藤田晋「麻雀もビジネスも、相手の嫌がることを徹底的に想像しろ」
プレジデントオンライン / 2020年4月23日 11時15分
■相手の嫌がることを徹底的に想像せよ
ビジネスにおける「戦略」の正解とは何でしょうか?「それをやられると競合が嫌がる」、これが1つの答えとしてあると思います。
自分たちが考えた戦略の内容を、記者発表などを通じて競争相手が知ったとき、相手が何とも思わなければ、それは効果的な戦略とは言えません。「まずいな……」と相手が思わず顔を曇らせてしまうような内容だった場合、それは効果的な戦略の一手を打っていると言えるでしょう。
麻雀でも、「それをやられると相手が嫌がる」という一手は大体正しいです。
例えば、持ち点を大きく減らしている人が、南場で最後の親番を迎え、巻き返すにはここが最後の勝負と張り切っているとします。そこで、出鼻をくじくように役牌を鳴いて軽く1000点で親を流します。それをやられたら親番の人はものすごく嫌ですよね。これで下の順位を自分以外に押し付けることができるわけですから、わずか1000点でも正しく戦略的な上がりと言うことができます。
■戦略的な考え方を学ぶ
このようにビジネスも麻雀も、自分が市場や牌山とだけ向き合っておけばいいわけではなく、いつも競合という第三者の動向を意識する必要があります。戦略とは「戦いに勝つためのはかりごと」です。戦略的な考え方を学ぶという点においても、麻雀というゲームから気付きを得られることは多いです。
相手の嫌がることを考えるのは、相手の立場になって想像することでもあります。想像というのは、誰にでもできる簡単なことのようですが、意外と相手の置かれた立場や相手から自分がどう見えるかを正しく想像できる人は少ないのです。そもそも想像する努力をしている人があまりいないと言ってもいいかもしれません。
麻雀では、自分の手牌進行、何を切るか、牌山に何が残っているか、などと自分の目から見えていることを考えるだけでも情報量と選択肢が非常に多く、精一杯になります。とても残り3人の相手がどのような立場に置かれているか、自分がどう見えているかを想像するところまでは頭が回りません。
さらに言えば、全体の中で、今がどういう位置付けなのかを「俯瞰」してみるだけの心の余裕がある人はかなり少ないです。
先ほどの麻雀の話の例で言えば、目の前の手牌に精一杯になっていたら、俯瞰してみればその場は自分の手牌を大きく育てるよりも軽く流すほうに価値があることを見落とします。ビジネスの世界で、時間をかけて分厚いプレゼンテーション用の資料作りに夢中になっていたけれど、実は顧客はもっと簡単なものを求めていた、みたいなことに似ていますよね。
麻雀が本当に強い人は「主観、客観、俯瞰」この3つの視点を持っています。これは仕事ができる優秀なビジネスマンも同じですよね。ビジネスマンも余裕のない人は、自分の目から見えている主観的な視点だけで精一杯になり、客観的に自分がどう見えているのか、取引相手や競争相手のことまでは頭が回りません。それに自分のベストを尽くしても、俯瞰して市場を見たときにもっと高品質、低価格なものが存在していれば戦えるわけがないのです。
また、経験が浅い人も、客観的に相手の立場に立って自分がどう見えるかを想像するのが苦手です。なんらかの近い経験がないと、相手の立場が想像しにくいからです。
大企業で働いている人はベンチャー企業の人の自由度が想像できず、ベンチャー企業で働いている人は大企業の人の行動論理が理解できません。だからビジネスの世界では、相手の立場を想像することが得意であれば、それ自体が競争力になります。
例えば、自分は若いのに年配の経営者や、高額所得者の頭の中がわかる人がいれば、それだけでも大変なポテンシャルと言えます。その人たちが求めているものを提供すれば、ビジネスでいくらでも成功することができるでしょう。
さらに俯瞰する力は広い視野、長期的な視点で正しく決断をするうえで欠かせません。特に経営者は俯瞰してみる力がなければ組織の舵取りを間違えます。
