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「コロナ自粛でもう限界」トラックドライバーが全く足りない根本原因

プレジデントオンライン / 2020年4月28日 9時15分

元トラックドライバーの橋本愛喜さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

トラックドライバーなど物流業界の人手不足がますます深刻になっている。元トラックドライバーの橋本愛喜さんは「国は女性ドライバーを増やそうとしているが、女性比率は2.4%程度にとどまっている。必要なのは『トイレを増やす』といった女性が働きやすい環境の整備だ」という——。

■圧倒的な「男性職場」、人手不足に悩む物流業界

——トラック業界は、深刻な人手不足の状態が続いています。橋本さんが3月に出した初著『トラックドライバーにも言わせて』でも指摘されていますね。

人手不足は、物流業界が抱えている最も深刻な問題です。

厚労省の統計によると、トラックドライバーの有効求人倍率は3.26倍(2018年12月時点)で、全職種の2倍以上も高い。特に昨今、新型コロナウイルスの影響でECの需要がますます高まり、今後の物流を維持するにはドライバー不足の解消が急務だと言えます。

運送企業の経営者は、女性や経験のある高齢者を即戦力として採用するようになってきています。しかし、今も男性が圧倒的に多い業界であることには変わりません。

——女性のトラックドライバーの現状を教えてください。

大型免許を保有する女性は全国に13万4000人以上いるといわれていますが、トラックドライバーに占める女性比率は2.4%(約2万人)にとどまっています。

国は2014年に女性トラックドライバーを「トラガール」と名付け、業界のイメージを変えつつ女性の比率を上げようと取り組んでいます。しかし、思ったほど成果は出ていません。

国の「トラガール促進プロジェクト」は、女性受けを狙って、ポスターやアイテムはピンク一色です。正直、失笑しました。人手不足解消のために女性の雇用を増加させようとする考えは間違いではないですが、かけ声だけでは問題の解決はできません。

■かけ声ではなく、女性が働きやすい環境整備が必要だ

——トラック業界で女性の就労が進まない原因は何でしょうか。

お子さんのいる方だと、やはり深夜勤務は難しい。遠距離運転も同様です。長距離となると、日帰りはできませんからママさんは本当にいないですね。小さいお子さんがいればできるわけがありません。

しかし、仕事と子育ての両立は走り方によって可能です。「地場」と呼ばれる比較的近距離の輸送を担う仕事では活躍しているママさんドライバーもいます。

正直、現時点で、トラックドライバーは女性にオススメできる仕事とは言い難いです。この本でも「女性を増やしましょう」とプッシュはしていません。女性を増やすなら環境を整えてからにしてくださいよ、と言いたいですね。

元トラックドライバーの橋本愛喜さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

そうしないと、私みたいにつらい思いをする人がいっぱい出てくると思います。女性トイレがなくて困ったり、肉体的な問題や疲労があっても休憩できずつらい思いをしたりました。だから、まずは女性が働きやすい環境を整えることが大切だと思います。

——女性の元長距離ドライバーとして、どんな変革が必要だと考えていますか。

やはり「トイレ問題」です。男性は「裏ワザ」がいくらでもあると思いますが、女性はそういうわけにはいきません。私はトイレの回数が少ない方ですが、高速道路で渋滞にハマってしまうと、もう八方塞がりです。

■「トイレがあるのにスルーせなあかん!」

以前、東名高速で静岡県の富士川あたりを走っていたとき、ピクリとも動かない渋滞に巻き込まれたことがありました。ずっと真っ直ぐな見通しの良い道路だったのですが、動く様子が全く無い。でも、どうしてもトイレに行きたくなってしまって……。

もう限界、我慢できない状態になって、恐る恐るトラックを降りて、前の高速バスでトイレを借りたことがありました。その時のバスドライバーさんには今でもめちゃくちゃ感謝しています。

