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日本人は「それぐらい、女がやるべき」をいつまで続けるのか

プレジデントオンライン / 2020年4月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

日本はいつまで「男尊女卑」を続けるのだろうか。ドイツ育ちの作家サンドラ・ヘフェリン氏は「日本人には『それぐらい、女がやるべき』という潜在意識がいまだにある。だから家庭に食洗機すらおけない。このままでいいはずがない」という――。

※本稿は、サンドラ・ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■日本は主要先進国7か国でダントツ最下位

毎年暮れが近づくと発表される「世界の男女平等ランキング」。19年、ドイツは153か国中の10位でした。

一方のニッポンは121位。お尻から数えたほうが早い結果となってしまいました。この順位は日本として過去最低であり、今回ももちろんG7の中でダントツ最下位です。

ニッポンの場合、女性に大卒が多く、医療へのアクセスも良く、「教育・医療」の面で女性はあまり差別されていないという結果が出ています。もっとも大卒が多いとはいえ、医学部の受験の際、女性だけ減点されていたという騒動もありました。

そんな課題は残るものの、今の時代、「女の子だから大学に行かなくても良い」と考える人はさすがにあまりおらず、広い意味で言えば日本の女性は教育面で恵まれています。

医療に関しては、たとえばイスラム教の一部の国の地域では、地域に男性の医者しかいなかった場合、「女性が男性に身体を見せるのは避けるべき」という考えのもと、身体の具合が悪くても病院に行かせてもらえないという現状があります。

一方、日本では、まさに男女関係なく誰でも簡単に医療にアクセスできます。特に都心では医者など選び放題ですし、幸いなことに「女の子が男性の医者にかかるのは…」などと考える親はあまりいません。

もちろん、婦人系の診察にかかる時など、女性が自ら「男性ではなく女性のお医者さんに診てもらいたい」と望むケースはありますが、女医さんも多いですし、医療の機会について特に問題はないわけです。

■原因は「女性がラクをすることに厳しい」から?

その反面、政治家や企業経営者に女性が極端に少ないのは相変わらずです。こういった場で女性が少ない背景に、日本のビジネスや政界が男社会だということがあげられます。

具体的な改善策は専門家の方に任せるとして、日本で生活をしていると感じることが一つあります。それは、他の先進国と比べて、ニッポンの社会は「女性がラクをすることに厳しい」ということです。

ニッポンでは「女性がラクになること」よりも「子どもがラクになること」「男性がラクになること」が優先されています。「前例を大事にする」というのも結局は、昔は今よりもさらに男尊女卑なわけですから「女性の要望を大事にしない」と同じことです。

日本で女性として生きていると、気がつけば「雑用を全部やらされていた」という場面がよくあります。ニッポンの社会というものは、会社でも家庭でも学校でも、とにかく女性に雑用をやらせたがるのです。

しかし、人間の時間とエネルギーは限られています。女性が社会のプレッシャーに負け、雑用ばかりに時間をとられ、実際はラクできることでも頑張ってしまえば、もともと自分がやりたかったことはできません。

なぜならば、自分の将来のためにならないものにエネルギーを割いてしまい、大事な場面で「息切れ状態」になってしまうからです。

■ニッポン女性を取り巻く周囲からの雑音

ここでは、ニッポン女性を取り巻く雑用の具体例に触れてみましょう。昔から女性に課せられていることを「しない」選択をした場合、周囲からの「雑音」がひどいのもニッポンの特徴です。それも併せて以下をご一読ください。

食洗機の主要国の普及率推移

①洗機
たとえば「食器洗い機」(通称・食洗機)。夫婦での家事分担の話になると、女性側の意見として「私が食事を作っているのに、夫は食器洗いさえしてくれない」というようなことも聞きます。それはごもっともな意見ではあるのですが、よく考えてみれば「食器洗い」は機械に任せればすぐに解決できそうな問題です。

もちろん「夫婦や男女の家事分担」に関しては、根本的な問題の解決が望ましく、「機械には頼りたくない」という気持ちは分かります。しかしケンカが増えるぐらいなら、機械に頼るのは大いにアリだと思いますし、実際にヨーロッパでは食洗機が広く浸透しています。

日本では、「お箸」が食洗機だと洗いにくいという問題は確かに残りますし、都心などでは住宅事情により、そもそも食洗機を置けるようなスペースがない場合もあります。

■「それぐらい、女がやるべき」という潜在意識

ただそういった事情を考慮するとしても、問題だと思うのは、日本には「食器洗いぐらい自分でやるべきだ」という雰囲気がまだまだ残っていること。そしてここで言う「自分」というのは「その家の女」を指しています。

自分では食器洗いをしない夫が「食洗機などいらない。それは自分(妻)がやるべきだ」というようなことを堂々と言えてしまうのがニッポンなのです。

現実的に家が狭いから食洗機が置けないということ以前に、当事者でない人からの「それぐらい、女がやるべき」という声が幅を利かせているという現状があるわけです。

②お茶出し
かつて保守的だったニッポンの企業も、最近は「お茶出しは各自で」というところが増えてきています。それこそ、ひと昔前まで存在していた「お客様には女性がお茶出しを」とか「男性社員の分のお茶は女性社員が出す」という「暗黙の了解」が崩れてきたのは良いことです。

そんな中でもたまに、びっくりするような発言に出合うことがあります。先日、ある女性と雑談をしていたところ、彼女は言いました。「男性って、トイレから出た後は、手を洗わない人が多いから、私はやっぱり女性が入れたお茶を飲みたいって思うなあ」と…。

