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コロナ禍で進行しつつある「介護崩壊」の恐るべき現状

プレジデントオンライン / 2020年4月24日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

介護現場は「3密」になりやすい。そのため感染を恐れた事業者側が休業するケースが増え、「介護崩壊」が懸念されている。ケアマネジャーを取材している相沢光一氏は「動きが遅いといわれる厚労省ですが、コロナ禍の『介護崩壊』の危機に関してはいち早く制度変更に動いています。ただし、今後の動向は予断を許しません」という——。

■コロナ禍で厚労省の「体質」に変化の兆しか

お尻が重く、動きも遅い——。それが「お役所」や「お役人」に対するイメージという方も多いかもしれません。埼玉県の社会福祉法人に所属するケアマネジャーのKさんもそうでした。

「私たち介護業の所管省庁である厚生労働省は喫緊の課題があっても、すぐには改善に向けて動いてくれません。業界全体の問題だったとしても『わかりました。介護保険法改正時(3年に1度)に検討しましょう』と言うだけで放置されるのが常でした」

大いにうなずく読者もいるでしょうが、Kさんはこう続けました。

「でもね、最近の厚労省はちょっと違うんですよ。新型コロナ禍対応のため、迅速かつ率先して動くようになってきたんです」

■466億円かけた「アベノマスク」は世間で不評だが、介護施設では……

Kさんが評価する厚労省の対応のひとつが「マスクの配布」です。

「私が勤務する法人は老人保健施設を運営しているんですが、そこに4月上旬、布製のマスクが150枚届きました。おそらく全世帯に2枚ずつ配られることになったマスクと同じものです。指摘されているようにサイズが小さく、男性がつけると鼻の部分が出てしまう。ケアに使うには十分とはいえませんが、幸いウチの施設では不織布マスクの在庫がまだあるので職員はそれを使い、配布された布マスクは入所者の方に使ってもらっています」

入所者が1日使った布マスクは回収して洗濯。清潔にしたものを再利用というシステムを作ったといいます。

「それまでは利用者の方も在庫の不織布マスクを使っていただいていたんですが、布マスクが届いたことで不織布マスクの節約になります。その意味ではとても助かっています」

マスクの全世帯配布は世間から大批判を浴びました。一世帯にわずか2枚ということやその配布に466億円もの予算が使われたことに対する衝撃からです。「たった2枚のためにそんな大金を使うなら医療機関や介護施設にまわすべきだ」という声があがりました。マスク不足で悩む医療機関はまだ多いようですし、布マスクは使いものにならないでしょう。ただ、介護施設では役に立っているのです。

■厚労省がデイサービス職員による利用者宅の訪問ケアを可能にしたワケ

このマスク以上に介護業界の人たちを驚かせた厚労省の素早い動きがもうひとつあります。それは「通所介護、つまりデイサービスの職員が、利用者宅に訪問してケアをしてもいい」という制度変更を厚労省が決めたことです。

これには介護の現場や業界の事情を説明する必要があるでしょう。

「在宅介護」は本来、要介護者が自宅を訪れるホームヘルパーや訪問看護師などの介護サービス事業者のサポートを受けてケアを受けるものです。

一方、「デイサービス」は、在宅で介護を受けている高齢者などの要介護者が、日中、設備の整った施設でケアを受けるものです。施設のスタッフが要介護者を朝、自宅まで迎えに来てくれます。施設ではお昼ごはんも出るし希望すれば入浴もできる。さまざまなレクリエーションをしながら一日を過ごし、夕方にはまた自宅に送り届けてくれます。家族はその間、安心して仕事ができるというわけです。

■休業要請出ないのに自主休業の介護事業者続出で「介護崩壊」の危機

しかし、デイサービスの施設は、新型コロナウイルス感染において避けなければならない3密(密閉、密集、密接)の場所です。実際、施設内で集団感染した事例が発生しています。ただ、悪条件はそろっていても必要とする人がいるため、デイサービスの施設に休業要請を出している自治体はありませんが(3月に名古屋市が2週間の休業要請を出した例はある)、感染を恐れて自主休業している事業者はあります。

