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なぜ、【パ】を1秒で6回言えないと危ないのか

プレジデントオンライン / 2020年5月2日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Staras

気がつかない間に口の中を蝕んでいく歯周病。認知が広がって警戒する人も増えたが、ダメージを与える場所は口腔内に限らないことをご存じだろうか。その恐るべき「破壊力」とは――。

■口腔内の清潔がウイルス感染を防ぐ!

今現在、虫歯や歯周病を患っていない、口腔内に不具合を抱えていない人にもぜひ知ってほしい。

新型コロナウイルス感染症が恐れられているが、あらゆる細菌やウイルス感染を防ぐうえで「口腔内の清潔」は非常に重要だ。例えば口腔内が汚れると歯周病菌が増え、インフルエンザウイルスをキャッチしやすい。そのため、口の中を清潔にして歯周病菌を減らせば、それだけ“ウイルスをつかむ手”が減る。実際に近年、口腔ケアをきちんと行うことが肺炎の改善や予防に有効であること、インフルエンザの発症率を抑えるということが明らかになってきた。

それだけではない。口腔内の汚れは全身に悪影響を及ぼす。

大阪歯科大学歯学部の王宝禮教授が、約20年前に発行された米国の新聞を紹介してくれた。

■口の中をきれいにしないと心臓病の発症に関わる

「『Floss or Die(フロスか死か)』という言葉が掲載されました。フロスが良いというよりも、口の中をきれいにしないと心臓病の発症に関わるということが当時先駆け的に発表されたのです。歯肉の出血などから口腔内細菌が血流内に入り込み、血栓(血のかたまり)の形成に関与していると考えられます」

口腔内の菌の代表格は「歯周病菌」。この歯周病菌によって炎症が引き起こされた状態を「歯周病」といい、40代以上の日本人の大半がかかっているといわれる。原因は、歯周病菌に弱い遺伝的体質やホルモンバランス、喫煙、歯ぎしりなどもあるが、大半は歯についた汚れ、つまり口の中の衛生状態が悪いことによるもの。

歯周病はさまざまな全身疾患と関連があるが、とりわけ「糖尿病」と関係が深い。長年シンガポールでの治療経験がある小川原元成医師(池袋西口小川原デンタルクリニック)の話。

「歯周病菌が増えると、血糖値を下げるインスリンの働きを阻害するといわれています。ですから糖尿病と歯周病は双方が症状を悪化しあってしまうことがある。一方で20年間、糖尿病を患っていた人が歯周病の治療をしたら、内科医が驚くほど劇的に糖尿病が改善した例もありました」

血管内壁が厚くなり、血流が悪くなる「動脈硬化」も、その原因に歯周病菌の存在が指摘されている。血栓によって血管が詰まる「脳梗塞」も同様だ。図に全身疾患との関係をまとめた。痛みなどがない歯周病だが、いかに幅広く影響しているかがわかるだろう。

口腔内の環境が悪くなると、全身に危険が及ぶ!

「歯周病は実は“手のひらぐらいの炎症”が口の中にあるようなものなんです」と王教授が言う。

「手のひらに大きな真っ赤な炎症が起きていたら、すぐに医療機関に行くでしょう。歯周病は体にはそれぐらい重要なことです」

■「歯周病」が疑われる症状

歯周病は、進行すると歯と骨をつなぐ歯根膜が徐々に溶けて、歯を失う原因にもなるのだが、進行するまでは自覚症状がない場合がほとんど。

こうして歯周病は進んでいく!

「正常な状態の歯肉はピンク色で引き締まっていますが(図)、歯垢がたまっていくと歯茎に炎症が生じて暗赤色に腫れます(2)、歯磨きのときや硬いものを食べたときに出血しやすいですね。炎症が進行すると、歯と骨をつなぐ歯根膜が溶け、隙間(歯周ポケット)ができます(3)。歯を支えている骨が溶け始め、やがて歯茎が下がって、歯がグラグラと動きます。歯茎から膿が出て口臭も強くなりますね。重症になると骨がほとんど溶け、食事どころではありません(4)。歯が自然に抜け落ちてしまいます」(小川原医師)

出血しやすくなる(2)の段階で歯科医の治療を受ければ、正常な状態に戻るが、それ以上進行すると完全に戻すことは難しくなる。「歯が抜ける」という最悪の事態を防ぐため、「歯周病」が疑われる症状(表)を参考にしてほしい。

歯周病が疑われる症状
健康でいるためには栄養が必要であり、栄養を摂取するためには丈夫な歯が欠かせない。もしその歯が抜けてしまったら、一体体に何が起きるのか? 「生きる力」に直結するという歯の本数に注目した。

■煎餅を噛むのに必要な歯の本数とは?

