「10年で利回り400%」いまウイスキー投資に注目するべき理由
プレジデントオンライン / 2020年4月17日 15時15分
※本稿は、土屋守『ビジネス教養としてのウイスキー なぜ今、高級ウイスキーが2億円で売れるのか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■マニアに代わって現れた投資家の存在
「ブラックボウモア」や「マッカラン60年」がオークションをにぎわす以前から、オールドボトルは好事家の間で人気を博していました。1995年ころから2005年ころにかけて、一部のウイスキーマニアの間では、日本中の酒屋をまわって古いボトルを買い漁る「オールドボトル行脚」が流行しました。
何人かの知り合いは、地方都市の駅に着いたらまず公衆電話に飛び込んだそうです。備えつけの職業別電話帳をめくり、掲載されている酒販店の店名と住所を控えるためです。そして、タクシーの運転手さんにメモを見せて、片っ端から酒販店をまわったと言います。インターネット通販も携帯電話も普及していない時代ならではの、ローラー作戦です。
かつてオールドボトルを買い込んだのは、コレクターや一部のマニア、バーや飲食店の関係者でした。彼ら彼女らの多くは、あくまでも個人、あるいは自分の店で飲んで楽しむためにオールドボトルを買っていました。ところが近年になって、ウイスキーは投資の対象となりました。「ブラックボウモア」や「マッカラン60年」の落札者も、飲むためではなく投資目的で競り落としたのでしょう。落札したウイスキーが将来さらなるリターンを生むと考えているのです。
■高リターンが期待できるのは本当なのか
実際のところ、ウイスキーは投資に向いているのでしょうか。
ひと昔前まで、ウイスキーに投資して資産形成を目指すなんて考えられませんでした。しかし数年前から、ウイスキーは投資対象として注目を浴びるようになり、私自身、ウイスキーの専門家として、ビジネス誌や金融関係のメディアから取材を受けることが多くなりました。なかには、英字紙や海外メディアの取材も含まれています。
私は投資の専門家ではないので、ウイスキーが果たして投資物件たりうるのかどうかは判断できません。1人のウイスキーファンとして、「ウイスキーは投資対象ではなく、飲んで楽しむもの」という思いもあります。
ただ、ウイスキー投資がリターンを出しているのは確かなようです。正確な数字、出典は残念ながら忘れてしまったのですが、以前読んだ記事で、「ミレニアムから2010年までの10年で元値よりも価値が上昇したハイリターンな投資対象」としてウイスキーが挙げられていました。10年スパンでの投資リターンは400%だったと記憶しています。これが本当ならば、かなりの高リターンです。
■ウイスキーが投資に向いている理由
投資対象となっているお酒と言えば、以前は真っ先にワインを思い浮かべる人が多かったと思います。投資商品としてワインとウイスキーのどちらがより魅力的なのかについて、私が判断を下すことはできません。
ただ、ウイスキーがワインよりも圧倒的に有利な点があります。それは保管のしやすさです。ワインは非常にデリケートな飲み物です。ボルドーのシャトーの高級ワインであっても、保存状態が悪ければその価値は失われます。いいワインになればなるほど管理には気を遣わなければならず、そのための設備投資も必要となります。
一方、ウイスキーは熟成が終わって瓶詰めされてしまえば、ほとんど品質は変わりません。もちろん、直射日光にずっとさらされたり、温度変化が激しい場所に置かれたりすれば劣化はしますが、ワインほどではありません。この点に限れば、ウイスキーは長期保管が前提となる投資物件に非常に向いていると言えるでしょう。
■ブランデーやコニャックでは駄目なのか
では、同じ蒸留酒であるブランデーやコニャックと比べた場合はどうでしょうか。
先述の「Lオークション」では、世界を代表する高級コニャック「レミーマルタン ルイ13世」をはじめ、ブランデーやコニャックも多数出品され、同日に出品されたウイスキーよりも、はるかにお買い得な価格で落札されていました。思わず私も落札したいと思ったほどです。
以前、「レミーマルタン ルイ13世」の生産現場を取材したことがあります。熟成庫には、50年から100年以上前につくられた原酒がたくさんありました。その原酒を400種類以上アッサンブラージュ(ブレンド)したものが「レミーマルタン ルイ13世」です。原酒の古さという点では、ほとんどのウイスキーがかないません。
それにもかかわらず、オークションでの落札価格はウイスキーのほうがはるかに高くなります。この理由は、「希少性」の違いにあるのではないかと私は考えています。
■シングルモルト、シングルカスクの「希少性」
コニャックは、言わば「アッサンブラージュの芸術」です。アッサンブラージュすることで、同じ銘柄であれば、どの年に瓶詰めされたものも同じ味になるようつくられています。「レミーマルタン ルイ13世」を名乗る限りは、2000年に瓶詰めされたものでも、2020年に瓶詰めされたものでも、同じ味でなくてはなりません。
これとよく似ているのがブレンデッドウイスキーです。ブレンデッドは複数の蒸留所の原酒を混ぜることで同じ味をつくり出します。その一方で、ウイスキーには「シングルモルト」「シングルカスク」というジャンルがあります。シングルモルトは、単一の蒸留所の原酒のみを瓶詰めしたものです。シングルカスクは、単一の蒸留所の一つのカスク(樽)の原酒だけを瓶詰めしたものです。
シングルモルトも原酒を混ぜ合わせてはいますが、ウイスキーはブランデーやコニャックよりもレギュレーションが多様で、なおかつ、世界各国でつくられているため、多くのバリエーションが存在します。バリエーションが多くなるということは、母数が大きくなるということですから、一つ一つのシングルモルトの希少性は高くなります。
■ウイスキーだけが持つ唯一無二の世界
それがシングルカスクとなれば、さらに希少性は高まります。樽は自然の産物。実は一つとして同じものは存在しなく、ウイスキーの個性は樽の数だけあるということになります。つまり、その樽のウイスキーは過去にも存在したことがなく、そして未来にも存在しない唯一無二の個性ということなのです。
オークションをにぎわせ続けている「マッカラン60年」は、一つの樽から瓶詰めされているので、シングルカスクです。シングルカスクの場合、樽のサイズにもよりますが、「マッカラン60年」のように、たった40本しかボトリングできないという事態が起こりえます。世界に40本しかないとなればさらに希少性は跳ね上がり、オークションで高値がつくのも無理はありません。ワインよりも品質を保ちやすく、ブランデーやコニャックよりも希少性が高い「シングルモルト」「シングルカスク」というカテゴリーがウイスキーにはある。こうした理由から、ウイスキー、特にシングルモルトが今、投資物件として注目を集めているのではないでしょうか。
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ウイスキー評論家、ウイスキー文化研究所代表
1954年、新潟県佐渡生まれ。学習院大学文学部国文学科卒。フォトジャーナリスト、新潮社『FOCUS』編集部などを経て、1987年に渡英。1988年から4年間、日本語月刊情報誌『ジャーニー』の編集長を務める。取材で行ったスコットランドで初めてスコッチのシングルモルトと出会い、スコッチにのめり込む。現在は『Whisky Galore』(2017年2月創刊)の編集長を務める。1998年、ハイランド・ディスティラーズ社より「世界のウイスキーライター5人」の一人として選ばれる。主な著書に、『シングルモルトウィスキー大全』(小学館)、『竹鶴政孝とウイスキー』(東京書籍)ほか多数。
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(ウイスキー評論家、ウイスキー文化研究所代表 土屋 守)
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