隅田川花火、阿波おどり、よさこい…夏祭りを中止に追い込む「自粛しろ」の声
プレジデントオンライン / 2020年4月28日 15時15分
■祭りがクラスター発生源になることを懸念
日本各地で、祭りや花火大会といった大型イベントの中止が次々と決定されている。4月下旬から開催の「弘前さくらまつり」、5月の「博多どんたく」、6月の「札幌YOSAKOIソーラン祭り」、7月の「隅田川花火大会」、8月の東北三大夏祭り「青森ねぶた祭」「仙台七夕まつり」「秋田竿燈まつり」に加え「長岡まつり大花火大会」「弘前ねぶたまつり」も、4月に入り次々と中止になった。
4月12日には、10月開催予定だった「長崎くんち」までも、「6月からの稽古や打ち合わせで人々の密集が避けられず、子どもを参加させる保護者からは心配する声も上がって先行きが見えない」という理由で、半年後の実施を早々と断念。まさに「ドミノ倒し」とも言える地方イベント中止の波がやってきている。
各公式サイトに掲載された主催団体の声明は、「祭り観覧者・参加者・関係者の皆さまが感染するリスクを払拭できず」(青森ねぶた祭実行委員会)、「250万人もの大勢の観客を安全安心な形でお迎えすることは、その準備を含めてとても難しく、やはり何よりも人命及び来場者の安全を優先するべき」(仙台七夕まつり協賛会)、「長岡花火によって新型コロナウイルスの感染拡大を起こしてはならない」(長岡花火財団)と、祭りの場が感染拡大の巨大クラスターになるリスクを、そろって理由として言及している。
■地方自治体の首長は早期から警戒を高めていた
4月10日、鳥取県で初の新型コロナウイルス感染例が報告され、これで感染者ゼロの県は岩手県が残るのみとなった。その前日に島根県で確認された初感染者は大阪への旅行歴がある高校生で、その後、彼女がアルバイトする飲食店を訪れた客やスタッフなど県内では17人の感染が次々と判明した。
たった1人の県境を越えた移動によりクラスター感染が引き起こされるリスクが再認識され、先がけて緊急事態宣言に指定されていた7都府県からの学生の帰省やコロナ疎開と呼ばれる人の動きに対しても、地方自治体の首長が自粛を求めるなど警戒が高まっていった。
さらに、数百万人が県内外から集まる大規模イベントが抱える潜在リスクを、官民共同の主催団体は、「もうこれ以上は地元に持ち込ませない」とばかり、封じ込める決断を早めに下した。海外では感染の中心地を各国政府が封鎖したが、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく外出自粛が要請であり強制ではない日本では、地方都市が感染多発地から人の流入を封鎖すべく動く。
政府は、緊急事態宣言による国民の行動変容により早期に感染拡大を収束に向かわせ、その後矢継ぎ早に経済回復策を打ち出したい構えだ。4月7日に政府が発表した総額108兆円の緊急経済対策には、事業者への無利子融資、中小企業や個人への現金支給などの第1段階=緊急支援策に加え、第2段階=V字回復フェーズとして、1兆6794億円の国内観光需要喚起策などの予算が計上されている。
これは旅行、飲食、興行、商業カテゴリでの消費喚起を目的とする4つのキャンペーンからなり、旅行商品購入者に50%相当分のクーポンを付与する「Go To Travel」事業(1兆3500億円)は、昨年11月に決定した台風15号・19号の被災地への旅行を割り引く観光需要喚起策「ふっこう割」の29億円を大きく上回り、観光予算では前例のない事業規模だ。
■地域住民の安全を早期の経済回復や観光産業の復興より優先
しかし、先がけて緊急事態宣言が実施された7都府県だけでなく、地方でも早くから「3密」回避の外出自粛意識が幅広し、危機後の経済活動も収縮させようとしている。3月の訪日外国人数は前年同期比93%減の19万3700人と、昭和天皇崩御直後の1989年2月以来の低水準に急減。
日本各地ではインバウンドおよび日本人旅行者が姿を消し、8割接触減を目標に地元住民の客足までも遠のいて、宿泊や飲食といったサービス業はことさら窮地に立たされている。観光の目玉でもある夏祭りや花火大会の早期中止は、長期の県外からの来訪者締め出しも辞さず、住民の安全を早期の経済回復や観光産業の復興より優先することを意味する。
地元の受け止め方は複雑だ。ある新潟県の観光関係者は「私たち新潟県民は、8月の長岡大花火大会が戦後初めて中止されたことを重く受け止め、(観光復興は)夏も無理なのか、と半ばあきらめというか絶望に近い思いを持っています」と明かす。
香川県で観光バス事業を運営する会社社長も「徳島の阿波おどり(8月12日~15日)や高知のよさこい祭り(8月9日~12日)も今年は開催できないのですかね」と案じたが、その後、阿波おどりは4月21日、よさこい祭りは27日に行政トップの要請を受けて中止が決定した。
■音楽イベントは状況を見た冷静な判断を下す
音楽イベントはどうか。例年7月末開催の「フジロックフェスティバル」は、今年は本来の東京オリンピック期間を避けて8月21日~23日に新潟県湯沢町の苗場スキー場で開催される。4月3日には第2弾出演者発表やツアーバスの販売を始め、予定通り開催の準備を進めている。
