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アップルが「最高のものをつくる」オタク集団になれた3つの理由

プレジデントオンライン / 2020年4月30日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gilaxia

なぜアップルは世界に冠たるブランドになったのか。アップルジャパンでマーケティングコミュニケーションを担った河南順一氏は、「スティーブ・ジョブズは、『最高のもの』を作ることに全身全霊で打ち込み、共に仕事をする人間にも同じ姿勢を求めた。そのために必要だったのは、3つのポイントだった」と分析する――。

※本稿は、河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■なりゆきや棚ぼたで革新は生まれない

スティーブ・ジョブズは、「最高のもの」を作ることに対して自ら全身全霊で打ち込み、共に仕事をする人間にも同じ姿勢を求めました。自分たちが作る最高のものに大義を見いだし、フォーカスし、使命感で融合しなければ、企業や組織がイノベーションを起こすことはできません。なりゆきや棚ぼたでは、革新は生まれないのです。

スティーブは筋金入りのディスラプターとして、イノベーティブなものの創造に全精力を使っている人間に、容赦なく何度もNOを突きつけることを信念としていました。そのためか、本や映画でスティーブは独善的な人物として描かれることが多いようです。

たしかにスティーブの執念ともとれる熱情はエキセントリックに見えます。しかし、彼の強い想いと信念が、不安や恐れで及び腰になる私たちに、自信を持って進むよう力強く背中を押してくれるのです。スティーブは決して途中で投げ出すことをしないからです。

■個々人が各々の領域で使命感を持っていた

スティーブが戻ってきた当初、私は不安を感じたのですが、最高のものを作ることに全身全霊で取り組む彼の姿には、迷いが見られませんでした。彼の決意は紛れもない純粋なもので、ただのスローガンに終わらせない決意がみなぎっていました。

河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)
河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)

「ブランド」「広告」「広報」「イベント」「コラテラル(制作物)」「ウェブ」の6チームからなるワールドワイド・マーケティング・コミュニケーション(WWマーコム)のミーティングは、スティーブとグループ全体で集まるミーティングで戦略や主となる施策を討議します。そして、具体的なイベントやプロジェクトの詳細に関係する議題については、それぞれのチームと担当者で別セッションや個別ミーティングを行って議論、調整できるよう、クパチーノ(アップル本社)のメンバーとはほぼ毎月顔を合わせていました。

担当するタスクや責任は異なり、バックグラウンドや性格も違うのですが、割り当てられた仕事をただこなすのでなく、個々人が各々の領域で「最高のものを作る」創造の業に携わっている使命感があったように思います。ときどき、「理不尽」なことを求めたり求められたりするので衝突があるのですが、従来のやり方を覆すことを実行するのであれば、当然のことです。

このチームのメンバーがどのようにイノベーションに作用する者となって融合したのかを考えると、3つのポイントがあります。以下、3つのポイントについて説明しますが、これは、ガイドラインとして定めてあったことではなく、ディスラプションに巻き込まれ作用される側にいた私が、チームに加わり作用する側に回ったときに抱いた感覚です。

■アップルは“究極のオタク”だ

1つ目は、「創造力とオブセッションを最大化する」です。

イノベーションを語るとき、創造性や情熱の重要性は誰もが説き、掲げることです。では、アップルでこれがお題目に終わらないのは、どこが違うのでしょうか。

破壊的イノベーションの理論を最初に提唱したのは、ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授です。スティーブは1997年に刊行されたクリステンセンの著書『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)に大きな影響を受けていました。

クリステンセンもアップルに注目しており、2011年に受けた取材ではアップルについて、「彼ら(アップル)はとにかく他とは違うところがある。彼らは究極のオタク(freak)だ」と述べています。これはまさにオブセッションを指しています。

■アップルとマイクロソフトの決定的な違い

クリステンセンの理論では、企業が利益最優先に走ると崖から転落してしまうことを警告しましたが、スティーブが復帰する前のアップルがまさにそれでした。クリステンセンの取材をしたジェームズ・オールワースの記事には、ほかの取材から得た結論として、スティーブとチームは最高のものを作ることに使命を抱いていて、それを喜びとしていることがアップルを際立たせる特徴だとしています。

また、マイクロソフトとアップルで幹部経験を持つ人物が、両社の違いを次のように語ったとあります。「マイクロソフトは、収益を上げられるところを見つけてそこに突っ込めるものを作る。アップルは真逆だ。彼らはまずすごい製品を作る。そしてそれを売る」。アップルでは、最高のものを作ることが何事にも優先しているのです。

■熱狂的な支持者がいれば強烈な敵も生まれる

2つ目は、「共感を広げて反対者を味方につける」です。

Think differentの広告に登場する「クレージーな人たち」、すなわち、アルベルト・アインシュタイン、ボブ・ディラン、トーマス・エジソン、マハトマ・ガンディー、パブロ・ピカソといった人たちは、ディスラプターのロールモデルと言えます。彼らを突き動かすのも、「最高のもの」を作る、あるいは達成することへのオブセッションです。

