会社員は「コロナ休業」でも給料の3分の2が保障される
プレジデントオンライン / 2020年5月8日 15時15分
■「休業による生活破綻リスク」には大きな格差が
新型コロナウイルスが猛威を振るい、「見えざる敵」の恐怖に世界中が大きな不安を抱えています。
日本では4月20日の閣議決定を受け、「特別定額給付金」がやっと動き出し、全国民が一律10万円の給付を受けられることになりました。しかし、新型コロナに関する保障を「誰もが等しく受けられる」と思っていては大間違いです。保障には大きな格差があり、生活が逼迫している方々も大勢いらっしゃるのです。
テレビでは飲食店オーナーなどが、「店を閉めたら生活ができなくなってしまう」と切実に訴えている姿をよく目にします。また会社が休業になり、「これからの生活がどうなるのか不安だ」と、インタビューに答えている方もいます。
しかし、両者の「休業」による生活破綻のリスクは同じではありません。
■会社員は雇用保険からの給付がある
「会社が休業になったら」「仕事がなくなったら」「新型コロナウイルスに感染してしまったら」「発症してしまったら」……。
そんな有事の時に暮らしを支えてくれるのは、「社会保険」です。健康保険や年金制度は、私たちが生活困窮に陥らないよう「防貧」の役割を果たします。
もっとも手厚い社会保険で守られているのは、会社員(公務員も同様)です。会社員は健康保険・介護保険・厚生年金、そして雇用保険に加入しています。
では、彼らが休業を命じられたらどうなるのでしょうか?
労働基準法では、休業時は平均賃金の6割以上を支給するよう決められており、また今回の新型コロナ対策においては、会社が社員に休業手当を出した場合、その大部分を雇用保険の給付金で補填する仕組みが整備されました(雇用調整助成金)。さらに、この雇用保険からの給付は、パートの方など雇用保険に加入していない人にも拡大適用されますので、休業で収入がなくなるわけではないのです。
■「雇われている人」は雇用調整助成金の対象
一方、飲食店オーナーなどの自営業者の場合は、自らが経営者ですから「雇用保険」の被保険者ではありません。従って売り上げがなければ即座に収入が途絶え、それを補填してくれる社会保険の仕組みはありません。
では飲食店にお勤めの方はどうでしょうか?
自営業の方でも、自分が雇った人は雇用保険に入れなければならないルールですから、先述の休業手当の支給があれば、雇い主はそれを補填する「雇用調整助成金」を申請できるでしょう。
しかし、給付は後払いであることから、「資金繰りが間に合わない」など悲痛な声も聞こえています。また、職場によっては雇用保険の整備ができていないところもあり、経営者としては「休業補償を出してあげたいけれどお金がないのだ」というところもあります。
■会社都合の失業手当は待期7日間で支給、しかし事業主は……
万が一勤め先が倒産となれば、いわゆる「失業手当」が給付されます。自己都合の転職と異なり、会社都合で仕事を失うと通常3カ月の待期期間が7日間に短縮され、失業手当が始まります。
しかし、経営者が廃業しても、前述のとおり本人は雇用保険の被保険者になりえませんから、失業手当もありません。飲食店に限らず、ご自身で商売をされている事業者の方にとっては、文字通り「コロナ自粛は死活問題」なのです。
■「コロナ休業」でも会社員は給料の3分の2の傷病手当金を受給できる
では、新型コロナウイルスに感染したらどうなるのでしょうか?
