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「4万人超が隔離」コロナ蔓延の北朝鮮が、いま崩壊したらどうなるのか

プレジデントオンライン / 2020年4月27日 18時15分

2019年6月12日、板門店で、韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(前列左)と話す北朝鮮の金与正朝鮮労働党第1副部長(同右)[韓国統一省提供] - 写真=時事通信フォト

■「北朝鮮の最大の祝日」の式典をだまって欠席する謎

4月20日、アメリカの「CNNテレビ」は、アメリカ政府関係者の話として、「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が手術を受け、重篤な状態になっているという情報がある」と伝えた。このニュースが世界中をざわつかせている。

北朝鮮専門のインターネット新聞「デイリーNK」も4月20日夕方、今度は北朝鮮内部の消息筋の話として「金正恩委員長が12日に心臓の血管の手術を受けた」と報じた。ただし、CNNとは違い、「金正恩委員長は現在も療養中だが、状態は好転した」と伝えた。さらに「手術が行われたのは首都平壌(ピョンヤン)北方の妙香山近くにある最高指導者専用の病院で、平壌から集まったお抱えの複数の医師が執刀した」とも報じた。

金正恩氏が重篤ではないかという臆測の根拠のひとつが、「太陽節」の欠席だ。

4月15日は、金正恩氏の祖父で、建国指導者の金日成(キム・イルソン)主席の誕生日「太陽節」で、北朝鮮の最大の祝日だ。この日は金主席の遺体がある錦繍山(クムスサン)を参拝するのが通例だ。2012年4月に最高指導者となって以降、参拝を欠かしたことはなかったが、今回は参拝の様子が報じられていない。

金正恩氏の動静は、党中央委員会本部(平壌)で4月11日に開かれた党政治局会議への出席が国内外に伝えられ、12日には朝鮮中央通信が西部地区の航空師団管下の攻撃機連隊の視察を報じていた。これが公になっている最後の動静だった。

■新型コロナで「4万8528人が隔離、267人が死亡」の情報も

金正恩氏は36歳(推定)にもかかわらず、高血圧や心臓病、糖尿病などの持病を抱えているという。テレビに映し出されるあの体形から見ても太り過ぎであることは明らかで、彼に深刻な持病があっても不思議ではない。

沙鴎一歩は新型コロナウイルスの感染が気になる。北朝鮮は「感染者はゼロ」としているが、中国と親密な北朝鮮に感染者がいないわけがない。すでに産経新聞(4月26日付)は、韓国の脱北者組織「北朝鮮人民解放戦線」の報告書(4月10日付)をもとに、4万8528人が隔離され、267人の死者が出ていると報じている。

金正恩氏も最高指導者だからといって感染しないとは限らない。世界でも首相や閣僚が感染している。そして新型コロナウイルス感染症は持病のある人ほど、症状が重篤化しやすい。金正恩氏が感染して、重篤な症状に陥ったのかもしれない。

なお中国・北京発のロイター通信は4月25日、「中国が金正恩委員長の病状についてアドバイスするために医療の専門家を北朝鮮に派遣した」と伝えている。

■最有力の後継者「金与正」とは、いったいどんな女性なのか

金正恩氏が亡くなったとき、だれが後継者となるのか。いま有力視されているのが、金正恩氏の実の妹の金与正(キム・ヨジョン)・朝鮮労働党第1副部長だ。金与正氏は31歳(推定)、金日成主席の血を正当に受け継ぐ、白頭山の血統である。

彼女について沙鴎一歩は、昨年3月7日の記事「金正恩が65時間の鉄道旅行を選んだワケ」で、こう書いたことがある。

「濃い緑色に塗られた特別列車がベトナム・ドンダン駅に到着したとき、最初に姿を現したのが正恩氏の妹、金与正氏だった。彼女は正恩氏とともにスイスに留学した経験があり、頭が良くて数カ国語に堪能だ。しかも行動力があり、正恩氏から一番信頼されている」

2回目の米朝首脳会談(昨年2月27日~28日)のために金正恩氏が平壌から65時間かけ、専用の特別列車で開催地のベトナムに到着したときの模様である。

結局、トランプ大統領との2回目の会談は物別れに終わった。しかし、金与正氏の存在感を北朝鮮国内だけでなく世界中に示したその効果は実に大きかった。記事では続けてこうも指摘した。

