緊急事態宣言下で営業するパチンコ店の抱えるジレンマ
プレジデントオンライン / 2020年4月30日 11時15分
■大手法人は営業自粛したが…。
新型コロナウイルスの影響で、2月29日から東京ディズニーランドやユニバーサルスタジオジャパンは長期休業に踏み切り、コンサートや演劇などは軒並み中止、延期を余儀なくされている。さらには東京オリンピックの1年延期、プロ野球やJリーグといったスポーツの開催時期も未定。そして飲食店や居酒屋などは来客が落ち込み窮地に立たされている。
そんな状況の中でも営業を続けていたパチンコ店。ことあるごとにバッシングを受ける業界なだけに、世間が自粛をしている中、煌々(こうこう)と光を放つパチンコホールに対して世間の反感が少なからずあったのは事実だ。
思い返せば2011年の東日本大震災で節電や自粛を迫られていた時も、パチンコ店は営業を続けバッシングを受けた。そんな教訓もあってか、全国のパチンコ店が加入している全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)は、加盟店に対して2月28日に広告宣伝行為の自粛を求めた。これによって、テレビや新聞の折込チラシ、ダイレクトメール、インターネットなどの媒体で集客目的の広告宣伝の中止、さらに看板の消灯、営業時間の短縮などが行われた。
そして、多くのパチンコ店では早い段階でスタッフのマスク着用、遊技台の消毒という措置が行われていた。さらに、とあるホールではマスクをしていないと、開店前の入場抽選を受けることができないといったルールを設けて話題になった。こういった独自の感染予防対策を講じていたが、パチンコ店は不特定多数が集まり感染リスクが高い「3密」に値するのではとの声が絶えない。
ただし、遊技者はパチンコ台に向かい合っており、人と会話をすることは少ない。そして、パチンコユーザーの喫煙率が高いという理由でパチンコ店は換気を多く行っている特性もあることから、感染リスクは低いという説もある。そして新型コロナウイルスに感染した人が気づかず遊戯をしていたことはあっても、クラスター化したパチンコ店は執筆時点で確認されていない。楽観視はできないが、パチンコ店はイメージされるほど危険な場所ではないのかもしれない。
ただ、3月中旬になっても、新型コロナウイルスは収束どころか状況は悪化するばかり。広告宣伝の自粛をせず、通常営業をしているホールも一部あって、全日遊連は3月10日、13日、19日と再三にわたって広告宣伝のさらなる配慮、徹底の要請を出してきた。そして3月25日に外出自粛要請が出されると、大手法人をメインに土日の二日間の休業に踏み切った。ホールにとっては、一番集客できる週末に営業しないのは断腸の思いだっただろう。週末休業は翌週も続き、多くのホールがコロナウイルス感染防止の要請に協力する姿勢をみせた。
3月のパチンコホールは、営業日の減少、さらに自粛ムードが相まって、全国的に集客は落ち込んでいた。パチンコ店はお客さんが来てくれなければ還元もできない、つまりは勝ちづらくなってしまうため、さらなる客離れを招いてしまう。そんな悪循環によって、皮肉なことに「3密」にはほど遠い状態に陥っていたホールも見受けられた。
そして、4月4日、5日と2日連続で東京都内での感染者が100人を超すなど、状況はさらに悪化した。
4月8日には緊急事態宣言が東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県に、さらに16日には全国に発令された。多くの都道府県がパチンコ店を休業要請対象としたこともあって、それに応じるように多くのホールが長期休業に踏み切ったのだ。自粛ムードが漂う昭和天皇崩御や東日本大震災の時でも休業することはなかっただけに、日中から軒並みホールがシャッターを降ろしているのは過去にも前例が無い。
現状では多くのパチンコ店が休業要請に応じているが、店を閉じるのは簡単な話ではない。飲食店などと同じで、営業しなければ収入は無い。
■緊急事態でも営業を続けるホールの実態
また、パチンコ店に吹き付ける逆風はコロナによる来客減少だけではない。