症状が出ずとも、陽性反応が出たり発熱などがあれば、働くことはできません。さすがに、これは個人の事情ですから会社から休業手当は出ませんが、健康保険から「傷病手当金」が支給されます。
この手当は、給料の約3分の2の金額ですから、やはり会社員はすぐに収入が途絶えるわけではありません。新型コロナに関しての医療費は公費で賄われますから、入院が長期に亘っても医療費の負担は心配無用です。
しかし、ここでもやはり「格差」が存在します。傷病手当金は、会社員が加入する協会けんぽあるいは組合健保による給付で、「被保険者」が対象ですから、会社員のご主人に扶養されているパートの主婦の場合、新型コロナに感染しても傷病手当金は支給されません。また、契約社員など契約内容によっては、同じ仕事でも健康保険に入れない方もいます。
会社勤めなのであれば、より多くの方に社会保険加入を広げようという国の方針が「適用拡大」です。2016年から、社会保険加入のハードルを下げ、手厚い給付が受けられやすくする仕組みが始まりました。しかし、特に小さい事業所では雇い側が社会保険料の負担が重くなることを嫌って、普及の速度はあまり速くはありません。
■「国保」にも新型コロナで傷病手当金の期待が……
自営業の方は、国民健康保険(国保)に加入していますが、国保にはそもそも傷病手当金がないので、新型コロナに感染し働けなくなってしまうと当然に収入が無くなってしまいます。フリーランスも同様です。
国民健康保険に加入している人は案外多いものです。給料をもらっている勤め人で自営業ではないと認識している方でも、個人商店や理美容店で働いている方、スポーツジムのインストラクターの方など「法人ではないところ」で働いている方は、国保加入です。従って、新型コロナで働けなくなると生活困窮リスクと背中合わせです。
しかし、さすがに新型コロナに対しては国も例外を設けることにしました。
政府は3月10日に「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策―第2弾―」を出し、国民健康保険についても傷病手当金を支給するよう関係各所に指示したのです。さらに、この傷病手当金の給付金については全額国が支援するとなりました。
ただし、国保の管轄は市区町村であるがため対応は足並みがそろわず、ウェブサイトなどで給付のお知らせをしているところはまだ限定的です。実際の給付は、適用期間である令和2年1月1日から9月30日で、さかのぼっても行われる予定ですが、急を要する方もいらっしゃるでしょう。その場合は役所に問い合わせてください。
■「国保組合」加盟の事業主は保障制度がないかチェックを!
例外的に認められた国保の傷病手当金ですが、給付額は直近給与の3分の2とし、会社員の傷病手当金と同等の扱いです。
しかしながら、受給可能なのは「給与を受け取っている人」に限り、ここでも事業主は対象外です。役職に関わらず健康保険の被保険者であれば傷病手当金が受けられる会社員とは、やはり大きな違いがあります。
では、事業主が新型コロナに感染して働けない場合、なんの保障もないのでしょうか?
事業主の中には、国民健康保険「組合」といって業界団体ごとの健康保険に加入している方もいらっしゃるでしょう。国保組合の中には、傷病手当金または入院見舞金といった名称で保障を用意しているところもあります。まずはご自身の加入制度の確認をしてみましょう。
しかし、会社員のように収入の3分の2といった保障とは異なり、一日につき数千円という定額保障が多いようなので、やはり個人事業主は新型コロナ感染により生活困窮に陥るリスクが高いといえます。
■働き方に関わらず等しい保障を得られる仕組みが必要
個人事業主やフリーランスの方は、社会保険給付がなければ融資に頼らざるを得ませんが、金利があってもなくても返さなければならない借金を抱える重みはなくなることはありません。
平時においては、社会保険の保険料は「払いたくないコスト」と嫌う人も多いのですが、有事はすべての人を等しく襲うのだということを考えると、働き方に関わらず、等しい保障を得られる仕組みをもっと考えていく必要がある、ということが、今回私たちの社会に突きつけられた大きな課題ではないでしょうか。
実は、社会の強いムーブメントによって「変化」が起こった事例もあります。2019年4月から始まった「国民年金被保険者の産前産後の保険料免除制度」です。
会社員のいわゆる「育休」と比較するとまだまだ保障が手厚いとはいえませんが、個人事業主やフリーランスの方の保障の改善に、一歩前進したといえるでしょう。なおこの制度を維持するために被保険者一人一人が負担したのは、月100円の保険料アップでした。
■「防貧機能」に大きな格差があったままでよいのか?
国民年金と厚生年金では、万が一新型コロナで命を落とした時の遺族への保障にも「格差」があります。
遺族年金は遺族のその後の生活を支える大事な資金ですが、同じような境遇であっても、厚生年金に加入していないがために、給付額が数千万円も少ないというケースが存在します。
日本に住む限り、すべての人が年金制度、健康保険制度に加入することが義務付けられています。日常生活では、隣の人の保険証の「色」など気にすることもありませんが、有事の「防貧機能」である社会保険給付が色分けされるのはどうなのでしょうか?
「皆保険・皆年金」制度が整備された昭和30年代と今の世の中は様変わりしています。社会のセーフティーネットについて一人一人が考え、声を上げる必要性を痛感します。
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ファイナンシャルプランナー
アセット・アドバンテージ代表取締役。心とお財布を幸せにする専門家、ファイナンシャルプランナー(CFP)、確定拠出年金相談ねっと代表、一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務。2002年にファイナンシャルプランナー(FP)として独立。著書に、『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)、『ど素人が始めるiDeCoの本』(翔泳社)などがある。
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(ファイナンシャルプランナー 山中 伸枝)
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