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歯の治療をさっさと終わらす「5つの鉄則」教えます

プレジデントオンライン / 2020年5月6日 11時15分

「なぜ4回も5回も通わなきゃならない?」。歯科医への不信感から、疑念を覚える向きもあろう。しかし、時間がかかるのには理由があって――。

■死んだ歯を残すのは遺体との同居に似る

多くの人が「歯の治療には通院回数と時間がかかる」と感じているでしょう。なので「いま忙しいので、時間が取れない」と言い、歯科へ行かず放置している人は結構多い気がします。

通常の治療の場合、まず腫れや痛みなど症状の原因部分を治療し、次に被せ物や入れ歯など、噛む機能や見た目の審美性を再現する、2段構えの治療で進めていきます。時間が「かかる」か「かからない」かは、虫歯や歯周病の進行度合いにより異なってきます。

実際、治療に来られる方は、かなり悪化してからというケースがほとんど。それが時間の浪費に直結していく例を順番に見ていきましょう。

まず、極度に悪化した虫歯・歯周病は、治療の時間自体は短くて済みます。なぜなら、抜くほかないから。歯が溶けていたり、グラグラして気になる状態まで進行していると、修復・再利用は難しい。抜歯の治療は1回で1本。数本まとめて抜くこともあります。ひどすぎるがゆえに、すぐ解決できるわけです。他の歯に悪い影響が出る前に、まずは受診してください。

抜歯を嫌がる人を説得するのは難しい。でも、抜くという選択肢を念頭に置けば、早期治療の可能性も広がります。抜歯するほど悪化している歯はいわば「死んだ状態」。死んだ歯を残すのは、遺体と同居するのと似ています。歯科医が「この歯は死んでいます」と言っても「いや、形はあるから残しておきたい」と患者さんは粘る。でも、いくら名残惜しくても、“遺体”は腐っていくだけです。

丸山歯科医院 歯科医師 丸山和弘氏
丸山歯科医院 歯科医師 丸山和弘氏

「どこそこの歯医者さんは、歯を抜くのが好き」という噂が立つことがあるでしょう。たしかに昔は抜きたがる先生もいたようですが、今は数十年前と比べて技術や治療法も進化したので、闇雲に抜く先生はいないと思います。ほとんどの歯科医は「抜きたいから抜く」のではなく、患者さんの歯の状態を見て、体が歯を必要としているのか、それとも歯が死んでいるので必要としていないかを見て、抜くか残すかの判断をしています。決めるのは歯科医の意思ではなくて、患者さんの体の反応です。そこは信用してほしいです。

歯が痛くなってからやっと来る患者さんが多いんですね。「痛みだけでも取って楽にしてくれ」と即効性を求める人がほとんど。でも、強い痛みを伴う際は麻酔が効かないんです。そういうときは、まず噛み合わせを調整して、痛み止めの薬を出します。それでしばらくたって痛みが引いてから、神経を取る治療に入るという流れです。

できれば、ひどくなる前に来てほしいんですが、1度目の痛みや腫れで、歯科に来る人はほとんどいません。来院する方の大多数が、すでに何度か痛みが出た後なんです。実は痛みや腫れには「波」があり、症状がある状態と落ち着いた状態が繰り返しやってきます。皆さんも、疲れると歯がうずいたり浮いたりするご経験があるのでは?抵抗力が落ちると、歯周病菌とのバランスが崩れ、腫れたり痛みが出たりします。

親知らずも同じですが、体調が良くなると「なんだ、大丈夫じゃないか」と安心してしまう。それで平静と痛みを繰り返すうちに、さらに悪化していくわけです。できるだけ早い段階で歯科に行き、しっかり診てもらうことが大事です。早ければ抜歯ではなく治療の余地もありますから。

■数年から数十年かけて起こる炎症

歯の根の病気の症状で多いのが、歯と少し離れた部分の歯茎にオデキのようなものができて、膨らんだり、引っ込んだりを繰り返す状態です。私の経験では、このような症状を繰り返している患者さんは、以前に歯の神経を取る治療をした人が多いようです。

神経を取った歯の症状が再発するのは、過去にきちんと治療したつもりでも、取り除けないような入り組んだ箇所に、内部神経の一部が残っていて、それが少しずつ炎症を起こすからです。治療痕に数年から数十年かけてゆっくりと炎症が起き、オデキになります。治療してからすぐわかるものではないので、非常に厄介です。

