京都人が「祇園祭だけは、やめるわけにはいきまへんやろ」と話す深いワケ
プレジデントオンライン / 2020年4月25日 11時15分
■「コロナってゆうても祇園祭だけは、やめるわけにはいきまへんやろ」
新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの「祭り」が中止に追い込まれている。
春は豊饒(ほうじょう)を祈り、災厄を回避させる祭りが各地で開催されるシーズンにあたる。だが、緊急事態宣言の発出後は続々と中止が発表されてきている。
その一方、宗教儀式である祭事のみを非公開で実施するなど、祭りを「死守」する動きも見られる。祭りは庶民の知恵の結集そのものであり、コロナ終息後の地域経済復活のカギを握っているといっても過言ではない。本稿では全国の祭りの中止・延期の概況とともに、疫病と祭りとの関係性についても論じたい。
例年7月に京都で行われる日本三大祭りのひとつ、祇園祭。ハイライトの山鉾巡行が4月20日、中止されると発表され、多くの京都市民がため息をついた。
「いくらコロナってゆうても祇園祭だけは、やめるわけにはいきまへんやろ」
このところ、京都市民の間では、こんな会話がしばしば交わされていたからだ。他県の人から見れば、このコロナ騒ぎの最中に何十万人もの人々が集結する祭りの開催について議論する余地などない、と思うことだろう。しかし、祇園祭に限っては「コロナウイルスが蔓延しているからこそ、やらないわけにはいかない」理由があったのだ。
■祇園祭は単なるカーニバルではなく「疫病退散」が目的だった
そもそも祇園祭は「疫病退散」が目的の祭りなのだ。
869(貞観11)年、全国で疫病が流行(はや)った。その時、現在の二条城の南側の真言宗寺院「神泉苑」に当時の国の数である66本の鉾を立て、神輿(みこし)を送って災厄の除去を願ったのが始まりだ。だから、伝染病が理由で中止となれば、祇園祭自体の存在意義が問われかねない。「なんや、祇園祭はただのカーニバルやったんや」と。
祇園祭山鉾連合会は中止の会見を開いた際、「苦渋の選択だった」と述べた。しかし、祭事の全てが中止になるわけではない。神事は八坂神社など関係者のみで実施するという。祭りにおけるイベントごとはあくまでも「従」であり、「主」は宗教儀式なのだ。それは結婚式や葬式も同様である。宗教儀式である挙式や葬儀が「主」であり、披露宴や告別式のほうは「従」である。
だからこそ、同連合会は「新型コロナウイルスが蔓延し、世界中の人たちを苦しめている今こそ、疫病退散を願ってこの祭りは盛大に行われるべきであることは承知している」とも表明している。これが、祇園祭を長年守り続けてきた都人の矜恃だろう。
過去を遡(さかのぼ)れば、祇園祭の中止や日程変更はさほど珍しいことではない。明治以降では中止措置は9回、日程の変更は7回ある。伝染病がらみではコレラ流行につき、1879(明治12)年、1886(明治19)年、1887(明治20)年、1895(明治28)年の4度、延期か前倒し措置が取られている。
また、ユニークな理由では、1962(昭和37)年には、阪急電車の地下鉄工事によって山鉾巡行が中止に追い込まれている。山鉾が巡行する四条通りの路面状態が工事で悪くなり、巡行のテストをした結果、車輪の損傷が激しくなる可能性があるとのことで、中止を決めたのだ。他にも、荒天や天皇の服喪、戦時下などでの延期・中止がある。
■「三密」が守れる儀式は執り行えばよい
つまり、祇園祭の開催は時勢に合わせて柔軟かつ合理的に対応してきた。集客をコントロールできない行事はひとまず中止にし、「三密」が守れる儀式は執り行えばよい。コロナ騒ぎが収まれば、今年の分も含めて盛大な祇園祭が実施されることを期待したい。
祇園祭同様、各地の祭りは軒並み中止措置が取られ始めている。
東京・浅草神社の例大祭、三社祭は毎年5月に実施される。三社祭の場合は状況を見極めつつ、ひとまず10月に延期としている。確かに三社祭の人出はすさまじい。昨年における3日間の行事での人出は198万人にも上る。
当初日程の縁日(5月18日)には「新型コロナウイルス感染終息祈願祭」を関係者のみで執り行うという。三社祭は東日本大震災直後の2011年には被災地の心情に配慮し、中止になっており、今回で戦後2度目となる。
疫病退散系の祭りでは祇園祭と同じく日本三大祭りのひとつ、大阪天満宮の天神祭(7月)も今回、中止に追い込まれた。しかし、やはり神事のみは執り行われる。
■2020春夏、全国の主要な祭りの中止・延期措置リスト
以下に4月23日現在の全国の主要な祭りの中止・延期措置をまとめてみた。地方の小さな祭りの中止を挙げればキリがないので掲載しないが、近日開催の大規模祭事だけでもこれだけある。日本の祭りが、長い歴史の中でいかに醸成されてきたかがわかる。宗教儀式ではないサンバカーニバルなどの情報も、参考までに掲載しておく。
■東京五輪は中止に追い込まれても、日本には「祭り」がある
夏に各地で開催されるは花火大会も今年は中止となるケースが増えそうだ。祭り同様に、それぞれの花火大会には歴史的な意味がある。例えば、中止が決定している東京・隅田川花火大会は公式ホームページによると、8代将軍徳川吉宗が、大飢饉(ききん)に加えて疫病が流行したことで1733年に慰霊と悪病退散の祈願のために、隅田川で水神祭を行い、花火を打ち上げたことが始まりという。
祭りは祈りの場であると同時に、地域のコミュニティーを結束させ、また地域経済にも寄与してきた。無形有形を問わず、文化財保護という役割も担っている。
私は新型コロナウイルスが終息した後、観光業など地域経済復活は、祭りが主導すると考えている。コロナ終息が遅れた場合、来年に延期された東京五輪は中止に追い込まれるおそれもあるが、日本人として祭りが常に地域とともにあることに希望を見いだしたいと思っている。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)。佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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