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一体いつまで続く…自粛による「コロナ疲れ」の末、私がやめたこと

プレジデントオンライン / 2020年4月22日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Choreograph

■突然の休校要請にママ友LINEグループから叫び声

「いい加減にしろ!」という夫の怒声と共に、ヨーグルトパックが宙を飛び壁に命中した。ドロドロと流れおちる白い液体を、当の怒られた子どもらが茫然と眺めるなか、妻が冷静な一言を放つ。「それ、自分でちゃんと拭いてよね」。数分後、子どもたちと一緒に黙々と壁を拭く夫の姿があった。

何度聞いても印象的なエピソードだが、この光景にこそ、子持ち「自粛生活」のリアルが表れている。いま、多くの家庭で、行き場のないストレスが限られた空間に充満している。

2月27日、夜7時。騒ぐ子どもたちと食卓につき、何気なくつけたNHKニュースを見て、飲みかけた麦茶を噴いた。TVでは「来週から全国の小中学校へ休校を要請する」と神妙に語る安倍晋三首相の姿が。オイオイ、もう金曜の夜ですけど? と思う間もなく、ママ友グループLINEの着信音が一斉に鳴り始めた。「小学校からは何の連絡もない」「幼稚園はどうなるのか」「私立はどうなるのか」。すべてが不明のまま週末を迎え、そして日本の学校が長い長い春休みに突入した。

■子どもの休みは親の勤務。つまり無期限勤務だ

4月20日現在も、新型肺炎コロナウイルスは猛威を振るっている。世界の感染者数は240万人を超え、死者は16万人を超えた。医療崩壊只中のイタリアやスペイン、アメリカの状況は、決して対岸の火事などではない。遅かれ早かれ休校措置はとられただろう。

だが、翌週からの各家庭での惨状は予想以上のものだった。たしかにこれまでも夏休みなど長期休暇はあった。子どもにとっての“休み”は、親にとっての“勤務”を意味することも承知している。だが、予定された“休み”と、前触れなしの無期限の“休み”は意味が違う。

そしてそこに新たに加わる「在宅勤務」推奨の波。「子どもの休校」×「親の在宅勤務」×「外出できない自粛モード」が生み出す破壊力は、ほとんど未知の世界だったといえる。

ちなみに断っておくが、冒頭に登場したパパは決してDV夫などではない。普段から子ども思いで、子どもたちもパパが大好き。感じのいい笑顔も、ママさんたちからお墨付きだ。しかしそのパパをしてヨーグルトを投げつけるという蛮行に駆り立てるほど、長引く自粛生活はストレスに満ちている。

■子持ち自粛生活の疲れは、「時・食・住」の3重苦からうまれる

構図は単純だ。「育ち盛りの子どもが家で騒ぐ」→「『静かにしろ』と何度いっても聞かない」→「うるさすぎて在宅“勤務”ができない」→「気分転換にスタバで仕事、もできない」→「家族全員のイライラがマックス」。これが何日も続けば、立派な「自粛疲れ」の出来上がりだ。そうならないのは、よほど聞き分けのいい子どもを持つか、豪邸に住んでいるかのどちらかだろう。

今回、周囲のママ友たちに聞き取り調査を行った。集まってきた声はさまざまだが、突き詰めれば3つの問題に集約される。それが衣食住ならぬ、「時(間)・食・住」の問題だった。

何より悲鳴が上がったのは、「食事」問題だ。普段、家庭で食事をつくり慣れているはずの主婦たちですら、家族全員が連日三食食べ続けることの負担は想像以上だった。「食費が半端ない」「買い出しが追い付かない」「一日中食事の準備と片付けに追われている」「もうレシピが思いつかない」「夫の分の、量と品数が余計に負担だ」などの声が届いてきた。なかには「人はなぜ1日に3度も食事をする生活に進化してしまったのか……」と悩む人まで出る始末。ちなみに子どもが3人いる我が家では、8時、10時(おやつ)、12時、15時(おやつ)、18時と、ほぼ2時間ごとに食べ物を要求され、しまいには「バナナでも食っておけ!」と叫ぶ毎日だ。

■庶民向け都心マンションなんて3密そのものではないか

だが問題の本質はコロナではないのかもしれない。そもそも日本は家庭料理に求めるレベルが高すぎる。欧米のようにパンとハム、サラダやスープ、あるいは冷凍ピザをチンが夕食と認められる社会なら、何もここまで疲弊はしない。「母親が心を込めた丁寧な食事」を自他ともに求めてしまうからこそ、「自粛生活、三食準備がつらすぎる」事態を生み出しているのもいえる。

「住居」問題も大きい。「ステイホーム」が叫ばれる昨今、強烈な違和感を放ったのは、元俳優・政治家のアーノルド・シュワルツェネッガー氏と、日本の安倍首相だ。緑あふれる広大な敷地でロバやポニーと戯れるシュワちゃんに、ワンちゃんを抱っこしながら、星野源の楽曲を聞き優雅にカップを持つ安倍首相。そりゃ、そんなご立派な空間があれば、さぞや在宅も楽しかろう……。

都市一極集中が顕著な日本において、庶民向け都心マンションの狭さは3密そのもの。我が家では、食事も余暇も仕事も宿題もかくれんぼも忍者ごっこも、すべて1ルームで行われている。ちなみにTVは常に字幕表示。シャウトする子どもの声にかき消され何も聞こえないからだ。周囲からも、「在宅“勤務”する場所がない」「寝室で子ども用テーブルで仕事をしていたら、腰を痛めた」「喧嘩を避けたくても逃げ場がない」という声が響いてくる。

