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慶應法学部が私大偏差値ランキング首位に躍進した理由

プレジデントオンライン / 2020年5月2日 11時15分

■大激変した早稲田VS慶應

私学の雄として、双璧を成す早稲田大学と慶應義塾大学。さまざまなジャンルでトップを争ってきたが、中でも世間から注目されてきたのが、入試の難度を示す「偏差値」である。

周知のとおり、偏差値では学部別の差はあるものの、早慶とも長年、両者譲らず最高ランクに君臨してきた。だが、最近では力のバランスが崩れつつある。慶應が早稲田をリードするようになったのだ。そのことを示す、早慶の偏差値順位表をご覧いただくと、第1位は慶應義塾大法学部。第2位は同経済学部で、早稲田大学で最難関とされる政治経済学部は、3位タイに甘んじている。受験戦争が熾烈を極めた1980~90年代、早稲田の政経学部が、私大文系の偏差値で首位を占めた時期もあったことを考えれば、早稲田の凋落は否めないだろう。

早稲田出身者にとって、さらにショッキングなデータをご紹介しよう。それが図の「早慶ダブル合格者の進学先」。「早慶両方に受かった場合、どちらを選ぶのか」という、究極の選択を示したデータだ。結論からいうと、早慶の真っ向勝負になれば、慶應に軍配が上がる傾向にある。早稲田の法学部と慶應の法学部に受かった場合、なんと9割以上が慶應を選んでいた。早稲田の政経学部と慶應の法学部に受かった場合でも、約3分の2が慶應を選んでいたのだ。

慶應を選ぶ受験生が多いが早大政経も健闘

■学歴の“トップブランド”は早稲田ではなく、慶應

慶應人気の背景について、大学生の生態に詳しいコラムニストのオバタカズユキさんは、「いまの受験生は、親の価値観に左右されます。受験生の親はブランド志向が強く、学歴の“トップブランド”は早稲田ではなく、慶應と見なしていることが大きいでしょう」と分析する。

政財界では、エスタブリッシュメントである慶應出身の二世、三世が幅を利かせている。さらに慶應には、鉄の結束を誇る交友組織「三田会」もある。「慶應生は人脈やビジネスチャンスに恵まれ、就職がしやすいことを受験生の親も知っています」(オバタさん)。

もっとも、「早慶の偏差値に、大差はありません。いまの学生は、自宅からの通学を好むので、埼玉在住なら早稲田、横浜在住なら慶應といった具合に、立地で選ぶ人も相当いるのではないでしょうか」(オバタさん)との見方もある。

■早慶ともに非看板学部の偏差値が上昇中

次に、学部別の偏差値の推移を見ると、早慶とも変動があるようだ。早稲田で特筆されるのは社会科学部(社学)と国際教養学部。とりわけ、80~90年代には、早稲田文系で「最も入りやすい学部」だった社学が、偏差値では文学部とほとんど肩を並べており、その人気上昇ぶりには驚かされる。

早慶ともに非看板学部の偏差値が上昇中

早稲田では新参の国際教養学部も、早慶では初めて“国際”を学部名に冠した学際学部。「早稲田が総力を注いだ国際研究の拠点として、人気を集めています。帰国子女が多く、英語で講義を行うなど実用的。そのため、国際色を売りにしてきた上智大学やICUなどから、受験生を奪ったのでしょう」(同)。

大学の入試事情に詳しい大学通信常務取締役の安田賢治さんは、「アジアに力を入れたのもポイント」と指摘する。慶應は、米国・ニューヨークに付属校を開設するなど、米国進出で先行。出遅れた早稲田は、アジアから留学生を積極的に受け入れてきた伝統などもあり、アジアにターゲットを絞った。「それが当たったんです。アジアは、いま伸び盛りですからね。冗談だと思いますが、慶應は創設者の福澤諭吉が“脱亜”を掲げたため、アジアへの留学に出遅れているという説もあります」(安田さん)。

「国際教養のような人気学部が牽引して、偏差値では早稲田もジリジリと慶應を追い上げています。令和には早稲田が再び慶應を抜くかもしれません」と、安田さんは予想する。

■法学部人気の裏には、マジックがある

一方で慶應は、かつて経済学部が「看板学部」だったが、前述のように、その地位はいまや法学部に取って代わられてしまった。その理由について、安田さんは次のように説明する。

「法学部人気の裏には、マジックがあります。法学部は経済学部と違って、AO入試での募集枠を拡大したりしたため、一般入試枠が狭き門になり、その影響で偏差値が上昇しました。それで、“私大文系の最難関”という一種のブランドになったのです。また、法学部はセンター試験利用入試を実施していたことも人気になった理由でしょう」

オバタさんは別の事情も明かす。

「慶應の学部の偏差値は、内部生の人気度にも左右されます。文系では、法学部政治学科が内部生に最も人気が高く、成績優秀でないと入れません。経済学部と就職実績で遜色ないうえに、単位取得がラクというのがその理由。学問の内容よりも実益で学部を選ぶのが、慶應らしいところですね」

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安田賢治
安田賢治(やすだ・けんじ)
大学通信 常務取締役
1983年に大学通信入社。以来、大学をはじめとするさまざまな教育関連の情報を、書籍・情報誌を通じて発信。
 

オバタカズユキ
オバタカズユキ
コラムニスト
著書は『早稲田と慶應の研究』(小学館新書)などのほか、『大学図鑑!』(ダイヤモンド社)を監修。

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(ジャーナリスト 野澤 正毅 撮影=早坂卓也、石橋素幸)

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