「コロナで全公演が白紙に」落語家は今後どうすれば生き残れるか
プレジデントオンライン / 2020年4月22日 15時15分
■「仕事の中止・無期限延期」の嵐はやむ気配なし
コロナの影響で仕事がほとんど飛んでしまっています。
2月下旬から吹き荒れているこの「仕事の中止・無期限延期」の嵐は4月半ばになってもやむ気配はありません。大打撃どころの騒ぎではないです。
私の場合、今年頭に出した著書『教養としての落語』(サンマーク出版)が重版しているのと、本稿も含めた原稿料の積み重ねでなんとか糊口をしのいでいます。そうは言っても顧問税理士によると3〜4月の売上合計で昨年同月比90%ダウンでした。周囲の落語家もベテランから若手に至るまで、夥(おびただ)しいほどのマイナスだそうです。もはや言葉になりません。
苦肉の策として、私は昨今はやりのZoomによる「プチ落語会」を企画してみました。みなさんの音声はミュートのため笑い声は聞こえてこないものの、笑顔を見てそれを頼りに語ってみたものでした。必死です。
すべての落語家にとって受難の年になりそうです。いや、落語家だけではありません。役者、演奏家のみなさまはもとより、「オール接客業」に災禍が訪れていることでしょう。
否、接客業だけでもありません。
現在の外出自粛による不景気は社会構造の変化をもたらすはずです。好不況にあまり影響を受けない職種の代表格である不動産業にしても例外ではありません。このままの状況が続けば家賃も払えなくなるテナントが増えてゆくことでしょう。
そして有料会員のいわば家賃収入を得ている「オンラインサロン系」のビジネスモデルも脱会者は増加し、収入減が顕在化するはずです。国難どころか世界難の様相を呈しています。
こんな時はどうしたらよいのでしょうか。
■今こそ「江戸落語の祖」から想像力の翼を広げる
私は兎にも角にも「歴史に学ぶ」しかないと思っています。
歴史は人類の経験則の宝庫です。
落語の歴史を調べてみますと、いやあ、面白い史実にぶつかりました。
「江戸落語の祖」と言われているのが、鹿野武左衛門(しかのぶざえもん)です。江戸初期の落語家として、芝居小屋など「室内芸」としての落語、「座敷仕方咄(ざしきしかたばなし)」をはじめた人だとされています。
ご存じのように落語は、「会話」だけにフォーカスして作られた特殊な話芸です。しかも下半身の動きが制御された形で話が進むという点は、他国にはなく日本独自で進化した形態です。
ここからはあくまでも想像です。
話芸とはすなわち、「面白い話の再現性」そのものです。「昨日起きたばかりの友人のしくじり」みたいな「個人的なもの」を、いつでも誰でも笑えて、しかも同程度以上の笑いのボルテージで「普遍的なこと」として再現できる人たちが尊ばれていったはずです。それが、職業落語家となったのでしょう。
やがて「屋外より室内のほうが集中できる環境だ」と演者も聴衆も徐々に気づいてゆきます。そして室内に場所を移した場合、今度は屋外の時に可能だったスペースの有限性という問題が発生します。
そこで革命家のような初期の落語家たちが、「それならいっそ座ってやるか」というような試行錯誤の中で、座布団に座って語る現在のスタイルができ上がっていったのではないか、と推察します(あくまでも個人の妄想です)。
さらにすばらしいのは、発信者側である落語家だけが進化したのではなく、受信者である観客側も想像力を研ぎ澄ませていった点です。
落語家が微妙に変える登場人物のトーンを、観客が「あ、これはご隠居さんだな」「あ、これは花魁だな」と聞き分ける術をいつの間にやら身に付けてゆくという、両者が想像力を応酬し合う間柄になっていきました。そういういわば信頼関係の積み重ねが現存する落語の原型になっていったのでしょう。
以上、歴史の事実に「想像力の翼」を広げる——。こんなことができるのも、コロナによって強制的にもたらされた暇な時間のおかげかもしれません。
■サラリーマンが社史をひも解くことで可視化されること
在宅勤務を余儀なくされたサラリーマンのみなさん、歴史を学ぶといってもいわゆる日本の歴史ではなく、身近なところでいいのです。
たとえばご自身の会社の歴史、つまり社史などをひも解いて「創業者精神はどこから来たのか」などと川上方面へ思いを馳せてみてはいかがでしょう。源流へと遡(さかのぼ)ることで、日頃忙しさのせいで見えなかった世界が可視化され、新たな展開や新規マーケットがそこから生まれてくるかもしれませんよ。
話を鹿野武左衛門の戻します。この人は1693(元禄6)年、日本でコレラが大流行し1万数千人以上が亡くなった際に、「南天と梅干の実がコレラに効く」という風説の広がりから、いわゆる「とばっちり」を受けて島流しという憂き目に遭っているそうです。
いやはや、いつの時代も相も変わらず「デマに流される」のが人類なんだよなあ、とつくづく感じますよね。