——コンビニやサービスエリアがあるのでは。

トイレを探すのは想像以上に難題です。至る所にコンビニはありますが、大型車の駐車枠がなかったり、あっても数が限られています。満車の場合は、路上駐車はできませんから次の場所まで我慢しなければいけません。つまり、この「トイレ問題」は「駐車スペース問題」とリンクしてくるんです。

「トイレがあるのにスルーせなあかん!」っていうのは辛かったですね。そんな中、大型車の駐車枠に普通車が駐車しているのを見ると……。なんとも言えない気持ちになりました。

今は女性ブルーカラーの増加に伴い徐々に改善されつつあると思いますが、私が現役ドライバーだった頃は、荷物の納品先の工場や倉庫に男性用トイレしかないことも多かったです。

特に製造業の現場は男性ばかりで、女性は珍しい存在でした。だから女性トイレが近くにない場合がほとんどで。周りの女性ドライバーには、やむを得ず男子トイレを借りていたという人もいます。

■生理用品も交換できず、運転席に座りっぱなし

——著書では、生理用品を取り換えられず、座布団を汚してしまったという女性ならではのエピソードもありました。

生理も女性トラックドライバーならではの悩みです。トイレに立ち寄れなければ生理用品を交換できない。生理期間中はモヤモヤした状態でずっと座らなければなりません。正直、とても苦痛でした。昼夜問わず、常に長時間使える夜用のナプキンを使用していましたが、交換が間に合わず、トラックの座席を血で汚してしまったこともあります。

200kmほど離れた得意先まで、休憩を取れず大急ぎでトラックを走らせた時の話です。搬入先に到着し、トイレに寄る間もなく荷降ろしの順番が来て呼ばれたんです。けど、どう考えても車を降りられる状態ではありませんでした。

周りは男性ばかりで事情も話せない。その時は「なんでこんなことをやっているんだろう」って虚しい気持ちに陥りましたね。

■いつの間にか黒い服ばかり着るようになった

——この点、女性と男性の大きな違いですね。

私が乗っていたのは「平車」「平ボディー」と呼ばれる車種です。荷下ろしの時は、私がトラックの荷台に乗って、運んできた金型にフックをかけてクレーンで運ぶ作業をします。

元トラックドライバーの橋本愛喜さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

荷台に乗るには片足をタイヤにかけ、もう片足を広げて上がらなければなりません。その感覚って、屈辱とまでは言いませんが、ものすごい違和感がありました。

というのも、その時ちょうど私のお尻のあたりが下で待っている荷主さんの目線の先に来るんです。女性しかわからないと思いますが、荷物を持つ動作で血がドッと出たりします。「服が汚れていたらどうしよう」と気がかりで、毎度「そこに立たないでー」と思っていました。

荷主さんの中には、高い荷台から降りる際に私が足を滑らせないかとトラックの下でひたすら待ってくださる方もいて……。優しさとは重々分かっていたんですが、こういう理由から実は苦手でした。

だから今でもエスカレーターや階段など、段差のある場所で男性に後ろに立たれると気になってしまいます。白色の洋服は絶対に着ないようになりました。今日も黒色のパンツです。いまでも濃い色の洋服ばかり。洋服が汚れてもバレないように……その時の名残なんです。

■「女なんて寄こすな」「娘なんて寄こすな」

——生理中だと、そもそも働く事自体つらく感じますよね。

そうですね。体がだるいし、荷物の持ち運びはとてもしんどいです。私は生理痛がひどい方なんですが、当時は鎮痛剤が飲めなかったのはしんどかったですね。運転中、眠くなってしまうから……。

眠気はトラックドライバーの大敵です。眠気覚ましにコーヒーを飲めば、次は「トイレ問題」にぶつかる。生理痛だから「ちょっと休みたい」って言えない。万が一、生理でつらいと言えたとしても「それなら男性ドライバーを寄こして」と言われてしまう業界ですからね。

私自身、「女なんて寄こすな」「娘なんて寄こすな」と言われたこともありました。女性だから、非力で、技術のことなんてわかるはずないだろうって。そうレッテルを貼られてしまう。

