ストレスに弱い人に共通する「人間関係」の3つの問題点
プレジデントオンライン / 2020年4月28日 9時15分
■なぜ急に「ストレスに弱い人」に変わるのか
私は外資系企業の産業医として、年間1000件以上の面談を行い、これまでに1万人以上から話を聴いてきました。その結果、同じ職場環境でありながら、不安とストレスに悩みメンタルヘルス不調になってしまう人と、その中でも長く元気に働き自己実現をする人たちがいることに気付きました。
ストレスに弱くメンタルヘルス不調になりやすい人たちには、どんな共通点があるのか。それは「時間の過ごし方」と「人間関係」という2つに整理することができます。
今回は後者の「人間関係」にある3つの共通点について解説します。
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働く人の半数以上が強いストレスを感じていることが、厚生労働省の調査でわかっています。そのうち、人に相談できる人は約8割で、実際に上司や同僚、友人や家族に相談すると約9割の人がストレスの解消、まあは少なくとも気が楽になるという効果を感じています。
人は不安や悩み、ストレスを抱えているとき、それを誰かに話すことで気持ちに整理がついたり、発散することにつながったりと、相談することの効果はとても大きいのです。
ですから、気軽に相談する相手がいなくなってしまったとたん、それまでストレスに対処できていた人が、急にストレスに弱い人になってしまうことすらあるのです。とくに、転職や異動、配置転換で、新しい生活が始まると、それまでの友人や同僚たちとの関係が疎遠になりがちなので要注意です。
■在宅勤務も不調のきっかけになる
職場に同年代がおらず、気軽な話し相手がいないから気分転換ができない。同僚や先輩に高い評価を得たいから、いつも我慢して、気を張っている(気を緩めることができない)。在宅勤務が続き、ちょっとした会話をする相手がおらず次第にストレスがたまっていく……。メンタルヘルス不調になるきっかけは、このように他愛もないケースも多いということを私は経験してきました。いずれも、当人の置かれた状況は違いますが、「話し相手」がいないという共通点がありました。
これは誰にでも起こりうることです。ですから、一度立ち止まって、「仕事を重視するばかりに、古い友人たちと疎遠になってはいないか」「プライドが邪魔をして、相談できずに困っていないか」と振り返ることが大切になります。
■自分を追い込むのは、期待が高すぎるから
不安やストレスをこじらせてメンタル不調になってしまう原因の一つに、自分および相手に対する“高すぎる”期待があります。これには、「自分から自分への期待」「自分から他人への期待」「他人から自分への期待」の3パターンがあります。
「自分から自分へ」期待をかけすぎることで、ストレスに悩み潰れてしまうパターンで多いのが、新生活での自分への高すぎる期待値です。特に、1月や4月、新年や新年度が始まると、多くの人は気持ちを新たにし、自分自身に期待をかけます。お稽古事や自己研鑽(けんさん)などを始めて、思った通りにうまくいけばいいのですが、そうはいかないケースも当然あります。そんなとき、すぐに諦められる人はいいのですが、「努力が足りないから、もっと頑張らなければいけない」と考え、自分を追い詰めてしまう人もいます。
このようなタイプの人は、周囲からすると何らストレスを感じてないように見えても、自分への期待が高すぎるために、自分自身でストレスを生じさせてしまい、メンタルヘルス不調になってしまうのです。
■「他人への期待」もストレスを生む
また、「自分から他人へ」期待をかけすぎることでストレスが生まれるパターンでは、結果として、自分がメンタル不調になってしまうケースと、他人を追い込んでしまうケースがあります。後者のケースでは、期待を受けた人がその期待に応えようとして、無理を強要され、頑張りすぎてストレスに潰されてしまうこともあります。
大手から中小規模へ転職したGさんは、当初は前職と同じように「過剰な期待」を周囲に対して抱いていましたが、周囲とうまくいっていないことに気がつき、自分自身の仕事に対する心構えを少し変えることにしました。
すると、自分も以前の8割くらいのがんばりなのだから、周囲にも以前の部下たちと同じことは求めなくなり、職場での人間関係が改善。また、仕事に向けていたエネルギーを趣味に向けるようになり、表情も穏やかになっていきました。今では、ワークライフバランスの良い会社で定年まで働くことができそうだと、笑顔でお話ししてくれています。
