採用のプロが大予測「コロナ不況で、再び就職超氷河期がやってくるのか」
プレジデントオンライン / 2020年4月23日 11時15分
■新卒採用の現場で生じた2つの格差
2021年卒の採用活動が新型コロナウイルスの感染拡大と「緊急事態宣言」の発出により、完全にストップしている。経団連主導の就活ルールが21年卒から廃止され、政府ルールになったものの、大学3年生の3月に企業説明会開始、6月選考開始の日程は変わらない。
就活が早期化しているとはいえ、例年の4月は会社説明会真っ最中の時期だ。新卒採用支援を手がけるモザイクワークの髙橋実COOは現状をこう語る。
「自粛要請で3月からの説明会は一部の企業のWeb説明会や面接が行われているが、対面でのリアル説明会や面接は止まっている。企業との接点を求める機会が圧倒的に少なくなり、学生・企業双方も非常に混乱している。また、大手企業はWeb面接に切り替え、採用の母集団が集まる一方で、中小企業は母集団が集められないなど二極化している。企業側の情報が少ない中でITリテラシーの高い優秀な学生が先行し、そうでない学生が取り残されるという採用格差も起こっている」
■コロナ不況による採用抑制
自粛要請の中で不安定な就活を強いられている学生は大変だが、それ以上に懸念されるのが“コロナ不況”の影響を受けた企業の採用抑制だ。すでにインバウンド需要の激減によって観光・宿泊・旅行業が大打撃を受け、自粛要請で飲食、エンターテイメント業をはじめ航空・鉄道業も低迷している。自動車業界では大手自動車メーカー8社が国内生産を停止し、他の国内メーカーも工場停止や減産体制に入り、一時帰休(自宅待機)に踏み切っている状況だ。
今回のコロナ不況はリーマン・ショックを超えるとの指摘もある。これまで売り手市場(学生優位)と言われてきた新卒採用市場は買い手市場(企業優位)に転換するのか、さらには「就職氷河期」と言われる状況に陥るのだろうか。
■過去3度の就職氷河期を振り返る
就職氷河期という言葉は、新卒労働市場が学生に不利になる買い手市場に移行するときに使われる。とくにバブル期の新卒者に対する求人倍率が1991年卒の2.86倍から下降してから氷河期と呼ばれ、96年卒は1.08倍にまで低下した。その後も低位で推移し、ITバブル崩壊の2000年卒は0.99と1倍を割り込んだ。その一方で大学進学率が上昇した結果、2000年の大卒就職率は55.8%まで低下した。
その後、2004年あたりから求人倍率は徐々に上昇し、売り手市場に入り、09年には2.14倍に達した。だが、リーマン・ショックによる不況で10年に1.62倍に下がり、2014年卒の1.28倍まで買い手市場が続いた。ちなみに文化放送キャリアパートナーズがこの時期に採用担当者に実施した調査(「2014年新卒採用戦線総括」2013年8月)によると、12年度卒について「買い手市場」と答えた人は27.7%。売り手市場と答えた割合はごくわずかにすぎない。14年卒まで買い手市場が18.0%と割合は高いが、売り手市場が7.1%。「買い手から売り手に移行しつつある」と答えた人が21.6%にのぼっている。
その予測はあたり、2015年卒の求人倍率が1.61倍に跳ね上がり、その後は高止まりし、2020年卒は1.83倍と売り手市場が続いていた。
■採用数の下方修正が続出
売り手市場と買い手市場の目安について採用アナリストの谷出正直氏は「求人倍率1.5倍だと、採用担当者から言えば、売り手でもなく、買い手でもない普通のイメージ。1.5を下回り、1.3になると採用が容易になる買い手という印象が強く、1.5を超えると、ちょっと厳しくなってきたというイメージ」と語る。
2020年卒の1.83倍は間違いなく売り手市場であり、多くの採用担当者の実感と一致する。ではコロナ禍の影響が懸念される21年卒の求人倍率はどうか。実はリクルートワークス研究所が毎年4月下旬に発表しているが、今年は6月下旬に延期された。毎年1月下旬~3月上旬に企業の採用予定を調査しているが、今年は「新型コロナウイルス感染拡大により、3月以降に企業の採用計画が見直されている」というのが理由だ。つまり、コロナによって採用数の下方修正が行われているということだ。
