伝説のコンサルの遺言「中小企業がコロナ倒産をしないで済む方法」
プレジデントオンライン / 2020年5月11日 9時15分
※本稿は、作間信司『一倉定の社長学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■経営者を悩ませるコロナウイルス
新型コロナウイルスの感染拡大により、4月7日に、安倍総理から「非常事態宣言」が出された。終息の気配が見えてこない中、営業自粛、接触70~80%削減要請で、中小企業、大手企業を問わず、会社経営においても極めて厳しい局面を迎えている。
こういう局面になると、売上の激減による手持ち現預金の急激な減少から、私たちはどうしてもコストカット、経費削減、さらには閉店まで考えてしまう。当然、会社は利益を出さなくてはいけないが、業種によっては利益より会社の存続を優先しなくてはいけない場合も圧倒的に多くなる。そのために資金支出のカットを考える。しかし一律的な経費削減、コストカットによって、製品の品質が落ちて、あるいはサービスが低下し、お客様からの信頼を損なうこともある。
この点について、一倉定先生は厳しく指摘されていた。
流石に今回のコロナショックの想定はしていないが、その一端は私が書いた『一倉定の社長学』(プレジデント社)でも触れた。
ここでは語録形式でわかりやすくなっている『一倉定の経営心得』(以下、『経営心得』と略す。日本経営合理化協会刊)から一倉先生の教えを現状に沿って考え、今後の行動指針を考えてみよう。
■定期は解約、現預金をすぐ使える状態にする
「コスト」も「利益」ももちろん大事だが、コロナ騒ぎのように会社にとって経営環境が悪化した時に一番大事なのは、「資金に万全の対策をとる」ことである。このことが、社長にとってまず一番にやらなくてはならないことである。要は、目の前の資金を潤沢にすることだ。
一倉先生は先の『経営心得』の中で、次のように説いている。
<景気下降期に入った時、まず手を打たなければならないのは、資金対策である。>(146ページ)これは資金ショートを絶対にしないように、社長として万全を期せということである。
それも一刻も早く、誰よりも先に手を打つことである。
社長にまず言いたいことは、「わが社はお金があるんだ」という場合にも、「ウチはあまりお金がないんだよね」という場合にも、手元にある現預金がすぐ使える状態にすることである。どんなにお金があっても、すぐ使えるようにしておくことがとても重要なのである。
そのために定期預金は解約して、普通預金にしておくこと。できたら取引のある銀行ではない別の金融機関の口座に入れておくのが安心である。万が一、銀行が会社の資金をブロックしてしまうと、社長は会社のお金といえども自由に使えなくなることもあるからだ。
また、ウチは融資枠を「○○○円」持っているから大丈夫といっている社長もいるが、状況が急変すればどんなに融資枠を決めていても銀行が融資に応じないことは実際にある。
「いくらなんでも、そんなことはないだろう」と話す社長がいるが、1990年のバブル崩壊から私たちは何回も、間接的に、直接的に痛い目に遭ってきた。その時に、次の教訓を心に刻んだはずだ。
それは、「社員、幹部、専務といえども、社長は会社の命ともいえる資金の手当てを人に任せてはいけない」ということである。
■3.11後に倒産した会社が伝える教訓
ここで少し不幸な事例を話すことにする。普段はあまり話したくない事例だが、私たちが置かれた状況が状況なので、あえてである。かなり、強烈な事実である。
ある会社がつなぎの融資のため、とある都銀の支店と交渉を重ねていた。そして、やっとのこと金曜日に、支店の担当者、支店長からOKをもらい、「決まりました。翌週月曜日に振込ます」との連絡があったのである。
金曜日に連絡があったので、「何とかつながった!」と安堵の表情を浮かべた社長は、土日も久々に晴れやかな気分でいた。「月曜日に入金を確認後、何とか支払いができる」と思っていた。
そして、翌週の月曜日。その社長は朝から入金の連絡を今か今かと待っていた。しかし、その日の午後になっても入金は確認できなかった。そこで、社長は意を決し、支店担当者に電話を入れた。
すると、担当者はそっけない声で、「本店からストップがかかったので振り込みができませんでした」の一言。社長が電話するまで、支店担当者からは何の連絡もなかった。この社長の会社は最後の最後に銀行から融資が下りなかったために倒産になった。2011年の3.11の後のことである。
この事があってからは、より一層、私は社長の皆さんに交渉などは社員に任せてよいが、最後の最後、自社の口座にお金が振り込まれるまでは、どんなことがあっても手を抜いてはならないとの話をしている。
■銀行が「OK」と言っても安心するな
もう亡くなられたコンサルタントのT氏は、一倉先生よりも少し若い、大変有能な実務派のコンサルタントだったが、この方から教えていただいた教訓がある。
「資金はものすごく大事にしろ」というのだ。私はT先生に、「それはどういう意味ですか」と尋ねると、「資金は極めて臆病な存在なんだ。担当者がOK、OKと言っても、自分の口座に入金され、使える状態になるまでは、絶対に気を抜いてはいけないものだ。他人がどんなことを話そうが、自分が自由に使えるようになるまで、私は絶対に信じない」と説明してくれた。「銀行からOKと言われて安心し、油断した社長が悪いのだ」と、一倉先生と同じような話をされていた。
その説明を受けた時に、私もまさかと思った。しかし、目の前で現実に起こると、腹が立つという気持ちなどではなく、これが現実なのかという厳しさに圧倒された。
確かに銀行の立場からすれば、返済の可能性が極めて低い場合、貸し倒れ覚悟で融資に応じるわけにはいかない。担当行員がどんなに必死に本部を説得しても、どうすることもできない。
■「社員の生活を守る」のが日本の社長だ
日本の社長はある意味で、とても優しい。今回のコロナ騒動だが、欧米、イタリアにしても、フランスにしても、アメリカにしても、社長が店舗をすべて閉店と決断した時点で、多くの社長は社員たちを瞬時にレイオフしているはずである。
アメリカの失業保険の申請数は、3月中旬からの5週間で2600万件を突破した(4月23日時点)。この数字を見る限りそう思える。この記事が出るころにはもっともっと件数は増えているはずである。既に、将来のアメリカの失業率は15%以上との予想まで出しているシンクタンクもあるのだから。
欧米の社長たちはこうして会社を持ちこたえさせようとするが、これと同じことを日本の社長はできるだろうか。レイオフの決断を、日本の多くの社長はなかなかできない。
既にインバウンド関連の事業をはじめ、当面の回復が見込めないためにやむにやまれず雇用に手をつけ始めている地域や会社もあり、ハローワークも対応に四苦八苦しているが、欧米の比ではない。
日本の社長たちができることは、社員たちの生活を守るために、資金の手当てをし、経費を削り、満額は無理でも給料を支払うことである。支払う努力が重要である。
そうしないと、営業再開をしたくてもその時に誰もいなくなってしまうからである。会社が成り立たなくなる可能性が高い。だから、日本の社長には手元にお金が必要なのである。
社長は楽観論とか悲観論の次元を超えて、万が一の時を考えて資金の手当てをするのである。
■利益は「会社存続の経費」である
では緊急時に資金の手当てがすぐできる会社とはどんな会社なのか?
