クルーズ船対応の医師に聞く、自分や家族がコロナで重症化したら医療はどう進むか
プレジデントオンライン / 2020年4月24日 6時15分
■入院した場合の治療や経過は?
──重症化した場合、入院後にどうなってしまうかわからず不安です。どのような治療が行われるのでしょうか。
【高山】COVID-19患者さんのうち、およそ2割の方は8日前後に呼吸が苦しくなり入院を必要とします。入院後は原則として抗炎症薬や酸素投与など対症療法が行われます。抗インフルエンザ薬のファビピラビル(アビガン)、エボラ出血熱の治療薬であるレムデシビル、吸入ステロイドの喘息治療薬であるシクレソニド(オルベスコ)、膵炎治療薬のナファモスタット(フサン)、抗マラリア薬のクロロキン、抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(アクテムラ)、抗SARS-CoV-2高度免疫グロブリン製剤など、様々な薬剤の有効性が検討されていますが、いずれも確立した治療法とは言えません。
治療の効果とご本人のがんばりの結果、呼吸が楽になり熱が下がって1日(24時間)が過ぎた時点で「軽快」と見なされ、そこから最短で2日間のうちにPCR検査で2回連続して陰性が確認されると、退院となります。初回の検査が陰性でも2回目の検査結果が陽性だった場合は、さらに24時間を経過してから再び検査を行います。退院基準を満たした時点で職場への復帰が可能です。
また、入院費を心配される方もいますが、COVID-19は指定感染症です。PCR検査で陽性が確認された後は、一切の費用は公的に負担されます。民間の医療保険に加入している方は、COVID-19の取り扱いがどうなっているのか、確認しておくと安心でしょう。
■日本でも命の選別はあり得るのか
──医療崩壊がおこっている欧州の一部では、助かる可能性が高い人に優先して人工呼吸器や人工肺(ECMO)を回すという報道があります。いわゆる「命の選別」のようなことが、日本でも起こるのでしょうか。
【高山】COVID-19の特徴として呼吸困難が出てから悪化するまでが早いという印象があります。中国における確定患者44,672例の報告によると、14%が重症化しており、5%が生命の危機に陥ったとされます。死亡したのは全体の2.3%です。とくに、50歳を超えると加齢とともに致命率が上昇します。
高齢者のほか、高血圧などの循環器疾患、糖尿病、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患、がん、各種免疫不全、人工透析などの基礎疾患があると重症になりやすいようです。妊婦が重症化しやすいとする報告はありませんが、胎児への影響が疑われており注意が必要です。
日本は人工呼吸器の台数は多いのですが、ECMO(エクモ)は不足するかもしれません。日本語では体外式膜型肺といい、人工呼吸器でも呼吸ができなくなった患者さんの静脈とポンプをつなぎ、人工肺で静脈血に酸素を供給した後で再び、患者さんの静脈または動脈へ血液を戻す生命維持装置です。感染で傷ついた肺を休ませることができるので、回復が早いといわれています。
■60代の男性と20代妊婦の場合……
【高山】ただ、ECMOは機器の不足に加えて、安全に操作できる医療従事者が不足する可能性があり、優先順位の問題が出てくるかもしれません。
たとえば、60歳の男性がその施設に1台しかないECMOを使っていたとします。その後から20代の妊婦さんの呼吸状態が悪化してECMOが必要になったとしましょう。年齢や生き延びる確率、平均余命で選別をするならば60歳の男性のECMOを外して、20代の女性につなぐ選択が支持されるかもしれません。まして、その女性の身体には2人分の命が宿っているのですから。しかし、現実として60歳の男性からECMOを外すことはできません。外すと同時に亡くなるので、殺人とされる可能性があります。
現場の医師は20代の女性に対して人工呼吸器による治療を懸命に続け、万が一の時は「全力をつくしましたが、残念ながら助けられませんでした」とご家族にお伝えするしかないと思います。
■現場の医療従事者は一人も死なせたくない
【高山】こうした厳しい事態を避けるためには重症化しやすい高齢者を守り、感染を拡大させない行動を続けるしかありません。
現場の医療従事者は全員が「一人も死なせたくない」という気持ちでがんばっています。しかし感染爆発が起こってしまうと、押し寄せる波に耐え切れずに医療崩壊という最悪の事態が起こってしまうのです。COVID-19で亡くなる方ばかりか、他の病気でも普通であれば助けられた命を失うことになってしまいます。
大型連休が近づいています。友人、知人と久しぶりに集まりたいという気持ちがあると思いますが、どうか地方への帰省や旅行は中止してください。これまでに集団感染が確認されている温泉施設、スポーツジム、夜の飲食店などへは出かけないでください。人が集まらなければウイルスは拡がりません。やるべきことは分かっています。お互いの物理的な距離は開いていますが、力を合わせていきましょう。いま我慢をすることが皆さん自身を守り、家族や地域を守ることにつながります。
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沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 副部長
福岡県生まれ。東京大学医学部保健学科卒業後、フリーライターとして世界の貧困と紛争をテーマに取材を重ねる。2002年山口大学医学部医学科卒業、医師免許取得。国立病院九州医療センター、九州大学病院での初期臨床研修を経て、2004年より佐久総合病院総合診療科にて地域医療に従事。この頃より人身売買被害者を含む無資格滞在外国人に対する医療支援を行なう。2008年より厚生労働省健康局結核感染症課においてパンデミックに対応する医療提供体制の構築に取り組む。2010年より沖縄県立中部病院において感染症診療と院内感染対策に従事。また同院に地域ケア科を立ち上げ、退院患者のフォローアップ訪問や在宅緩和ケアを開始。『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『ホワイトボックス 病院医療の現場から』(産経新聞出版、2008年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)など著書多数。
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(沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 副部長 高山 義浩 構成=井手ゆきえ 写真=iStock.com)
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