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コロナ「大リストラ地獄」のあとに襲いかかる、世界的食料危機の波

プレジデントオンライン / 2020年4月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hadynyah

新型コロナウイルスの影響で大恐慌が世界に訪れようとしている。日本でもコロナを理由に倒産する会社が出始め、職を失う人も見られるようになった。しかしフルーツビジネスジャーナリストの黒坂岳央氏は次に世界を襲う新たな脅威に警鐘を鳴らす。世界は食料危機にどう立ち向かうべきなのか、日本にはどんな影響があるのだろうか——。

■国連専門機関「世界的な食料不足に陥りかねない」

なんとも不安を感じる話が広がっています。ことの発端は、4月1日に国連専門機関の国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)の発言で「新型コロナウイルスを適切に対処できなければ、世界的な食料不足に陥りかねない」というものに起因します。世界的食料不足は本当に起きてしまうのでしょうか。また、そうなった場合の想定被害はどのような規模に及ぶのでしょうか。

コロナショックで、一部の国において自国の食料保護のために輸出制限措置を導入しました。先行したのはロシアで4~6月の穀物輸出制限を設けました。無制限から700万トンを上限に輸出制限をしました。ロシアは小麦輸出国としては世界1位で、FAOの調査によると2017年は3302万トンを海外に輸出しています。

また、同調査でお米の輸出量が17年は581万トンで世界第3位のベトナムは、3月下旬からは新たな米の契約を停止しています。1206万トンを輸出している世界最大の米輸出国、インドでは米と小麦の輸出を制限しており、これは国内の貧困層向けの配給を優先している意図があります。各国一連の輸出制限措置を受けた影響もあり、穀物の価格上昇が見られます。ナイジェリアでは、小売市場での米の価格が3月の最後の4日間だけで30%以上急騰し、シカゴの小麦先物は3月に8%以上上昇しています。

■食糧危機は異常下でなくても起きる

世界各国とも、自国の食料確保に奔走するのは当然の流れです。過度な輸出制限でコロナウイルスの新たな二次災害が発生する可能性が出てきました。

「食料危機」と聞けば、戦争や今日のコロナショックのような異常な状況下でしか起きえないと感じがちです。しかし、そうではなく、直近では今から十数年前の07~08年にも起きています。07~08年にかけて、世界の食料価格が高騰したことで貧しい国々で経済不安や治安悪化などが発生しました。衆議院調査局農林水産調査室首席調査員の武本俊彦氏によると、次のような流れが主要因であったと分析しています。

1.石油価格高騰
2.補助金でバイオ燃料への転換を推進
3.トウモロコシをバイオ燃料へ
4.バイオ燃料用トウモロコシ栽培で食料不足へ
5.トレーダーによって、石油とトウモロコシ価格が関連付けられトウモロコシ価格上昇
6.途上国を中心にトウモロコシ主食から米や麦へシフト
7.米や麦の需要も高まり、価格高騰

■このまま各国が「自国保護」を続けると……

石油価格は04年から高騰し始め、08年7月に147ドル/バレルで史上最高値をつけています。また、07年の世界の穀物生産量は約20億トンでしたが、そのうち1億トンもの穀物がバイオ燃料に替えられていたというのです。05年から08年の間の後半18カ月間で、トウモロコシ価格は74%、米価格は166%上昇しています。

当時と今とでは状況や要因は全く異なります。当時は石油価格が史上最高値をつけていたのに対し、現在の石油価格は約25ドル(20年4月8日)前後を推移、3月には一時20ドルの大台を割り込む事態となりましたから、当時の7分の1ということになるのです。

しかし、各国が自国保護の観点から食料輸出を制限することで、世界的食料不足に陥いるシナリオに突入すれば当時と同じ結果を引き起こす可能性があります。世界的食料不足で大きな混乱を招くことは十分考えられるのです。もしも各国が自国保護による、食料不足に陥った場合の想定被害はどのくらいの規模に及ぶのでしょうか?

■食料価格高騰により飢餓や混乱の可能性

07年当時の世界人口は66億7000万人であるのに対し、現在は76億人で113.9%も増えています。増えた人口の多くがアフリカなどの途上国ですから、食料の価格高騰による大規模な飢餓や混乱が発生することは容易に想像されます。実際に07年当時は20を超える国々で食料不足への抗議と暴動が発生しています。

また、当時よりさらにグローバル化が進んでいる背景も手伝って一度食料不足の危機が発生すると大きな混乱を招きます。農業生産現場においては、人件費の安い他国に季節労働者を採用するケースが良く見られます。たとえば、農業輸出大国のアメリカにおいては「H-2Aビザ」を発給することで、メキシコ人が農業現場で働いてきました。少し前までは密入国をしてまで米国に入国していたメキシコ人でしたが、今ではコロナ感染者を多く出すアメリカへの入国を控える事態となっています。こうした状況が続くことで、自国生産にも影響を及ぼしてしまうリスクが顕在化しつつあります。

さて、気になるのが、世界的食料不足においてわが国の置かれた状況についてです。一体、日本はどんな影響を受けることになるのでしょうか。

■途上国を中心に社会不安が起こることは明白

結論を言えば幸いにも、日本は大変な災厄に見舞われる可能性は途上国と比べて低いと考えられます。「日本の食料自給率は37%しかないから危ない」という主張が見られますが、これは国際標準ではないカロリーベースでの数値であり、金額ベースで見るならば65%程度と見られます。

日本は多くの米、野菜、フルーツ、牛、豚、鶏などを自国で生産しています。畜産現場で求められるエサはトウモロコシや小麦、大豆などを原料に作られており、それらは他国からの輸入に依存しています。しかしながら、輸入元の多くは米国であり米国においては輸出を制限する予定は今のところはありません。

いずれにせよ、世界的食料不足に陥れば途上国を中心に飢餓や社会不安などが起こることは明白です。コロナショックに端を発した問題は雇用情勢の悪化に続き、食糧危機の発生が迫っているのかもしれません。

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黒坂 岳央(くろさか・たけを)
フルーツビジネスジャーナリスト
果物専門店「水菓子 肥後庵」代表者

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(フルーツビジネスジャーナリスト 黒坂 岳央)

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