「100日後に死ぬ安倍政権」…と晋三とワニくんと"電通案件"
プレジデントオンライン / 2020年4月21日 11時15分
■「35万いいねをいただいた」空前絶後の大炎上
アーティストの星野源さんがアップした「うちで踊ろう」の動画とコラボした安倍晋三首相のTwitter投稿が炎上している。
もともと、この動画はアーティストがライブやレコーディング活動の自粛を余儀なくされる中で、自宅にいる人に向けてセッションをすることを星野源さんが提案する動画だった。
この投稿は一気に話題となり、渡辺直美さんや三浦大知さん、バナナマンなど有名人がTwitterやインスタグラムで星野源さんとの“コラボ動画”を次々と投稿。SNSでの一大ムーブメントとなった。
このムーブメントに賛同したのが安倍晋三総理だ。
だが、安倍総理が“コラボ動画”としてTwitterとインスタグラムにアップしたのは、クリエーティブな音楽活動ではなく、自宅で犬と戯れ、優雅にお茶を飲み、ハードカバーの本を読む姿。
この投稿に対し、「アーティストの政治利用だ」「自粛を余儀なくされているアーティストの補償もせずに優雅な生活をアピールするな」「便乗するな」「そもそも、コラボ動画の意味をまったくわかっていない」などと多くの批判に晒されることとなった。
政府は記者会見で「35万以上のいいねをいただいた」と一定の評価をもらったことを挙げ、批判に対しての直接的なコメントはしなかった。この“批判スルー”に対しては今も批判的な声が多数あがっている。
なお、現在もこの“コラボ動画”の投稿にはいいねがつき続け、40万いいねに迫る勢いだ。
いったい、安倍総理のこの投稿の何に国民は怒っていたのか。
■「100日後に死ぬワニ」炎上との共通点
実は、安倍総理の炎上は、つい2週間前に炎上したもう一つの事象と重なる点がある。
それが、Twitter上で連載されていたマンガ『100日後に死ぬワニ』だ。あらかじめ死ぬことが宿命付けられているワニと友人の動物との日常を描いたこの漫画は、3月20日に公開された同作の最終話で大きな反響を呼んだ。
作者のきくちゆうき氏のフォロワーは連載開始当初の1万人から200万人以上まで膨れ上がり、最終話の投稿は221万9000いいね、75万5000リツイートを記録した。
最終回の投稿後、SNSユーザーの間では感動の声が見られたほか、最終回の解釈を巡って議論が盛り上がり、ツイッターのトレンドにも選ばれ「ワニくん」は世界ランキング1位を獲得。現代のSNSマーケティングの“お手本”とも言える現象となった。
だが、程なくしてこの『100日後に死ぬワニ』も大きく“燃える”こととなる。
最終回の投稿後、1日経たずしてTwitterの公式アカウントを開設。そこで同作の書籍化や限定グッズの発売、楽天とロフトのコラボ企画の発表など、次々と商業展開が発表されたのだ。
![「100日後に死ぬワニ」公式Twitterより](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/9/670/img_49c0a3e1111f6260fc643d6ce21a686c463257.jpg)
■世界観をぶち壊されたファンの「失望」たるや…
そのグッズの点数の多さや、タッグを組む大手企業の多さを含め、用意周到に最終回に向けてマーケティングが進められてきたことが明らかになると、この漫画を追い続けてきた熱心な読者からは不信感が募るようになる。
「一気に冷めた」「もう少し感動に浸らせてほしかった」「死んだのに天使の輪っかをつけてグッズ販売しているのは作品への愛がなさすぎる」など、そのほとんどが作品の世界観をぶち壊されたという“失望”だったのだ。
そして、そこにとどめを刺したのが「電通案件」という言葉に象徴される、大手広告代理店の電通が本作品の商業展開にかかわっていたことが噂(うわさ)されたことだった。
作者のきくちゆうき氏は、「ワニの話は自分1人で始めました」とTwitterで弁解の投稿をするも、コラボ作品のクレジットや、過去の作者のSNS投稿から電通とのかかわりを指摘する声が絶えず、「がっかりした」「101日後に電通に入るワニ」といったように揶揄(やゆ)する声が広がり、ワニをめぐる感動の渦は、一気に炎で燃え上がることになったのだ。
今や、SNS上では日々状況が変わる新型コロナウイルスの問題一色となり、同作のムーブメントはほぼゼロになったと言っても過言ではないだろう。
もし、『100日後に死ぬワニ』がファンの心を掴(つか)み続けていたら……。筆者はそう嘆かずにはいられない。
■ワニも、安倍首相も欠けていた視点
では、両者の炎上はなぜ起きたのか。
それは、日本のネットユーザーの多くが抱く、商業主義への嫌悪感、ネット用語でいう「嫌儲」とバッティングしてしまったからにほかならない。
『100日後に死ぬワニ』は、Twitterのみで公開されていた漫画であり、ファンたちはその姿を友人の投稿のように身近な存在として日々応援していた。
その日常の中にある“空気”や“水”のように当たり前の存在になっていった過程こそが、この作品が愛されてきた最大の理由だった。
毎朝通勤路で挨拶(あいさつ)してくれる近所のおばちゃんといってもよいだろう。
ところが、ある日、おばちゃんが通行料を理不尽に取り始めたり、モノを売りつけたりしてきたイメージだろうか。あるいは一カ月後に市議会議員として出馬するために毎朝住民に挨拶をしていた——。
親しみを込めて接していた友人のような存在が、実は自分からカネをもらうために、あるいは票田として取り込むために仲良くしていた——。
そんな手段として使われていたことが明らかになった瞬間に、一気にネット上ではワニへの幻滅が始まってしまったのだ。
■ネットが大嫌いな「裏の意図」
安倍総理の星野源さんとのコラボ動画も、有名アーティストに便乗することで好感度を上げようとする意図があったと受け止められてしまった。
ネット上では、こうした「裏の意図」や「真の意図」が透けて見える汚い心を極端に嫌がるのである。
むろん、筆者はネットで無料公開された漫画が商業展開されること否定しているわけではない。ポイントは、ネットでカネを稼ぐことには適切なステップがあることを踏まえなければならないということだ。
そのために必要なのは、コンテンツを取り巻くファンが、そのコンテンツをどのように愛しているか、どのように捉えているかの文脈を知悉(ちしつ)していることである。
安倍総理の投稿ならば、「自宅でくつろぐのではなく、音楽でコラボする」という最低限の文脈を踏襲するべきであったし、『100日後に死ぬワニ』ならば読者の余韻を消さないように、公開後数日経ってから徐々に商業展開を発表するべきだったのだ。
現代は、こうしたSNS上の空気を読まないことで、それまで築き上げた信頼を一気に失うことになる。その典型例を今回の2つの炎上は示してくれたと言えるだろう。
さて、各社の世論調査では安倍政権の支持率が急落している。衆議院の解散総選挙も噂される今年、安倍政権もワニのように100日後、消えてなくなってしまうのではないか、考えさせられる。
(ライター 柚木 ヒトシ)
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