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新興国の子を見て分かった、日本人の子がいつまでも英語を話せない理由

プレジデントオンライン / 2020年5月12日 15時15分

国際ジャーナリストでミュージシャンのモーリー・ロバートソン氏 - 撮影=原 貴彦

なぜ日本人はいつまでも英語が苦手なのか。国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏は「英語学習に伸び悩む子供はヒップホップを習うといい」という。イーオンの三宅義和社長が、そのわけを聞いた――。(第3回/全3回)

■新興国の子供にとって「英語=キャッシュ」

【三宅義和(イーオン社長)】日本の英語教育についてお聞きしたいです。日本人は英語が苦手だと言われるのはなぜだと思いますか。

【モーリー・ロバートソン(国際ジャーナリスト、ミュージシャン)】日本人は本当に頑張っているんです。しかし、詰め込み学習ばかりで実際に英語を使う機会が少ない。「正解」を気にしすぎてパーフェクトになるまで口を開こうとしない。行き着く課題はこれしかないと思います。

たとえば、新興国の街を歩くと、小さい子供がブロークンの英語で必死に話しかけてきます。なぜなら彼らは生活がかかっているから。一言も英語が話せないお店と英語で客引きができるお店では売上げがまったく違います。彼らにとって、「英語=キャッシュ」なので、みんな貪欲に英語に食らいついている。

だからみんな子供のころから英語をしゃべろうとするし、反復しているうちにどんどん上手くなるのです。しかも今ならインターネットがありますから、その国の教育レベルが高くなくても、子供たちはネットで勝手に覚えていきます。彼らにはこのたくましい生命力があるわけですね。

【三宅】日本人は文法や発音などの形式を気にする。途上国の人々はとにかく伝わることを気にすると。

【ロバートソン】はい。その差が大きいと思います。

■学校教育にイマージョン・プログラムを

イーオン社長の三宅義和氏
撮影=原 貴彦
イーオン社長の三宅義和氏 - 撮影=原 貴彦

【三宅】では、日本では今後どのように英語教育を改善していくべきだと思いますか?

【ロバートソン】「英語を日本語で学ぶ」という発想をいったん捨ててもいいかもしれないですね。そのかわり、とにかく口を動かす。色々やっているうちに段々と上手くなっていく筋トレのような英語の学び方をすべきではないでしょうか。

【三宅】具体的には?

【ロバートソン】公立学校の夏休みにイマージョン・プログラム(没入法)を実施してみるのはどうでしょう。予算や行政上の問題もあるでしょうが、英語しか話してはいけない環境に強制的に身を置けば、小さい子供ならすぐに覚えますよ。

中国には日本の10倍以上のエリート層の人口がいますが、その上澄みにあたる人たちはバイリンガルが多いです。なぜなら彼らの親が留学させたから。イマージョンをお金の力でしてしまうわけです。そういったことを日本も行うべきではないかと思います。

【三宅】日本人はどうしても文法などを完璧に覚えてからじゃないと話せない、という意識が強いですよね。

【ロバートソン】文法はもちろん大切ですが、臆せずにどんどん外国人と英語で話すことで、逆に「なぜ文法をちゃんと学ぶべきなのか」が生々しい感覚でわかると思います。フレーズを呪文のように繰り返し唱えてもなかなか上達しないですよね。英語がまったくできない状態でイマージョンをやり、そのあとでセオリーを加える。そしてもう1回イマージョンをする。この反復が一番良いかもしれません。

■アクセントは気にするな

【ロバートソン】それに今の時代、日本にいながら外国人と英語で話すチャンスはいくらでもありますよね。インドやフィリピン、シンガポールなど東南アジアの人々が話す英語はアクセントがとても強いですけど、それでもOKならオンライン英会話などを使って、彼らから安価でレッスンを受けることができます。

【三宅】アクセントを気にする日本人は多いですからね。

【ロバートソン】はい。たしかに私が子供の頃はアングロアメリカンの白人が使うアクセントにこだわる人が多かったと思います。しかし、もはやそのような時代ではありません。

