むしろ「ステイホーム」がコロナ感染を広げるのではないか
プレジデントオンライン / 2020年5月2日 9時15分
■子供の運動不足をもたらす「公園の遊具禁止」は勇み足だ
4月24日の夜に流れたニュースを見て、小学2年生の息子が「僕らはどこで遊べばいいんだよ」と憤慨していた。25日から都立公園の遊具(滑り台やブランコ、ジャングルジム、砂場、鉄棒など)が使用禁止になったからだ。
新型コロナウイルスの感染が広がる中、「3密」(密閉・密集・密接)に該当しない公園でも感染拡大のリスクがあるのは理解できる。政府の新型コロナ感染症対策専門家会議は、接触8割減へ向け、日常生活の指針「10のポイント」を提示し、「ジョギングは少人数で、公園はすいた時間、場所を選ぶ」ことを訴えている。
これを受けて、東京都は4月25日~5月6日まで都立公園などの公園利用自粛を求め、遊具の使用の禁止・閉鎖を決めた。感染拡大を歯止めがかからない状況への対抗策であることはわかるが、これはいささか“勇み足”ではないだろうか。逆効果になってしまうのではないか。
専門家会議が指示する「公園はすいた時間、場所を選ぶ」ようにした上で、遊具にウイルスが付着しているリスクがあることを前提に、親の責任で、子どものマスク着用と、遊具使用後の手洗い・消毒を徹底すればいいことだろう。
都内の小学生は3月上旬からほとんど学校に行くことができず、筆者が住んでいる江東区では、次の出校日が5月7日の予定から31日に延期された。息子が通っているサッカースクールやスイミングスクールも「当面の間」休校中となる。
■公園で遊べない子供は結局、ゲームをするしかない
4月中旬くらいからは、スーパーやコンビニの買い物にも家族(複数人)で同行できないような雰囲気となり、子供たちのイライラはいつ爆発してもおかしくない状況だった。そこに遊具の使用禁止である。息子は「ストレスがたまる」と言って、決して広くない家のなかを走り回っている。こういう状況になると、多くの親はテレビやゲームで子供たちの気持ちを紛らせているのではないだろうか。
小学校の授業にも「体育」はあるし、子供たちが遊ぶことは大人の“仕事”と同じだろう。このご時世で、思い切りカラダを動かすことができる数少ない場所のひとつが公園だった。しかし、遊具が使用できないとなるとどうだろう。公園は小学生にとって、ただの広場でしかない。
ひとりでボール遊びをしても楽しくないし、散歩やランニングではときめかない。小学生が唯一ともいえる外遊びが公園の遊具になる。それが使用できなくなると、公園に行きたい気持ちがなくなり、カラダを動かす機会を失うことになる。
この機会逸失の「弊害」は思いのほか大きいと筆者は考える。
■コロナも怖いが、外で運動をしないリスクも恐ろしい
当然のことだが、運動不足になると、消費カロリーが低下する。摂取カロリーが変わらなければ、体内に脂肪分が蓄えられる。それだけでなく運動をしないことで、筋肉量もじわじわ低下する。筋肉は脂肪よりもエネルギー消費が高いため、筋肉量が減ることで、太りやすい体質になってしまう。
運動不足は免疫力にも大きく影響する。筋力が低下することで、疲れやすくなり、カラダを動かすことが億劫(おっくう)になっていく。運動時間の減少は、免疫力の低下につながる。となれば、明らかに新型コロナウイルスの感染を防ぐことが難しくなる。
宮城県の医師・星野智祥氏(専門分野:高齢者医療・緩和医療・感染症医療)は「新型コロナウイルスに備えるために 運動と免疫力の関係」と題した自身のブログで、「米国の研究者の報告では、定期的に適度な運動(45分の週5回の速歩)を行うと、運動を行わない場合に比べて気道感染の回数や有症状期間が半減することが示されている」と書いている。多くの感染症の予防においては、高齢者を含め、運動不足でも過度な運動でもない「中等度で適度な運動」が推奨されているというのだ。
運動をするとカルシウムが沈着しやすくなり、それが骨芽細胞の働きを促し、骨密度を高めることができる。だが、運動不足になると、この骨密度にも影響が出るおそれがある。
■日光を浴びてビタミンDを生成しないとまずい理由
「屋内で運動すればいいではないか」という意見もあるが、外出しないことでの弊害もある。人間は日光に含まれる紫外線を浴びることでビタミンDを生成して、カルシウムの吸収を助けている。日光が不足するとカラダは自分自身の骨を溶かしてカルシウムを調達しようとするため、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)のリスクも高まるのだ。