まあ一部の男性を観察していると、トイレの件は当てはまる人もいますが、この手の思考回路があるから男女平等はなかなか進まないのだな、なんて思ってしまいました。

この女性の言うことが仮に当たっていたとして、「男性が出すお茶は汚い」からと女性がお茶出しに精を出したところで、女性にとって「将来的に得なこと」なんて何一つありません。

それどころか、大げさかもしれませんが、この手のことに真剣に取り組んでいては、男女平等からは遠ざかるばかりです。これ以上ランキングが下がってどうするというのでしょうか。

■「なんだかんだ理由をつけて女性にやらせようとする」現象

しかし、そのことには注目せず、先ほどの食器洗い機の件のように「なんだかんだ理由をつけて女性にやらせようとする」現象が今の日本にも確かに存在するのでした。残念なのが、決して自分のプラスにならないのに、女性もこの手の思考に巻き込まれがちであることです。

③家事代行サービス
働く女性の家事負担を減らそうと、家事代行サービスをやってくれる外国人に日本にきてもらう計画があるものの、実際のところ、欧米の国々と比べると、日本ではこの家事代行サービスを利用する人は思いのほか少ないです。

ヨーロッパの中流家庭では、週に何回か数時間に分けて掃除のために家政婦さんに来てもらう「掃除代行」サービスをしばしば利用しています。たとえば毎週月・金に3時間ずつ掃除しに来てもらう、というような形です。

もちろん欧米と日本の文化の違いも影響しているでしょう。家事の負担が軽減されると分かっても、日本には「知らない他人を自宅に上げる」ことを躊躇する感覚があります。

そして、これはまた前述の食器洗い機にも通ずることなのですが、「家のことぐらい自分でやろうよ」という考えがここでもまた幅を利かせているのでした。しつこいようですが、ここでいう「自分」とは結局は「妻や女性」です。

ドイツやスカンジナビアなどのヨーロッパ諸国では、今の時代「男性も女性も家事をやる」ため、「互いの負担の軽減のために家事代行を頼む」ことが少なくありません。

しかしニッポンでは、どこか家事が「女性担当」という認識があるため、「家事代行」→「女性がラクしたいだけ」→「女性がラクするのはけしからん」という思考が世間でしばしば見られるのでした。

■お腹を痛めて産んだわが子はかわいい?

ドイツを含め世界の先進国では出産の際「無痛分娩」が主流となっています。よく理由を聞かれるのですが、ズバリ「女性が痛い思いをしたくないから」です。

ところが、ニッポンではどうしたことか、「痛いから無痛分娩にして」と言えないような雰囲気があるのです。知人女性のA子さんは妊娠する前から、「もし将来子どもを持つことがあったら無痛分娩」と決めていたそうです。

ところが、このことを口にすると、家族はもとより知人、医療関係者等ほぼ全員から「やっぱり、自然な形で産んだほうが良い」「なんでもかんでも欧米と同じようにやるのは違う」「お腹を痛めて産んだわが子だからこそ、後に子どもをかわいいと思える」と、普段はリベラルだと思っていた人たちからも、まるで昭和の姑が口にするようなことを言われたのだそう。ちなみに最後の「お腹を痛めて~」は実の母親から言われたのだとか。

近年、日本国内で無痛分娩をした女性が死亡した事件が相次いだこともあり、世間では「やっぱり無痛分娩は危険なんだ」というイメージが固定化されてしましました。

しかし、無痛分娩がそれほど危険なものなのであれば、欧米諸国の中で無痛分娩がとっくの昔に禁止されているはずです。しかし、そういった話はいっこうに聞こえてきません。

実は日本での無痛分娩にまつわる事故は、「医師が無痛分娩に慣れていないから、経験不足でミスが起きた」というのが現状です。知識や経験のない医師が慣れない無痛分娩を行ったことの結果です。にもかかわらず、日本では、従来通り「無痛分娩は良くない」「無痛分娩は危険」だという声が主流だったりします。

■前例主義と根性論が女性に苦労を押し付ける

そして、ここでもまた「根性論」がモノを言うのでした。それは「昔の人もそうやってきたのだし、子どもを産むのはそもそも痛いものなんだから我慢しろ」という前例主義を振りかざしたものです。

サンドラ・ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)
サンドラ・ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)

でも私は、ニッポンの世間がこれほどまでに無痛分娩に対して厳しい一番の理由は「女にラクさせたくない」からだと疑っています。

なぜなら、医療において「自然であること」がそんなに素晴らしいことであるならば、「虫歯の治療は麻酔なしで行われるべき」という声ももっと聞こえてきておかしくなさそうです。

ところが、このようなことを言ってしまうと、男性も麻酔なしで虫歯の治療を受けざるを得ないような状況になりますから、たとえ虫歯の麻酔で子どもが死んでも「歯医者での麻酔」が問題視されることはほぼありません。

一部の男性、そして女性も洗脳されてしまい、とにかく女にラクさせるのはけしからん、女にラクさせるとロクなことが起きないと、何かにつけ「女に苦労」を押し付けることは残念ながら令和になっても、ニッポン社会の現実だということは知っておいたほうが良いかもしれません。

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サンドラ・ヘフェリン 著述家
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『満員電車は観光地⁉』(原作、漫画・流水りんこ/KKベストセラーズ)、『爆笑!クールジャパン』(原作、漫画・片桐了/アスコム)など。ホームページ「ハーフを考えよう」

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(著述家 サンドラ・ヘフェリン)

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