不良学生でも東大とハーバードに同時合格できた理由
プレジデントオンライン / 2020年5月5日 15時15分
■インターナショナルスクールで突如、日本語禁止に
【三宅義和(イーオン社長)】モーリーさんは広島のインターナショナルスクールに通われていました。しかし、小学校5年生のときにご自身の意志で日本の公立学校に転入されます。これはなぜですか?
【モーリー・ロバートソン(国際ジャーナリスト、ミュージシャン)】当初通っていたインターナショナルスクールでルール変更があり、校内が日本語禁止になってしまったのです。
背景を言いますと、時代は1970年代前半。日本のテレビ番組が面白くなった時期です。その頃に放送されていた『ウルトラマン』や『仮面ライダー』などの特撮番組やアニメ、それにザ・ドリフターズのお笑い番組などに夢中になりました。
インターナショナルスクールに通う外国人の子供のほとんどは漢字を読めませんが、子供向け番組の簡単な会話なら内容がわかります。すると当然、学校ではアニメの主題歌を歌ったり、仮面ライダーごっこをしたり、いかりや長介の真似をしますよね(笑)。ひと学年に4、5人しかいない小さなコミュニティですから、みんなでやる。
【三宅】そのことに学校側が危機感を覚えたわけですね。
【ロバートソン】はい。インターナショナルスクール側の目的は「英語を正しく学ばせること」ですから。でも、ルールが変わった結果、校庭代わりに使っていた公園にいるとき以外は日本語を使うことが禁止になってしまいました。いきなり学校の中に国境ができた感覚です。
とくに私は特撮やアニメをはじめとする日本のテレビ番組に対する愛着が人一倍強かったので、「これを観るな」と言われているような気持ちになったことを覚えています。あと、私は日本の漫画も大好きでかんたんな漢字であれば読むことができました。
「せっかく覚えた漢字を捨てたくない」という気持ちもありましたね。逆に言えば、あそこまで自分をかき立てた日本の漫画やテレビ番組がなければ、転校しなかったかもしれません。
■スパルタ式の進学校で「日本人」になる
【三宅】日本の公立学校に移られてどうでしたか? 大変でしたか?
【ロバートソン】いや、とにかく早く追いつこうという一心で、見よう見真似で行動していたら1年半くらいで「日本人」になりきれた気がしましたね。それで同級生たちと一緒に塾に通い、その勢いで中学受験に挑んだら地元の進学校に合格しまして。
そこがたまたま典型的なスパルタ式で、求められるのは規律と忍耐みたいな世界。みんな脇目もふらずに勉強していました。
【三宅】さすがに戸惑ったのでは?
【ロバートソン】まったく(笑)。完全に校風に染まって、ストイックな毎日を過ごしていました。
■カルチャーショックを受けたアメリカの中学
【ロバートソン】むしろ私が戸惑ったのは中2でアメリカに引っ越したときです。現地では日本のようなビシッとした雰囲気はまったくなく、やたらと社交性を求められました。英語でのコミュニケーション面で苦労はありませんでしたが、一度日本人になりきった僕にとっては違和感しかありませんでした。
中でもきつかったのがディベート式で行われる授業です。「授業は黙って聞くもの」という環境に慣れていた身としては、いきなり「あなたの意見は?」と言われても「ありません」と答えるしかないですよね。ディベートが得意な子たちに毎回言い負かされていました。
【三宅】そういったディベートが上手い下手の差はどこから生まれるのでしょう?
【ロバートソン】誤解されやすいのですが、アメリカ人全員がディベートを得意とするわけではありません。階層で言うと中の上以上。こういう家庭では子供を英才教育して、ディベート能力や社交能力を鍛えますよね。
【三宅】日本人からすると「アメリカの人は元々そういう性格である」と思いがちですが、実は小さい頃から訓練しているのですね。
【ロバートソン】そうです。ただ、日本人は日本人で訓練を受けていますから、集団行動が得意ですよね。どちらが良い悪いという話ではないと思います。
しかし、私のように2つの異なる方法論を行き来する身になると、話が厄介になるのです。学校を変わるたびに片方で培った反射神経や常識が通用しなくなるわけですから。
■帰国後に入った日本の高校で、不良として青春を謳歌
【三宅】アメリカに2年行かれた後、高2のときに広島の母校に留学生という形で戻られています。これもご自分の意志で?
