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ようやく自治体でも利用開始「メールではなくチャット」を使いはじめたワケ

プレジデントオンライン / 2020年4月30日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shapecharge

重要書類のやりとりが多い地方自治体では“紙文化”が根強い。だが、新型コロナウイルスの感染を避けるため、人や紙を介さない働き方が徐々に広まっている。経済ジャーナリストの高井尚之氏がその立役者を取材した――。

■3月は、導入した自治体数が月平均の約8倍に

自治体同士をつなぐ専用チャットの導入が伸びている。「LoGo(ロゴ)チャット」という自治体専用チャットで、LGWAN(地方公共団体を相互に接続する、行政専用回線の総合行政ネットワーク)上で使えるのが特徴だ。民間企業ではSlack(スラック)などのチャットツールが使われているが、よりセキュリティー機能が高い。

LoGoチャットトークルームイメージ
提供=トラストバンク
LoGoチャット内のトークルームのイメージ - 提供=トラストバンク

2019年11月から本格運用をスタートしたが、2020年4月28日時点で、導入する自治体(関連団体を含む)が256に上ったという。

開発したのは、トラストバンクという会社で、ふるさと納税の返礼品で話題となったふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」も運営。LoGoチャットともリンクしている。

同社は「LoGoチャット」への反響をこう説明する。

「導入する自治体の数は、特に3月は毎月の平常時平均値の約8倍となりました。コロナ関連の情報共有の必要性も高まっています。例えば、LoGoチャットユーザーグループ内には『パンデミック対策ルーム』というのがあり、リモートワークを行う在宅職員だけでなく、他の自治体とコロナ対応を共有するケースも増えてきました」(トラストバンク広報)

このチャットを導入すれば、従来の手法すべてが一変するわけではないが、「手続きの迅速化」の視点として興味深い。なお現時点では「BtoB」(企業対企業)ならぬ「GtoG」(自治体対自治体)のツールで、一般住民向けではない。

■1人あたり年44時間分の業務を短縮できる

埼玉県深谷市は、同県北部にある人口約14万人の都市だ。2024年に刷新予定の新1万円札の“顔”となる渋沢栄一の生誕地で、「深谷ねぎ」でも有名だ。

同市がLoGoチャットを導入したのは、まだトライアル期間だった2019年9月だった。市役所や市の関連施設で働く全職員(非常勤職員を含む)1142人にアカウントを付与して活用を始めた。

今年4月21日に深谷市とトラストバンクが発表した試算では、活用の結果、職員1人あたりの平均削減時間は「1日約11分(年間勤務日の240日で換算すると44時間)」となった。

特に効果があったのは「日程調整」で、従来は個別メールでやりとりしてきた日時の予定調整を、グループチャットの日程調整機能を活用することで時間削減につながった。試算では、こうして削減できた時間を全職員に当てはめると、年間2億円を超える人件費削減(労働時間減を人件費に換算)につながるという。

また同じく導入した、大阪府泉大津市からは、「市で、新型コロナの感染者が出た際に、市長メッセージ発信や感染者に関する情報を、市の公式サイトにアップ。場合によっては学童保育や保育所といった施設を閉鎖するなど、対応する部局が広範囲にわたるため、同時に即座にもれなく全部局で情報共有できるチャットのメリットを大きく感じた」という声が寄せられた。

LoGoチャットは1アカウントにつき月額300~400円。深谷市のように1000以上契約しても年間400万円ほどだが、現在はトライアル期間として2021年3月まで無料で利用できる。

■「10万円給付」政策についても情報交換

一般住民の目線(消費者意識)で気になるのは、例えば新型コロナの支援対策である「現金一律10万円給付」が、チャット活用で迅速化するのか、といったことだろう。

「住民との直接やりとりで使われるツールではないため、こうした『金銭支給』の手続きを、LoGoチャットで行うことは想定していません。ただし、お伝えしたチャット内の『パンデミック対策ルーム』では、活発な意見交換もされています」(トラストバンク広報)

例えば、政府の支援策(コロナ対策では朝令暮改も多い)に、自治体がどう対応するかで迷うところを、先進的な自治体の取り組み例を参考にして、対応を進めた例がある。「10万円給付対策トークルーム」では、申請書の郵送方法はどうするかといった議論がされており、これまで自治体が単独で検討していた施策も、全国の自治体との情報交換でよりよい解決策につながっている。

LoGoチャットトークルームイメージ2
提供=トラストバンク
トークルームのイメージ。自治体を横断した情報共有が期待されている - 提供=トラストバンク

このほか、保健所や保育所、学校、商工会議所等との感染者情報の共有によって、素早い情報公開をしたり、新型コロナに関する住民からの各種問い合わせに対する回答を、職員内で共有したりするケースもある。前述の泉大津市の認識とも共通する。

感染者が少ない自治体であっても、学校の一斉休校や10万円の支給は全国共通の対策だ。それぞれの課題ごとにトークルームがあるので、隣接県とも情報共有できるのは過疎地域にとってもメリットだろう。

■自治体がいまだに「紙文化」にこだわる理由

以前から「自治体の業務は非効率」といわれてきた。そのひとつが「デジタルよりも紙を尊重する文化」だ。

自治体のデジタル化が遅れた理由はいくつかあるが、決裁などは「公文書」として作成し、保存しなければならない場合がある。行政文書は「文書管理規定」に基づいて扱う必要があり、紙をベースに業務が行われていることが大きい。「情報公開」請求への開示義務として、文書回答が多い点もあるだろう。

また、前職で行政担当記者だった編集者は、次のように語っていた。

「政令指定都市を毎日取材して感じたことは、チャットツール導入などの『業務効率化事業』には、予算をほとんどつけてもらえないのです。まずは社会保障、そして公共事業が先行し、期末に定められた業務を遅滞なく消化するのが望ましい。現状では、紙書類の決裁で問題ないのに、業務効率化にコストをかけると『税金の無駄遣いではないか』という市民の反応も恐れていました」

筆者自身も一住民として、「紙文化信仰」の弊害を感じたことが何度もある。平常時ならともかく、コロナ対策などの緊急事態では、そうも言っていられない。

■ウィズコロナ・非接触の時代にできることを

これまで考察したことを整理してみよう。

今回紹介した「共有チャット」は、それ自体がすべてを変える“魔法の杖”ではないが、使い方次第で、自治体業務を迅速化する一面がある。

企業現場でもそうだが、その業務ノウハウが個人に蓄積され、組織的や部門横断的に共有されないと、「今回の場合はこのやり方」「長年、慣例で決まっている」となってしまう。

最近、コロナ後を示す「アフターコロナ」という言葉が増えてきたが、日々、厳しい状況の中で対応する人にとって大切なのは、コロナと向き合う「ウィズコロナ」だ。

「紙文化が悪、デジタル対応が善」といった単純な二者択一ではなく、できることから一気に変えていくことも大切だろう。もちろん「優先順位は何か」の視点を持ってだが、当面は続くであろう「非接触」のご時世も踏まえて、考えたい。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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