■期待値を下げた方がうまくいくことがある
言うまでもなく、自分に高い期待をもつことは大切です。そして、自分だけでなく、周囲とともに高い期待、目標を共有して業務に当たることができる人は、仕事で達成感を味わうという貴重な経験もできます。リーダーであれば、周囲に期待を示し、チームとして高め合うこと、よりベストな結果を目指すことは悪いことではありません。
しかし、時には柔軟に考えることが大切になります。
自分や周囲の人たちの不調の兆しに気づきつつも、それを打ち消すために頑張ってしまうのは、その期待値が“高すぎる”可能性があります。自分や期待をかけられた周囲の人たちは、本当にあなたと同じレベルのやる気で仕事をしたいのでしょうか? 一度、立ち止まって考えてみましょう。
時には、自分へも周囲へも、期待値やゴール設定を下げることで、状況が好転することがあることを忘れないでください。
■「すぐ怒る人」は、なぜ我慢できないのか
一般的にストレスに晒されると短気になるといわれていますが、それより厄介なのが、怒ることで物事がうまくいってしまったという成功体験を得てしまった人たちです。こういう人は自分の価値観に縛られがちなので、ストレスに対する閾値も低く、我慢せずに怒る習慣が出来上がってしまっているのです。
このような人の場合、怒ることで自分のストレスは発散されますが、周囲からは疎まれ、最終的には、周囲から助けてもらえない、協力してもらえないなど、何かの形で自分に跳ね返ってきてしまうのではないでしょうか。
多くの場合、他人へのイライラの原因は、相手への自分の“期待”にあります。「察してくれるだろう」「わかってくれるだろう」「やってくれるだろう」と周囲に期待してしまうから、期待を裏切られるとイライラしてしまうのです。
自分は相手のことを完全に理解することはできませんし、他人も自分のことを完全にわかることはありません。人は人、それぞれ違うのです。ですから、他人に期待を持ちすぎるのを止めることも必要です。ご注意いただきたいのは、人と仲良くしない、ぶっきらぼうになれと言っているのではありません。
人はそれぞれ違うことをわかった上で、職場では常に周囲の人へ、敬意と感謝、気配りと思いやりをもって接していただければと思います。
■五感を使って緊張状態を和らげる
ある日、30代の女性管理職のIさんが、人事部からの勧めで、面談にいらっしゃいました。聞いてみると、部下を持つまでの彼女は、周囲から「おだやかな人」と言われるような性格だったようですが、部下を持ってからはイライラすることが増え、我慢できずにカッとなって部下を怒ってしまうとのことでした。
話を聞いてみると、仕事が順調で余裕がある時は気にならないことも、忙しい時や、自分に余裕がない時に、チームとしての業務が回らなくなると怒ってしまうようでした。
その後、たまった怒りをコントロールするため、緊張した気持ちを和らげるすべを見つけることをお勧めしました。無理にイライラを鎮めることを考えるよりも、イライラやストレスのある緊張状態を和らげるために、意識的に五感を使う方法です。例えば、いい景色や絵画を見る(視覚)、アロマやハーブティーを嗅ぐ(嗅覚)、激辛料理やスイーツを食べる(味覚)、お気に入りの音楽にひたる(聴覚)、マッサージやペットとのハグ(触覚)など、きっと自分に合うものが誰にも見つかるはずです。
彼女は、2、3回ほど産業医面談に来られた後、ぱったりと見かけなくなりましたが、数カ月後に人事の方から聞くには、その後は会社で怒ることはほとんどなくなったとのことでした。
皆様も、何か自分に当てはまることがあったかもしれません。紹介した対処法の全てをやる必要はありません。1つでも自分ができそうな習慣があれば、気軽に取り入れてみてください。
みなさんの日々の不安やストレスが少しでも軽減し、活力あふれる職業人生を歩む一助となれば幸いです。
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医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』などがある。公式サイト
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(医師 武神 健之)
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