山下達郎氏は、4月12日放送から自らのレギュラーラジオ番組をテレワーク=全編自宅での収録に切り替え、リスナーに「こういう時は冷静さと寛容さが何よりも大事」「正確な判断は冷静さからしか生まれません」と静かに訴えかける。また、7月5日までの公演中止を発表し、以降の公演については後日判断としている。
なるべく早く中止を決める流れになっている地域イベントも、
「先が見えない」と言われる世界の状況は、中国の武漢市では2カ月半で封鎖が解除に、イタリアやスペインでも感染増加ペースの鈍化兆候が伝えられ、欧州の一部では行動制限の緩和が始まった。
厚生労働省のクラスター対策班のメンバーである西浦博北海道大学大学院教授の理論によると、潜伏期間を考慮しても接触8割減で1カ月程度、7割減なら2カ月弱で新規感染者数を一定水準(1日100名)以下に抑えられるという。
■浅草は状況を見ながら実施判断を先送り
仙台では七夕飾りの制作が本番の半年前には始まっており、一部はすでに完成。ねぶた師たちが下絵から骨組みや電気配線へと制作を進めていた青森では、ゴールデンウイーク後の準備本格化に向けて3月下旬から組み立てが進んでいた大型ねぶたの制作拠点、「ねぶた小屋」の途中解体が始まった。「このタイミングで判断するのは経済的損失を少しでも少なく、運行団体の出費を少しでも抑える必要があるため」と、実行委員会は説明する。
対照的に、浅草では毎年5月開催の「三社祭」は中止をせず10月に延期を決めると共に、その実施可否も8月31日までに判断すると公表している。浅草神社と共に祭りを実行する浅草神社奉賛会の関係者は、「5月から10月への延期も3月末に決めた。毎年このくらいで準備しているから、10月開催も8月末に判断すれば(実施でも延期でも)間にあう」と言う。
緊急事態宣言で方針に変わりはないかとの問いには、「それ以降は会合も自粛していますが、その方針は変わっていません」と答える。連日「第二次大戦以降で初」との見出しで各地の祭り中止が報道される中、2012年に700年祭を迎え、鎌倉時代から令和まで続く三社祭は、プランBを用意して、実施判断を最長4カ月後まで「予定通り」先送りする。
■「有事に急遽中止」をしない浅草の冷静さ
隅田川花火大会は毎年2万発の打ち上げ花火を花火師に発注し、青森ねぶた祭や仙台七夕まつりは、1年の約半分を新作の制作と本番準備に費やす。有料観覧席を販売する祭りの場合、チケット販売に座席や警備の手配キャンセルといったスケジュールも絡む。総じて大規模な祭りほど、撤退は速やかに行わねばならない。
一方、1年間大切に保管された伝統の神輿や山車を毎年お披露目する類いの祭りは相対的に準備期間が短く、3日間で200万人の見物客が訪れる三社祭でも6~7週間だ。
自粛ムードの中SNSによる市民の監視網が広まり、3月には首都圏各会場で予定通り実施された一部の興行への批判が見られたように、隣県で同時期開催の夏祭りが相次ぎ中止となる中、地元の祭りが実施可能性を残すとなれば疑問の声も県内外で上がるだろう。しかし、祭りの開催には毎年グランドスケジュールを引いてプロセス立てた準備が行われるように、浅草は有事に急遽中止を決定するのではなく、平時と同様に必要期間を計算し、結論を出す時期もあらかじめ定めた。冷静で計画的な取り組みは、悲観論と開催期待の間で揺れる他の地域にも参考となるのではないだろうか。
緊急事態宣言が全国に拡大された翌朝、東京オリンピック開催に向け7年ぶりに新調された浅草寺の大提灯が、奉納式が自粛となる中、ひっそりとお披露目された。浅草の気質を「シビック・プライド」と表現する関係者は、志ん橋大提灯が本堂に設置と同時にライトアップされる動画を、「久しぶりの明るい話題です」と見せてくれた。安全や経済を脅かす暗いニュースが続く中、地元に根付く文化まで痩せ細らないよう、「住民の心意気」で希望の光を灯し続ける下町の象徴が帰ってきた。
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インバウンド・メディア・プロデューサー
リクルート「ISIZEじゃらん(現じゃらんnet)」初代編集長、「じゃらんガイドブック」編集長、ぴあ「@ぴあ」編集長、ヤフー「Yahoo!ニュース」プロデューサーなどを経て、数百人の日本在住多国籍メンバーが日本旅行のアドバイスを投稿するサイト「DeepJapan」エグゼクティブ・ディレクター。日本在住外国人ライターを起用した公共および民間企業の多言語サイトの制作、訪日観光客の観光ガイド実務、インバウンド関連団体での活動などを通じて、外国人目線での訪日客マーケティングおよびプロモーションを支援している。
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(インバウンド・メディア・プロデューサー 萩本 良秀)
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