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橋下徹「安倍政権の『給付金10万円』が大混乱を招いた根本理由」

プレジデントオンライン / 2020年4月29日 11時15分

※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/takasuu

新型コロナ対策の副作用として経済に急ブレーキがかかる中、急がれるのが生活に困った人たちへの現金給付である。しかし、ようやく決着した「全国民への一律10万円配布」プランでも予想外の混乱が起きている。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(4月28日配信)から抜粋記事をお届けします。

■そもそも「給付金」は何のための施策だったか

これまでのこのメルマガにおいて、政治とは、誰もが悩む選択の中であえて優先順位を付けていくことだということを繰り返し論じてきた。特にリーダーの役割とはそういうものだ。誰もが悩む優先順位付けとは、何かを優先すれば、必ず何かを犠牲にしてしまうような選択のことをいう。

このような「必ず犠牲者を出す選択」から逃げてしまい、判断を先送りしてしまう者はリーダーにはなれない。もちろんそのような逃げの政治は日本をダメにする。

それが今回の国民一律10万円給付の政策に如実に表れた。

(略)

当初の予算は4兆円。そこを大幅に増額し、老若男女、約1億2000万人に対して、一律一人10万円を配るということで、12兆円の予算となった。

しかし、この給付金はもともと何のための給付金だったのか。

政治や組織運営においては、《戦略意図》を明確に認識しておかなければ、必ず失敗する。もともと給付金の戦略意図は「生活困窮者を救うためのもの」のはずだった。ここを絶対に忘れてはいけない。

給付するための手法が「国民への一律給付」に変わったのは、「生活困窮者」に対して、「とにかく素早く」お金を届けるためだ。

生活困窮者かどうかを国民全体についていちいち確認するとなると、もの凄い時間がかかる。そもそも元の30万円給付案のように、生活困窮者かどうかの基準を線引きするのは非常に難しい。だから「生活困窮者を救う」という戦略意図があるにせよ、実務上は、まず国民一律に10万円の「申請書」を配布することにしたのである。

このような経緯からすれば、国民一律に申請書が配布されたとしても、「生活困窮者のみが申請をし、生活困窮していない者は申請しない」というルールを政治が設定することは当たり前のことだ。

(略)

■政府はどういうメッセージを出すべきだったか

ところが、ここでまた、麻生太郎財務大臣がやらかしてしまった。「手を挙げた者にお金を配布する」「富裕層は控えるんじゃないか」という趣旨のメッセージを出してしまった。言いたいことはわかるが、このご時世で年間5000万円以上のキャッシュが保障される国会議員の代表格である麻生さんは、国民感情を的確に把握できていない。

手を挙げた者にお金を配布するということは「生活困窮者は名乗り出よ、恵んでやる」というように聞こえるものだ。それはひがみ根性でもなんでもなく、素直な国民感情だろう。

(略)

本来は「この給付金は生活困窮者のためのものです。ただスピード重視で、申請書は国民一律に配布しました。しかし、もともとの趣旨を踏まえ、生活に困らない方々は、大変申し訳ありませんが、申請しないでください。特に給料やボーナスが今のところまったく減らない、議員、公務員は絶対に申請しないでください。議員、公務員は10万円の受け取りを禁止します。議員、公務員が申請してお金を受け取れば詐欺にあたり、懲戒処分に付される場合もあります」と謙虚かつ明確に政治がルールを決めるべきだった。

僕がそのことをツイッターで発信したら、まあ批判の嵐だったね。

(略)

■現場の公務員には特別手当を弾めばいい。給付金とは別の話だ

公務員も一生懸命に働いているんだから、公務員叩きをするな! という批判も多かったが、給料やボーナスが完全に保障される公務員だからこそ、こういう危機事態のときに頑張ってもらわなければならない。そのための給料・ボーナスの完全保障だ。さらに上乗せをくれというのはおかしいだろう。

もちろん公務員の中には、医療現場や窓口現場、ごみ収集現場で感染のリスクを承知で働いている人もたくさんいる。ただ民間でも、窓口現場などはたくさんあるし、それこそ生活必需品売り場のスーパーや物流業においては、不特定多数の者と接触するのであり、民間人もリスクを負って頑張っている。

この場合、民間と比較してみても、やはり特にリスクが高いと思われる現場で働く公務員に対しては、特別手当をドーンと出せばいいだけの話だ。

(略)

国民を分断するな! 支えられる者を生み出すな! という美辞麗句を叫ぶよりも、今、困っている人たちにできる限り多くのお金が行きわたるように工夫することが、現実の政治にとって重要なことである。

もし困っている人や支えられる人が特定されて公になってしまうのであれば、確かに支えられる人たちは躊躇するかもしれない。だから手を挙げた人にお金を給付するという麻生さんの発言は、完全にアウトなのだ。

(略)

■ブレる戦略意図、給付金は「一致団結のため」や「迷惑料」なのか?

政府や与党自民党・公明党は、国民一律に10万円を給付する案に変えたことによって、お金を給付する戦略意図をあやふやにしてしまった。当初、生活に困る人へ給付する戦略意図が官僚たちの作る制度説明のペーパーに記載されていたのに、今はその一文が消えたとか。

そして、自民党や公明党の議員は、「コロナウイルスと闘うための一致団結のためのお金」「国民全体に外出禁止などの協力を求める協力金」「国民にご迷惑をおかけしたことへの迷惑料」などと、まったくわけのわからない説明をし始めている。

この説明が真意だというなら、こんな意味のよく分からない目的のために約12兆円という莫大な税金を使ってしまう日本の政治はもう末期症状だ。

(略)

今、もっとも優先順位が高いのは、生活に困っている人へお金を届けることだという戦略意図からブレてはいけない。

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)
橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

(略)

だからこそ、本来、この10万円給付の案を作るときに、「お金に余裕がある人は辞退してください。そこで余ったお金は、困っている人への2回目、3回目の給付に回しますから」というルールを明確に作っておくべきだった。

その上で、あらかじめ給料やボーナスの減額がまったくない議員や公務員は受け取り禁止のルールを設けるべきだった。お金に余裕がある人は受け取りを控えてくださいと国民に言う前に、議員・公務員が範を示すためにだ。

今、新型インフルエンザ等対策特措法に基づき、日本の政治行政は、一部の業者に対して営業自粛の要請を行っている。これは建前上あくまでも「お願い」であって、店側は従うも従わないも自由だ、ということになっている。そのまま営業を継続してもいい自由を残しているので補償はしない、という理屈だ。

ところが実際はどうか。

完全に「強制」になっている。要請に従わなければ公表までされる。公表は確かに罰金などの罰ではないが、公表されることによって社会的な制裁が加わる。

(略)

そうであれば、議員、公務員、生活に困らない人たちに、「今回の10万円は受け取らないでほしい。12兆円の税金を1円でも多く、生活に困っている人に届けるために」というお願いをすることくらい、朝飯前のことのはずだ。

(略)

(ここまでリード文を除き約2700字、メールマガジン全文は約1万5700字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.197(4月28日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【一律10万円給付問題】優先順位を付けられない今の政治は敗戦を招いた戦争指導者と同じである》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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