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「子どもと遊んでいるだけの父親」を怒る前に知ってほしいこと

プレジデントオンライン / 2020年4月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

父親は子育てに参加しているといっても、「お風呂に入れる」と「遊び相手をする」ばかりで、実質的には役に立たないという批判がある。心理学博士の榎本博明氏は、「父親が子どもと遊ぶことにはとても意義がある。子どもはそれによって社会性を身につける」という――。

※本稿は、榎本博明『伸びる子どもは○○がすごい』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

■遊び相手ばかりする父親は批判されがちだが…

私は職業柄、自分の時間配分をわりと自由にできる立場にあったため、夕方や休日に子どもを連れ出すだけでなく、子連れ出勤や子連れ出張もするなど、父親としてかなり子育てに携わったものだが、すでに父親になる前から『仕事で忙しいお父さんのための 夫婦・親子の心理学』(日本実業出版社)という父親の子育て参加を推奨する本を書いていた。

それは、不登校・家庭内暴力の子どもの相手をしたり、教員を目指している学生たちと不登校・家庭内暴力をはじめとする子どもの不適応について話し合ったりしている中で、母子密着・父親の心理的不在により家庭に母性が溢れている現状に対して、父性の注入の必要性を感じていたからだ。だが、今から30年も前のことであり、父親の子育て参加を推進する力にはなれなかった。

今では子育てに参加する父親も増えているが、実際に父親がどのような形で子育てに関わっているかというと、「お風呂に入れる」と「遊び相手をする」が圧倒的に多い。このような実態に対して、父親は子育てに参加しているといっても、遊び相手ばかりで、実質的に役に立たないなどといった批判がなされることがある。

そのような批判をする人は、大切なことを見逃している。それは、非認知能力の発達にとって遊びが非常に重要な役割を担っているということだ。

■子は父親との遊びの中で社会性を学ぶ

霊長類学者の山極寿一は、ゴリラの子育てにおける父親の役割に関して、つぎのように述べている。

「ゴリラの社会は父という存在をもつがゆえに、人類の家族につながる特徴を多く保持していると思われるのである。」
「ゴリラのオスは特別子育てに熱心というわけではない。新生児には無関心だし、生後一年間は母親も子供をオスに近づけない。子供がオスを頼るようになった後も、オスは積極的に子供に近づこうとはしない。ただ、子供に対してすこぶる寛容で、子供が接してきても拒まない。子供たちが近くで食物をとることを許し、自分の体の上で遊ばせ、けんかの仲裁をしたり、外敵を追い払ったりする。教育者というよりは物わかりの良い保護者であり、子供の遊び相手といった役割を果たしている。」(以上、山極寿一「家族の自然誌―初期人類の父親像」黒柳晴夫他編『父親と家族―父性を問う―』早稲田大学出版部所収)

このような記述を読むと、私たち人間の社会の父親の態度によく似ていると感じないだろうか。子どもと心理的に距離を置いているため冷静に対応できる。身のまわりの細々としたことに気を配るよりも、一緒に遊んだりケンカを仲裁したりして仲間とのかかわりに必要な社会性を注入する。

「人類の社会では、さらに子供の成長期間が伸び、成長期に子供が母親以外の仲間によって社会化される必要が生じて、父親の役割は一層重要になった。子供を母親の影響から引き離し、他の子供と対等なつき合いを学ばせるために、その子供から少し距離を置ける保護者として、父親は恰好の存在だったと思われる(後略)」(同書)

父親は子どもと遊んでばかりと批判されがちだが、子どもはそのような父親とのやりとりの中で、社会の中で生きていく上で大事なことを学んでいるのである。

■一緒に遊ぶことで気持ちのふれあいがもてる

心理学的な研究においても、心理的発達の度合いの高い子は、父親とよく遊ぶ傾向があることが示されている。また、父親とよく遊ぶ傾向がみられる子どもは、情緒性、社会性、自発性が高いといった知見や、父親の日常的な遊びが3歳児の情緒的および社会的発達に好影響を与えるといった知見も得られている。

たとえば、してはならないことを子どもに教えたり、子どもの言いなりにならなかったりする父親は子どもの発達に好影響を与えることがわかっているが、そのような父親の影響力があるのも、一緒に遊ぶことで日常的に気持ちのふれあいがもてているからと言えるだろう。

さらには、父親ならではの活発で動きのある遊びが、母親との二者関係から新たな人間関係へと世界を広げる有効な刺激として働くということも指摘されている。父親との身体を使った遊び体験を通じて、子どもは自分をコントロールしながら他者からの攻撃的な行動に対処することを学ぶということも言われている。子どもの気持ちに敏感であると同時に子どもの挑戦を引き出しながら遊ぶ父親の態度が、子どもの発達に好ましい影響を与えるということも報告されている。

■日本の父親は子どもと遊ぶ能力に長けている

そのような父親の遊び方について、人類学者の河合雅雄は、「大人は力を抜くことによって対等の場を設定しなければならない。そのとき、わざとらしく負ければ、勝っても子どもは不満であり、つまらないから、やめようということになる。おとなに要求されるのは演技力である」としている。

榎本博明『伸びる子どもは○○がすごい』(日経プレミアシリーズ)
榎本博明『伸びる子どもは○○がすごい』(日経プレミアシリーズ)

演技力というより、子どもの気持ちを想像し共感しながら、子どもが興奮し満足できるように手加減しつつ遊ぶことが必要になる。そのように相手に合わせるのは、間柄の文化を生きる日本人はとても得意なはずだ。

じつは、自己中心の文化を生きる欧米人は、子どもの発達状況に合わせて遊ぶのは、どうも苦手なようだ。欧米で大人が子どもと遊ぶ様子を見て、大人が子どもの気持ちに合わせて遊ぶのが苦手だと感じる日本人が多い。間柄の文化を生きる日本人は、何かにつけて子どもの目線に合わせた言動を心がける。

夫婦がお互いに「お父さん」「お母さん」と呼び合ったり、祖父母がお互いに「じっちゃん」「ばっちゃん」と呼び合ったりするのも、子どもの目線を通して夫婦がお互いを呼び合っているのである。

このような心理傾向をもつ私たち日本人は、子どもの立場に身を置き、子どもの気持ちに想像力を働かしながら、子どもと遊ぶことに慣れている。

日本の父親は、子どもと遊ぶ能力が優れているという点について、もっと自信をもってもよいだろう。

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榎本 博明(えのもと・ ひろあき)
心理学博士
МP人間科学研究所代表。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)など著書多数。

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(心理学博士 榎本 博明)

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