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都市封鎖をチラつかせるだけで、本当に「コロナ収束」ができるのか

プレジデントオンライン / 2020年4月13日 18時15分

記者会見中にマスクを触る東京都の小池百合子知事=2020年4月10日、東京都庁 - 写真=時事通信フォト

■「海外と同じようなロックダウンはしない」というが…

4月7日、東京都など7都道府県を対象に「緊急事態宣言」が発令された。期間は大型連休の終わる5月6日までの1カ月。改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく、新型コロナウイルス感染症に対する防疫である。

いま世界中がこの感染症に脅え、世界人口のおよそ半分に相当する39億人が外出制限を強いられている。

日本は今回、緊急事態宣言を出したが、これは強制的に外出を制限するものではない。7日夜、記者会見した安倍晋三首相も「海外と同じようにロックダウン(都市封鎖)を行うわけではない」と私たち国民に冷静な対応を呼びかけていた。

しかし、緊急事態が宣言されたことで社会がさらに混乱するのではないかと心配だ。

たとえば3月23日に小池百合子都知事が記者会見で「感染者が急増し、オーバーシュート(感染爆発)を起こす危険性がある。今後、ロックダウンという強硬な手段を取らざるを得ない状況も出てくる」と危機感をあらわにすると、その翌日には都内のスーパーなどで買い占めや買いだめが始まった。マスクだけでなくトイレットペーパーなども市場から消え、企業の株価も大幅に下落した。

■国民が国民を監視するような最悪のケースも起こり得る

今回の緊急事態宣言では、7都道府県の知事が都民や県民、府民に対して法律(改正新型インフルエンザ対策特別措置法)に基づいて次のような要請や指示、それに強制措置が可能となった。

①不要不急の外出の自粛の要請
②クラスター(感染集団)を起こす可能性のあるライブハウスやスポーツ施設、映画館などに対する使用の制限や停止の指示
③医療品や食品の強制収用と臨時医療施設の強制的開設

いずれも私権の制限につながる可能性が強く、緊急事態宣言が抜いてはならない伝家の宝刀と言われてきたゆえんである。

もちろん感染症対策の基本は人の移動禁止と感染者の隔離である。しかし、移動禁止と隔離が行き過ぎると、私たち国民の自由を奪うだけではなく、不安を強く煽る。感染者に対する差別や偏見の意識を増大させ、社会を混乱させる危険性がある。戦前のように政府の姿勢を正そうとするジャーナリストを非国民と呼び、国民が国民を監視するような最悪のケースも起こり得る。

すでに新型コロナウイルス感染症の患者を診ている病院の医師や看護師らの家族が偏見の目で見られ、学校や会社で差別されていると報じられている。

かつて伝染病と呼ばれた感染症は、社会の病でもあった。

■小池都知事は安倍首相に対し、緊急事態宣言の発令を強く求めた

小池百合子都知事の勢いはすごい。3月23日のロックダウン発言の後、25日の記者会見では「オーバーシュートの重大局面だ」と危機感を煽り、翌26日の夜には首相官邸を訪ね、安倍首相と会談している。会談では感染が都内で拡大している現状を訴えながら「国の大きな力強い協力が必要だ」と緊急事態宣言の発令を強く求めた。

安倍首相は「収束に努力している東京都を一体的に支援する」と応じたというが、沙鴎一歩があとから周辺に取材したところによると、安倍首相は小池都知事に押し切られ気味だったそうだ。

小池都知事はこれまで、「最悪の事態を想定するのが危機管理。何が危機なのかという危機の本質を見極めて手を打つことが重要だ」と話すなど、危機管理意識の強い政治家であることが分かる。

■軽症者をホテルなどで隔離する小池都知事の作戦は評価できる

東京都知事選(6月18日告示、7月5日投開票)も控えている。何としてでも、安倍首相に緊急事態を宣言させて現職の都知事としての権限を確かなものにして自らの手で感染防御の采配を振るい、その結果を都知事選に結び付けたいのだろう。

そんな小池都知事には「感染症は社会の病気である」という自覚を持っていただきたい。行政の規制が厳しくなると、社会そのものが根底から揺らぎかねないからである。

もちろん医療の崩壊は避けなくてはならない。新型コロナウイルス感染症だけが病気ではない。他の患者の治療ができなくなるようでは如何ともしがたい。深刻な院内感染から手術の予定を先延ばしにした大学病院も都内で出ている。

中国や欧米で医療崩壊を起こした原因は、軽症者で病院のベッドが一杯になり、重症者を治療できなくなったことにある。患者の病状に応じて振り分けて治療を進めるトリアージがうまくできなかったのだ。小池都知事が急遽、軽症者をホテルなどで隔離する作戦に出たことは大いに評価できる。

