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検査が極端に少ない日本で実施したLINE調査と貴重なデータでわかること

プレジデントオンライン / 2020年4月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/samxmeg

■突然、スマホに届いたLINEからのLINE

〈この調査は、厚生労働省の新型コロナ対策に協力するため、LINE株式会社が実施しています。みなさまの今の体調をお聞きし、「感染拡大の状況を正しく把握し、私たちの生活を守ること」を目的に実施します。ご協力をお願いいたします〉

こんな文句とともに国民のスマホに届いた厚労省とLINEによる「新型コロナ対策のための全国調査」が話題だ。両者が協定を結び、3月31日から4月1日にかけて、第1回の調査協力が日本全国のLINEユーザー約8300万人に対して発信された。その後、4月13日までに3度の調査が行われており、第1回調査については詳しい分析結果も公表されている。

第1回調査の約2400万人の回答からは、新型コロナウイルス患者の症状の一つである発熱率について、住んでいる地域や職業によって高いグループがいることや、防疫意識などがわかった。

第1回調査で、コロナウイルス感染の疑いがある一つの目安である「4日以上の発熱」があると答えた人が0.11%の2万7000人。都道府県別では、沖縄を筆頭に、東京、北海道、大阪などで発熱率が高かった。

■発熱率が平均の2倍以上だった職種

また、職種・職業別ではグループを6つに分けて発熱率を分析している。最も発熱率が高かったのは、医療・介護職よりも〈現状の業務体制では3密回避や社会的距離の確保が難しいと思われる職業・職種(例:比較的長時間の接客を伴う飲食店を含む対人サービス業、外回りをする営業職など)〉に該当する人たちで、平均の2倍以上の発熱率だったことが判明。対人サービス業には、おそらく食料品や医薬品を販売する小売店の店員も含まれるだろう。

逆に発熱率が低かったのは休校中で人との接点が減っている教職員や学生らと、〈自粛条件下で、個人での3密回避や社会的距離対策が比較的容易〉とされる専業主婦/主夫など。

厚労省はこの結果から、〈「不要不急の外出を避けること」が、新型コロナウイルスの感染リスクを避ける上でも、他者に感染を拡げないためにも有効〉であり、〈特に緊急事態宣言が発令された7都府県の方々においては、「家にいること」、「不要不急の外出を避けること」の2点が最も重要であることをこのデータからも強調したい〉としている。

■全く浸透していない「三つの密」

回答者が「新型コロナ感染予防のためにしていること」では、「手洗い・うがいやアルコールによる手や指の消毒」が85.6%。以下、「せきやくしゃみをする時は、マスク・ハンカチなどを口にあてる」が74.4%、「人がたくさん集まっている場所には行かないようにしている」が73.7%、「換気が悪い場所には行かないようにしている」62.0%となった。

日本では3月20~22日にかけての3連休で気が緩み、感染が拡大したのではないかという見方が強いが、少なくとも回答者に関しては個人ができる防疫意識は比較的高かったといえるだろう。

しかし、密集、密着、密閉の「三つの密」を避けることの重要性については、まだ浸透していない時期だったようだ。「他の人との近い距離での会話を避けている」としたのは32.8%。「仕事はテレワークにしている」は5.6%にとどまった。

第3回調査は4月12~13日にかけて行われたという。第1回調査から約半月後の日本人の意識がどの程度変化したか、また発熱などの症状を訴えている人の増減はあったのか、厚労省の発表を待ちたい。

■2000万人超が調査に協力した奇蹟

この調査はどのメディアでも比較的好意的に受け取られている。それもあってか、厚労省はLINEとの連携を強化し、4月13日からは海外から帰国した人への健康調査にもLINEの機能を使うと発表。日本が入国を拒否している73の国と地域から帰国した国民のうち、PCR検査で陰性と確認され検疫所などで同意した人を対象に、帰国から2週間、毎日LINEでメッセージを送り、発熱やせきなどの症状の有無を聞き取るという。

それまでは居住地の保健所の職員が2週間、毎日直接電話していたというから、LINEで手軽に確認できるとなれば担当職員も帰国者もどちらの負担も軽くなることは間違いない。

通常であれば政府に自身の健康状態や職業などの情報を、個人が特定されない形とはいえ把握されることに抵抗感を持つ人もいるだろう。また、ツールとして使い勝手がいいからとはいえ、行政機関が一民間企業の提供するサービスにまる乗りしていいのかという疑問もわく。しかし今般は非常時ということもあり、2000万人を超える人々が調査に協力したことの意味は大きい。

■既存の大手メディアやマスコミは後塵を拝した

もちろん課題もある。筆者の母はLINEを使っていないため、この調査には参加できなかった。厚労省も回答者の属性や調査自体の偏りを考慮する必要があるとしたうえで、〈本調査はLINEユーザーのみを対象としていること、重症者は回答しづらいこと、感染症予防の意識が高い人ほど回答する傾向にあること〉などを可能性として指摘している。国民の了解を得て行う民間が提供するツールでの調査では、どうしてもこうした偏りが出るのは否めない。

それでも、厚労省の特設サイトなどに誘導してのアンケート形式であれば、これほど多くの回答は得られなかったのではないかと思われる。LINEという平素から利用している身近なツールに、政府(厚労省)の側から歩み寄ったことが奏功し、短時間に収集、分析可能なデータが集まった。

さらにこの結果を地図上に示し視覚的に見やすい形に落とし込んだジャッグジャパンの「都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ(LINE調査視覚化)」が登場するなど、実態把握や分析において、いわゆるデジタル分野に強い企業の活躍が目立つ。本来ならこうしたことに長けているであろう既存の大手メディアやマスコミは後塵を拝し、後追いで厚労省とLINEが提携する取り組みと結果を報じるにとどまった。

■私たちユーザーのデータはいかようにも活用しうる

厚労省は引き続き、新型コロナ感染症対策に資するためのデータの提供を民間事業者に呼びかけている。

4月13日にはYahoo!がアプリ利用者の位置情報や検索・購買履歴のデータを組み合わせて分析し、「新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)発生が疑われる地域」の情報を厚労省に提供すると発表している。もちろんYahoo!はデータ利用に同意したユーザーのデータのみと断っているが、日頃から吸い上げられている私たちユーザーのデータがどれほど膨大で、いかようにも活用しうるものであることを改めて思い知らされる。

新型コロナ封じ込めで実績を残した韓国では、クレジットカード履歴や監視カメラ映像、その他のデータを利用して、個人のプライベートに踏み込んで感染の疑いがある個人を割り出したとされている。さらに韓国の政府職員は、居場所を特定できるスマートフォンアプリを利用して、特定の個人に自己隔離を強制する権限も認められていたという。

■個人のプライベートに踏み込むことを躊躇する日本

民主国家では韓国に加え、台湾などもコロナ対策が一部で高い評価を得ているが、台湾は官民のデータベースを統合し、全国のすべての病院、診療所、薬局は患者の旅行履歴にアクセスできるようにしたことで感染の動向を把握した。新型コロナの封じ込めが、こうしたプライベートな情報を渡すことと引き換えに奏功した面もあることは知っておくべきだろう。

それに比べ、個人のプライベートに踏み込むことを躊躇する日本での感染者対策や実態把握は、おのずと「性善説的」なものにならざるをえない。もちろん新型コロナ蔓延の状況次第ではあるが、願わくは、お互いの善意で成り立つ調査、データ利用程度で済んでもらいたいものだ。

(長篠 つかさ)

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