シンガポール人は衝撃的にアクセントが強い「シングリッシュ」を貫きますし、パキスタン人やインド人は世界のどこへ行ってもクセのある南アジア英語を使います。留学先の大学でもそうです。「そのアクセントを直せ」と言われても、「なんでだ」とそこでディベートが始まる。

【三宅】日本人なら「すみません」と言って萎縮してしまうところですね。

【ロバートソン】興味深いのは、自国の強いアクセントで話す人ほど自国に対するプライドが高いことです。インド人の留学生をみていると、そのアクセントが笑いのネタにされても一緒に笑いながら、「人口が多いのは俺たちだから、そのうち呑み込んでやるよ」みたいに悠然と構えています。

【三宅】すごい自信ですね。

■インド人はなぜ自信を持っているのか

【ロバートソン】中国の覇権に危機感を持つ日本人は多いと思いますが、もしかしたらインドのほうがその意識は強いかもしれないですよ。インドは、コールセンターのようなアウトソース業務を世界中の企業から引き受けていますし、アマゾンもハイデラバードに南アジア最大の拠点を開こうとしています。ITの主軸はこれから南アジアに移る可能性があるし、自国の探査機を低コストで火星に到達させています。だから自信を持っているんですよ。

【三宅】日本人は何か自信がないですよね。

【ロバートソン】従来の日本式ルールが機能しなくなったからだと思うのですが、英語の自信まで失うのはもったいない。「さつま揚げを持って種子島から火星に行くぞ!」くらいのノリで、「日本語なまりの英語でなにが悪い!」という感覚の人が増えるといいですね。

【三宅】そこがなかなか難しい。

【ロバートソン】だからなおさら「英語に対する自信」で萎縮する必要はないのです。ダメもとで英語を話すようにすれば反復するうちに話せるようになり、「英語の自信」はついてきます。するともっと積極的に発信するようになり、「文化的な自信」もついてくる。そうした相乗効果が起きると思います。もちろん発信力があることが前提ですが。

■英語で伸び悩む子供にはヒップホップを

【三宅】どうしたら英語での発信力を鍛えられると思いますか?

【ロバートソン】日本人はやはり潔癖主義をやめることだと思います。たとえば、子供のピアノのコンクールでも、いかに楽譜どおりに完璧に弾けたか、ミストーンがなかったかといったことが採点対象になっていると感じます。でも、アートとはそういうものではありません。ミストーンしてもいいから、いかに人を感動させたかが大切なはずで、表現者としての技量があってプロになれるわけですから。

英語教育の問題の本質もそこにあると思います。つまり、学校の英語の先生は文法のプロだけれども表現者ではないのです。すると純化が起きて、文法ばかり完璧にしようとする生徒が量産されるわけですね。

【三宅】イーオンキッズでも文法教育をやりつつ、まちがっても良いから人前で堂々と発表しようというプレゼンテーションのプログラムをはじめました。

【ロバートソン】とてもいいことだと思います。ひとつ過激な提案をするなら、子供たちにヒップホップをやらせるのが面白いと思います。ヒップホップで使う英語はスラングだらけですが、非常に元気が良い。だから頭に入りやすい。

もちろんリスクはありますけど、英語で伸び悩む子供がヒップホップを習ったら急に流暢になるということもあります。子供の才能の伸ばし方は一人ひとり違うので、そういう荒療治もあるという話です。

【三宅】面白いですね。自分の壁を取り払うきっかけになるかもしれません。

【ロバートソン】実はヒップポップのダンス大会では、日本人が上位に入るようになっています。技術点が高くて2位、3位に入るパターンが多かったのですが、最近は表現力も増してきて、1位も出るようになりました。

■カオスの中で業績を上げるという発想を

【三宅】ビジネスにおける発信力といいますか、日本人のプレゼンスをどう高めるのかについて、ご提言はありますか。

【ロバートソン】これもやはり潔癖主義をやめることだと思います。キチキチに枠に収めようとせずに、カオスの中で業績を上げるという発想に切り替える。

【三宅】たとえば?

