コロナ禍でも就活生を面接に呼び出すIT企業のヒドい言い訳
プレジデントオンライン / 2020年4月24日 9時15分
■2021年卒の就活は新型コロナウイルス感染拡大で大混乱
新型コロナウイルスの感染拡大で2021年卒の就活がほぼストップしている。3月から企業説明会が本格化し、例年ならリクルートスーツ姿の学生がちまたにあふれていてもおかしくない時期だ。
だが、2月ごろから各企業の冬の「1dayインターンシップ」が相次いで中止になり、3月に入ると、企業の説明会や就活情報サイト主催の合同説明会が軒並み中止となった。
もちろん就活だけではない。大手企業は在宅勤務に切り替え、社員の出社を制限、4月入ると首都圏の大学も閉鎖に踏み切った。
4月7日には感染拡大が止まらない7都府県に対し、政府は「緊急事態宣言」を発出し、とくに東京都は外出自粛や厳しい営業自粛要請を行った。
続く11日には安倍晋三首相が対象7都府県の全企業に原則在宅勤務と出勤者を最低7割減らすことを要請し、以降は電車で通勤する会社員をはじめ外出する人が大幅に減少した。
■コロナ禍で就活はウェブ説明会・面接にシフトしたが……
学生にとっては企業との接触が断たれ、大学のキャリアセンターも閉じられる中で採用に関する情報が遮断され、就活どころではなくなった。
ただし、その中でも大手企業を中心に一部の企業は学生との接触を維持するためにウェブ説明会やウェブ面接に切り替えるところもあった。
筆者が2月下旬に取材で訪れた東京都内の人材サービス会社はすでにウェブ面接に切り替えたと言っていた。
学生にとっては担当者と直接対面できないなど多少不便ではあるが、遠方から電車などで都心に足を運ぶという感染リスクを考えれば理にかなった方法だと感じられた。
実際に新型コロナウイルスに感染した就活生も発生した。3月22~27日にかけて就活で東京に滞在していた仙台大学の男子学生が帰郷後に発熱し、後に陽性と確認されている。また、長崎国際大学の男子学生が就活で滞在していた大阪市で感染していたことが4月2日に判明している。
若年層は感染しても症状が悪化しにくいと言われていたが、重症化する報告も相次いでおり、欧米では死亡例もあるなど生死にかかわる恐れもある。
■新型コロナ禍で、対面の説明会・面接を実施する企業が「4割」
ところが、日本中が新型コロナの厳戒態勢下にあるにもかかわらず、今でも対面での会社説明会や面接を実施している企業があることがわかった。
採用アナリストの谷出正直氏が4月14日、翌15日に東京で開催される会社説明会を就職ポータルサイト「リクナビ」で調べたところ152社あった。
各社の内容をチェックすると、ウェブ上での説明会・面接を行う企業が91社と6割を占めた。だが、残り4割の61社が自社ないし貸し会議室を使った直接対面での開催だったという。
![面接を待っている学生たち](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/a/670/img_ba78ad24e700d25be770478cf5cbc5b4315992.jpg)
「新型コロナウイルスの感染拡大で多くの企業が出社を制限している中で、学生に来社を求めている会社が多いことに驚きました。多くの学生が訪れる大企業は感染リスクがあるのでオンライン説明会に切り替える中で、中小企業は10人以下の説明会などを3月には結構やっていました。しかし、その後に東京都の自粛要請や緊急事態宣言が出ても相変わらず、学生を呼んで対面での説明会を続けているのです」(谷出氏)
直接対面のリアル説明会を開催した企業は中小企業が多く、業種もIT、不動産、人材サービス、製造、介護、流通・小売りなど多岐にわたっている。
■なぜウェブサービスを扱うIT企業が対面の説明会・面接をするのか
驚いたことに最も多かったのがIT業界だった。ウェブ上での説明会や面接などお手のものはずもだが、どうなっているのか。
「IT業界といってもウェブサービスを扱っている会社というより、大手システム開発企業の受託開発企業が多い。それでもウェブシステムの導入にそれほどお金がかかるわけでもありません。スカイプやZoomは無料ですし、学生の安全を考えればオンラインシステムを導入すべきです」(谷出氏)
■4月24日(金)に東京でリアル面接をするIT企業の「言い訳」
実際に「4月24日(金)、東京開催」でリクナビを検索すると、リアル面接の開催企業が相当数出ている。
たとえば、あるIT企業の開催案内にはコロナに触れて、下記のように述べている。
<コロナ感染拡大している状況の為、就職活動されている皆様におきまして、大変な不安を抱えられているのではないでしょうか。『今就活しないといけない』ということはありません。当社会社説明会は7月頃まで開催する予定です。安心して外出できるようになったら是非ご来社ください!>
さもコロナの感染を気遣っているふうに見える。しかし、その後にこう続く。