当たり前の話だが、内部留保の厚い会社、一番は無借金の会社であり、二番は実質無借金の会社である。
常日頃から銀行融資を受けていないと、いざというときに銀行は金を貸してくれないから借りられるときに借りておくべきだ、などといっている人もいるがとんでもない話だ。
ましてやROE経営の時代とばかりに「レバレッジ(外部資本)をきかせて利益を出す経営こそ最新の経営だ」といっている人もいるが、高配当で内部留保が薄かったり、ファンドが一気に引き上げたりすれば即アウトである。上場企業と中堅・中小企業の経営は根本的に違うのである。
ましてや事業経営は明日何が起こるかわからない。だから常日頃から利益をコツコツ貯めて強い財務基盤を築いている会社が、難局を乗り切れる可能性が、そうでない会社よりはるかに高くなるのである。
一倉先生が「利益というのは会社存続経費である」と教えるゆえんである。
■2019年12月「万が一なんて来ないよ!」
コンサルタントの仕事をしているためか、若手社長の方々と勉強会をする機会がある。昨年暮れのこと、年内最後の勉強会だった。「万が一のことがあったら、資金の手当てをしておくように」と、私は話した。すると参加者の社長たちは「そんなの来ないよ!」と反論。
私も「来ないとは思うけれど、マーケットから見ると、いつクラッシュが起きてもおかしくないほど、株価は高くなっている。いろいろな指標を見ても、消費税が上がった後の景気は悪い」と話し、資金を手元に置くことの話をした。
2019年12月も終わり正月を迎えても、2カ月後にまさかこうした状況になるとは、私も思わなかった。ただし「中国のシャドーバンクの脅威」も言っていたので、その備えをした若手社長たちの手元には、在庫を減らし潤沢に資金がある状態になった。備えを行った社長たちからは感謝されたが、この状態がとても大切なのである。
■手形は切るな、「カネ余り」の経営を目指せ
それと一倉教の特長は「手形を切るな!」ということである。
一倉先生の教えのもう一つが「会社は借金ではつぶれない。支払手形のみが会社をつぶす危険のある唯一の資金調達法である」(『経営心得』156ページ)と。
手形を切るから、手形が不渡りになり倒産する。だから手形を切らないと倒産する確率は下がる。
だが支払手形をゼロにするには何年もの時間をかけて徐々に手形を減らし、キャッシュフロー重視の経営に徹していかなければ実現できない。これについては財務に詳しい社長だったらよくわかる話だが、この経営法を続けていけば、「過剰流動性」(現預金が必要な水準を上回っている、いわば「カネ余り」の状態)の経営になっていく。バブル期のイメージが悪いのか、今は嫌われがちな経済用語である。
流動比率が200%、300%と、400%と、かつての一倉門下生の社長たちの会社なら決して珍しくない金持ち会社はごろごろいた。懐にたくさんのお金を持っていたのである。
それでも地元銀行からお付き合いで少しお金を借りて実質無借金、また、まったく無借金といろいろといらっしゃった。
経営分析を理解されている方であれば、「社長、こんなにお金を持っていたらもったいないですよ。月商売率の2倍持っていたらいいんですよ」と言うが、こうした社長はそんな発言には耳を貸さなかった。まだ、私も若かったので、「その分を投資されては」と話していた。恥ずかしい限りである。
しかし、それは平和な時の話。このたびのコロナ騒動のように、経済情勢が厳しくなった時には、流動性が一番である。お金を持っている社長たちが今回の場合も、銀行から一番、お金が借りやすかったのである。
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日本経営合理化協会専務理事
1959年生まれ。山口県出身。1981年、明治大学経営学部卒業後、大手インテリア会社にて販売戦略など実務経験を積んだ後、1983年、日本経営合理化協会入協。事業の企画・立案を担当するかたわら、会長牟田學の薫陶を受け、全国の中堅・中小企業の経営相談に携わる。協会主催の社長塾「地球の会」「事業発展計画書作成合宿セミナー」などの講師を歴任し、現在「佐藤塾~長期計画~」副塾長、「JMCA幹部塾」塾長を務める。
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(日本経営合理化協会専務理事 作間 信司)
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