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マスクを求めるモンスター客に「落ち着いて」と言ってはいけない理由

プレジデントオンライン / 2020年4月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bowie15

「マスクを出せ」などと店員を問い詰める悪質なクレーマーがたびたび店頭にあらわれている。弁護士の島田直行氏は「クレーマーは自分が全て正しいと考え、不当な要求をしている認識がない。対応には曖昧な回答を避け、あえて協力を求めるなど4つのポイントが有効だ」という――。

■コロナの恐怖とクレーム対応で疲弊する現場

目に見えない新型コロナウイルスの恐怖に駆られ、ドラッグストアやスーパーにはマスクを買い求めようと客が押し寄せている。政府は布マスクを戸別に配布し、増産を決めた企業も報じられているが店には依然マスクが無い。入荷のめどもたっていない店ばかりだ。

ここで問題となるのが「カスハラ」(カスタマー・ハラスメント)だ。商品が手に入らず、不満を募らせた客はマスクの欠品から店員に狙いを変え、「クレーマー」に変貌する。激高して手を付けられない「モンスター化したお客様」すら現れている。

現場の店員たちは感染の恐怖だけでなく、客からのクレームとも向き合わざるを得ない過酷な状況にある。一般社団法人全国スーパーマーケット協会の調査(※)でも明らかなように、店員たちが今、欠品クレームや冷静さを失ったクレーマーへの対応に身も心も擦り減らしながら必死に働いている。この状況は一刻も早く改善する必要がある。

※一般社団法人全国スーパーマーケット協会「新型コロナウイルスの影響に関する実態調査」(2020年3月24日付)

クレーマーとはどんな特性を持ち、どのように向き合うべきなのか。私は弁護士としてさまざまなタイプのクレーマーを相手にしてきた。その経験を踏まえ、本稿ではクレーマー対応で実践してほしい4つのポイントを紹介したい。

■「自分の考えがすべて」「自分が優位でないと落ち着かない」

クレーマーの最大の特徴は、「自分の考えがすべて」ということだ。物事をすべて「自分」を主体にしてとらえるため自分の考えが実現しないことに耐えられない。だからこそ、クレーマーは自分が不当な要求をしているという認識を持っていないことが多い。

「なぜマスクを用意できないのだ」と従業員に詰め寄る客は、新型コロナウイルスへの不安以上に自分の思うようにいかないことへの不満こそがモチベーションになっている。

人は、不満を抑えることができなくなると冷静な判断もできなくなる。現在のような危機的な状況で冷静さを失うことは最も危険なことである。冷静さを失った客が、自分の感情のまま従業員にあたってしまう。本人にはそれが不当な要求という意識がないならなおさらだ。

「自分が優位でないと落ち着かない」。これもクレーマーの特徴の一つだ。周囲がたしなめても「余計なことを言われる筋合いはない」と反論されてしまう。店員がそれをたしなめたところで、一方的に罵詈雑言を受けるだけ。それがカスハラの怖いところでもある。

■「おそらく来月には」は絶対NG

カスハラ被害からわが身を守るのは、自分しかいない。コロナ禍と呼ばれる非常事態のもとでクレーマーからわが身を守るために抑えておくべき視点をお伝えしよう。

ポイント①「わからない」とはっきり伝える

新型コロナ関連の特徴のひとつがわからないことが多いという点だ。誰しも手探りしながら日々暮らしているようなものだ。これはマスクの流通にしてもしかり。マスクについては世界で争奪戦が繰り広げられている。

原材料価格は高騰し、供給量も限られている。このような状況下において従業員に「いったいいつになったら入荷するのか」と声を荒らげてもわかるはずがない。

こういう時にやってはいけないのは、わからないことについて曖昧な回答をすることだ。「おそらく来月には」とはっきりしないことを口にしてしまうと相手としては「確実に来月にはある」と解釈してしまう。

こうなるとさらなるトラブルになってしまう。危機的な状況においては,さまざまな情報が錯綜してしまいがちだ。それゆえ「わかる部分」と「わからない部分」をはっきりさせなければならない。そのうえでわからないことについては,わからないと説明するべきだ。

■曖昧な回答がさらなるトラブルを生む

弁護士として、社員に対する休業の企業説明会に同席することがある。社員は「いつまで、いくら賃金が支払われるのか」「いつ会社は再開するのか」など聞きたいことが山ほどある。私は説明会では「その部分についてはまだわかりません」とはっきり説明をする。そうすると社員もわからないなりに納得してくださる。

クレーマーに対しても「次回の入荷はわかりません。会社の方針としてわからないことについて曖昧な説明をしてはならないとなっています」とはっきり答えるようにする。

日本語は、とかくはっきり表現することを避ける傾向がある。それがかえって問題を引き起こすことになりかねない。わからないことをわからないと説明することは、なんら問題のある行動ではない。むしろお客様に対する真摯な姿勢といえるだろう。

■あえてクレーマーに協力を求めるフレーズは有効

ポイント②「落ち着いてください」とは言わない

「マスクを隠すな、今すぐ出せ!」と感情的に言い立てる客に対して「落ち着いてください」と言うのは無意味だ。意味がないどころか相手の感情を逆なですることになりかねない。

