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"カリスマ経営者"日本電産・永守重信が語る「こんな今こそ日本に必要な人材」

プレジデントオンライン / 2020年5月10日 11時15分

日本電産 永守重信氏

■なぜ、いま教育に130億投資したのか

2018年3月、私は約50年の歴史を持つ京都学園(現・永守学園)の理事長に就任し、大学の経営を始めました。翌年に「京都先端科学大学」に名称を変更して、20年4月には新たに工学部を設置し、将来、世界大学ランキングで日本トップクラスの大学となることを目指し改革を続けています。

もちろん私が経営を始めたからといって、京都先端科学大学が入学時の偏差値やブランド力で東大・京大レベルになるのは、時間がかかるでしょう。しかし、卒業生が社会で活躍することで「あの大学の出身者は即戦力になる」という評価が自ずと高まっていくと確信しています。

日本の大学のブランド信仰が続いている大きな理由は、母親の価値観にあると私は思っています。「名門大学に行けば、テレビでコマーシャルをやっている有名な会社に入れる」と考えるのでしょう。しかし大切なのは、子ども自身が大学で何を学びたいか。入社して数年で辞めてしまう社員の増加が問題になっていますが、それは自分の興味や適性を無視した大学選び、会社選びの結果でしょう。

京都先端科学大学の改革は「偏差値を上げること」が目的ではありません。教育の目的は、これまで日本の大学で教え育ててこなかった学生のやる気を高めること。一人一人のやる気を伸ばすことで、日本の大学のブランド信仰、偏差値信仰を打ち砕き、学んだことを社会に活かすことができる人材を輩出することが目標です。

■「教育と医療」への貢献が自分のやるべきテーマ

「永守さんは一代で日本電産を世界シェアトップのモーター会社にした。その次に大学の経営に乗り出したのはなぜですか?」とよく聞かれます。その答えは、私にとって「教育と医療」への貢献が自分のやるべきテーマと考えているからです。世界のどの家庭でも、子どもの教育と医療が一番の悩みであり、多くのお金がかかる問題です。京都先端科学大学にはこれまでに130億円以上を投じています。そもそも私は、長年新卒採用で日本電産を受ける学生に大きな不満があり、「今の大学教育は間違っている」と思っていました。

日本電産 永守重信氏

私たちのようなメーカーは、「顧客が欲しがる製品」を作らなければ商売になりません。お客さまの声を聞く中で時代の先を読み、市場に求められる製品をいちはやく送り出す。そうすることで、日本電産は創業から成長を続けてきました。ところがその間、日本の大学は何十年も採用する側の企業がどのような学生を求めているかに関心を持たず、社会で役立つことを何も学んでいない学生を一方的に送り続けてきたのです。

私どもの会社はモーターが主力商品です。当然、モーターについて学んだ学生が欲しい。ところが日本の大学でモーターを専門的に学べる学部学科はどんどんなくなっています。17年から京都大学で「優しい地球環境を実現する先端電気機器工学」という寄付講座をやっているのも、世界中の全消費電力量の50%以上を占め、日本の産業競争力を支えるモーターに関心を抱く若い人材を育てたいという思いからです。

世界中を走る自動車は近い将来、そのすべてが電気自動車に置き換わっていくでしょう。AIやIoTの進化でロボットやドローンなどの普及もさらに進みます。それなのに心臓部品のモーターの先端技術を学べる場が、この国から消え去りつつあるのです。毎年我が社では数百人の学生を採用しますが、そのうち大学でモーターを学んだことがあるのは1人か2人。仕方ないので社内にモーターカレッジという新卒研修制度を作り、そこでモーターの基礎から半年ほど学ばせていますが、一人前の技術者になるには数年かかるのです。

また偏差値が高い大学の学生を採用して仕事の現場に立たせても、英語がまったく話せない。営業をさせても注文が取れない。理工学部出身なのにモーターの基礎もわからない。それどころか、きちんとした挨拶もできなければ、着席するときの上座と下座すら知らない新卒社員は珍しくないのです。東大や京大のようなブランド大学から採用してもそこまで状況は変わりません。

出身大学とビジネスの結果に相関があるのかと疑問を感じ、00年ごろから採用した新卒社員1人ずつについて、仕事の成果のデータを取ってみました。すると一流大学を出た社員も三流大学の出身者も、10年ほど経つと何も変わらないことがわかりました。それどころか同じ年次の入社でも、三流大学出の社員のほうが活躍していることもよくあったのです。