私は幼少期から工場を経営していた父の仕事を見ていまし、家を継ぐ覚悟をした時から技術は人一倍勉強しました。大抵の質問には完璧に答えられる自負があったので、「わからないだろうから、今度は男性連れてきて」と言われた時は本当に腹が立ちました。

現場経験の少ない社員さんほど、そういうセリフを言ってくる。だからその人の目の前で、旧知の工場長さんに「いつもお世話になってまーす」って親しげに話しかけたり、ささやかな抵抗をしていました(笑)。

■振り返れば人生で一番のモテた時期だったけど……

——女性だからこそ得をしたことはありましたか。

んー。正直、ちやほやはされました(笑)。それが嫌だったんです。さっきの話じゃないですが、「どうせ女性だからね、わかんないでしょ」とか「女はいいよな」と言われてカチンときてけんか寸前になったこともあります。でも、振り返れば人生で一番のモテた時期だったかもしれません。

当時は23、24歳。女性トラックドライバーは今よりさらに珍しいしいので、もう目立つ目立つ。一番忘れられないのは、「結婚しましょう」って言われたことですね。

元トラックドライバーの橋本愛喜さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
元トラックドライバーの橋本愛喜さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

——いきなり、プロポーズ!?

3日に一度ほど訪れていた得意先で働いていた方で、搬入時に徐々に言葉を交わすようになって、当時はSNSがなかったのでガラケーでメールをするようになりました。

付き合ってもないし、デートに行ったこともないんですけど、ある日突然、携帯に「結婚しましょう」とメールが届いたんです。「結婚」という二文字があまりにも唐突過ぎて、リアクションに困ってしまったんですよね。それ以降、返事ができませんでした。

現場の知人に相談したところ、やはり男性社会であるブルーカラーの業界は総じて出会いが少ないんだなと感じています。こういう経験を通して、自分が女性であることを色んな意味でより強く意識するようになりました。

■「よくぞ言ってくれた!」に感激

——橋本さんの初著『トラックドライバーにも言わせて』の反応はどうでしたか。

本では、トラックがノロノロ運転をする理由や、一般のドライバーさんから批判されがちな路上駐車、ドライバーがハンドルに足を上げて休憩する「足上げ」をせざるを得ない理由など、トラック業界の複雑な内情を紹介しています。

ドライバーさんから「よくぞ言ってくれた!」という声を沢山いただいていてすごく嬉しいです。でも、最大の収穫は、この業界の外でも話題にしてもらっていること。一般のドライバーさんや消費者の方にトラック業界の事情を知ってもらうきっかけができた点だと思っています。

■物流は「国の血液」、不可欠で重要な仕事

——これから取り組んでいきたいことは何ですか。

橋本愛喜『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)
橋本愛喜『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)

トラックドライバーたちのプライドの底上げですね。

物流は「国の血液」とも呼ばれるほど不可欠で非常に重要な仕事です。世間から「邪魔」だ「遅い」だと言われがちな彼らですが、トラックドライバーは男女を問わず誇りを持って働いています。荷主や消費者に、彼らの存在を少しでも意識してもらい、認めてもらうことで、彼らの労働意欲をより高められたらと思っています。

私達が日常当たり前に手に取る商品も、見えないところでトラックドライバーが運んでいるんです。仕事の面白さだけでなく、こうしたドライバーの悩みや業界の課題など、これからも発信を続けていきたいと思います。

——トラックドライバーを経験した女性の声はとても重要ですね。

まだ人数が少ないので、女性ドライバーの考えや苦労は理解されにくいかと思います。しかし、業界内にとどまらず、物流に馴染みのない人にも、少数派の現状を少しずつでも理解していただければ現役女性トラックドライバーの働く環境も変わるかもしれません。

今後、彼女たちが気持ちよく日本の道路を走れる日が来ることを信じています。

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橋本 愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター
元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化祭、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆や講演を行う。

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(フリーライター 橋本 愛喜 聞き手・構成=井澤 梓)

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