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なぜ、世界一規律正しい日本人が「外出自粛」を守れないのか

プレジデントオンライン / 2020年4月22日 9時15分

2020年3月22日の中目黒(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Fiers

■日本のコロナ対策、国外からかねてより甘いという指摘

「日本人は世界一規律正しい」。これは内外問わずネット上でよく語られる日本のイメージのひとつだ。以前からよく日本人は真面目であるとは言われてきたが、「規律正しい国民性」というイメージが強まったのは、東日本大震災での報道だろう。各国は被災者が非常時であるにもかかわらず整然と列をなす姿を驚きをもって報じた。

しかし、昨今の新型コロナウイルスの流行下で、日本人のイメージが揺らぐような報道が相次いだ。3月下旬に、外出自粛を守らない日本人の行動が世界中で報じられたのだ。なぜ「規律正しいはず」の日本人が「外出自粛を守らなかった」のか。

日本の新型コロナウイルス対策については、国外からかねてより甘いという指摘があった。各国と比較して日本の対策は強制力がないゆるやかなものだ。中国や台湾からは「仏(ホトケ)系防疫」と名付けられたくらいである。仏系とは草食系から派生した言葉で、「ガツガツしない、無欲な」などと捉えられるが、今回ばかりは日本の楽観的にも見える態度を揶揄(やゆ)したものだ。

■3連休のお花見に世界が驚愕

仏系防疫は親日として知られる台湾でも複数のメディアによって「これまで日本の『真面目』『規律正しい』というイメージが損なわれ、またこれまで培ってきた国際的な信用を落としかねない」と手厳しく論じられた。

日本のコロナ対策では感染爆発が起きるのではないか。そう案じられていたところ、海外から驚きの声が上がったのは3月下旬のことだ。3月20~22日の3連休に上野公園など桜の名所で人々が花見をする姿が報じられたのである。たとえばフランスのAFP通信はその様子を「警告にもかかわらず桜を楽しむ日本人」と報じ、香港メディア「香港01」も「なぜ政府は花見を阻止しなかったのか。感染症学の角度から見ても理解しがたい」と疑問を呈した。

その連休が終わった直後、東京の感染者数は3月25日を境に増加。感染者数を示すグラフは右肩上がりどころか、Jの字を書くような指数関数的な増加に転じ、4月4日には1日の感染者数が100人を超えた。そして連休から約2週間後の4月7日に安倍晋三首相から「緊急事態宣言」が出されるに至っている。

因果関係ははっきりしないものの、このタイミングは、WHO(世界保健機構)やCDC(米国疾病予防管理センター)が公表している新型コロナウイルスの潜伏期間「1ないし2~14日」と合致している。海外のネットユーザーから「ああ、やっぱり」という声が聞かれたのは無理のないことだろう。

■自主解禁ムードに専門家も警鐘

あの3連休の時期、緊張していた空気が一瞬ゆるんでしまった。読者にもそんな心当たりがある人もいるのではないだろうか。そのきっかけとして考えられるのは3月19日にそれまで感染者が続出していた北海道において独自の緊急事態宣言が終了、また政府から全国の小中学校へ出されていた臨時休校の要請も解除されるという報道があったことだ。これらのニュースを踏まえたうえで、厚生労働省クラスター対策班のメンバーで北海道大学大学院の西浦博教授は「市民の間で『解禁ムード』が広がってしまっていることを大変危惧しています」と医療従事者向けサイト「m3.com」で警鐘を鳴らした。

たしかに思い起こせば、連休直前は新型コロナウイルスの流行が落ちついたという発表があったわけではなく、むしろ桜の名所では「宴会は控えてください」という案内が出ていた頃だ。それでも流れが自主解禁に傾いてしまったのは、「自粛の要請」があくまで「お願い」であり、自粛を続けるか出かけるか、解釈と判断が個人にゆだねられたためではないだろうか。

海外で花見のニュースが驚きをもって報じられたのは、「桜に酔いしれる日本人の能天気さ」というより、「規律正しいと考えられていた日本人でも、長期にわたる自粛要請は耐えられないのかもしれない」という点なのかもしれない。

■緊急事態宣言後、外出自粛は守られているのか

3月25日に行われた東京都による「感染拡大の重大局面」を伝える会見を経て、解禁ムードは一転、自粛へと立ち戻り、政府の緊急事態宣言によって空気はより深刻なものへと変わっていった。

緊急事態宣言以降の人の移動について、ヤフー・データソリューションが公開しているデータによると、外からの東京23区への来訪者は平時と比べて確実に減少している。2020年4月11日(土)を例にとると、区外から23区へ96万5000人が訪れているのに対し、1年前の4月13日(土)は160万6000人だ。これは位置情報を利用したデータであるため、来訪の目的までを読み取ることはできない。減少の理由は私用での来訪の自粛かもしれないし、職場がリモートワーク対応や休業などで出勤者が減ったためかもしれないが、少なくとも来訪者が60万人以上減ったのは確かである。

その一方で、メディアには相変わらず外出自粛をせず、外に繰り出す人の姿が映し出されている。

厳しく自粛する人がいる一方で、外出自粛をしない人もいるのだ。緊急事態宣言後も強制力のない外出自粛の要請は、やはり「守る人は守る」「守らない人は守っていない」というのが現状なのだろう。

■「国民の資質に頼った対策」に不安の声

海外で日本の新型コロナウイルス対策が不安視されるのはここだ。日本の外出自粛要請はあくまで「協力のお願い」であり、「規律正しい」「真面目である」という国民の資質に頼った対策である点が怖いというのである。

実際に台湾メディア「聯合新聞」では、現在の東京の外出自粛について「日本人の国民性と『空気を読む』という集団意識によって、政府に協力している状態」と表現している。一見、その国民の資質頼りの対策は成功しているように見える。しかし一方で、スーパーに人が殺到し買い占めが起きたのは、市民の間で今後の生活への不安が、空気を読んで自粛することを上回った結果ではないかと論じている。

■「いっそ命令にしてくれたらいいのに…」

さらに筆者が複数の中国人に対し「外出禁止の際、ストレス対策について」インタビューを行ったなかで、日本での生活歴がある男性からこんな声があがった。

「平時であれば、多くの日本人は外出自粛のような協力要請を守ることができると思う。しかし、今は日本人のただでさえ多い普段のストレスに加えて、新型コロナウイルスから来る新しいストレスがあり、それが続けばいつか精神的に耐えられなくなるのではないか」

今、外出や移動を自粛することが自身や家族の身を守るための有効な手段であり、同時に国民が感染拡大防止に対してできる最大の貢献であることは誰もが理解していることだろう。だが新型コロナウイルスの終息が見えず、自粛要請が長期化するなかでは、気持ちだけではいつまでも自粛要請に応じ続けることは難しい。何かがきっかけとなり3連休の解禁ムードのようなことが起きないとも限らないのだ。不安を感じる国民から「自粛と補償はセットであるべき」「いっそ命令にしてくれたらいいのに」という声が出るのは当然のことだ。そして日本の国民への要請に頼った対策がどう進んでいくのか、世界もまた注視している。

(フリーライター 澤 静)

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