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テレワーク難民のコンサルタントがついに見つけた「意外な個室」

プレジデントオンライン / 2020年4月16日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Geber86

さまざまな事情で「家では仕事ができない」という人がいる。しかしカフェなどは感染リスクが高い。どんな場所で仕事をすればいいのか。緊急事態宣言が出る前の3月中旬、経営コンサルタントの竹内謙礼氏は「意外な個室」を見つけた。その場所とは——。

※本稿は、3月16日~31日に取材をしたものです。取材内容は当時の状況に基づいています。

■テレワーク民が流れ込んでいた

外出自粛要請が出る前の3月中旬頃の話である。

打ち合わせの合間にコワーキングスペースを利用しようとした際、ふと「大丈夫か?」という思いがよぎった。

世の中は新型コロナウイルスの影響で、テレワークを行っている企業が多い。会社に出社できず、コワーキングスペースで仕事をしている人が増えているのではないかと思い、気になってフリーランスの知人に連絡を入れてみた。

「いつもより混んでますよ」

予想通りの回答だった。

「カフェだと電源があるかどうか分からないし、長居もできませんからね。今は図書館も利用できませんから、溢れた人たちがコワーキングスペースに流れてきていますよ」

学校も休校中なので、自宅だと仕事が手につかない人も多いだろう。一人暮らしでも机とイスが小さすぎて長時間のデスクワークに耐えられない人もいるはずだ。環境の整ったコワーキングスペースにビジネスパーソンが集まるのは致し方ないといえる。

利用条件や立地にもよるが、1カ月間のコワーキングスペースの利用料金は会員になればだいたい1万円前後である。20日間の利用だと1日500円。カフェよりもリーズナブルだ。しかし、知人は今の状況に少し困惑している様子だった。

「これだけ混むと……ちょっと気になっちゃいますよね」

知人が言いたいのは感染のリスクなのだろう。厚生省が掲げる「3密」(密閉、密集、密接)を考えると、混み合ったコワーキングスペースは、やはり警戒心が生まれてしまう。

■「取材を受けます」とは言えない事情

私もほぼフリーランスのような立場なので、日常的にコワーキングスペースを利用させてもらっている。探せば感染対策をきっちり行っているコワーキングスペースがあるかもしれないし、ここで安全性をしっかり伝えることができれば、利用者も安心してコワーキングスペースを利用できるはずだ。

そう思い、早速、知人が利用しているコワーキングスペースにメールで取材を申し込んでみた。しかし、3日たっても返事が来ない。普段であれば電話をかけて取材の催促をするのだが、今回だけは躊躇(ちゅうちょ)してしまった。

もしかしたら、取材されることを嫌がっているかもしれない。「快く取材をお受けします」とも言いづらいし、「取材をお断りします」といえば、今度は感染対策の不備を疑われてしまう。意図的にメールを返していないのか、それともメールを見落としているのか分からないが、電話をかけて取材の催促をするのは、相手のことを追い詰めることにもなってしまうかもしれない。結局、複数回利用したことがあるコワーキングスペースで情もあったので、取材は断念した。

■「すみません、担当者が不在なんです」

次に私がよく利用している別のコワーキングスペースに取材を申し込むことにした。前回の反省を生かして、今度はメールではなく、電話で取材を申し込むことにした。対応してくれたのは可愛(かわい)らしい声の女性スタッフだった。

「コワーキングスペースを取材したいのですが」
「どのような取材内容でしょうか?」
「感染対策について記事を書きたいと思いまして」
「……すみません、今、担当者が不在なんです」

対応する口調に少し変化が出てきたのが分かった。見知らぬ人から電話がかかってきて、いきなり新型コロナウイルスの取材をしたいと言われれば、警戒して当たり前だ。慌てて取材交渉の戦略を切り替える。

「私、実は御社のコワーキングスペースをよく利用している者なんです。こういう時期だからこそ、応援したいという思いがありまして。それで取材を申し込んだんです」
「そうだったんですね」
「私、竹内謙礼と言いまして、本業はコンサルタントをしています。ネットで検索すればいろいろ情報が出てくるので、それで怪しい者ではないという確認が取れると思います」