オデキができれば全部やり直しです。まず被せ物や、根の中の詰め物をすべて取り除き、歯の内部の汚れをきれいにする必要があります。ここで難しいのが、前の治療で歯の内部の形が修正されていること。神経を取る作業は、もともと難しいんですが、根の形は人によって異なるため、内部が修正されていると余計にわかりづらくなるんです。だから再治療の難度は、最初の治療よりも高くなってしまう。

歯が痛い
PIXTA=写真

昔の治療痕を開けてみると「これはないだろう」というひどい治療もあります。昔は歯科医の数も少なく、1人にかける治療時間が少なかったのでしょう。ただ私たちの世代ぐらいから「もっとしっかり根の治療をしよう」という機運が高まったと思います。ここ十数年の歯の根の再治療には、歯科医たちの苦労の痕が見えます。

汚れを取る場合、まず汚れを見つけるのが難しいんです。汚れは中に詰まっているのでなく、壁に張り付いた“錆”をヤスリがけするイメージ。“錆”が少しでも残っていれば再発するので、慎重に作業しなければなりません。

実際、1度も治療していない歯の神経を抜く治療のほうが、時間も短く成功率も高いのです。再治療は運がよければ最短で2回。平均すれば3回から5回程度。手強ければ数カ月かかることも。根の再治療は時間がかかると考えていただいたほうがいいです。

■治療回数を大きく変える神経の治療

歯周病と虫歯が同時進行した歯はさらに時間がかかります。どちらから治療を始めるかというと、歯周病は1本だけということはないし、治療時間もかかるので、まず歯周病から治療するのがセオリー。崩れかけた家を修復することを想像してみてください。土台がぐらぐらだと安定しませんよね。まず土台をしっかりさせてから建物を修復していくイメージです。もし初期の歯周病であれば、歯石を取り除くだけでいいので、比較的簡単に治すことができます。虫歯も同様で、初期であれば小さく詰めるだけで完了です。

ところが次のような場合は、急に治療回数が増えてしまいます。1つは歯茎を指で押すと歯の周囲から白い膿が出てくるようなケース。これは歯石が歯の周囲のポケットと呼ばれる溝の奥に入り込んでいる状態です。特に奥歯の枝分かれの分岐部分につく歯石は、取り除くのに時間がかかります。もう1つは、ズキズキ痛むなどの自覚症状がある場合です。虫歯が歯の神経に達している可能性があります。虫歯の治療は、歯の神経を治療するかどうかで、治療回数が大きく変わるのです。

中程度の歯周病なら、2カ月から3カ月ほど治療して、プラス1カ月で虫歯の治療。もう少しひどいと半年以上はかかります。だから早め早めに治療してほしいんです。できれば、かかりつけの歯医者さんを決めておいてください。初見だと現状把握からなので時間がかかりますが、かかりつけ医は治療の経歴がわかるので、治療方針を立てやすい。定期的に歯石取りと噛み合わせの調整などのメンテナンスをしていれば、早期の虫歯も発見しやすいですし、すぐに治せます。

治療に時間がかかるという点では、悪化した歯の本数が多いほど、単純に治療時間と通院回数がかかります。例えば1本に5回の治療がかかる症状なら、それが10本あれば50回の治療回数が必要になってきます。週に1度治療を受けたとしても、およそ1年かかる計算になってしまいます。

複数の歯の治療を同時に進める人は結構います。歯が極端にボロボロになって、「最後の前歯がダメになりそうで、我慢できなくなった」と、それこそ十何年ぶりかで治療に来たような方。多忙ゆえに治療を後回しにしてきた50代が多い印象です。稀に、子どもの頃に抱いた歯医者の悪印象ゆえに足が向かなかった、という人も。逆に、自ら定期的に、真面目に通ってくる方の歯はやっぱり立派です。

虫歯や歯周病が極端に多い人の特徴として「歯ぎしり」が挙げられます。歯科医なら、歯を見ただけで歯ぎしりがある人はわかります。犬歯が削れて独特の形状になっていて、きちんと歯を磨いていても、歯のトラブルが発生します。じゃあ、歯ぎしり自体を治せばいいのかというと、残念ですが難しいです。対策用のマウスピースもあるんですが、3カ月ほどで挫折してしまう人がほとんど。実際、寝るときに一生、マウスピースをつけて寝られるかというと、ちょっと難しいと思います。歯ぎしりをする人は、特に定期的にメンテナンスをしてください。

