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国に人事権を握られた裁判官の「とりあえず有罪に」という心理

プレジデントオンライン / 2020年5月9日 11時15分

ジャーナリスト 岩瀬達哉氏

■スッポン取材で解き明かした、知られざる世界

スッポンのイワセ。20代の駆け出しのころから、異名をとった。対象に1度食いついたら離さない取材姿勢を「不器用だから」と自己分析する。

「器用な書き手は、ある程度の材料で一定水準の原稿を書ける。私は疑問が少しでもすっきりしないと、書こうにも気持ちが乗らないんです」

これまで食らいつき、真実を追求した対象は、記者クラブ制度、年金問題、パナソニックの人事抗争、グリコ・森永事件など多岐にわたる。その都度、妥協を許さない取材活動が、「真実を話したくても、語る機会がなかった人々」との幸運な出会いをもたらしてきた。そして今回、矛先を向けたのが裁判官の世界だ。

「裁判官はそれぞれの良心に従い、憲法と法律にのみ拘束される独立した存在だと私も思い込んでいました。ところが、行政における官僚と同様、人事による統制で縛られ、独立などしていない。その知られざる世界に光を当てなければならないと思ったのです」

■100人を超える現職裁判官とOBに取材して浮き彫りに

行政府と立法府を監視するはずの裁判所が、「国の統治機関の一部として協調する」。その最高裁方針と異なる判決を出せば「見せしめ人事」。それを恐れて良心に従った判断を下せない裁判官は少なくない。刑事裁判で「無罪」の心証を得ても、控訴審で検察に逆転されれば、自身の人事に影響するため、「とりあえず有罪に」との心理にとらわれることも。司法行政を担う一部エリートがすべてを統制する実態を、のべ100人を超える現職裁判官とOBに取材して浮き彫りにした。

岩瀬達哉『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』(講談社)
岩瀬達哉『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』(講談社)

裁判官の世界に目が向いたのは、40年に及ぶジャーナリスト人生で自ら裁判の当事者になってきたからだ。新聞社出身の著名ジャーナリストや直木賞作家を相手に名誉毀損を長く争った。裁判官が原告側と被告側を比べ、第一印象で勝ち負けを頭にインプットするため、「いくら法廷で真実を語っても裁判官の心を染めることはできない」と綴るのは自身の経験による。

「批判を届けることで、裁判官自身に裁判所のあり方を変えていってほしい」。そんな思いを抱きつつ書き上げることができたのは、取材で出会った「裁判所をあるべき姿に戻さなければいけない」と憂慮するOBたちの無念の思いが「憑依」したからだという。

「その中には、超エリートだったのにあるべき論を唱えて主流から外された人もいました。彼らが私との議論にとことんつきあってくれた。本書の背骨となって支えてくれたのは心ある人々の信念です」

相手が心を開いてくれるまで何度でも通う。不器用さがまた、出会うべき人との遭遇をもたらし、力作を生んだ。

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岩瀬達哉
1955年、和歌山県生まれ。ジャーナリスト。2004年、『年金大崩壊』『年金の悲劇』で講談社ノンフィクション賞を受賞。『われ万死に値す ドキュメント竹下登』『パナソニック人事抗争史』など著書多数。

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勝見 明(かつみ・あきら)
ジャーナリスト
1952年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退後、フリージャーナリストとして、経済・経営分野を中心に執筆を続ける。著書に『鈴木敏文の統計心理学』『選ばれる営業、捨てられる営業』ほか多数。最新刊に『全員経営』(野中郁次郎氏との共著)。(写真提供=日刊ゲンダイ)

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(ジャーナリスト 勝見 明 撮影=石橋素幸)

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