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コロナショックが露わにした「日本人の愚かすぎる働き方」

プレジデントオンライン / 2020年4月22日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EllenaZ

■テレワークに移行したのは、わずか5%だけ

今回のコロナショックは、これまで何度も指摘されながら、なかなか改善しなかった日本社会における働き方の弱点を露呈することになった。

働き方改革とウイルスの感染拡大防止策は密接に関連しており、働き方改革がしっかり実践できていた組織は、感染防止策を講じやすい。残念だが、今後は、コロナ対策ができる企業とできない企業との間に、大きな格差が生じていくことになるだろう。

厚生労働省とLINEが共同で実施した調査によると、仕事でテレワーク(在宅勤務)をしている人は約5%だった。人材会社のパーソル総合研究所が実施した調査では、会社からテレワークを推奨されている人の割合は18.9%、具体的に指示されている人は3.2%、実際にテレワークを実施している人は13.2%だった。

厚労省とLINEの調査は2400万人が対象となっており、母集団がかなり多い。一方、パーソル総合研究所も2万人以上を対象にした大規模調査だが、調査対象となっているのは正社員である。ある程度、会社の環境が整っているケースでは10%超がテレワークに移行しているが、日本全体ということになると5%程度というのが実状だろう。

日本の就業者数は約6000万人、パーソルの調査対象となっている20~59歳の正社員数は約2700万人なので、全体を対象とした厚労省とLINEの調査では300万人、正社員に限定したパーソルの調査では356万人がテレワークに移行しているという計算になる。

この数字について、「少ない」という印象を持った人も多いと思うが、現実にはテレワークに移行したくても職業上できないという人もいる。対面での業務が求められる各種サービス業や、製造業の場合、そもそも現場に行かなければ仕事にならない。

■制度が整っているのに「やりたくない」

先ほど、日本では約6000万人が働いていると述べたが、このうち、専門職、管理職、事務職の従事者は2600万人と割合的にはもっとも多い。確かに職種上、テレワークができない人が多数存在しているのはまちがいないが、一方で、原理的にテレワークができる労働者がそれなりの割合で存在しているのも事実である。

2600万人の労働者が原理的にテレワークが可能であると仮定すると、300万人から400万人という数字はやはり少ないと判断してよいだろう。

多くのビジネスパーソンがテレワークの必要性を感じており、理屈上はテレワークに移行できる職種でありながら、十数%程度しかテレワークに移行していないのはなぜだろうか。

先ほどのパーソルの調査では、テレワークを実施していない理由としてもっとも多かったのは「テレワーク制度が整備されていない(41.1%)」というものであった。3番目にはテレワークのためのシステム環境が整っていないという項目があるが、比率は低く17.5%となっている。

つまり半分近くの会社は物理的な環境が整っているにもかかわらず、制度が整備されていないので実施できないという話になるわけだが、この理由は半分は疑ってかかった方がよいだろう。日本人が「制度がないので実行できない」と説明する時には、たいていの場合、「やりたくない」という意識が存在しているからだ。

■テレワークを不可能にする日本の組織文化

テレワークを実施するためには、パソコンや通信環境など物理的な環境が整っている必要があるが、それだけでは不十分である。テレワークを実施するにあたってもっとも重要なのは、仕事の進め方、指示の出し方、評価の仕方といったソフト面である。

日本の職場では、全員が顔を突き合わせ、お互いの様子を見ながら仕事を進めていくというやり方が標準的になっている。これはとりもなおさず、仕事の役割分担が明確ではなく、上司の指示の出し方も曖昧であることの裏返しである。

仕事の責任範囲が不明瞭であれば、タスクに基づいて評価することはできないので、「いつもがんばっている」といった情緒的な部分が評価の対象となる。

こうした組織文化の場合、個人が責任を持って仕事を完結できないので、全員が同じ時間に出社し、最後の仕事が終わるまで、皆が残業する結果となる。当然のことながら、これでは満員電車による通勤を回避することは不可能である。

日本は数年前から働き方改革が叫ばれているが、あまり成果をあげているとは言い難い。その最大の理由は、このような「論理」を軽視した企業文化にあるとみてよいだろう。

■業務プロセスの再定義こそ、マネジメント層の仕事だ

この指摘は何年も前から行われているが、「仕事には微妙なやり取りがある」「欧米のようにドライにはいかない」といった反論が多く聞かれる。

確かに、創造性の高いごく一部の職種の場合、微妙なやり取りが必要となるかもしれないが、一般的なホワイトカラーが従事する仕事のほとんどは、ルーティンワークであり、業務の設計さえしっかりすれば、仕事は流れるものである。

本来であれば、働き方改革の実施を通じて、従来型の企業文化を変革し、論理で仕事が進む体制にシフトしておくべきだった。こうしたソフト面での環境さえ整っていれば、あとはパソコンや通信サービスなど物理的な面の準備が整えば、すぐにでもテレワークに移行できる。

ハンコや紙の書類など、職場に行かないと仕事にならないという話も聞くが、これも工夫次第で出社を最小限にすることは可能である。行政手続きなど、どうしても押印が必要なものについては、その発生頻度や分量などに応じてまとめて作業すればよい。

社内の稟議手続きなどは、別の手段で代替できるはずであり、こうした業務プロセスを再定義することこそ、マネジメント層の仕事といってよい。

■テレワーク時代に存在意義を問われる人間の特徴

素早くテレワークに移行できた会社は、以前から業務プロセスが明確で、マネジメント層の能力も高いと考えられる。当然だが、そのような組織であれば、働き方改革にも積極的に取り組んでいたはずであり、テレワークに大きな支障はなかったはずだ。

加谷 珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)
加谷 珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム)

結局のところ、働き方改革とコロナ対策のテレワークは完全にリンクしており、最終的にはマネジメント層の能力次第というのが偽らざる現実である。

コロナウイルスの影響が長期化するのは確実であり、しかも、今回の感染が終息した後も、同じような感染爆発が発生する可能性が高いと指摘する専門家は多い。

今後は、テレワークを含めた新しい時代に対応した働き方ができる会社とそうでない会社との間に、絶望的なまでの格差が生じる可能性が高く、その中において、特に存在意義が問われるのが管理職層であることは言うまでもない。

仕事を適切に割り振り、進捗を管理し、成果達成に向けてのファシリテーションができなければ、管理職としての役割を果たしたことにはならない。四六時中、会社にいて、威圧的に振る舞うことで上司としての威厳を保っていたような人物は、テレワーク時代においては、存在意義を失うだろう。

部下にも相応の覚悟やスキルが求められる。上司から何度も促されないと締め切りを守れない社員や、方向性のすり合わせができず、アウトプットの内容を指摘され「さっきは○×と言ったじゃないですか」といったセリフを日常的に口にしているような社員、あるいはメールや社内チャットで適切に返信できない社員は、テレワーク時代にはついていけなくなる。

今回のコロナショックをきっかけに、従来型カルチャーの変革が実現できなければ、日本企業の相対的な生産性はさらに低下すると考えられる。新しい環境に対応できるごく一部の企業とそうでない企業に二極化する可能性があり、これは日本社会全体にとって決してよいことではない。

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加谷 珪一(かや・けいいち)
経済評論家
1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、億単位の資産を運用する個人投資家でもある。

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(経済評論家 加谷 珪一)

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