まず、「ギャンブル等依存症対策基本法」の一環としてパチンコ機の規則改正が行われたことだ。21年1月末日までには、すべての台をこの新規則に沿ったものに入れ替える必要がある。遊技機は一台約50万円するため、当然ながら入れ替えには大量の資金が必要になる。
さらには4月からの禁煙化によって、多くのホールが喫煙ルームを設置した。そういった設備設置費を賄わなければいけないホールも多くあっただろう。それに、従業員の給料や家賃・テナント費用なども当然、待ってはくれない。資金繰りがギリギリの自転車操業の零細パチンコ店は、「休業した方がいいのはわかっているけど、閉められない」という事情もあるのだろう。
そんな理由で、緊急事態宣言の中でも営業を続けているホールがあるのも事実だ。そんな強行営業を続けるホールでは、出入口を1個に絞り、入店者全員をアルコール消毒と非接触体温計で検温、そして遊技台は1台おきに電源を切りお客さん同士が隣り合うこと防止。さらに空き台を頻繁に消毒して「消毒済み」と書かれた札を立てかけるなど、できうる限りの感染予防対策を講じていた。
もちろん、こういった対策を講じるにはマンパワーが必要になる。入店者全員のアルコール消毒や検温には、それを行うスタッフも必要になる。また、遊技台を1台おきに稼働させる対策についても、ただ機械的に1台おきに電源を落としてしまっては、人気のあるパチンコ台で営業ができなくなるため、不人気の台と人気の台を交互に設置し、不人気の台の電源を落とす措置をしていたパチンコ店が多かった。これも、営業終了後にスタッフが1台40キロ以上あるパチンコ台を移動させたのだろう。
現場で働く人たちも、働かなければその日の糧を得ることができない。そのため、急に追加された検温や台移動のように、慣れない業務や肉体的にきつい仕事であっても、目の前の仕事をこなしていくしかない。働く人たちも生き残りをかけていることが現場からは伝わってきた。
とはいえ、営業しているパチンコ店が開店前に行列を作っていることが世間に知れ、非難の的となったことは理解ができる。そして万一ホールからクラスターが発生したら、世間のバッシングは大きなものになることは想像に難くない。
また、この過去前例のない長期休業で倒産するホールが出てくることを予測して、緊急事態宣言直前にホールに預けている玉やメダル、通称「貯玉」を精算したユーザーも見受けられた。これは銀行の預金を下ろす人で殺到するのと同じことで、パチンコ店にとっては資金のショートを招いてしまう。さらに貯玉を精算したことで、次回の来店動機さえも失ってしまうなど、ホールにとってデメリットしかない。そんな事態を防ごうと、一日に交換できる貯玉数の上限を設けたり、貯玉自体の交換を禁止したホールもあったようだ。
■店を閉めたくても閉められないジレンマ
そしてそんなユーザーの予想は現実になる。4月15日には、都内で3店舗を展開する(株)赤玉が倒産。業界初のコロナ破産として報じられた。今後も同じような事情で倒産するホールが出てくる可能性は大いにある。ホールが潰れれば、新台を卸している遊技機メーカーをはじめ、景品納入業者、さらには設備の設置業者やパチンコ台の運送業者など、ホールに付随する業者も割を食ってしまう。そしてなにより、そこで働く従業員も失業することになってしまう。パチンコ不要を訴える声は多く聞かれるが、廃業することで連鎖的にあらゆる業種に影響が出てしまうのだ。
非常事態宣言は5月6日までとアナウンスされている。果たしてそれ以降ホールににぎやかな喧噪は戻ってくるのだろうか?
さらなる営業自粛の延長を迫られたら、体力のある大手法人でも、厳しいことになりかねない。そしてたとえ営業再開できても、1カ月近くホールを閉めた損失を埋め合わせなければならない。お客さんに還元する余裕がなくなることが予想される。
さらに、新型コロナウイルスを契機とした収入の減少によって、しばらくはパチンコなどの遊興に講じる余裕がなくなる人もいるだろう。このような状況で、パチンコ店に人は戻るのだろうか。集客ができなければ、ホールにとって非常に厳しい未来が予想される。
パチンコ店が営業していても目くじら立てられることなく、何も不安もなく玉を弾ける平和な日々が、どれだけありがたいものだったのか実感させられた。
(「パチンコ必勝ガイド」ライター 邦彦)
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