治療が長引く歯の状態ワースト5

■抜歯しても、穴から膿が出続ける骨髄炎

虫歯や歯周病が原因で、最も時間がかかる症状は骨髄まで進行した炎症です。通常、虫歯や歯周病の細菌は、歯の表面や内部で増殖すると、骨への感染が起こらないよう骨を溶かすなどして防御します。そのため、治療は抜歯が中心となり、歯を抜くだけで、それ以上の感染が起こらず治癒します。

しかし、骨髄炎は虫歯や歯周病の細菌が骨にまで感染してしまう。骨の感染した部分を外科的に取り除く手術をしたり、細菌を殺す抗生物質を服用するなどして、完治までには数カ月から数年かかることもあります。私のところでも時々あるんですが、結局は手に負えなくなって、国立病院の歯科口腔外科の先生に紹介状を出します。

骨髄炎をよく見かけるのは、ブリッジをしている土台の歯です。抜歯をすると入れ歯にしなくてはいけなくなるので、強い炎症が起きているのにもかかわらず、抜歯を引き延ばしてしまう。歯科医が骨髄炎のリスクについて説明しても、なかなか理解してくれず粘ってしまうんです。気まずくなってしばらく来ずに、数カ月から数年間我慢し続け、グラグラになって腫れや痛みに耐えられなくなってから飛んで来る。そこでやっと抜歯に至るんですね。

■体は抜いてくれというサインを出している

通常の抜歯と違うのは、通常なら抜歯後はそのまま治癒に向かうのですが、骨髄炎になってしまうと抜歯した穴から膿が出続けてしまい、いつまでたっても痛みが改善されないんです。ここまで進むと細菌が骨まで達して感染しているため、抜歯では治りません。

ちなみに骨髄炎にかかっているかどうかは、抜歯後すぐにわかるわけではありません。抜歯後の翌週ぐらいに、通常なら止まるはずの膿が止まらないなら骨髄炎の可能性があります。初期だとレントゲンにも映りません。虫歯の痛みか、骨髄炎の痛みかは、本人も判別できないと思います。

抜くべきときに抜かず、粘り続けた結果、骨髄炎になるというのはありえます。抜きたくないお気持ちはわかりますが、痛みや腫れが落ち着くと、抜くようお勧めしても耳を傾けてもらえません。レントゲンを見た瞬間に「いま抜かなきゃだめだ」というケースもあるんですが、患者さんが嫌だと言えば、我々は抜けません。だから我々も噛み合わせを調整したりして、炎症の悪化を先送りする治療をするんですが、果たしてそれが正しいのかどうか。患者さんの気持ちに寄り添う一方で、体は抜いてくれというサインを出している。難しいところです。

最終的には患者さん本人の自覚以外にありません。歯科医も信頼を築くために、段階を踏んで説得するしかないのです。患者さんが来るたびに「次はちょっと腫れますよ」「次はグラグラしてきますよ」と伝える。その通りになると、歯科医と患者さんの間で信頼関係ができてくる。最終的に「先生、じゃあ抜いてください」と本人が納得するに至って、ようやく抜けるんです。

歯科医の選び方についても触れておきましょう。できれば「現状がどうなっているのか」「これからどういう治療方針で進めていくか」をきちんと説明する先生がいいです。歯を抜くにしても「なぜ抜くのか」「どこがだめなのか」「抜かないとこの先どうなるのか」など、言いにくいことも順序立ててわかりやすく説明してくれる先生。

ただ、「座学は素晴らしいけど腕がイマイチ」という先生も残念ながらいます。腕を見分けるのは患者さんでは難しいですが、何か納得できない治療があれば、ほかの歯科医に移ればいいと思います。とにかく早期発見、早期治療がマストです。そのためには小さな違和感を見逃さないこと。違和感は体の正直な反応なので、放っておいたり我慢していると繰り返し出て、そのたびに悪くなっていきます。痛みがなくとも、少し水が沁みる、歯が疼く、歯が浮くなどを感じたら、とにかく歯科に行ってください。そうすれば、治療は思いのほか早く終わりますよ。

歯の治療を早く終わらせる鉄則5

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丸山 和弘 丸山歯科医院 歯科医師
1968年、群馬県生まれ。93年歯科大学卒業、同年歯科医師国家試験合格、東邦歯科診療所勤務。95年丸山歯科医院(群馬県高崎市)を設立し現職。

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(丸山歯科医院 歯科医師 丸山 和弘 構成=篠原克周 撮影=石橋素幸)

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