<一方、将来を決める大事な時期でもあります。就活が進まないと不安と感じられる方へは、会社説明会を実施しております。しっかり業界、会社のことを知りたいという方もいらっしゃることからWebや動画ではなく、コミュニケーションの取れる対面式で開催します>
![リクナビ2021より](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/5/480/img_05a4b61207c7b8ddba09764c4f64cd3a329937.jpg)
就活に不安を感じない学生はいないだろう。そんな学生の心理を踏まえ、対面式をアピールしていると受け取られてもしかたない。
■感染者発生でも「発生原因や責任は当社にはない」と言わんばかり
また別のIT企業はこううたっている。
<弊社は少人数制の会社説明会を開催しております。新型コロナウイルスの影響を鑑みまして、弊社オフィス入室の際に検温のご協力をお願いしております。また、アルコール消毒液もご用意しておりますので、是非ご利用ください>
つまり、会社内では感染しないように留意しているので安心してくださいというアピールだ。
別の企業も<新型コロナウイルス感染拡大のため、緊急事態宣言も発令されたので弊社でできる十分な対策を実施し、説明会を開催します。少人数(最大2名)での開催を行います。ソーシャルディスタンスの確保も徹底しております>と、言っている。
![リクナビ2021より](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/d/480/img_4db41213c7d3ff27b91c75891ef8c818260561.jpg)
これらの物言いは明らかにおかしなところがある。
一見、学生の安全を気遣っているように見えるが、実は自社内でのコロナ感染防止策にすぎない。うがった見方をすれば、たとえ、感染者が発生しても「安全対策を施しており、発生原因や責任は当社にはない」と言っているようにも感じられる。
最大の問題は、学生が自宅から電車などを使って来社するまでの感染リスクに対する配慮がまったく欠落していることだ。学生の中には先に感染した学生のように遠方から交通機関を乗り継いで東京まで来る人もいるだろう。しかもせっかく上京するのだから、1社の説明会や面接だけでなく、複数の会社に接触したいという学生も多いに違いない。
政府が要請している「接触8割減」どころか、いつもの2~3倍の人と接触する可能性さえある。そのことに思いをいたさないで「弊社は安全なので対面で」というのは無責任とのそしりを免れないだろう。
■学生の感染を省みず来社させる企業は「ブラック企業」以上のワル
4月16日には政府は緊急事態宣言を全都道府県に拡大している。世の中は都道府県の越境すらままならない状態にある。就活生にとっては情報が乏しい中で、不安を抱えたまま、一生を左右する就職先を探すのに必死になるのは当然だろう。
しかし、就活生のそんな弱みにつけこみ、自社の都合だけで学生の感染を省みず来社させる企業は、ある意味でブラック企業以上の存在といえるのではないだろうか。
ブラック企業は過重労働させたうえで使い捨てする企業のことだが、新型コロナウイルス感染は生死にかかわる。
![オンライン面接](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/6/670/img_f69b5273c6cb1e4f90094496d8ff6f6b320602.jpg)
就職情報サイト側もウェブ上での説明会や面接の以外のリアル面接開催の掲示を封鎖すべきではないだろうか。
■リクナビ「われわれは企業の採用活動に介入する立場にない」
筆者の取材にリクナビを運営するリクルートキャリア広報部は次のようなコメントをした。
「われわれとしては企業の採用活動に介入する立場にない。しかし一方で、クライアント企業に対してウェブ化の提案もしています。就活する学生に対してもオンライン説明会を開催している企業を積極的に紹介するようにしています。また、対面での説明会を実施している企業は面接の人数を減らすなど新型コロナウイルス感染防止にも動いています」
同社がウェブでのセミナー・説明会をしない中小企業にアンケート調査したところ、対面式となった理由として「ウェブセミナーに関するノウハウがない」「IT機器などの設備が不十分で、それに対応する人材がおらず、通信機能に不具合が生じても対応が難しい」といった回答があったという。
コロナの脅威が迫っていてもクライアント企業に対しては強くものを言えないということなのか。しかし、今は多くの企業がコロナの封じ込めに最大限の努力を傾けている時期だ。ウェブ面談が難しければ自粛に合わせて延期すべきだろう。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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