戦慄の「学歴ロンダリング完全マニュアル」
プレジデントオンライン / 2020年5月10日 11時15分
■大学院のハードルがどんどん下がっている
世の中まだまだ学歴社会。ハイレベルな大学のほうが就職・出世・結婚に有利であるのは間違いない。そのため、自身の出身大学よりも偏差値の高い大学院に進学して高い学歴を得ようとする人が増えている。ネット用語でいう「学歴ロンダリング」だ。
有名なところでは、関東学院大学からコロンビア大学大学院に進学した小泉進次郎、最近ではロンドンブーツ1号2号の田村淳が高卒で慶應義塾大学大学院に入学するなど、何かと話題が多い。
どうやったら、そんなことが可能なのか。方法は後で解説するとして、学歴ロンダリングが急増した背景を考えてみよう。
「今は、昔の大学院入試のイメージからすると、信じられないくらい簡単に大学院に入れるようになりました。試験科目も研究計画書の提出と口頭試問のみという研究科が一挙に増えましたからね」
こう語るのは、日本で初めて大学院入試向けの講座を始めた中央ゼミナール教務部部長の宍戸ふじ江氏。
1990年代以降、「大学学部以上の専門教育を重視する」という国の大学院重点化政策に沿って、学部を持たない独立した大学院が急増。しかし、バブル崩壊後の景気悪化などによる経済的な事情や将来的な展望の薄さなどの理由により、大学院に進学する学部生はさほど増えなかった。学生が集まらないと国からの補助金も減ってしまう。そのため、大学院のハードルを下げてでも入学者を募集することになった、というのが内情だという。
同ゼミナールの講師で『「学歴ロンダリング」実践マニュアル』の著者でもあり、大学院進学のエキスパートとして数多くの受験者を指導してきた赤田達也氏は、今の状況を「省エネ入試」と表現する。
「以前は大学院というとアカデミックな印象が強かったと思います。大学で猛勉強し、専門分野の知識と語学でいい成績を収めた人じゃないと入れないという印象がありました。今はそういう研究科は文学部などごく一部です。大学院のハードルが下がったために、MARCH卒の人は早稲田・慶應に、早慶卒の人は東京大学へとランクが上の大学院を希望する人が多いのが現状です」(赤田氏)
また、一般的に大学院には、4年制の大学を卒業した人しか行けないというイメージがあるが、今はそうでもないという。
「資格審査で受験者の社会人経験や実績が“学歴に相当する”と認められれば、高卒でも受験できる研究科も少なくありません。資格審査は書類審査に加え、面接や小論文が必須なところもありますが、書類提出だけでいいところもあります」(宍戸氏)
ただし、高卒で大学院に入る場合は、職歴が重要になるという。
「ある40代女性は短大卒ですが、NPOで活躍した職務経験が評価されて資格審査を通り、立教大学のMBAに合格したという例もあります。看護学校を出た看護師が病院での勤務内容を評価されて大学院に入れた例も。教授から評価される仕事をしていれば、アルバイトでも大丈夫なこともあります」(赤田氏)
■早慶でも入りやすくなっている
総じて受かりやすい傾向にあるのは早慶の大学院も例外ではない。以前と比べれば入学のハードルが格段に下がっている研究科も多数存在するという。ではどのような研究科が狙い目なのだろうか。
「全般的に、大学受験と同じで、新設や時代のニーズとあっていない研究科は学生集めに必死です。そういう研究科は入りやすいといえるでしょう」(赤田氏)
具体的には次の項目で判断しやすいといわれているようだ。
①新設である
②定員が多い
③倍率が低い
④試験科目が少ない
⑤頻繁に説明会を開催している
⑥ぱっと見、何を勉強する研究科かわからない
⑦夜間コース
①~⑤は自分でも確認できるが、⑥はどういうことだろうか。
■狙い目なのが「夜間コース」
「例えば、慶應はメディアデザイン研究科。ロンブーの田村淳さんも通っている研究科です。学部を持たない独立した研究科で、80人と定員も多く、試験も書類審査と面接のみ。ITを活用してイノベーションを起こすことを目指して、様々な研究ができ、多様な人材の受け入れに熱心なダイバーシティの環境の大学院のため、社会人が慶應に受かるチャンスも高めです。ちなみに田村さんの研究テーマは、『ITを使って先祖と会話ができるシステムの構築』だそうです。ITイタコですね。学際的な研究科なので入った後も楽しめると思います」(赤田氏)
しかし、無事入学できても最終的に修了できなければ意味がない。その意味でも狙い目なのが「夜間コース」だ。卒業するためには、大学学部の場合は4年間で124単位以上取得しなければならないが、大学院は2年間で30単位程度で済む。編入学や学士入学で学部に入るより、大学院に入ったほうが社会人には通いやすい。大学も社会人を狙ってか、少数だが、夜間に設定されている研究科もある。