【ロバートソン】会議で意見の全員一致を目指さない、といった話です。日本人は人の顔色を伺ったり、調整を図る能力が高いので、多国籍チームがあったときに間をうまくとりもつことが上手な人が多いと思います。三方一両損や大岡裁きのように。

ただ、それをするには「完璧な合意などありえない」という前提に立つことが必要です。「みんなが合意するまで会議をする」といった発想を捨てないといけません。

■「人は違って当たり前」と思えるか

【三宅】多様性を認めると。

【ロバートソン】まさに。昭和の時代に日本式の集団行動が機能していたのは価値観が1つだったからです。しかし、今は生きる目標や価値観に幅があって、端っこ同士だとお互いが理解できないぐらい社会の幅が膨らんでいます。

そもそも経済がこれだけグローバル化したので、日本の内側だけを見ていてもビジネスは成り立ちません。どうしても人件費の安いインドや中国、ベトナムに引っ張られるので、従来どおりに「歯を食いしばりながら努力する」ということを続けても、総中流社会を維持することはできません。世界の構造がそうなってしまったからです。

ですから、そこはベーシックインカムのような仕組みでセーフティネットを張る必要があると思いますが、一方では攻めていかないといけません。

そのときにポイントになるのが多様性であり、「多様性を受け入れて、どう強みにするか」が日本の将来を占うといっていいでしょう。

意見が違う人を排除するのではなく、「どうやったら共存できるか?」もしくは「相いれない価値観から第3の価値を生むか?」。アメリカは移民の国なので、そういうことをずっとやってきたわけですけど、いまの日本はその方法を学ぶことが急務です。

【三宅】「あの人、会議でいつも空気を読まないから呼ぶのをやめよう」みたいなことをするなと。

【ロバートソン】そうです。尖った人は尖ったままでOK。挑戦者の足を引っ張らない。そして転んだ人にはセーフティネットを用意する。そんなベンチャースピリットに溢れる社会に少しずつ変わっていけば、日本人が伝統的に持っている価値観も良い風に作用すると思います。

■「テストでいい点を取ること」を目標にしない

【三宅】最後に、これから海外で活躍を目指す方へメッセージをお願いします。

【ロバートソン】世界はみなさんを待っていますので、早く行ってあげてください(笑)。そのファーストステップは、普段から外国人相手に積極的に英語を使うことです。お勉強として英語を習っているときは苦手意識があるかもしれないけど、いざ英語環境に飛び込んでみると、「この解放感、楽しいかもしれない」と思えるようになるかもしれません。

英語を勉強するときも「テストでいい点を取ること」を目標にしないことです。英語はあなたの魅力を世界に表現するときの手段にすぎません。自分を磨きつづけるほうがはるかに重要です。今の点数に惑わされず、その先にある楽しいことを考えれば、英語の学習も楽しくなるはずです。

【三宅】素敵なお話をありがとうございました。

イーオン社長の三宅義和氏(左)と国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏
撮影=原 貴彦
イーオン社長の三宅義和氏(左)と国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏 - 撮影=原 貴彦

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三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1985年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。

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モーリー・ロバートソン 国際ジャーナリスト、ミュージシャン
1963年生まれ。米ニューヨーク出身。日米を行き来しながら両国の教育を受けて育つ。1981年、東京大学とハーバード大学に現役合格。ハーバード大では電子音楽を専攻。近年は国際ジャーナリストとして、テレビ・ラジオの多くの報道番組や情報番組、インターネットメディアなどに出演するかたわら、ミュージシャン、DJとしてもイベント出演多数。

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(イーオン代表取締役社長 三宅 義和、国際ジャーナリスト、ミュージシャン モーリー・ロバートソン 構成=郷 和貴)

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