「ゴージャスなドレス」で家事をすれば、外出自粛でも気分が華やぐ
プレジデントオンライン / 2020年4月15日 15時15分
■コロナ対策で「ドラえもん」が炎上している
筆者の住むマレーシアでは今、「ドラえもん」が炎上している。
背景には「コロナ疲れ」がある。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため世界各地で外出制限が行われる中で、ストレスによるDV(ドメスティック・バイオレンス)被害が急増している。その状況は新型コロナウイルスの感染者が東南アジアで最も多いマレーシアでも同じで、外出禁止令が2月中旬に出されてからDVの相談が急増している。
そこでマレーシアの政府機関(女性・家族・社会開発省)は3月30日、自宅での夫婦げんかや言い争いを避けるために、同国でも大人気のアニメ「ドラえもん」を引き合いに出したアドバイスをSNSで投稿した。夫婦で洗濯物を干しているイラストに次のようなコメントを付けたのだ。
「妻は『ねえ、あなた。これが洗濯物を干すときに洋服をつる正しい方法よ』とドラえもんの声をまねて、おしとやかにクスクスとはにかみながら、女性らしく笑いましょう!」
また、外出制限中の自宅での服装についても「あなた自身をいつも通りに仕立てましょう、お化粧をして、きちんとした服装を心がけましょう」とあり、「夫への文句は控えめに、妻はユーモラスな言葉やフレーズを使うべきだ」という投稿もしている。
■非難の一方でユーモア溢れるSNS投稿が続出
在宅の夫や子供の面倒を見ながら家事や仕事も一手にこなす女性たちをねぎらったつもりでドラえもんを登場させたこの施策は、「女性蔑視だ」「どうして家で着飾ったり化粧したりすることで、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)を予防できるのでしょうか? 頼むから教えてください」と非難のコメントが相次ぐ結果となった。
“ドラえもん投稿”の翌日である3月31日には、女性支援団体のマレーシア支部は「これらの標語はジェンダーの不公平を加速させるものであり、古き家父長制の概念を永続させかねないものだ」と厳しく指摘した。
同日、マレーシアの女性・家族・社会開発省は謝罪し、投稿をすぐに削除した。気分を害された人々に対して今後は注意を払いたいとしたうえで、あくまで「外出禁止令の最中、少しでも平和な家庭環境をどう維持するか」をアドバイスしたかったと述べている。
一方で、この騒動は意外な動きを見せた。マレーシア国民が、ドラえもんに関する動画をSNS上に続々と投稿することになったのだ。
Facebookにドラえもんの話し方をかわいくまねした動画や、妻が夫の洗濯物の干し方についてドラえもんの声でおしとやかに指導する動画が投稿されると、瞬く間に拡散していった。
さらに、マレーシアのWEBメディア「チリソス(Cilisos)」も、この騒動に乗じてマレーシア版に翻訳されたドラえもんの女性声優に取材した記事を配信している。記事の中では、彼女がドラえもんの声優になるまでの経緯や現在の仕事の状況に至るまで人生の苦労話を紹介し、ドラえもんの声で「怒らないで、ダ~リン」「魔法のマスク~!」とマレー語を話す声優のボイスメッセージまでアップしている。
■コロナ「患者ナンバー2020番」という強烈なジョーク
SNSに端を発したこのムーブメントは、ドラえもんだけでなく、マレーシア政府機関の投稿内容そのものにまで広がった。
中でもシェア数3万5000件以上、コメント数約1万件と話題になったのが、「お化粧をしてきちんとした服装の女性」のFacebookへの投稿だ。黒いゴージャスなドレスに白いショールをまとい、自宅の風呂場でバケツを抱え優雅に掃除したり、ハイヒールを履きながら消毒液で鏡を拭いたりする様子がアップされている。
コメント欄には、「とっても美しい!」「もうこれからは毎日ヘアセットしないといけないじゃないですか(笑)」「それならば夫もカッコいい服装に着替え、ドナルドダックのような声を出さなければならないでしょう」という声が寄せられた。
その後、Facebookには、皮肉に満ちたこんなエピソードもアップされた。
「昨日私のご近所さんが救急車で病院に運ばれました。後で知ったのですが、彼はけいれんを起こしたそうです、彼の奥さまがドラえもんのように彼にささやきかけた直後に……。彼は今呼吸器をつけられています、患者ナンバー2020番」
「患者ナンバー2020番」とは、マレーシアで新型コロナウイルスに感染した患者数をいう際に使う言い回しだ。つまりこれは、妻のドラえもんのようなささやきに夫が卒倒し、病院に運ばれて呼吸器を装着する患者になってしまった、という強烈なジョークである。
■SNS上のユーモアを交えた投稿でつながり、危機的な状況を乗り越える
現在、マレーシアは自家用車1台につき1人の移動のみが認められており、夫婦で買い出しに行くことも許されていない状況だ。屋外でジョギングやエクササイズをすることも禁止され、ジョギングをした外国人駐在員らが警察の忠告に耳を貸さずに走り続けたとして一時拘束される事案も発生している。
そのような状況で、ドラえもんからはじまったSNS上のユーモアを交えた投稿は、「コロナ疲れ」にあるマレーシア国民にささやかな笑いをもたらしている。
「ドラえもんは、結果的にたくさんのジョークや笑いをわが家にもたらしてくれました。今の時代はSNSを通じてみんなが強くつながっていることを、こうした危機的な状況下では特に感じ、そのことをまた心強く思います。深刻な状況でも、いかにユーモアを交えてポジティブに生きるかが大切です」(保険会社勤務・50代のマレーシア人女性)
この厳しい状況をポジティブに乗り越えようという団結も生まれはじめているようだ。
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記者/映像ディレクター
東京都生まれ。2003年慶應義塾大学卒業、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”などを手がける。03年民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。16年退社。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、デジカムで撮影・編集まで単独で手がける。取材や旅行で訪れた国は東南アジアやヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。
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(記者/映像ディレクター 海野 麻実)
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