【ロバートソン】そうですね。アメリカでの生活にもいつかは慣れるだろうと思いながらみんなと同じように振る舞う努力をしたものの、少し無理がありました。
【三宅】では日本ではまたストイックな生活に?
【ロバートソン】実は青春を謳歌しすぎてしまいまして(笑)。放課後にゲームセンターで遊び、繁華街で女性に声をかけ、ディスコで踊るとか……。それまで学校ではグレーゾーン扱いの行為だったのですが、派手にやりすぎたせいで校則に「禁止」と明記されてしまったのです。後輩のみなさん、ごめんなさい(笑)。
【三宅】最終的には退学をされる。
【ロバートソン】「校則を守れ!」「イヤだ!」の応酬になって学校を追い出され、母親の実家がある富山県高岡市の高校に編入することになりました。
■誰もが苦手な古文を猛勉強して成績優秀者に
【三宅】富山ではどのように過ごされましたか?
【ロバートソン】当時はパンクミュージックにはまっていて、バンドをやりたかったのです。しかし、編入先の高校に前の学校から「この子は影響力があるから気をつけてください」と伝達があり、私だけ特例で「軽音楽部に入ってはダメ」「学区内でのバンド活動もダメ」と言われたのです。「なら、市外であれば大丈夫だろう」と勝手に解釈して、離れた富山市でバンドを結成したんですけどね(笑)。
【三宅】網の目をかいくぐったわけですね。
【ロバートソン】今思えば笑い話ではあるものの、私の生き様に通ずる話でもあります。格好よく言うなら、「今いる場所で自分を見失いそうになったらボーダーを跨げ」。そうやって自分を取り戻してきました。
【三宅】これは名言!
【ロバートソン】とはいえ、いつかそれすら阻害されてしまうかもしれないと思って、心機一転、成績を上げようと思ったのです。成績優秀者の仲間入りをすれば先生の監視レーダーから消えることができますから。どうやったら効率よく成績をあげられるかと思って選んだのが「古文」。
【三宅】これはまた難しい科目を。
【ロバートソン】逆にみんなが苦手だったから選んだのです。みんなが英単語を覚えるときに使う短冊を古文用に改造したり、友達が英語の文章をブツブツと言っている横で、「春はあけぼの ようよう白くなりゆく」と口に出して読んでいました。
【三宅】よく考えると古文も英語も言語習得という意味では同じですからね。
【ロバートソン】そうです。何度も音読すると反復の力で意味がわかるようになって、総合の偏差値がグングン上がり、結果的に先生の監視も緩くなっていきました。
■東大とハーバードに同時合格
【三宅】大学受験では「東大とハーバードに同時合格」という快挙を成し遂げられるわけですが、まず、なぜ東大を受けられたのでしょう?
【ロバートソン】純粋に「東大に行きたい」という思いはまったくありませんでした。わかりやすい動機でいえば、「東大生になればバンドの宣伝になりそうだから」。もっと複雑な動機でいえば、「自分は東大なんかに縛られない」ということを示したかったからだと思います。
【三宅】といいますと?
【ロバートソン】やはりアメリカでディベートの授業を体験した影響が大きいです。私も最初のうちは「こんな議論をしたところで、テストに出るんですか?」という日本人的な態度を取っていましたが、実はディベートのプロセス自体が評価の対象であり、学びの場であるということを少しずつ理解していきました。
一方で、日本に帰って授業中に先生に質問をすると、「授業の邪魔になるから自分で調べろ」と言われてしまう。好奇心や向学心を育む環境ではないですよね。その頃から徐々に「こういう教育が果たして本当の学問なのか」と悩みはじめたのです。
その最たるものが東大受験ですよね。「小手先のゲームに過ぎないのにやたらと競い合っている。なにか違うな」と感じたからこそ、「じゃあ、あっさり受かってやろう」と思ったんです。実際、東大に入っても刺激が足りず、半年もせずに退学してハーバードに変えました。
■徴兵から逃れるためにハーバードを受験?