「夜間なら、昼間働きながらでも、週2、3回と土曜日だけ通えば単位が取れて、仕事と両立しやすいのです」(宍戸氏)
■早稲田のほうがチャンスが多い
その他、前述の条件に当てはまる入りやすい研究科はどこなのか。まずは早稲田。
「どちらかというと早稲田のほうが大学院を作りすぎているので、チャンスは大きいと思います。まずあげられるのが政治学研究科。そもそも政治経済学部は人気企業に就職できるので、大学卒業後、大学院に進学する人がすごく少ないし、大学院に進学したい人は前出の理由で東大を目指すので、志願者が少なく、狙い目なのです。中でも公共経営の夜間1年コースは試験科目が書類と面接なので、中高年のビジネスパーソンにはおすすめです」(赤田氏)
対する慶應はどうか。
「慶應のほうがハードルは高い印象です。それでも前出のメディアデザイン研究科など、日吉キャンパスに新設された研究科や三田キャンパスにある法学研究科の一部のコースなど、狙い目の研究科は存在します」(赤田氏)
余談だが、早稲田よりも慶應のほうがやや外部生が入りにくい傾向があるそうだ。
「慶應三田会のメンバーになることにふさわしい雰囲気の人が面接を通りやすい傾向にありますね。例えば、育ちのいい人。指導しやすいというイメージがあるため入りやすいといえます」(赤田氏)
しかしいくら入試科目が書類と面接のみとはいえ、何の対策もせずに受験して合格できるほど甘くはない。どの点に注意すればいいのだろう。
「大学院入試の場合は、研究科の志望理由や研究目的、内容、過程が重視されるので、応募書類の中の研究計画書や志望理由書、面接が非常に重要です。そのために、大学院での研究対象と自分がこれまで会社で経験してきた仕事とリンクするような研究科を選んだほうがより受かりやすくなります。例えば会社の法務部で勤務している人は法学系の研究科を受験する、などです。
■論文のネタを持っている社会人は歓迎される
そうすることで、応募書類や面接に説得力をもたせることができ、合格しやすくなるのです。面接でこれまで仕事で経験してきたことを活かし、大学院で研究したい。それを今後の仕事に活かしたり、後進のために役立つ論文を書いて社会貢献したいと言えれば好印象でしょう」(赤田氏)
実際に、こんな例もあるという。以前、ある商店街の会長が早稲田か慶應の学歴がほしいと中央ゼミナールを訪れた。国際的なリーダーを日本から生み出す研究をしたいということだったが、赤田氏は「あなたの仕事や経歴と全くマッチしていなくて説得力がないから、商店街の活性化や地域経済活性化などを研究テーマにしたほうがいい。志望先も早稲田の政治学研究科公共経営なら可能性が高い」とアドバイス。その方向で研究計画書作成と口頭試問の指導をしたら一発で合格したそうだ。
また、いかに教授にメリットを感じさせるかも重要だ。社会人の場合は面接で、「あなたをうちの研究科に入れることに、どのようなメリットがありますか?」と聞かれることもあるそうだ。
「教授は論文のネタを求めています。いい実務経験のある会社員を入学させると、企業の生の情報を得られ、論文のネタになりますよね。教授の研究に役立つ人は入りやすいんです。よく、会社を辞めて時間をつくって受験しようとする人がいますが、合格するまで会社は辞めないほうがいいんです」(赤田氏)
例えばこんなケースも。35歳の男性の県庁の職員と地方の国立大学の法学部4年生の女性が東京大学の公共政策大学院を受験した。男性のほうはTOEFL69点(120点満点)でも合格したが、女性は90点台だったにもかかわらず不合格になった。教授が県庁の仕事を経験してきた業務知識のある中年男性のほうがメリットが大きいと判断したためではないかと赤田氏は推測する。やはり合格するためには自分の仕事の棚卸しをして、専門分野と志望の研究科をリンクさせることが重要なのだ。
「教授は受験者の学力だけでなく、人柄や思いなどから総合的に判断するので、多少TOEICやTOEFLのスコアが低くても、真面目で素直で知的探究心が強く、仕事で成果・実績を出しているビジネスパーソンや公務員なら有利でしょう」教授が気に入る人物像としては、まさに弊誌の読者はぴったり当てはまるといえるだろう。
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中央ゼミナール 教務部部長
中央ゼミナール 大学院受験予備校講師
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(山下 久猛 撮影=和田佳久)
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