さて、ここで疑問に思う人がいるかもしれない。そもそも「歯を失う」と何が良くないのだろうか?

大人の歯の数は親知らずを含めて上下16本ずつで合計32本。実は歯の本数が減るほど“噛めるもの”が減っていく。

タクアンやフランスパンを噛むためには18本以上の歯が、煎餅やおこわを噛むには15本程度が必要で、11本以下になると「おいしい」という感覚が衰えてしまうといわれる。5本以下の歯ではバナナやなすの煮付けのような、軟らかいものしか味わって食べることができない。管理栄養士の望月理恵子氏によると「自分の歯が20本保てるかが境目」という。

「20本以上の歯がある人と、19本以下の人の野菜摂取量に差があるという研究もあるんです。残っている歯の本数によって食べられるものが少ないと、取れる栄養分にも偏りが出てきてしまう。歯が抜けた本数が多いほど肥満や生活習慣病になりやすかったり、善玉コレステロールが減るという報告もあります」

噛む力が低下すると軟らかいパンやおかゆ、うどんなどの炭水化物に偏りがちで、血糖値が上昇しやすく、糖尿病につながる恐れがある。歯は主にカルシウムとタンパク質からつくられるため、噛めないことでそれらの栄養素が不足しがちになって、丈夫な歯がつくられない。筋肉も維持しづらくフレイル(健康と要介護の中間的な段階)に、そして将来的に寝たきりや死亡リスクも上昇する。

「歯がなくなると、口のまわりに縦ジワができやすくなり、見た目も老いていきます」と望月氏。

噛めなくなると脳の老化スピードが速まるという報告もあり、認知症を発症しやすくなる。脳と体の健康、食事の楽しさ、美容面に影響を与える「歯の本数」は、“生きる力”に直結するといえよう。

それでは歯の本数が減っていくのはいつ頃からか。自然に歯が抜けることは稀であるため、歯科医院で抜歯をするケースを考えよう。5000人を対象にした「永久歯の抜歯原因調査」では40代後半から抜歯本数が少しずつ増えている(表)。抜歯原因のトップは歯周病だ。次いでう蝕(虫歯)、破折と続く(表)。東北大学大学院歯学研究科の服部佳功教授が説明する。

抜歯本数が増えるのは40代後半から

「虫歯によって抜歯が起きるのは20代から80代までで、それについては全世代でそれほど大きく数に変化がありません。しかし40代以降は、虫歯に加えて歯周病や破折の原因による抜歯の本数が増え、ピークは60代後半。歯を失わないためには歯周病を悪化させないこと、そして歯の破折、つまり歯が割れてしまうような事態を減らすことです。

どういう歯が割れるのかというと、神経を抜いている歯です。虫歯になって治療によって神経を抜く。すると歯の中が空洞になって、強度が下がり、割れやすくなるのです」

米国では神経を取って6年経過すれば、その歯が機能を保てなくなっても、歯科医は患者からの訴訟対象にはならないといわれる。日本では6年でダメになることはないだろうが、「歯の神経がなくなる」ということは、それぐらいリスクがあることだと心したい。

「神経を取ると、もう1度その歯が虫歯になったときに痛みを感じにくい。神経を取って銀歯などをかぶせていると、エックス線を撮っても白く写るだけで、歯科医も、銀歯を開けてみないと中がどうなっているか正確に判断できません。症状が悪化すれば、ある日突然、銀歯がボロッと取れることも……」(小川原医師)

銀歯をかぶせる治療は、たとえるとズボン(歯茎)の中にシャツ(銀歯)を入れるように設計されている。ところが、老化や歯周病が原因で歯茎が下がっていくと、歯茎と銀歯の間に徐々に隙間ができてしまうのだ。一般的に歯茎は10年で2ミリメートル下がるといわれ、20代のときと比べれば50代では歯茎が6ミリメートルも下がっていることになる。その隙間から細菌が入り込むリスクが高くなるという。