■日本でも医療現場が崩壊する恐れが現実味を帯びている

朝日新聞の社説は緊急事態宣言を出すことに否定的だと思っていたが、4月7日付の朝日社説は「宣言に踏み切るかどうか、科学的知見を踏まえた慎重な判断が求められ、政府も『伝家の宝刀』という言葉を使って抑制的な姿勢を見せてきた。だが欧米を中心に爆発的な流行拡大が起こり、日本でも感染者が増えて医療現場が崩壊する恐れが現実味を帯びている」と指摘し、宣言肯定に傾いた。

朝日社説は、医療崩壊に対する不安や恐怖から宣言肯定に舵を切ったのだろうか。医療が崩壊すれば、多くの患者がまともな治療を受けられなくなる。医療崩壊というだれもが防ぐべきだと考える、急所を突かれることを避けたのかもしれない。

そんな朝日社説も翌4月8日付は大きな1本社説に「首相が緊急事態宣言 危機乗り越える重責自覚を」との見出しを掲げ、こう言い切る。

「特措法に基づき、知事の権限で行う外出自粛の要請や商業・娯楽施設などへの休業の要請・指示に罰則を伴う強制力はないとはいえ、やはり法的根拠のある措置は重い。自治体が休止を求める施設はかなり幅広くなりそうで、日々の生活への影響は大きいと言わざるを得ない」
「臨時の病院開設のための土地の強制使用や、医薬品や医療機器の販売の要請・収用など、強制力のある命令もある」

8日付の朝日社説は緊急事態宣言を否定している。前日7日付の宣言を肯定した社説は、大きなブレだったのか。ブレる新聞社説ほど頼りないものはない。

■肯定したり、否定したりと大きくブレる新聞社説は頼りない

そんなことを考えながら読み進むと、朝日社説はこう書いている。

「朝日新聞の社説は、市民の自由や権利を制限し、社会全体に閉塞感をもたらす緊急事態宣言には、慎重な判断が必要だと主張してきた。特措法にも『(自由と権利の)制限は必要最小限のものでなければならない』という『基本的人権の尊重』の項目がある。その重みを十分踏まえた対応を求める」

やはり朝日社説のスタンスは宣言に否定的なのである。

通常、社説はその日の午前中に10人ほどの論説委員たちが大きな机を囲んで1~2時間程度議論し、その議論の内容を1人の論説委員がまとめ上げて社説の記事にする。書いた後にも他の論説委員たちが社説記事のゲラをチェックする。たぶん議論やチェックの過程でスタンスがブレ、その結果として宣言を肯定するような社説(7日付)が出来上がった可能性はある。

理由はどうであれ、新聞社説を読み続けている読者にはいい迷惑である。

■産経社説はメリハリの利いたブレない論調が売り物なのに…

「日本の感染者・死亡者の数は現在、中国や欧米諸国ほどではないが、ここへきて増加の速度が増している。宣言によって患者の爆発的急増(オーバーシュート)や医療崩壊を防ぎ、事態を収束へ向かわせようという政府の判断は妥当である」

こう安倍政権を擁護するのは、4月8日付の産経新聞の1本社説である。

産経社説は「政府や都道府県は密接に連携し、国民の生命と健康を守るために思い切った対応をとってほしい。国民への丁寧な説明と不断の情報発信も欠かせない」とも主張する。

安倍首相は小池都知事に押し切られる形で緊急事態宣言を出した。とても連携がうまく行っているとは思えない。安倍首相に問題があるのか、それとも小池都知事が強引なのか。メリハリの利いた分かりやすく、ブレない論調が売り物の産経社説には、そこまで踏み込んで指摘し、そして主張してほしかった。

■接触機会を減らしている間に特効薬やワクチンを開発できるか

産経社説はこうも書く。

「首相は政府の対策本部の会合で今が国家的危機にあると語った。その上で、人と人との接触機会を7~8割減らした場合、『2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができる』と指摘した」

しかし、この安倍首相の要請には疑問がある。実際、人との接触機会を減らせば、感染の拡大は抑え込むことはできる。ウイルスが人の体内に存在するからだ。だが、人との接触機会を減らすことを止めると、再び感染は増大する。問題はそれまでに特効薬や適切なワクチンを開発できるかどうかなのだ。

また気温が上昇すると、既存のコロナウイルスの大半は不活化していく。新型コロナウイルスにもそうなってほしいが、気温が下る秋口には第2波、第3波が急襲する可能性もある。

いずれにせよ、新型コロナウイルスのような未知の新興感染症には分からないところが多い。産経社説にはそこまで見極めた指摘や主張を書いてほしかった。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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