、ユーザーからの要望が寄せられたとき、自分が素晴らしいと思ったアイデアに対しては「やりましょう」と即座にツイートしてしまいます。

彼は常々「追い込まれなければ本当の力を発揮できない」と話しているから、これは自分を奮い立たせるための行動なのです。

私は、2005年から14年まで、ソフトバンク社長室長を務めました。8年間にわたって孫の傍らで仕事をしてきた私の印象では、孫は「メモの人」です。ただし彼のメモは「覚え書き」や「備忘録」といった性格のものではありません。

ソフトバンク本社には、秘書たちが“迎賓館”と呼ぶ和室の応接間があります。その部屋の襖(ふすま)は、すべてホワイトボードになっているんです。海外からの賓客を招いて意見交換する際、孫は議論のポイントをその襖に書き出し、アイデアを共有しながらビジネス構想を練り上げることもありました。

例えば、シャープを買収した鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)氏が来たとき。彼の英語がブロークンだったので、孫は襖のボードに議論の要点となる算数の式を書き出して話し合いました。

孫にとってのメモとは「シェア&コミットメントのためのツール」なのです。

■学生時代に1億稼いだ「発明ノート」

孫が、メモを習慣化したきっかけは、アメリカ留学時代の「発明ノート」です。彼は19歳のとき、カリフォルニア大学バークレー校に留学し、経済学を専攻していました。

自分で学費を稼がなければならないが、アルバイトをすると勉強の時間が削られてしまう。なんとか短時間で稼げる方法はないかと考えた彼は、「優れた発明をして、それを企業に買ってもらえば、短時間で稼ぐことができる」と思いついたそうです。

そこで、毎日5分だけ使って、1日にひとつ発明をする習慣を自らに課したのです。この発明ノートが、孫のメモの始まりです。

孫の発明ノートのポイントは3つあります。

第1は「問題解決法」。みんなが日常生活で不便に思っていることは何かを常に考えてノートにメモし、その解決法を考える。

第2は「水平思考法」。ある事柄をノートに書き、その逆を考える。例えば「冷蔵庫は白い」と書き、黒だったらどうなるかを考える。

そして第3が「組み合わせ法」。既存のものを2つ以上組み合わせて新たな価値を生み出す方法。ラジオとカセットを組み合わせると、ラジカセになるように、あらゆるものを組み合わせてみる。

こうして日々発明に取り組んだ結果、彼は250以上の発明アイデアを生み出したそうです。その中のひとつが、世界初の「音声機能付き翻訳機」。後にこれをシャープに売り込んで1億円を手にしたのは有名な逸話です。

私は、孫が「組み合わせ法」でアイデアを生み出す瞬間に遭遇したことがあります。ソフトバンクが第4の事業会社として携帯電話事業への参入を目論んでいた時期のことです。

ある日、講演のために孫とともに岡山県を訪れました。車で走っていると、孫が窓の外を指さしながら「嶋さん、あの山の上にアンテナ見えるでしょ?あれがポイントなんです」と言ったんです。携帯電話サービスの品質を向上させるためには、基地局の数がポイントになります。しかし、いちいちコンクリートの基礎を造っていたのではカネも時間もかかる。孫は、もっと簡便に基地局を増やすためにはどうすればいいかを日夜考えていました。そして、海沿いにあるテトラポッドを指さして、「あの上にアンテナをつければ、置くだけで設置できるから簡単だ」とひらめいたのです。

孫はすぐさま、最高技術責任者だった宮川(潤一=現・代表取締役 副社長執行役員 兼CTO)に電話をかけ、「テトラポッドの上にアンテナを立てる」というアイデアについて話し始めました。アイデアを思いついたときには、メモではなく即座に電話かメールをする人なのです。

■地球規模に発想を広げるiPadメモ術

孫は、新しい事業にチャレンジする際には、最初に当該分野における内外の有識者を集め、彼らの話を聞いてビジネス構想をまとめていくのが常です。メモを手に専門家の話にじっくりと耳を傾けながら、その事業の「Key Factor for Success(成功の鍵)」は何かを冷静に見きわめようとしていました。

10年にiPadが発売されると、孫は好んでメモツールとして活用していました。

当時、自然エネルギービジネスへの進出を目論んでいた彼は、例によって世界各国の専門家に話を聞いていました。孫はiPadを手に、時折メモを取りながらじっと話を聞いていました。

自然エネルギーには決定的な弱点があります。太陽光や風を利用するため、安定した出力を維持できないのです。それで、日本中に送電線を張り巡らせれば、どこか晴れているところ、どこか風が吹いているところで発電した電気を全国に届けることができるんじゃないかと考える。しかし、交流の送電線は、距離が長くなると大きな電力ロスが生じるというデメリットがあるのです。

そのとき専門家の1人から「直流ならば、仮に3000kmの距離を運んでも5%しか減衰しない」という説明がありました。その瞬間、孫の手元を見ると、iPadの画面に指で「5%」と書き、グルグルッと丸で囲んでいる。さらに「3000km」「直流OK」とメモしていました。このとき孫の頭の中がフル回転を始めます。

ふと手を止めて「3000kmって、日本からどこまでだろうか?」とか「世界で一番いい風が吹いているところはどこですか?」と質問するんです。専門家の説明で、モンゴルのゴビ砂漠では一年を通して素晴らしい風が吹き、太陽が照っていると知った孫は、「モンゴルで作った電気を直流送電線で九州まで送る」というアイデアにたどり着くんです。

これが後に、アジアの国々をケーブルでつなぎ、自然エネルギーで発電した電力をやりとりする「アジアスーパーグリッド構想」につながりました。メモを取っているとき、孫の頭の中では世界スケールまで発想が広がるんです。

孫にとって、メモは「思考を加速するためのツール」でもあるのです。ビジネスパーソンの皆さんも、単なる備忘録としてのメモを卒業して、「発想を広げ、共有するためのメモ術」を身につけてみてはいかがでしょうか。

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嶋 聡(しま・さとし)
ソフトバンク元社長室長
1958年生まれ。86年松下政経塾修了。96年衆議院議員に初当選。3選を果たすが、2005年9月に落選。同年11月から14年までソフトバンク社長室長を務める。著書に『孫正義の参謀―ソフトバンク社長室長3000日』など多数。

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(ソフトバンク元社長室長 嶋 聡 文=梅澤 聡)

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