「だいぶ前に治療した歯で、銀歯の下端が見えているような状態であれば、1度試しに歯科で銀歯を外してもらうといいでしょう。中で何かが起きている可能性が高いです。早めに処置すれば、もちろん歯を失わずに済みます」(同)

■日本で予防意識が低い意外な理由

どんな歯もその寿命を延ばすには、定期的な検診が必要だ。それも30代、40代のうちから通う習慣があると望ましい。しかし残念ながら日本では、内科や眼科などの他の科と比べて「歯科」に対する“予防意識”が非常に低い。小川原医師は「保険診療がある日本は、安く治療を受けられることで、かえって予防に対する意識が低くなってしまう面がある」と嘆く。

小川原医師がかつて診療していたシンガポールでは、日本のような健康保険がないため、治療費が高くならないように患者が進んで検診を受け、歯の病気を予防する意識を持っているという。その結果、日本人と比べて歯周病の罹患率は変わらずとも、重症化する人が少ない傾向にある。最低でも年に一回検診を受けていれば、長く通い続けなければならないほど虫歯も増えない。

服部教授も「鉄筋コンクリートのビルでもヒビが入っていないか、定期的にチェックするでしょう。あれと同じです。定期的に診察を受ければ大規模でなく、小規模修繕で済みます」と話す。それは高齢になっても同様だ。服部教授らが仙台近郊に住む高齢者を対象に調査した結果、歯の本数が20本を切ると要介護者となる確率が上昇した。そして注目すべきは、同じ20本以下のカテゴリーでも定期的に歯科受診している人は、そうでない人よりも要介護の発生率が抑えられていたのだ。かかりつけの歯科医がいるか、何かあったときに相談できる場所があるかどうかが重要という。

■「パパパパ……」「タタタタ……」と練習

近年は歯の本数だけでなく、「口の衰え(=オーラルフレイル)」も新たに注目されるようになった。東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授はオーラルフレイルにつながりやすい6項目をチェックリストにしている(表)。

オーラルフレイル・チェック

滑舌が衰える、食べこぼしが増える、汁物などでむせる、歯ごたえのあるものが噛めなくなっているなどが初期のサインだ。舌や唇の力は「パ」「タ」「カ」のいずれかを1秒間に6回以上言えるかどうかで測ることができる。口まわりの筋肉を使うためにも、ぜひ30代、40代のうちから、時折「パパパパ……」「タタタタ……」と練習したい。

老親世代でオーラルフレイルに該当してしまうと、口腔機能が正常の人と比べて死亡や要介護認定のリスクが2倍以上。誤嚥性肺炎などの疾患も発症しやすくなる。やはりかかりつけの歯科医でのメンテナンスやチェックが欠かせない。

歯周病も、静かに少しずつ進行していく。「歯が健康な人」と、「歯周病初期で歯を支える骨が溶け始めた人」の見た目は変わらない。しかし10年後には圧倒的に差が出るのだ。

読者には「何か症状が出たら歯科へ」という意識を改め、定期検診で口腔機能をチェックし、虫歯や歯周病になりかけているような“危険な芽”を摘む習慣をぜひ持ってほしい。

抗菌作用、洗浄作用、消化の手助け……。あまり注目されないが、実は口腔内の健康を保つのに必要な存在が唾液だ。一方で、唾液分泌を促す「酸っぱいもの」を取りすぎるとリスクもあるという。唾液の不思議に迫った。

■唾液の分泌量は健康のバロメーター

前項の検診以外で今ある歯を守る生活習慣をお伝えしよう。ポイントは「唾液力」だ。「老化」を考えたとき、目なら白内障、耳なら難聴のように、口は「乾燥」がキーワードとなる。唾液の分泌機能が低下し、口が渇くことを「ドライマウス(口腔乾燥症)」といい、虫歯や歯周病のリスクを高める。唾液にはさまざまな抗菌作用を担う物質が含まれ(表)、歯の修復作用を担う働きがあるのだ。食事のたびに口の中が酸性に傾き、歯のエナメル質が溶ける「脱灰(歯のエナメル質が溶け始める状態)」が起きるが、唾液は歯から溶け出したものを元に戻す「再石灰化(溶けた歯を唾液の力で元に戻す)」を助ける。

