自宅にいながら「経済学と英語」をマスターするにはどうすればいいか
プレジデントオンライン / 2020年4月13日 9時15分
■コロナ後の世界でのあなたの地位を決めるのは、「勉強」
新型コロナウイルスは、世界に大きな影響を与えています。いつになって終息するか見通しがつきませんが、必ずいつかは終息します。そして、「コロナ後」の世界は、これまでのものとは同じものではありません。さまざまなことが、大きく変わるでしょう。
コロナを恐れ、それに正しく対処することは必要ですが、ただ恐れているだけでなく、この期間に自らに投資し、知識を深め、能力を高めるべきです。
コロナ後の世界であなたがどのような地位を占めるかは、この期間にあなたが何を学ぶかによって決まるでしょう。
■独学はもともと学校教育より優れている
ところが、コロナ感染の拡大を抑えるため、小中高校の多くも、大学も休んでいます。この期間に勉強する方法は、独学しかありません。
ただし、独学はコロナで学校が閉鎖されたためにやむを得ずにするものではありません。もともと、独学は学校教育よりも優れた面があるのです。
小中高校までの教育については、教えるべき内容は、誰にとってもあまり違いません。したがって、「学校に集まって、先生から授業を受ける」という方式が最も望ましいのです。
しかも、この年齢層の子供や若者にとっては、集団生活と社会生活の訓練をするという意味においても、学校に集まることの効果が大きいのです。
しかし、同じことが、社会人になってからの勉強にも当てはまるわけではありません。社会人の勉強では、まず、「何を勉強するか」に関して、非常に大きな個人差があります。
これまでどれだけ、何を勉強してきたか、これからどんな知識を得る必要があるかなどは、人によって大きく異なるからです。
このため、学校に集まって先生から同じ内容の講義を受けるのは、効率が悪い面が多いのです。
「自らカリキュラムを組んで学ぶ内容を決める」という独学こそが、社会人になってからの勉強法では最も効率的な方法です。
■英語の勉強では、とくに独学が重要
このことは、外国語の勉強について、顕著にいえます。外国語を仕事に使おうとする場合、学ぶべきことは、どんな仕事の分野かによって大きく違います。
例えば、営業の仕事をしている人と、経済学の研究をしている人では、学ぶべき英語が全く異なるのです。
とくに重要なのは、その分野の専門用語を知ることです。多くの専門分野において、日常生活では使わない多くの専門用語があり、これを知らないと話になりません。
逆に、こうした専門用語さえ知っていれば、文法的に少し変でも、あるいは発音がおかしくても、専門家同士の会話は進めることができます。
仕事に必要な外国語とは、このようなものなのです。したがって、これを英会話学校で勉強しようとしても、もともと無理だということになります。
■「学校に行かなければ」というのは思い込み
以上のような事情があるにも関わらず、多くの人は、学校に通いさえすれば知識が得られ、能力が高められると考えています。
そして、独学は、学校に通う経済的余裕や時間的余裕がない場合のやむをえない方法だと考えています。
しかし、これは、学校教育を受けてきた惰性に基づく思い込み、あるいは錯覚にすぎません。
コロナ感染下でいや応なしに独学をせざるを得ない状況になって、初めて独学がいかに効率的であるかに気がついた人が多いと思います。
■独学を続けるためにはガイドが必要
しかし、何のガイドもなしに独学を進めることはできません。いくつかのポイントを押さえておくことが必要です。
第一に、「独学を継続させるためにはどうしたらよいか?」という問題があります。学校教育の場合には(とくに義務教育の場合には)、学校に通うことが義務になっています。ですから、途中で勉強を止めることはできません。
ところが独学の場合には、自分の意思で勉強を進めていますから、途中でやめてしまうことがしばしば起こるのです。
せっかく意気込んで勉強を始めたものの、数カ月したらやめてしまった、ということが頻繁に起こります。では、どうしたら、独学を継続することができるでしょうか?