取材許可の手応えを感じながら電話を切った。

■入口にはアルコール消毒、スタッフはマスク着用…

しかし、それから3日たっても私の携帯電話は鳴らなかった。取材を断られた理由はおそらく2つある。ひとつは、取材されるのを嫌がった。もうひとつは、私の名前を検索して、「こいつは怪しい奴だ」と思われて警戒されたか――。

気持ちが少しへこんでしまったが、ここまで来たら実際にコワーキングスペースに乗り込んで、現地を取材してくるしか方法はなさそうである。

取材許可の連絡がこなかったコワーキングスペースに行ってみることにした。

入口にはアルコール消毒のポンプ容器が置かれており、壁に貼ってある注意書きにはスタッフがマスクを着用していることや、入店人数によっては入場制限をかける旨が書かれていた。思いのほかしっかりしている対応である。

早速、いつものように仕事を始めることにした。しかし、周囲に知らない人に座られてしまうと、やはり警戒心が出てきてしまう。静かに集中して仕事ができる環境としては抜群に素晴らしいところではあるが、神経質な人だと、集中力よりも警戒心のほうが上回ってしまうかもしれない。

■今までに入場規制をかけたことはない

ふと周りを見渡すと半分ぐらいの人で席が埋まっていた。ガラス越しに見える複数の会議室は満室となっており、風通しが良い環境とは言えなかった。次第にコワーキングスペースも混み合い出したので1時間ほどで出ることにした。会計時に「どのくらい席が埋まったら入場規制をかけるんですか?」とスタッフに聞いてみた。

「今まで一度も入場規制をかけたことがないので分かりません」

あっさりとした回答だった。アルバイトっぽい若い男性だったので、もしかしたら、よく事情が分からないのかもしれない。ただ、現場スタッフの判断では、どのくらいが「密閉」「密集」「密接」になるのか判断するのは難しいとも思った。売り上げにも影響するし、規制がかかったと分かれば、今、利用している人たちも危険を察知して出て行ってしまうかもしれない。入場規制の判断は経営者でも難しいと思った。

■まさかの「カラオケボックス」でテレワーク

コワーキングスペースを飛び出してしまったので、道端で途方に暮れることになった。仕事はまだ残っている。他のコワーキングスペースに行こうと思ったが気持ちが乗らないし、カフェも同じように混み合っているはずだ。どこか利用できる個室はないのかスマホで検索したところ、想定していなかった施設が見つかった。

カラオケのビッグエコーである。

『オフィスボックス』という名称でテレワーク用にカラオケボックスを貸し出しており、ソフトドリンクの飲み放題付きで1時間の利用料金は600円。延長は30分300円だ(いずれも税別)。コワーキングスペースよりやや高めの価格設定だが、個室と考えれば低価格といえる。

早速、すぐ近くのビッグエコーに行ってみることにした。「オフィスボックスを利用したい」と受付で言ったところ、すぐに部屋に案内された。当たり前だが、いつも利用しているカラオケボックスである。

しかし、個室のオフィスとしてみれば、設備は充実しているといっていい。扉を閉じれば外部からの音はほとんど遮断されるし、ソファの座り心地と机の高さのバランスが良いので長時間のデスクワークも問題ない。電源、Wi-Fiも完備されており、個室なので周りの目を気にせず電話の受け答えもできる。机の上に広げた資料を他人に見られる心配もない。

オフィスボックスを2時間ほど利用させてもらったが、仕事をするには完璧な環境だった。もう少し時間があれば、食事をして、酒も飲んで、1曲ぐらい歌いたい気持ちもあったが、さすがに帰れなくなりそうだったので、後ろ髪を引かれながらも部屋から出ることにした。

■昼間の利用のために、2017年から始めていた

ビッグエコーを利用した後、ひとつだけ大きな疑問が残った。

カラオケボックスは「密閉」「密集」「密接」の急先鋒として、早々に利用を控えるようお達しが出た娯楽施設の一つだ。それならば、テレワークが注目を集めている状況では、もっとオフィスボックスのPRに力を入れるべきではないのか。

オフィスボックスの告知は店頭に貼られているポスターぐらいで、大きな宣伝活動は行っていない様子だ。ネット広告も展開しておらず、検索でようやく見つけ出したほどで、これといって目立った販促活動は行っていない。

その疑問を解くために、ビッグエコーを運営する第一興商に取材を申し込んだ。すると、広報からすぐに連絡が入り、店舗事業推進部店舗企画課の川崎敏史さんが、ビッグエコー新橋烏森口店で取材に応じてくれた。