【三宅】ハーバードにはどういう動機で?
【ロバートソン】戦争に行きたくなかったからです(笑)。アメリカ人は18歳の誕生日を迎えると3カ月以内に選抜徴兵登録(セレクティブ・サービス)という制度があり届け出をしないといけません。海外在住なら現地のアメリカ大使館で手続きをするのですが、その通知が届いたタイミングでソ連(現ロシア)のアフガニスタン侵攻があり、徴兵制復活の議論が少しだけ出てきたんです。
【三宅】それは怖い。
【ロバートソン】「浪人しようものなら徴兵されるかもしれない。アメリカのアイビーリーグに行けば徴兵を免れる可能性が高くなるはずだ」と、半ば両親から脅される形で受験しました。それこそ私は白人と東洋人の混血なのでアメリカではマイノリティ扱いされるわけですが、徴兵の順位が上がると怖いので、人種欄には「白人」と書いたくらいです。
■「古文」の知識で自分をアピール!
【三宅】ハーバードは行こうと思って入れる大学ではないはずですが、なにか秘訣は?
【ロバートソン】全米共通テストについては、日本でまともに勉強をしていれば理数系の科目で100点を取ることは難しくありません。人文系の科目はアメリカ史をやっていないハンデがあったものの、なんとか上位5%以内に入ることができ、受験資格を得ることはできました。
合格の決め手となったと思っているのは、自分で創作する自己推薦パッケージです。ハーバードでは「世界にひとつだけのあなたの価値をアピールしてください」というテーマでした。文章でもいいし、作品でもいいと。
「価値と言われても日本とアメリカの間に挟まっているだけだし」くらいの自己認識だったのですが、その経験をプラスに転じさせようと「私は1000年前の日本の古語の勉強を通して日本人固有の感性を学んでいます」と書いたのです。ようは古文のことなのですが。
【三宅】ものすごく専門性が高そうに見えますね(笑)。
【ロバートソン】「日本人は満月の輝きよりも欠けた月、満開の桜よりも散った桜を好みます」とか、「英語には『雄弁は銀。沈黙は金』ということわざがありますが、日本では金より銀のパビリオンのほうが奥ゆかしく感じられます」といったことを書きました。
すると採点者の誰かが感動してくれたようで合格通知が届きました。
■日本人の鎧を身にまとったハーバード時代
【三宅】アメリカの大学に行かれてどうでしたか?
【ロバートソン】アメリカには10年いましたが、正直アメリカのほうが辛かったですね。馴染みきれなかったと言いますか。アメリカ社会の本流についていけない違和感が常にあって、折に触れては「僕は大和魂だから」とか「日本人の血を受け継いでいるから」と主張して、不安を克服していました。引きこもりだったわけではないですが、精神的に籠城していた感じです。少しやりすぎた気もしますけどね(笑)。
【三宅】異文化交流は綺麗ごとではないと。
【ロバートソン】少なくとも私はそう思います。
【三宅】ちなみに日本語を話すときと英語を話すときで性格が変わったりしますか?
【ロバートソン】ああ、そう言われると当時は人格が分かれていたかもしれません。ただ、日本に戻って29年。段々とそれが僕の中で融合してきて、いまはあまりズレを感じません。
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イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1985年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。
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1963年生まれ。米ニューヨーク出身。日米を行き来しながら両国の教育を受けて育つ。1981年、東京大学とハーバード大学に現役合格。ハーバード大では電子音楽を専攻。近年は国際ジャーナリストとして、テレビ・ラジオの多くの報道番組や情報番組、インターネットメディアなどに出演するかたわら、ミュージシャン、DJとしてもイベント出演多数。
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(イーオン代表取締役社長 三宅 義和、国際ジャーナリスト、ミュージシャン モーリー・ロバートソン 構成=郷 和貴)
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