ともあれ、「今が生まれてきた過去」を謙虚な姿勢で見つめ直すと、新たな視座は絶対に浮かび上がってくるはずです。「この難局をどう乗り切るか」こそが現代人に課せられたテーマとなるはずですから。
■これから落語家に必要なのは「オリジナルの世界観」
落語家も必死です。
こうなると、「うまいから仕事が来る」という状況ではありません。
最低限のテクニックはもちろん必要ですが、「変化に対応できる人」しか生き残れない時代がやってきたとも言えます。
「不易流行」という言葉を改めて噛(か)み締めるべきではないでしょうか。
ここまで述べてきたような「歴史」を分析する「不易」の「時代を通じて変わらない普遍的な領域」を分析したら、今度は「流行」の部分、「今に生きる現代人として自分が何ができるか」について追及してみるのです。
「歌える」「踊れる」「文章が書ける」「絵が描ける」「楽器ができる」など個人の特技と本業の落語を掛け合わせて、「オリジナルの世界観」を構築してゆくしかありません。そうしてでき上がったものをたとえばYouTubeや最前申し上げたZoomなどで地道に展開してゆけば、きっと新たな「居場所」が見つかるはずです。
自分も「歌と落語」のコラボを数年前から実施し、「壊れた冷蔵庫を引き取りに来たトラックの後を追って泣いた」というリアルな次男坊のエピソードをアカペラバンドのINSPi(インスピ)さんらと繰り広げています。このたび、それらをYouTubeでアップしようと画策しています。近日中に公開しますのでお楽しみに!
……などと書いていると、今から70年以上前に出版されたカミュの『ペスト』を読んだという投稿がSNSで話題になっているではないですか。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とは鉄血宰相と呼ばれたビスマルクの言葉でもあります。歴史と現代、不易と流行の掛け算から新たなものが生まれつつある胎動を感じている次第です。
■読書とスクワットを交互に
さてさて長くなった在宅時間、歴史をたどる読書とあわせてやりたいのが自重トレーニングです。
オススメはスクワットで、このトレーニングだけで下半身のすべてが鍛えられます。人間の体は、約7割の筋肉が下半身に集中しているので、筋肉量を増やして代謝を上げるには一番効率のいいトレーニングです。
動作は、両手を後頭部で組み、太ももが床に平行になるまで下ろし、そこから身体を上げてゆくだけです。この際「膝がつま先より前に出ないようにする」ことが大事なポイントになります。1セット10回を目安に、3セットからはじめてみましょう。負荷が軽いと感じたら回数とセット数を増やすことです。
実は私、通いなれたジムが休業となり、久しぶりに有酸素運動をしようと張り切りすぎて無防備に走ってしまい、膝をやっちゃいました(泣笑)。
いまはきちんとしたスクワットはできない状態なので、椅子を用意して座る寸前までおろす「ハーフスクワット」をしています。それだけでも十分鍛えられると実感しているところです。膝の調子のよくない方にもぜひオススメします。
■ダンベル片手に「コロナ明け」に備えよう
外出自粛の運動不足により、「ちょい本格的に鍛えてみるか!」と思っている方も大勢いらっしゃるはずです。そんな方には「ダンベル」の購入をオススメします。
運動未経験の方は、ひとまず3キロくらいの重さで大丈夫です。ダンベルさえあれば、数十種類のトレーニングが可能になります。近頃はYouTubeでも無料でトレーニングのフォームがアップされているありがたい時代です。ぜひ参考にしてみてください。
幸いホームセンターは休業要請店舗から外れていますので、お客さんのすいているのを見計らって購入してみてはいかがでしょう。使わなくなったら「漬物石」にすればいいのですから(笑)。
ともあれ、いつか必ず訪れる「コロナ明け」の時に、「あの時は、歴史を勉強したなあ」とか「身体もついでに鍛えられたよなあ」と思えるような日をお互い迎えようではありませんか。何事も継続は力なり。みなさん、ご自愛くださいませ。
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立川流真打・落語家
1965年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ワコール勤務を経て、91年立川談志に入門。2000年二つ目昇進。05年真打昇進。著書に『大事なことはすべて立川談志に教わった』など。
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(立川流真打・落語家 立川 談慶)
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