▼のみ込みやすくするだけではない実はこんなにある「唾液の働き」
◎消化を助ける
唾液中の酵素がデンプンを分解し、胃で消化しやすい状態に
◎のみ込みやすくする
唾液中のムチンが食べ物を湿らせ、なめらかにする
◎洗浄作用
食べかすを洗い流し、口臭を抑える
◎味覚を感じる
食べ物の中の味物質が唾液に溶け、舌と反応し、甘いなどの情報を脳へ伝える
◎活性酸素を減少させる
食べ物内の発がん性物質がつくり出す活性酸素を分解する
◎老化防止
唾液中のパロチンは、筋肉や骨の発達を促進する

※「公益財団法人8020推進財団」パンフレットより

■ストレスの多い現代では唾液分泌が低下しやすい

唾液の分泌量は若さと心身の健康のバロメーターといってもいい。健康な成人は一日に約1.5リットルの唾液が分泌されるが、ストレスの多い現代では唾液分泌が低下しやすい環境という。鶴見大学歯学部の斎藤一郎教授がこう話す。

「唾液腺は自律神経の支配を受けています。自律神経には活動時に優位となる『交感神経』と、リラックスや安定の働きをする『副交感神経』があり、一日のうちに交互に優位になります。唾液は副交感神経が優位のときに分泌されやすい。そのため、ストレスや緊張が高まって交感神経が優位になると、唾液の分泌が止まってしまうんです」

ストレスを受けると唾液の分泌が止まり、口が渇く。そしてストレスによって血圧が上がったり、眠れなくなるなどの症状が起き、降圧薬や睡眠薬、抗不安薬などの薬が必要になる。その薬の副作用でさらに口が渇く、という悪循環に陥ってしまう。

「唾液の分泌が少なくなると細菌が増殖して“臭いのもと”がたくさんつくられ、口臭も強くなります」(同)

こまめに口を湿らせたり、水分を補給しよう。「オクラや納豆、山芋、里芋など、ぬるぬるした食品を取ることで口の中が保護されます」と望月氏。王教授は「口の中の乾燥感を改善する漢方薬『白虎加人参湯』や『五苓散』」を提案してくれた。医師から処方してもらうのがベストだが、市販薬でも購入できるため、口の渇きに悩む人は試してみてもいい。

一方で口腔内の血流を悪くする「喫煙」や、脱水症状を起こしやすい「アルコール」はほどほどに。

そして最も大切なことは、食べ物をしっかり噛むことである。

「一食あたり約3990回噛んでいたといわれる弥生時代と比べて、現代人は平均620回しか噛まないといわれます。料理をするとき、食材を大きめに切り、歯で噛みきるようなイメージで。ごぼうなどの根菜類や煎り大豆、りんごなど、意識して硬いものを食べるのもいいでしょう。適度にガムを噛んだり、酸っぱいもので唾液腺を刺激したり、出汁などの旨味成分を食することが大切です」(望月氏)

口腔粘膜からは味だけでなく、食べ物がもつ温度(冷、温)などの情報が“脳への刺激”となって唾液分泌が促進されるという報告がある。旨味成分は脳に届きやすい。望月氏は「さまざまな食材、調理法を組み合わせて、食事に変化を与えることで脳に刺激が伝わりやすくなり、唾液に影響するのではないか」とみる。

■酸の取りすぎで若者の歯が溶ける?

唾液分泌には有効な「酸っぱいもの」だが、気をつけたいこともある。実は最近、若い人でも“酸性度の高い食生活”の影響で、「酸蝕症」という病を患う人が増えているのだ。酸の影響で歯がガラスのように薄く折れやすい状態になってしまったり、歯が溶けてすり減ってしまうのが特徴だ(写真)。溶けてしまった歯は二度と元に戻らないため、十分に気をつけたい。松本歯科大学歯科保存学講座の亀山敦史教授が注意すべき生活習慣を挙げる。

健康酢で歯の表面がドロドロに溶けた状態(左)。クエン酸をコーラで服用するのを繰り返していた患者の歯。詰め物が浮き出ているように見え、歯が大きく減っているのがわかる(右)。
健康酢で歯の表面がドロドロに溶けた状態(左)。クエン酸をコーラで服用するのを繰り返していた患者の歯。詰め物が浮き出ているように見え、歯が大きく減っているのがわかる(右)。