学生時代の偏差値と関係なく、なぜ社会人になってから差が生まれるのか。それは人間の能力には知能指数を決める「IQ」と、「やる気」を生み出す感情指数の「EQ」の2つがあるからです。学校のテストはIQが高いほうが有利。しかしIQが高くてもEQが低い社員は、仕事のモチベーションが上がらず、営業なら「絶対に注文を取るぞ」といった気迫がありません。

2020年4月に新規で開設された工学部がおかれる京都先端科学大学の京都太秦キャンパス。工学部は英語で授業が行われる。
2020年4月に新規で開設された工学部がおかれる京都先端科学大学の京都太秦キャンパス。工学部は英語で授業が行われる。

私見ですがIQによる能力の差は、どんなに天才的な頭脳の持ち主でも普通の人に比べてせいぜい5倍ほど。ところがEQの高い社員は、やる気のない社員に比べて、仕事で100倍以上の成果を生むことがある。活躍できる社員とそうでない社員を決定づける要因は、EQの差なのだと実感しています。

重要なのは、EQは「後天的に伸ばすことができる」ということ。IQは遺伝的要因がかなり関係するらしいが、EQは教育や環境によって筋肉のように鍛えることが可能です。1973年に日本電産を創業したとき、3人の社員はみな有名大の出身ではありませんでした。資金も商品も知名度もないわれわれは「大企業の倍の時間働く」と決めて、ハードワーキングを続けました。

それから47年が経った現在、日本電産は約1兆5000億円の売り上げを誇る世界一の総合モーター企業に成長し、創業メンバーは大幹部になっています。いまでこそうちの会社にも東大や京大の学生が入社するようになりましたが、創業後しばらくは募集をかけても偏差値の低い大学の学生しか来ませんでした。そうした若者を徹底的に鍛え上げることで、日本電産は成長してきたのです。人間はみんな誰でも大きな潜在能力を持っている。その潜在能力を開花できるかどうかは、EQを伸ばす教育にかかっているのです。

■どうして大学の授業はつまらないのか

私が大学経営に乗り出したことが報道されると「企業と大学の経営はまったく別だ。できるわけがない」などと言う人がいました。しかしそれは大きな間違いです。私はこれまで赤字を垂れ流してきた会社をいくつも買収し、そのすべてを黒字にしてきました。大学も企業もすべてはなかにいる人間の意識で変わります。

理事長に就任する前、大学の授業を見学すると、学生たちがみな寝ていました。起きている学生も私語とスマホに夢中で、ほとんど誰も真面目に授業を聴いていない。けしからんと思ったが、実際に私も授業を受けてみると10分で眠くなりました。その先生を呼んで「あなたの授業はなぜあんなに学生が寝ているんだ」と聞くと、「学生のレベルが低いからです」と言ったのです。私は「違う、あなたの授業がつまらないからだ」と答えました。20年前から同じ講義ノートを用いて古い話をし、わかりやすく伝える工夫もせず、三流の授業をしているから学生が寝るのです。

一流大学はなぜ一流なのか。それはそこにいる人間の意識が一流だからです。理事長、学長、教授陣、職員一人一人、食堂のおばさんまで全員が一流なのです。教える先生が三流なら、学生も三流にしか成長しません。そこで私が理事長になってから京都先端科学大学が目指すレベルに相応しい一流の人々を、学長、学部長に招聘しました。工学部の教員は20人の募集に対し600人もの応募がありました。教室や研究施設、レストランなども一流大学にふさわしい環境を整えています。

日本電産 永守重信氏

以前は留年者を出すと学費収入が減るためなるべく卒業させるという方針だったようですがそれも変えさせて、成績が悪い学生はどんどん留年させることにしました。英会話学校のベルリッツと提携して徹底的に「使える英語」を教え、卒業時TOEIC650点以上を目指します。工学部の授業は基本的に英語で行い、最初のうちは英語の授業がわからない学生向けに、同じ内容の授業を日本語でも行います。外国からの留学生も積極的に受け入れ、そのための寮も造り、将来的には工学部では半分、全体の3分の1の学生を外国人にする予定です。

とくに学生の英語を鍛えるのは、あらゆる仕事において「英語ができるかどうか」が成果に直結する時代にすでになっているからです。数年前、私は昔から行きつけだった寿司屋の三代目の若い店主から「客が減って困っている」と聞きました。そこで店主に「英語を勉強しなさい」と伝えたところ、彼はアドバイスに従って英会話学習を始めて、日常会話ができるようになりました。すると「あの寿司屋は英語でやりとりができる」と外国人観光客の間で噂が広まり、たちまち人気店になったのです。