ウイルス保護のためにサージカルマスクを着用して横になるシニア女性
写真=iStock.com/MichikoDesign
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MichikoDesign

NHKは4月15日、緊急事態宣言が出された7都府県のデイサービス事業者を中心に249社が自主休業していることがわかったと報じました。主な休業の理由は、「地域での感染の発生」「感染の予防」「マスクや消毒液など衛生用品の不足」「事業所の人手不足」とのことです。いわば「介護崩壊」の危機が迫っているのです。

■デイサービス事業者の経営苦境で「介護崩壊」に拍車

問題なのは利用者が「介護崩壊」によって、必要なケアを受けられないことだけではありません。休業したり、施設利用者が減ったりすれば当然、事業者の売り上げとなる介護報酬は入らなくなります。新型コロナ禍では飲食店をはじめ多くのサービス業が苦境に陥っていますが、デイサービス事業者も同様の状況にあるのです。

「とくにデイサービス事業は今後の要介護者の増加を見越して多くの企業が参入し、都市部では過当競争が起きています。ただでさえ利用者の奪い合いをしているのに、新型コロナ禍が続いたら、存続できなくなる事業者が続出すると思います」

この点に関しては、国が介護事業者への支援をするべきだとの声もたくさんあがっています。

■自主休業の影響で、要介護の家族の負担が増大

他方、デイサービスを利用していた要介護者とその家族も困っています。今は感染が怖いからデイサービスを利用したくても利用できない。また、前述したようにデイサービスの施設側が休業しているため、利用しようとしてもそれができない。

緊急事態宣言によって家族は在宅ワークで自宅にいることが多いですが、これまではデイサービスに頼っていたため、自宅内で施設と同等のケアを家族が提供できるスキルはありません。

となれば、在宅でのサービスの専門職にサポートしてもらうしかない。デイサービスで受けていたのと同様のサービスを提供してくれるのはホームヘルパーです。

介助を受ける男性
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

しかし、本欄で過去に取り上げたことがあるように、重労働のわりに待遇が低いヘルパーは慢性的な人手不足で来てくれる人はなかなか見つからない状況にあります。

「そこで厚労省が考えたのが、デイサービスの人材活用です。介護保険法では、デイサービスの職員は当該施設内でのケアしか許されていません。ただ、ケアの有資格者であり、スキルも兼ね備えています。加えて今は施設の利用者が減っている関係で、開店休業の状態。だったら規則を変えて、利用者宅を訪問してケアすることを認めたのです。厚労省はそう決断したわけです」

■厚労省の「異例の早い対処」は介護事業者と要介護者を救えるか

デイサービスの職員が、訪問して行うケアで得られる介護報酬は、デイサービスの約3分の1程度に抑えられているとのこと。しかし、何もしないで報酬ゼロよりもいい。新型コロナ禍が収束すれば、デイサービス利用者は通常通りに戻る。それまでは訪問サービスでしのいで、なんとか事業を継続してほしいというわけです。

「われわれ介護業界の人間が驚いたのは、このような合理的な方策を厚労省側が先んじて打ち出してきたことです。これまでの厚労省だったら経営危機に陥る事業者が続出して業界から悲鳴が上がってから、やっと重い腰を上げるという感じだったと思う。役所が長年の体質も変えざるを得なくなるほど、今回の新型コロナの脅威は尋常ならざるものなのかもしれません」

今回、確かに機敏な対処をした厚労省ですが、この施策が、新型コロナ禍にあって今要介護者や介護事業を救い続けることができるか。今後も注視しなければなりません。

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相沢 光一(あいざわ・こういち)
フリーライター
1956年生まれ。月刊誌を主に取材・執筆を行ってきた。得意とするジャンルはスポーツ全般、人物インタビュー、ビジネス。著書にアメリカンフットボールのマネジメントをテーマとした『勝利者』などがある。

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(フリーライター 相沢 光一)

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