「実はオフィスボックスは昼間のカラオケボックスの有効活用として、2017年から一部の店舗ではじめたサービスなんです。テスト運用してみたところ、想定していた以上にお客様から好評だったので、2019年の秋ごろから全国約500店舗でオフィスボックスのサービスをスタートさせたんです」

■予想以上に充実しているサービス内容

取材を進めると、サービス内容が思いのほか充実していることが分かった。会議室として複数人で利用することも可能で、法人専用のアプリをダウンロードすれば、社員がバーコードをかざすだけで、会社への一括請求が可能となる。本人がその場で利用料金を支払う必要もなく、多くの店が駅のすぐそばにあるので、コワーキングスペースが少ない地方都市や出張先でも利用することができる。

新型コロナウイルスの感染が拡大し始めてからは、スタッフの健康管理、場合によってはマスク着用、利用者へのアルコール消毒液も準備している。利用後に客室内のマイク、リモコン、テ-ブル、ソファ-、ドアノブ等もすべてアルコ-ル除菌を行っているということだ(3月3日「新型コロナウイルス感染拡大に対する当社の対応について」)。

■娯楽施設だからこそ、守るべきイメージがある

テレワークの場所に困っている人にとっては、理想的なサービスといえる。それならば、なぜ、テレワークの利用者が増えているこの時期に、もっと積極的なPR活動をしないのか。

「カラオケという娯楽施設だからこそ、守らなくてはいけない企業のモラルがあると思うんです。3年も前から始めているサービスなので便乗商法だとは思われたくありませんし、そのような誤解を消費者に与えることはできる限りしたくありません。こういう時期だからこそ、企業のブランドイメージを大切にしていきたいと思っているんです」

娯楽として楽しんでいるカラオケボックスが、いきなりテレワークとして利用して下さいと言い出したら、確かに興ざめしてしまう。「うまいこと便乗しやがって」と思う人もいるはずだし、そのような妬(ねた)みの気持ちは、新型コロナ終息後、利用者の心に強く刻まれてしまう恐れもある。

「この騒動がひと段落したら、本格的にオフィスボックスの宣伝活動は行っていこうと思っています」

オフィスボックス専用のホームページはすでにリニューアルが完了し、休止していたオフィスボックスPR用の公式ツイッターも、終息後に活動を再開させる予定だという。

■「終息後」の世界はどうなっているか

新型コロナウイルスの影響で、多くの企業がもがき苦しんでいる。そのような中で、マスクや消毒液を高く売る便乗商法を目にすると、余計に沈んだ気持ちになってしまう。しかし、今回のビッグエコーの「あえて宣伝しない」というスタンスは、短期的な売り上げは失うかもしれないが、長期的なブランドイメージを保てる有効な戦略といえる。

4月7日、7都府県に緊急事態宣言が発令された。それを受けて、ビッグエコーを運営する第一興商は、対象地域の店舗を5月6日まで、他の地域については4月26日まで臨時休業とすることを発表している。

一人で個室を利用するのであれば、感染のリスクは低いはずだ。お店まで自転車や車で行けば、公共交通機関を利用する必要もない。せっかく家以外の仕事場所を見つけたと思ったのに、残念だ。今後、新型コロナウイルスをきっかけに、テレワークを推進する企業が増えるかもしれない。その時にカラオケボックスでテレワークをすることがトレンドになってくれていれば、取材した者としては嬉(うれ)しい“新型コロナ終息後”の世界といえる。

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竹内 謙礼(たけうち・けんれい)
有限会社いろは代表取締役
大企業、中小企業問わず、販促戦略立案、新規事業、起業アドバイスを行う経営コンサルタント。大学卒業後、雑誌編集者を経て観光牧場の企画広報に携わる。現在は雑誌や新聞に連載を持つ傍ら、全国の商工会議所や企業等でセミナー活動を行い、「タケウチ商売繁盛研究会」の主宰として、多くの経営者や起業家に対して低料金の会員制コンサルティング事業を積極的に行っている。著書に『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』(日本経済新聞社)、『御社のホームページがダメな理由』(中経出版)ほか多数。

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(有限会社いろは代表取締役 竹内 謙礼)

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