「炭酸飲料や柑橘系果実、梅干しなどは酸が強く、歯が溶けやすい。一日2個以上柑橘類を食べる、清涼飲料水を週に4~6本以上、またはスポーツ飲料を週に1本以上飲む、就寝前の健康酢愛飲などは酸蝕症のリスク要因。どの年代にも起こりえます。ジョギング好きな人がほっぺたの裏側にレモンの輪切りを挟んだまま走ることを習慣にしていたら、歯が溶けた例もありました」

疲労回復にクエン酸系のドリンクを飲んでいた人も、ちょっとした衝撃で折れやすいほど歯が薄くなっていたという。

またアルコールの中では、なんとワインの酸が強く、歯が溶け、すり減りやすい。

「特にワインは口の中で風味を楽しむようなところがあります。ワインを飲んだ後は口を軽くすすぐ、水を飲んで中和するといいでしょう。また酸は食事と一緒に取れば唾液によって自然に中和されて、口腔内の酸性が和らぎます」(同)

口の中では常に、脱灰と再石灰化を繰り返しながら「中性」を保っているが、酸蝕症は「酸性」に傾いた状態といえる。ちなみに虫歯も、細菌が糖分を食べて酸を出し、口腔内が酸性に傾くことで進行しやすくなってしまう。

■歯磨きのタイミングは食後30分過ぎてから

「食直後」の歯磨きについては専門家でも意見が分かれるが、少なくとも酸が強いものの後は、歯磨きで傷つけないほうがいいだろう。丁寧に歯を扱うなら食直後はうがいで口をゆすぎ、食後30分経過して再石灰化が進み始めたときに歯磨きを。

特に就寝前は5~10分間、しっかりと磨こう。就寝中は唾液の分泌量が低下するため細菌が増えやすいが、就寝前の歯磨きで抑制できる。また最低でも一日一回、丁寧に磨いて歯垢を取り除くと、再び細菌が増殖するのに24時間かかることがわかっている。

歯磨き粉はフッ素が配合されたものを使いたい。フッ素は歯から溶け出したカルシウムやリンの再沈着を促進し、歯の質を強く、酸に溶けにくくする。国内ではフッ素濃度1500ppmを上限とした歯磨き粉の販売が認められている。

できるだけ高濃度のフッ素入り歯磨き粉を選ぶことをお勧めするが、磨くときには歯磨き粉のつけすぎにご用心。

「歯磨き粉に含まれる香味剤や発泡剤が磨いたような気持ちにさせてしまい、磨き残しの原因になります。歯ブラシでこすらなければ歯垢は落ちないことを忘れずに」(小川原医師)

またフッ素は食品にも含まれている。

「フッ素が含まれる食品は海産物(煮干しやカニ、エビなど)に多いですが、手軽に取れるものとしては緑茶やコーヒーですね」(望月氏)

とりわけ一番茶や玉露にフッ素が豊富なので食後に飲むといい。緑茶は歯周病予防にも有効だ。

厚生労働省や日本歯科医師会は「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」と、“8020運動”を推進し、平成元年では1割未満だった達成率が現在は5割を超えた。増加の背景には歯磨き習慣や生活習慣の改善で虫歯や重度の歯周病が減ったことが影響していると考えられる。

歯医者に行く機会は決して多くない。ゆえに、行きつけが「いい歯医者」なのか判断するのは難しい。それでは専門家から見た「いい歯医者」とは何なのか? その隠れた基準を明らかにする。

■「歯を残す努力」は必要なのか?

最後に「頼れる歯科医」の見分け方だが、筆者が信頼する内科医10人に「歯科を選ぶ基準」を聞いてみた。

すると「1つの治療法にこだわらず、いくつかの方法を掲示してくれる」「治療する歯だけでなく、生活習慣のアドバイスがある」などの声が挙がった。歯科医自身からは「難しい症例のときに、自分のところだけで解決しようとせず、他院へ紹介する」という指摘もあった。要は何が本当に患者のためになるか考えてくれる、ということだろう。

メディアでは「歯を残す努力をするかどうか」が指針に挙げられることも多いが、私はこれには否定的だ。あるベテラン歯科医も「一本の歯を守ろうとするあまりに、ほかの歯が共倒れになってはいけない」と話す。例えば歯と歯の間の骨部分は共有部分のため、そこが蝕まれてしまうと、最終的に2本とも使えなくなる。やはり“どうしても抜かなくてはならない”ケースはあるのだ。