「正恩氏は計算があって与正氏を先に降ろしたのだと思う。待ち構えるテレビカメラの前に自分のかわいい妹を出す。その姿は世界中に報じられる。与正氏はシンガポールの会談でも、こまめに動くその姿が何度もテレビに映っていた。だれもが兄思いの妹だと感心するはずだ。しかも女性であることがちょっとした色を添える。巧みな演出である」
「仮に最初に姿を見せたのがふてぶてしい顔つきの正恩氏本人や男の側近だったとしたら、これから始まる政治ショーは盛り上がらないと判断したのだろう」

■昨年12月に「危機の時は治権限を金与正氏に与える」と決定済み

北朝鮮の専門家らは、平壌で昨年12月、朝鮮労働党の中央委員会総会が平壌で開催されたとき、正恩氏が統治能力を失った場合には「統治権限を金与正氏に与える」との決定が下されたと解説している。北朝鮮では金与正氏が最高指導者の役割を果たす準備が着々と進められているようだ。

問題は金与正氏が北朝鮮の軍隊を掌握できるかである。そのためか、金正恩氏は3月21日に戦術誘導兵器であるミサイルの試験発射を視察したときに、金与正氏を同席させた。軍に対し、彼女の影響力の強さを誇示したのだろう。

しかし、金正恩氏が死去すれば、ここぞとばかり反発勢力が行動を起こす。その代表格が軍部である。そんな軍部が暴徒と化して核を搭載したミサイルの発射ボタンを押したらどうなるのか。これまで北朝鮮は核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの発射を重ね、かなりの実力を付けた。正確に迎撃できなければ、日本や韓国などひとたまりもないだろう。アメリカ本土にさえ、打ち込む能力があるといわれる。

■朝鮮半島をめぐる安全保障情勢に大きな影響が出る

日米韓、いや世界各国にとって北朝鮮の情勢が変化することは深刻な問題である。それゆえ、新聞の社説はこぞって金正恩氏の重体説をテーマに取り上げるはずだと思っていたら、全国紙のなかで書いてきたのは産経新聞だけだった。これにはがっかりさせられた。新型コロナウイルス禍ばかりが、社説のテーマではない。

4月22日付の産経社説(主張)は「金正恩氏の重体説 半島情勢の激変に備えよ」との見出しを掲げてこう指摘する。

「独裁者である金氏が死亡、または再起不能の状態になれば、北朝鮮は不安定さを増し、不測の事態が起きる可能性がある。朝鮮半島をめぐる安全保障情勢に大きな影響が出ることは間違いない」

沙鴎一歩も、安全保障情勢が大きく揺らぐと思う。さらに産経社説は指摘する。

「金氏の健康状態は不明だが、日本は警戒を怠ってはならない」
「北朝鮮国内の異変を察知した中国やロシアが国境付近に軍を展開させる動きが過去にあった。自衛隊には北朝鮮軍の動静はもとより、中露両軍も含めて監視を続けてもらいたい」

この指摘にも賛成である。中国とロシアだけでなく、世界全体の情勢を分析して日本の国益となる外交を行うべきである。

■混乱を受けて北朝鮮の核・ミサイルが発射される恐れも

産経社説はこうも訴える。

「北朝鮮の体制は独裁者を守り、その意向を実現するためにのみ存在する。金委員長が死亡または再起不能になれば動揺は避けられず体制の崩壊や、軍が対外的に暴発することにも警戒が必要だ」
「権力闘争や、これに伴う内戦が起きてもおかしくない。混乱を受けて北朝鮮の核・ミサイルが国内外に向けて発射されないという保証はない。北朝鮮の核施設を押さえるため、関係国が特殊部隊を派遣する可能性もある」

軍部の暴発と内戦、混乱……。それを避けるためにはどうすべきか。できる限り早く、北朝鮮の核・ミサイルの開発を止めさせ、凍結させる以外に方法はない。産経社説は書く。

「ウイルス禍のさなかだが生活苦にあえぐ北朝鮮国民が何十万人、何百万人も難民化して韓国や中国へなだれ込む恐れさえある」
「北朝鮮という国家が存続するかどうかも含め、激変は避けられない。その近隣に位置し、自国民が拉致されたままの日本はあらゆる危機に備える必要がある」

最初に被害を受けるのは、国境を接する韓国と中国だ。特に中国は北朝鮮に一番信頼されている国である。国際社会のことを真っ先に考えた政策を取ってほしい。もうアメリカといがみ合っている場合ではない。

韓国にしても反日感情を強めているときではない。金正恩氏が倒れた際、北朝鮮という国の在り方をどうしていくのか。どうしたら国際社会にとって有意義な国に育て上げることができるのか。日米韓の連携を強め、半島の問題を解決していく必要がある。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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