クレーマーは、「自分は顧客だから従業員よりも偉い」ということを前提にしている。「落ち着いてください」などと言われると従業員からたしなめられているようで許せない。逆に言えば相手の自尊心をくすぐれば意外と話がクローズしていくことがある。少し具体的に見ていこう。

まず店員としては「御不快を与えて申し訳ありません」という挨拶からはじめていこう。これは具体的な行為に対する謝罪ではなく枕詞のようなものだ。「あなたの話を聞く姿勢をもっています」ということを伝える意味がある。

そのうえで「ご存じのように新型コロナウィルスでみなさまに御迷惑をおかけしております。この事態の解決のためにご協力ください」と流していくことになる。

■相手の満足度を高めて矛を下ろさせる

ここでは2つの点に注意したい。まず新型コロナウイルスという会社とは関係のない事情でみんなが負担を強いられていることを示すことだ。クレーマーに対して言外に「みんなが苦労しているなかで自分だけうまくやろうと考えていませんよね」と伝えることになる。次に「ご協力ください」とあえて相手の協力を求めるようなフレーズで終わらせる。

何かを命じられるのにクレーマーは耐えられない。だが「頼られる」というのは意外に慣れていない。頼られるというのは、それほど自分を評価してくれているということだ。クレーマーも頼られると自尊心をくすぐられ、「仕方ない」ということで終わることがよくある。

クレーマー対応は心理戦という側面も多分にある。なんでもかんでも「それは違います」「お断りします」と伝えることだけがすべてではない。相手の満足度を高めて矛を下ろさせるのがベストな解決だ。

■「お客様第一主義」を絶対視しない

ポイント③もはや顧客ではないと割り切る

島田直行『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(プレジデント社)
島田直行『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(プレジデント社)

クレーマーに対して毅然とした対応ができないのは、相手が「お客様だから」という意識が根底にあるからだ。サービス業として顧客第一主義という言葉を繰り返し耳にしてきた。

そのために「お客様」というだけで何を言われてもむげにできない、ということになってしまう。クレーマーにしても「自分は客だから」ということで従業員よりも優位な立場であるように攻めてくる。

カスハラをはじめとしたクレーマー対応において一番大事なのは、「このような言いがかりをしてくる人はもはや顧客ではない」という割り切りである。

ここを最初に抑えておかなければいくら交渉術を学んでも中途半端な対応しかできずに問題の解決にはならない。相手の発言に「怖い」と感じたら上司に報告して「クレーマーとして対応していきましょう」と方針を固めるべきだ。

もしかしたら上司が「それでもお客様だからうまくやってよ」と曖昧な姿勢で回答するかもしれない。そのときには「私たちは感染のリスクを背負いながらも現場に立っています。不当な要求を相手にしたら現場はさらに混乱します。うまくすることができないから困っています」とはっきり答えるのもひとつだ。

上司から言われて「わかりました。なんとかします」では自分の負担を増すだけで終わってしまう。

■まじめな従業員ほど要注意、ワンチームの対応が重要

ポイント④個人ではなく組織で対応する

まじめな従業員ほど言いがかりに対して自分でなんとか解決しようと努力をする。特に新型コロナウイルスの影響で店舗の従業員は過酷な労働に疲弊している。普段の業務に加えて感染防止のための作業やイライラする消費者への対応もしなければならない。

そういう状況下では同僚に助けを求めることが言いだしにくい雰囲気になっている。こういった助けを求めにくい環境は、カスハラ被害の温床になりがちだ。

クレーマーは、自分の意見を通すために従業員個人の問題として話をすりかえてくる。例えば「どうしてマスクを用意できないのだ」と言われても「会社として用意できないからです」というのが正しい答えになる。それでも従業員は「申し訳ありません」とひたすら謝罪することになる。本来であれば個人として謝罪するようなことではないはずだ。

カスハラをはじめとしたクレーマー対応は、個人ではなく組織として対応することが鉄則だ。「個人でなんとかしよう」と努力するほどに相手からの威圧的に態度に抑え込まれてしまう。特に感染拡大で現場としてもイレギュラーな出来事が増えているはずだ。

イレギュラーな出来事に個人で対応していたらきりがない。「これは会社としての問題。個人としての問題ではない」と自覚しておかなければクレーマーのペースに飲み込まれる。相手に何かを伝える際も個人の見解ではなく、会社の方針であることを明確に示すべきだ。

■経営者は従業員を守る素早い対応を

こういったノウハウは、あくまで現場の従業員の方がおさえておくべきポイントとなる。経営者としては、より広い視点から采配をふっていかなければならない。とくに危機的な状況では、トップの判断の遅れが致命傷になる。

新型コロナウイルスにより誰しもストレスを感じている。「マスクが無い」というのは仕方ないにしても「思いやりがない」という社会にだけはしてはいけない。少しずつ負担を分かち合いこの危機を乗り越えていこう。

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島田 直行(しまだ・なおゆき)
島田法律事務所代表弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(いずれもプレジデント社)(プレジデント社)がある。

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(島田法律事務所代表弁護士 島田 直行)

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