そのおかげで私も予約がなかなか取れなくなってしまいました(笑)。英語はあらゆる仕事に役立つ。日本電産でも英語力は昇進を決める重要な指標です。わが社は世界44カ国で工場、事業所を展開しています。それらの国々の現地スタッフと会話をするときに、共通語となるのは英語しかない。英語力は、これからの社会で運転免許並みに「あって当然」になることは間違いありません。

■10年後の未来で求められる学問

改革はまだ始まって2年ですが、大学は大きく変わりました。何より学生たちの意識が変化した。寝ている学生や私語はなくなり、みんな活き活きした目で授業を真剣に聴いています。入学試験の偏差値も2年前に比べて大きく上がり、20年、初めて募集を行った工学部で、東大入試レベルの問題を紛れ込ませたところ、それを解いた学生が5人もいました。19年の入学式の祝辞で、私は「君たちはいいときに入学した。来年だったらこのうち半分は落ちる。再来年受けたら全員落ちている」と述べましたが、実際にそうなりつつあるのです。

20年、工学部を設置したことで、京都先端科学大学は理系のみに力を入れていると思われがちですが、従来からある人文学部や、経済経営学部などの文系学部、看護学科などがある健康医療学部もさらに伸ばしていきます。人文学部には源氏物語の研究で日本の第一人者の女性教授がいますが、彼女から平安時代の人間関係づくりの話を聞いて、実に面白いと感じました。

■スマホではわからない知見

歴史や過去の人々が遺した文献からは、現代のビジネスにも役立つ普遍的な人間の営みを学ぶことができます。いまはスマホ1つあれば、フランスの経済史から何からすべて瞬時に調べられます。そういう時代だからこそ、大学では「スマホではわからない知見」を学ぶことが、文理を問わず重要になるのです。

私は「2025年までに世界大学ランキングで関関同立を抜き、2030年までに東大・京大を抜く」と公言しています。先日、学生から「東大や京大を抜いたあとはどうなりますか?」と聞かれたので、「ハーバード、MIT、ケンブリッジを抜くことになるだろう」と答えました。それがいつになるかいまは言えませんが、それぐらい高い目標を目指すということ。

その言葉の背景には、日本の大学が世界の中で凋落を続けている厳しい現実があります。アジアの大学がどんどん成長している一方、日本の大学で世界ランキング100位以内に入っているのは東大と京大のみ、早慶は600位以下です。論文の引用数や学生一人あたりの教員数、国際性や入学後の伸びが指標のランキングで、京都先端科学大学が短期間で日本トップレベルの大学になるのは十分に可能です。

京都先端科学大学では、教育だけでなく研究にも力を注ぎます。経営に乗り出した当初は「ノーベル賞を取る人を育成する大学ではなく、専門分野で即戦力になる人材を育成する」と言っていましたが、考えを変えました。学内に「ナガモリアクチュエータ研究所」という研究機関を設立し、そこではロボティクスや材料科学、ナノ工学などの世界最先端のテクノロジーの研究を行います。ノーベル賞レベルの研究が行われている大学には、必ず優秀な学生、先生たちが集まってくるからです。

京都先端科学大学では、将来的にいまの健康医療学部に加え、医学部の設置を構想しています。それもただの医学部ではなく、高齢者医療に特化した医学部。人生100年時代を迎えようとする現在、どこも病院は老人の姿で溢れかえっています。2~3時間待たされたあげく、診療は3分で終わることに不満や不安を抱えている高齢者はたくさんいるのです。

医学部の設置には、国の認可の高いハードルを越えなければならないが、それだけにやりがいのあるチャレンジ。日本電産はパソコン、スマホ、電気自動車など、常にモーターが必要となる市場の先を読み、他社に先駆けて優れた製品を作ることで飛躍的に成長しました。大学経営もまったく同じ。世界の変化を先読みし、この国の未来に必要とされる人々を育てていくことが大切なのです。

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永守 重信(ながもり・しげのぶ)
日本電産 代表取締役会長(CEO)
1944年、京都府生まれ。6人兄弟の末っ子。京都市立洛陽工業高等学校を卒業後、職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科を首席で卒業。1973年28歳で日本電産を創業。同社を世界シェアトップを誇るモーターメーカーに育てた。また、企業のM&Aで業績を回復させた会社は60社を超える。2018年3月に京都学園(現・永守学園)理事長に就任。

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(日本電産 代表取締役会長(CEO) 永守 重信 構成=大越 裕 撮影=的野弘路)

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