イノベーションを語るときに、「2‐6‐2の法則」がしばしば引き合いに出されます。この法則によれば、優秀な人材を集めて組織を作っても、積極的で変革の推進力となるのは2割です。あとの6割はどっちつかずで、サポートする側に回るか抵抗勢力に回る人たちです。そして、最後の2割は積極的な反対者に回ります。

アップルには昔からそのテクノロジーやブランドに熱狂的な支持者がつくのが特徴でしたが、一方で強烈なヘイター(敵)も生み出していました。いかに抵抗勢力を克服するかといった変革論なるものがあるのですが、アップルのイノベーションでは、この抵抗勢力克服の鍵になるのもやはりオブセッションです。

■「最高のもの」は誰も無視できない

推進者が生み出す「最高のもの」は、誰も無視することはできず、人間を前進させる大義への共感となって人を動かします。積極的に反対する人で、強い意見や考え方を持つ人は、インサイトを掘り下げると、互いに共有できる考え・想い・価値観に到達することがあります。

かつては「敵」として対峙した人が味方に転じると、誰よりも心強い擁護者、唱導者となりえます。アップルに勤めていたときに限らず、ほかでもこれを経験しました。

■ディスラプションはナノレベルで創造される

3つ目は、「フォーカスしインパクトを極める」です。

スティーブはアップルの破壊的イノベーションによって、クリステンセン教授が世界に投げかけた命題となる「イノベーターが抱えるジレンマ」を見事に解決してしまったと、オールワースは述べています。それを可能にしたのは、優先順位を利益から転換し、徹底的に製品(とテクノロジー)にフォーカスしたことです。

スティーブの視点や洞察は常に緻密でありながら、思考と行動のスケールは「宇宙にへこみを残す」という言葉の通り、壮大なものでした。アップルの優れたところを挙げるとき、見た目のデザインと印象に目を奪われがちですが、スティーブのこだわりは最も小さいところに細やかに施されていて、ディスラプションは現実を歪曲するのではなく、ナノレベルで創造されていることがわかります。

スティーブが一見傲慢で自己中心的と映るのも、スティーブの思考が、人間が知覚できる時空を超えて、ナノレベルの世界から太陽65億個分の質量を持つブラックホールまでにも及ぶ次元を見据えていたからかもしれません。

アインシュタインやスティーブに匹敵する知覚と思考を持ち合わせる人間はそう多くはいないでしょうが、彼の意志は確かに周りの人々に伝播し、一人一人の中に大きく膨らみました。ディスラプションに直接携わった社員やベンダー、そしてデベロッパやサプライヤー、また生まれた製品とテクノロジーをツールとして使って自分の創造力の実を結ばせるユーザがその先にいます。

■3つが常に完璧にできたわけではない

3つのポイントを意識して考え、行動すれば、常に完璧なディスラプターとして作用する側に立てる……と言いたいところですが、残念ながらそう簡単なことでないのもまた事実。私自身、アップルのディスラプターチームに所属していたわけですが、ディスラプションの中で常に作用する側にいたわけではありません。

この3つが完璧にできたということでもありません。私に限らず、アップル自体についても同様のことが言えます。再生後、矢継ぎ早にiPod・iPhone・iPadなど目覚ましいイノベーションを起こし、輝かしい企業にアップルは成長しました。しかし、そのアップルでさえ、発展の過程でいくつもの試練に遭遇しています。

■どんなに成功しても試練から解放されることはない

つまり、どんなに成功した企業も人間も、試練から永遠に解放されることはありません。だからこそ、ディスラプションなのであって、それが摂理であり、人生というものです。

したがって、これら3つのポイントは、到達すべき姿として目指すべきものではありますが、時折崩れそうになるバランスを(動きながら)補正して、バランスを取り戻したいときに立ち返る支点と軸と考えてください。

または、自分のあるべき姿を目指して前進する際に、バランスを崩したり、自信をなくして妥協したり、抵抗に遭ってあきらめそうになったり、自分のバランス補正が必要だったり検知したくなったりしたときに使えるジャイロセンサーです。

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河南 順一(かわみなみ・じゅんいち)
同志社大学大学院ビジネス研究科 教授
マーコムシナジー源 代表取締役。同志社大学商学部卒業、アリゾナ州立大学W.P. Carey School of Business MBA修了。日本マクドナルド、アップルジャパン、すかいらーく、サン・マイクロシステムズ、モービル石油等に勤務。アップルで“Think different”を掲げたブランド戦略の展開、マクドナルドでCEOコミュニケーションの一新を担うなど、ブランド再生や企業イメージの刷新に勤しんできた。

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(同志社大学大学院ビジネス研究科 教授 河南 順一)

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