結論としては、生活習慣のアドバイスや根管治療など「保険点数(お金)にならない部分をしっかりやる歯科医」が、信頼できるといえるかもしれない。根管治療とは、歯の神経を取ったとき、神経が通っていた歯髄と呼ばれる箇所の細菌を一掃する治療。丁寧に行うと長く歯を残せる率が高まるが、細かな作業で時間がかかるうえに、保険点数がつかない。そのため根管治療をきちんと行う歯科医は3割程度ともいわれる。

「根管治療が必要な患者さんを連続で30分ずつ治療したとします。3割負担だとしたら1人あたり300円弱、1時間で600円、10割でも2000円程度の売り上げ。スタッフの時給を考慮すれば赤字です。『歯科医は儲からない治療はやらない』などと週刊誌で批判されることもありますが、安くても時間がかかっても、自分を律して頑張っている歯科医もいる。今の日本の歯科治療体制では“保険点数にならない部分”が非常に大事ですから」(某歯科医)

頼れる歯科医を見つけるとともに、私たちも自分の歯を守るために努力しよう。表に「いい歯を守る8原則」をまとめた。今ある歯を一本でも多く残すため、できることを今日から実践してほしい。

▼今日から実践!いい歯を守る8原則
①努めて硬いものを噛む
食材を大きめに切る。ごぼうなどの根菜類やフランスパン、りんごなどを食そう
②酸性度の高いものを食べた直後に歯を磨かない
もし磨くならいつも以上に柔らかく優しく
③一日一回は5分以上の歯磨きを
就寝中は唾液の分泌量が低下するため細菌が増えやすい。就寝前がお勧め
④フッ素を積極的に
国内ではフッ素濃度1500ppmを上限とした歯磨き粉の販売が認められている。できるだけ高濃度の歯磨き粉を選ぶべし。緑茶も◎
⑤「口の渇き」に注意せよ
歯周病や虫歯のリスクが上がる。適宜水分で口を湿らせたり、酸っぱいもので唾液腺を刺激
⑥喫煙は×、お酒はほどほど、薬の副作用に気を配る
喫煙は口腔内の血流を悪くし、アルコールは脱水症状を起こしやすく、唾液量を減らす。薬の副作用に「口の渇き」がないか気を配る
⑦就寝中の「口呼吸」「歯ぎしり」を防ぐ
ドライマウスになりやすい口呼吸に対し、就寝中は「口呼吸防止テープ」を。食事のときの噛む力と比べて6倍も歯に負担がかかる「歯ぎしり」。歯の寿命を確実に縮めるため、歯科で自分の歯型に合うマウスピースを作ってもらおう
⑧「頼れる歯科医」のもとで定期的な検診
「1つの治療法にこだわらず、いくつかの方法を掲示してくれる」「治療する歯だけでなく、生活習慣のアドバイスがある」「地元の人が通っている」などの歯科医院を選ぶ

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王宝禮
王宝禮(おう・ほうれい)
大阪歯科大学教授
北海道大学歯学部助手、米国フロリダ大学歯学部研究員、松本歯科大学教授などを経て、2010年より現職。
 

小川原元成
小川原元成(おがわら・もとなり)
池袋西口小川原デンタルクリニック院長
1998年、シンガポールに日本人初の歯科医師として赴任。2012年に帰国後、現職。
 

望月理恵子
望月理恵子(もちづき・りえこ)
管理栄養士
健康検定協会理事長。企業や医療機関の監修・栄養顧問として、栄養・美容学の分野での情報発信を行う。
 

服部佳功
服部佳功(はっとり・よしのり)
東北大学大学院歯学研究科教授
1963年、三重県生まれ。87年東北大学歯学部卒業。91年同大大学院歯学研究科修了。
 

飯島勝矢
飯島勝矢(いいじま・かつや)
東京大学高齢社会総合研究機構教授
1990年東京慈恵会医科大学卒業、スタンフォード大学医学部研究員などを経て、2016年より現職。
 

斎藤一郎
斎藤一郎(さいとう・いちろう)
鶴見大学歯学部教授
日本抗加齢医学会理事。口腔乾燥症(ドライマウス)や老化研究に長年従事する。
 

亀山敦史
亀山敦史(かめやま・あつし)
松本歯科大学歯科保存学講座教授
同大学病院副歯科病院長。医療法人亀山歯科医院副院長、東京歯科大学准教授などを経て、2019年より現職。
 

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子 写真提供=亀山敦史)

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