医師で大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座特任教授の梶本修身氏は、4月29日に放送されたテレビ番組内で「ビタミンDの8割は日に当たることによって体内で合成されるが、(外出)自粛の生活で紫外線不足になっている人は多い」と指摘している。
日照不足は精神面にも深刻な影響をもたらす。日光に当たらない生活をしていると、「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンが不足する。その状態が続くと精神のバランスが崩れ、暴力的になったり、ひどい時には不眠症やうつ病を引き起こしたりする。これらは大人も同様だ。
子供たちは外で遊ばなくなることで、体力が低下して、ストレスが増大するのは確実だ。そのことで体調を崩す子どもが増える、と筆者は予想する。免疫力が弱まった子どもが多いと、再開した学校が「クラスター」となる恐れがある。これは大きな問題ではないだろうか。
■外で運動する人々は「外出自粛しない不届き者」なのか
スポーツ競技の世界には、「練習のための練習はするな」という言葉がある。
たとえば、腕立て伏せだ。選手自身が、自分が今、体のどの部位を鍛えていて、それがパフォーマンスアップにどうつながるのかを理解していないとあまり意味がない。しかし、3流のアスリートは、その練習の目的を見失っていることが少なくない。ただ単に腕立て伏せをしてしまう。いつしか手段が目的になっているパターンだ。
これと同じことが最近の新型コロナウイルス対策にもいえるのではないか。
本来は「感染しない健康な体を維持する」ことが大きな目的のひとつで、そのために「新型コロナウイルスの感染を予防する」ことが行われているはずだ。当初から感染拡大の予防として、「3密を避ける」と言われてきたが、それに近頃「ステイホーム」という新たな文言が加わり、外出している人たちを“攻撃”する人たちさえ現れた。
SNSの投稿では、ランチ時にできた弁当屋の行列を見て、「こんな時期なのに並ぶかな」と苦言を呈する人や、「この1週間は買い物で2回外出しただけです」と自らのステイホーム・ライフをプチ自慢する人も現れた。屋外での感染リスクは極めて低いが、「ランナーは、当然マスク着用すべし」と義務的なトーンが日に日に強まっている。
来年に延期された東京五輪を目指すアスリートも、グラウンドや室内の練習施設が閉鎖しているため、公園や河川敷でトレーニングをしている。彼らにすれば、外での運動は「仕事」になるはずだが、世間からは「外出自粛しない不届き者」とでも言いたげな厳しい視線が浴びせられているという。
■GWは3密を回避しつつ、外で清々しい時間を過ごすのがコロナ対策
目的は「感染を防ぐこと」だったのに、いつの間にかそれが「自宅から出ないこと」に変わっているのだ。本来、外出そのものは悪ではなかった。つまり、自宅にいることが正義ではなかったはずだ。感染しないための健康体を維持するために工夫をすることが“正解”だろう。
安倍晋三首相は2月26日に「この1、2週間が感染拡大防止に極めて重要です」と話していたが、その後もことあるごとに「この1、2週間が正念場」と繰り返した。現在は「緊急事態宣言」が発令されている。5月6日に期限を迎えるが、全国一律で延長する方向で検討しているという。自粛ムードはまだまだ続きそうだ。
前述したように、子供たちの外出機会がなくなると、体力面だけでなく、精神面での不調が危惧される。短時間でもいいので子供たちを外に連れ出して、身体を動かす機会を作らなければいけない。でも、近所の目が気になる。そんな葛藤を抱えている親子は多いだろう。
新型コロナとの戦いが長期戦になれば、適度な運動は推進されるべきだろう。感染した可能性があったとしても、現状の日本では、すぐにPCR検査が受けられるわけではない。しかも、感染が確認されたとしても症状が軽い場合は入院できない。結局、頼れるのは自分の免疫力と体力だけなのだから。
ゴールデンウイークは外で過ごすのに気持ちがいい時期だ。3密を回避しながら、外ですがすがしい時間を過ごして、心身ともに健やかに過ごすことこそ、各家庭が最優先すべきコロナ対策ではないだろうか。
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スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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(スポーツライター 酒井 政人)
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