第二の問題は、カリキュラムの作成です。学校教育の場合には、先生がカリキュラムを作成してくれます。学生はそれに従って受動的に学ぶだけです。先に述べたように、学校教育の場合には学ぶべき内容がほぼ決まっているために、こうなるのです。
ところが、社会人になってから独学で勉強を進めようとする場合には、何をどのような順序で学んでいくかというカリキュラムは、学習者が自ら作らなければなりません。これは決して簡単なことではありません。
第三は、学習のための教材です。これも学校教育の場合には先生や学校が準備してくれますが、独学の場合には、自分で探してくる必要があります。
以上のように、独学については、ただやみくもに進めればよいというのではなく、ガイドが必要です。私は、2018年に刊行した『「超」独学法』(角川新書)という本で、独学を進めていく場合の注意点を述べました。
■「私は独学の専門家」と言う理由
『「超」独学法』に書いたのは、私自身の経験に基づく方法論です。
私は、大学では工学部の教育を受けたのですが、4年生の時に、もっと視野の広い仕事がしたいと思い、経済学の勉強を始めました。経済学部に転部する方法もありましたが、その余裕はなかったので、独学で経済学を勉強し、公務員試験の経済職を受けたのです。
この時の勉強は、社会人学校に通って行ったわけではありません。全くの独学で行いました。この時に私が行った方法は、かなり特殊なものだったと思います。それについても、『「超」独学法』で詳しく説明しました。
その後、私はアメリカの大学院に留学して経済学の正規の教育を受けたのですが、日本に帰国後、大学で経済学を教えることになりました。この時も、留学中に勉強したことをそのまま教えたわけではありません。むしろ、「自分で勉強を進めながら教えた」という面が強いのです。この場合の勉強は、もちろん独学です。
このように、私の場合には、仕事に必要な知識の多くは、学校教育ではなく、独学で身につけたものです。したがって、私は「独学の専門家だ」と自負しています。このような経験から、独学こそがもっとも効率的な勉強の方法だと、私は信じています。
■独学のための環境や条件は、大きく改善した
私が独学をした時に比べて、独学のための環境や条件は、いまやはるかによくなっています。例えば、英語の勉強です。私は、英語の勉強も独学でしました。いつしたかといえば、アメリカ留学から帰ってきて後にしたのです。
留学の前でなく後だというのは不思議なことだと思われるかもしれません。
何でこんなことになったかといえば、大学で教えるようになってから、外国に出かけていって英語で講演したり、外国の研究者と合同で行う研究会や会議で、発言したり司会役を務めたりする機会が増えたからです。
私は、英語で講義を聴いたり、英語で本や論文を読んだりすることについては、あまり問題は感じていませんでした。このような能力は、学校教育で身につけていたからです。
しかし、「大勢の前で話す」という能力は、十分でないと思っていました。そこで、独学で英語の話し方の勉強をしたのです。
■外国語の独学は、教材の制約がほとんどなくなった
![野口 悠紀雄『「超」独学法』(角川新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/f/200/img_dfa79c789d2a0a3503d20db8996bdcde160176.jpg)
ただし、その時には、「スポークン・イングリッシュ」(話されている英語)の教材を手に入れることは、容易ではありませんでした。FEN(極東アメリカ軍ラジオ放送)のニュースやニュース解説をテープに録音し、それを繰り返し聞くことで、この訓練を行ったのです。
この頃に比べると、英語(あるいは、外国語一般)を独学するための道具は、考えられないほど豊富になっています。
ネットにいくらでも無料の音源がありますし、印刷された本をスマートフォンで図形認識して、それを音読してくれるアプリも登場しています。それらの中から、自分の専門分野のもの、あるいは興味あるものを選ぶことができます。
したがって外国語を独学で勉強することについて、教材の制約は、ほとんどなくなりました。このような教材を活用すれば、英語(あるいは他の外国語)の独学を、極めて効率的に、しかも楽しみながら、進めていくことができます。
■独学は、学校に通って勉強するよりはるかに効率的
英語の教材以外にも、さまざまな教材がウエブにあります。しかも、それらの多くは、無料で利用することができます。
さまざまな意味で、学校に通って勉強するよりはるかに効率的に、独学で学ぶことができるようになっているのです。
「学校に行けなくなった」「自宅で勉強するしか方法がなくなった」といういまの時期を活用して、独学の素晴らしさにぜひ目を開いていただきたいと思います。
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一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。近著に『入門 AIと金融の未来』『入門 ビットコインとブロックチェーン』(PHPビジネス新書)など。 ◇note ◇Twitterアカウント ◇野口悠紀雄Online
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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)
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