ただ、ここでも心に余裕が必要で、よくビジネスマンが「視点を上げよ」とか「経営者的な視点を持て」とか言われていますが、目の前のことだけで言えば正しくても、長期で見ると間違っているということが往々にしてあるからです。経営者であっても現場の実務をやりすぎていると、目の前の仕事に忙殺されて俯瞰してみる余裕がなく、長期的に間違える人が多いです。
「主観、客観、俯瞰」の3つの視点を駆使できる人は麻雀もビジネスも最強かもしれません。それを学ぶうえでも、対人ゲームであり、運にも左右され、スタート地点も不公平な麻雀というゲームは最適の教科書となるのではないでしょうか。例えば将棋や囲碁といったゲームは平等な状態から戦いが始まりますが、現実社会は全くそうではありません。不平等で理不尽です。そのうえ運に左右されます。そんな前提から自らの頭脳を駆使して、いかに早く、高く上がるか、その勝敗を競う麻雀というゲームには、この世界を生き抜くための戦略が学べるエッセンスがふんだんに詰まっているのです。
■麻雀のイメージを刷新Mリーグの立ち上げ
2018年に私が中心となり、麻雀のプロリーグであるMリーグを立ち上げました。プロ野球やJリーグと同様に、企業がチームを持ち、選手とプロ契約を結んでいます。現在全8チームが優勝賞金5000万円と威信をかけて戦っています。
今期は2シーズン目ですが、ファンの間では大変な盛り上がりを見せています。ABEMA(旧AbemaTV)で全試合無料放送していますので、見たことがない方はぜひ1度ご覧ください。ハマりますよ(笑)。
Mリーグはこれまでの麻雀の、ギャンブル、徹夜、タバコなどのマイナスイメージを刷新させて、世界的に盛り上がり始めたeスポーツのような世界観を目指して発足しました。
そもそも国内での“麻雀”の認知度はかなり高く、街を歩けば雀荘がたくさんあり、プレイ人口も相当数に上ります。ところがイメージが悪いために、スポンサーがつかない。それによって国内に数千人いると言われる麻雀プロの中で、本当に麻雀だけで生活できる人はごくわずかでした。それを変えるために、脱ギャンブルを宣言し、頭脳スポーツとしての確立を掲げました。
立ち上げにあたり、これまでの文脈をガラッと変えるためにも参画する企業には妥協しませんでした。
一流企業にお声がけし、博報堂DYメディアパートナーズ、テレビ朝日、コナミアミューズメント、サイバーエージェント、セガサミーホールディングス、電通、U-NEXT、今シーズンからはKADOKAWAが加わり、8社が参画しています。
また、メインスポンサーになってくれたのは大和証券です。大手金融ですから、立ち上げたばかりのMリーグで、負のイメージもある麻雀のメインスポンサーになるというのはリスクもあったかと思います。
実際、普通はスポンサーになったらその競技の歴史や格式にあやかるものですが、現在はまだ、大和証券の長年築き上げた信用とブランドにMリーグが育ててもらっている段階だと思います。それでもMリーグの理念に賛同してくださり、スポンサーについて応援してくれたことに本当に感謝しています。
ちなみに大和証券も麻雀が強い人が多いです。大和証券グループ前会長の鈴木茂晴さん(現日本証券業協会会長)の日本経済新聞「私の履歴書」を読んでいたら、昔から大和証券がいかに「よく働きよく遊ぶ」社風だったのかがわかりました。おそらく麻雀も相当やってきたのでしょう。
証券業がリスクとリターンを計算し、期待値の高いほうを選択するという、麻雀と似ている面があるからなのかもしれません。
ただ皆さん相当お忙しい中麻雀を楽しんでいたのか、東風戦などの短い時間で決着がつくようなルールを好まれます。そのあたりも生き馬の目を抜くような業界だった名残なのかもしれません。
■川淵三郎氏に協力を持ちかけた瞬間
朝日新聞社にも、Mリーグのセミファイナル、ファイナルシリーズのスポンサーになっていただいています。同様に、朝日新聞の信用とブランドにMリーグがお世話になるような段階なのに、初年度から理念に賛同し応援してくれていることに大変感謝しています。
eスポーツの文脈でMリーグを立ち上げる前、麻雀プロの世界は、将棋や囲碁と肩を並べるようになることが目標であり悲願だったようです。