■私も仕事があるのに、在宅勤務中は寝室から出てこない夫

トドメは「時間」問題だ。大人でも一日を生産的に律するのは大変だが、子どもにそれを求めるのは至難の業だ。「一日中、兄弟喧嘩が絶えない」「隙あらばYouTubeを見ている」「時間割をつくったが、異年齢兄弟が邪魔して機能しない」。なかには在宅勤務になった夫が、「少しは家事育児に協力してくれるのかと思いきや、“勤務”中は見事に(仕事部屋と化した)寝室から出てこない」「私(妻)も仕事があるのに、『俺は仕事中だから』の一点張り」という声も上がってきた。職場での真面目さが、在宅では裏目に出たケースだろう。

つくづく幼稚園や保育園、小・中学校や高校等の存在意義は大きかったと気づく。学校という場は、学力や社会性を身に付けるためだけに存在するのではない。リズムに則って生活できる場を提供する場でもあったのだ。フリーランスのライターである私は、「コロナ以前」から在宅勤務だったが、保育園・幼稚園・小学校が休みになって以来、まともに仕事はできなくなった。ベビーシッター・家政婦・教師役を兼任して、さらに仕事なんてできるわけがない。同様のことが全国の家庭で起こっている。当たり前だが、子どもはモノいわぬ人形ではない。小さくても人間だ。意志もあれば、欲もある。発言力もあるし、なんなら武力行使に出る行動力もある。ないのは自制心だけだ。だからこそ、全国のオフィスワーカーのPC画面には、全力で襲い掛かってくる子どもたちの映像がリアルに映り込んでいるというわけだ。

■夫の在宅勤務、唯一のメリットは…

もっとも、いい変化も報告されている。「平日は深夜帰宅、週末は燃え尽きていた夫が、子どもと遊べる時間を持てるようになった」「すれ違い夫婦の会話が増えた」「子どもが手伝いをするようになった」「夫が料理に目覚め、家事育児に協力的に」「長時間勤務や通勤ストレスから解放され、健康的になった」などなど。暗いニュースばかりが続く日々だが、旧弊の固定観念や価値観がリセットされる機会になったのは、唯一のメリットといえるかもしれない。「自分にとって本当に幸せな日々は、どういうものか」を考えるきっかけになるかもしれないからだ。

そもそも、自粛生活で噴出している声は、これまでも変革を叫ばれながらも放置されてきた課題ばかりなのだから。都市への一極集中・それに伴う住宅問題・長時間勤務・満員電車通勤・家事育児の夫婦分担のひずみ・子育て女性の社会進出の難しさ・育児休暇に対する社会の無理解・リモートワークの環境不備・ハンコ社会……。これらを放置してきたツケが、いま次々に、顕在化しているといえるのではないか。

■プリント配布にこだわる近所の公立小学校

特に今回痛感したのは、日本社会のデジタル化のカメのごとき遅さだ。夫婦ともに在宅勤務になった家庭では、「同様世帯の激増で、マンションのWi-Fi速度が低下し、添付ファイル受信に15分、送付には30分かかる」とぼやいている。「自粛したいが、上司のハンコがないと作業が先に進まない」という声も多い。

公立学校のあまりの無策ぶりも、今回驚きの的だった。習い事や塾が続々と苦肉の策としてZoomなどでレッスンを試みる半面、まるで昭和のまま時が止まったままなのが公立校だ(すべてではないだろうが)。ちなみに私が住んでいる区は、偶然にも教育熱心な区として認知されており、区外からの転居者も多いのが特徴だ。しかし、そんなご立派な名声をよそに、突然の休校以降、学校から届いたのは数枚のプリントのみ。オンライン授業など夢のまた夢だ。欧州やアメリカ、韓国などが「休校措置」宣言の数日後にオンライン授業体制を整えたと聞くと、昨今の「公立校でもICT教育を推進しています」アピールはどこの国の話だったのかと首をかしげざるをえない。

■アフターコロナの社会が待ち遠しいわ…

今年から小学校でもプログラミング教育が必修化されるはずだが、「こんな状態でいったいどうやって先生たちはプログラミングを教えるつもりなのだろう」と、保護者間では呆れて笑いが漏れている。

今回のコロナの騒ぎでは、禍しか感じられないが、せめてこれを機に世の中のパラダイムシフトが進むことを期待するばかりだ。コロナ収束後の「アフターコロナ」では、デジタル化やICT教育が進み、一人一人の価値観に合ったワークライフバランスを実現できる社会になっていることを夢見たい。

さて、最後に話は少々ずれるが、自粛のせいで精神が疲れきってしまったママパパは日本中にいっぱいいるはず。私は夜9時以降、コロナ関連のニュースやTwitterを見ないことを決めて、だいぶメンタルが楽になった。是非、ここまで読んでくださった皆さんにおすすめしたい。

(※ちなみに今回ご紹介したのは、あくまで日本のごく一部の例だ。都市封鎖が長引く国々では、DV被害や虐待が激増している。日本でも今後「コロナDV」「コロナ虐待」「コロナ離婚」「コロナ鬱」「コロナホームレス」など、“コロナ”がつく問題が表面化していくだろう。そういった課題への対応こそ、早急に取り組むべきであることを付け加えたい)

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三浦 愛美(みうら・まなみ)
フリーランスライター
1977年、埼玉県生まれ。武蔵大学大学院人文科学研究科欧米文化専攻修士課程修了。構成を手がけた本に『まっくらな中での対話』(茂木健一郎ほか著)などがある。

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(フリーランスライター 三浦 愛美)

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