実は新型コロナウイルスが問題になる前は「売り手市場が続くと言われ求人倍率も1.8を維持するか、下がっても1.7台後半とみられていた」(谷出氏)。
■21年卒の求人倍率は1.5を割る可能性も
実際に時事通信社が主要100社を対象に実施した「2021春新卒採用計画の調査結果」(3月24日)によると、採用方針を明らかにした71社のうち、20年卒に比べ採用を「減らす」と答えた企業は24社、「採用増」が10社。前年並みが37社だが、「未定・未回答」が29社もある。
採用数の減少幅が大きいのは日本航空の26%減の590人、全日本空輸の28%減の580人をはじめ、旭化成、東京ガス、JR東日本が30~40%前後の削減を予定している。時事通信が調査したのは2月下旬から3月中旬だが、その後に「緊急事態宣言」が発出されるなど事態は悪化している。
前出のモザイクワークの髙橋氏は「新型コロナの感染がどこまで長期化するかにかかっているが、緊急事態宣言以降、潮目が変わり、長期化リスクの覚悟を決めた企業が出ている。当然、採用人数を減らす動きが出てくるし、すでに半分に減らした企業もある。とくにインバウンドの影響や機械製造、自動車、海運など事業ダメージが大きい企業は採用どころではないという状況になる可能性もある。当然、求人数が減ると、求人倍率も下がり、1.5を割るのではないか」と指摘する。
■22年卒はもっと厳しくなる
採用アナリストの谷出氏はこう語る。
「コロナの影響を受ける企業もあれば、そうでもない企業もある。これまでの6年の売り手市場で採用が厳しかった企業が積極的に採りにいく動きもあるだろう。コロナの収束度合いにもよるが、来年4月に会社がどうなっているかを見据え、ちょっと余裕がないなという企業は減らす。全体として20年卒よりも下方修正する可能性はある。20年卒の求人倍率がやや下がり、21年卒は普通に戻るという感じだろう」
普通とは、前に述べたように求人倍率だと1.5程度ということになる。2人の専門家の見通しは若干異なるが、求人倍率は落ちることでは共通する。また、このまま感染が終息せずに長引けば、現在大学3年の2022年度卒はより厳しくなるという見方で一致する。
「21年卒に関してはすでに採用計画を立てているところもあるので影響は軽微にとどまるかもしれないが、問題は22年卒。仮に今年度中にコロナが収束すれば22年卒への影響もそれほど大きくないが、これは超楽観シナリオかもしれない。2番目は年度を超えて来年4月まで感染が終息しないとすれば、事業計画を立てる段階で採用抑制の動きになる。そうなると、求人倍率が下がり、本格的な買い手市場に入るだろう」(髙橋氏)
すでに22年度卒に向けた夏のインターンシップの告知や募集も始まっている。谷出氏は「コロナの収束が来年まで続くようであれば、採用計画の見直しは必至であり、22年度卒は買い手の方向に落ちていくだろう」と指摘する。
■新卒市場が回復するには長時間かかる
21年卒の求人倍率が20年卒の1.8から1.5程度に下がり、22年卒はさらに低下する可能性があるとの見立てだ。しかもそれだけで終わる可能性も低い。いったん落ち込んだ経済は回復するまでに相当の年月を要する。ITバブル崩壊時は求人倍率1.5を割ってから回復するまでに7年を要し、リーマン・ショック時も4年もかかっている。
今回のコロナ不況に関して、国際通貨基金(IMF)は2020年の世界全体の成長率は前年比3.0%減となり、世界恐慌以来の水準になると予測している(4月14日発表)。日本の成長率も前年比マイナス5.2%と見込んでいる。ただし、この予測も感染拡大が20年前半で峠を越えるとの想定であり、感染が長引けば世界の経済はさらに悪化することになる。
コロナ恐慌によって新卒採用市場が買い手市場に転じれば、売り手に戻るまでに相当の歳月を要する可能性もある。後年、「2021年卒を契機に氷河期が始まった」と語られるかもしれない。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)
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