朝日新聞がMリーグのスポンサーにつくことが発表されたとき、時代が変わった、感無量だと喜んだベテランの麻雀プロが数多くいました。棋界は多くのタイトル戦を主催する新聞社の支援なくしては存立しえないものだと思います。長年、麻雀プロの世界を良くしようと頑張ってきた人たちが、そこに一歩近づいたような達成感を持ったのでしょう。
Mリーグの最高顧問は、JリーグやBリーグを立ち上げた川淵三郎さんです。私はMリーグを立ち上げて自らチェアマンに就任しましたが、難しい各団体の交渉やゼロからレギュレーションを作る際に、「Jリーグの川淵キャプテンのような人がいれば」といつも思っていました。
そんなタイミングで、人を通じて川淵さんとゴルフをしないかというお誘いを受けました。
ラウンド中、私がMリーグ構想の話をしていると、川淵さんが「いまは週に1度地元の人と麻雀を打っている。通算成績をつけているんだけど、それが一番の楽しみだ」「麻雀が大好きだ」と仰いました。それを聞いて、正直に言うと、私の頭の中はゴルフそっちのけで、どう頼もうかとばかりぐるぐる考えていました。
ラウンドが終わったところで思い切って「Mリーグの最高顧問に就任してもらえませんでしょうか?」とお願いしました。そしたらその場で快諾。夢のようでした。
おそらくは長年付き合いのあるテレビ朝日や他の企業がすでに賛同していたことで信用してもらえたのだと思います。そのとき、絶対に期待を裏切ることはできないと、また気持ちを強くしました。
■金を賭けない麻雀こそ熱く盛り上がる
みんなが本気で真剣に打つ麻雀大会は、アマチュアの大会であっても大変盛り上がります。
麻雀はお金を賭けないと真剣にやらないのでは? と思っている人がいたら、1度大会を開いて総合スコアをランキング形式で発表してみてください。営業成績が壁に張り出されるような誇らしさと気恥ずかしさがありますよ。
結果が可視化されて自分の順位が判明すると、1順位でも上に上がりたいし、1ポイントも減らしたくない気持ちになり誰もが麻雀に本気で取り組めます。
また、大会が終わった後の打ち上げなどの懇親会は大変盛り上がります。麻雀中は私語を発することはほとんどなく集中しているので、終わった後、あの場面は自分の手牌はどうだったと種明かししながらお酒を飲むのは楽しいものです。我々サイバーエージェントは、たくさんの企業と麻雀の対抗戦を通じて親しくなり、そんなつもりではなくても結果的に仕事に繋がったこともあります。
Mリーグでも、プロアマ戦を開催し、関係者やスポンサー企業を招いた麻雀大会を開催しています。これはプロゴルフのツアー大会直前に行うプロアマ戦と同様に盛り上がります。実力差のあるプロと、1回の勝負では勝ったり負けたりするのも麻雀の醍醐味です。
参加した方の満足度は高く、ほとんどの人がまた出場したいと仰います。これはプロアマ戦が企業の大事なお取引先を招いて接待する場としても十分有意義であると証明できていると思います。
ひと昔前は「接待麻雀」なんていう言葉がありましたが、この言葉のニュアンスだと、わざと勝たせるような印象があるかもしれません。しかし、本当は誰もが真剣に打つ麻雀にこそ、接待においても素晴らしい価値があるものなのです。
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サイバーエージェント代表取締役社長
1973年、福井県生まれ。青山学院大学卒。98年にサイバーエージェントを設立、2000年に当時の史上最年少(26歳)で東証マザーズ上場、14年に東証一部へ市場変更した。同年に麻雀最強戦に初出場し、優勝を果たす。18年にMリーグ機構を設立、初代チェアマンに就任した。
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(サイバーエージェント代表取締役社長 藤田 晋 構成=プレジデント編集部 撮影=泉 三郎)
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