女性内科医が実践、どうしても外出せざるを得ないときにコロナから身を守る方法
プレジデントオンライン / 2020年5月11日 9時15分
■治療法は未知だが、予防法はわかっている
「私の職場はテレワークにならない。どうやって身を守るの?」と不安を持つ人は多いと思います。そうした不安や恐怖を取り除きたいという思いから、新型コロナ感染から身を守る方法を文章にまとめてSNSのFacebookに投稿したところ、閲覧数が20万以上にのぼり、大きな反響がありました。
「新型コロナの治療法」は未知ですが、「新型コロナ感染の予防法」は、実は未知でもなんでもない、何十年も前から実践されてきた既知の知識です。
もちろん、「感染者との距離は何メートル開けるべきか」「新型コロナウイルスは何時間で不活化するか」などの詳細な知見は、今後新しいデータを元に書き換えられていくと思いますが、ウイルスを「目・鼻・口に入れない」ためにどうすればよいかは、基礎的な確立された知識です。知識があれば、リスクを着実に下げることができます。
■「新型コロナウイルス」を「牛乳」に例えると
では「新型コロナウイルス」を、どういったイメージで理解すればよいでしょうか?
そもそもウイルスは油とタンパク質と核酸のかたまりで、生き物ではありません。身近なものでは牛乳に近いイメージです。
牛乳をスプレーボトルに入れてスプレーしたところを想像してください。ピシャッと飛んで、目の前の机に付いたら、白い細かいしぶきがついて、やがて乾き、机にカピカピの白い点々が残ります。そこを触ると、手に微細な牛乳のカスがつきます。この手で鼻や口を触ると、呼吸のたびに吸い込んだり、食べて喉に付いたりして肺に入ります。これが、「ウイルスを含んだ唾液の飛沫が物に付着して感染する」というパターンです。
さらに、牛乳をスプレーボトルではなくミスト製造機に入れてみましょう。牛乳のミスト(霧)は、黄砂や花粉のように風に乗って遠くまで飛んでいったりしません。感染者の鼻や口から飛び出しても、数秒から1分程度で消えてしまいます。飛んでも屋外だとせいぜい2メートルくらいでしょう。ただし、換気の悪い密室では簡単に消えず、数時間ただよい続けられることがわかっています。(「2メートル」「数時間」はあくまでも目安で、実際はもっと長い場合もありえ、走っている人からは10メートル離れたほうがよいというデータも出ています。)
■ウイルスを「壊す」には
ウイルスは、立体構造が維持されていなければ、病原性がなく、感染する力を持ちません。
例えば、加熱してウイルスを破壊すると、立体構造が壊れて病原性が失われます。牛乳を温めすぎると分離しますが、あのイメージです。
石鹸の界面活性効果も、ウイルスの油を壊します。さらに、洗い流すことによってウイルスを物理的に遠ざけることができます。また、アルコールはウイルスの油を溶かしますし、過酸化水素はウイルスの油やタンパク質を壊します。いずれの方法でも病原性がなくなります。
96時間(4日間)放置すると、ウイルスが自然崩壊します。新型コロナウイルスは、現在発表されているデータによると、常温で96時間(ただし、マスクの表面では7日間)後までには病原性を失うとされています。
■家の外は、すべて「ペンキ塗りたて」と考える
では、どうすればこうしたウイルスによる感染から、自分を守ることができるのでしょうか?
大事なのは「ウイルスがついている(かもしれない)自分の手」という“危険物”から、肺への入り口となる鼻と口を守ることです。
家の外に出たら、「すべては『4日で消えるペンキ』で塗りたて」だと思ってください。
電車の座席に座ったら、「あ、今背中とお尻に、塗りたてのペンキがごっそり付いたな」と思ってください。エレベーターのボタンを押したら、「今、指先にペンキが付いたな」と思ってください。
目標は「口や鼻にペンキをつけないこと」です。
人間誰でも、うっかり手で鼻をこすったりすることがあります。ですから、マスクをして鼻や口を触ることを防ぎましょう。マスクがない場合は、ペンキ付きの手で鼻や口を触らないように気を付けましょう。
誰もが無意識に髪を触ることがあります。ペンキのついた手で触れば、髪にもペンキがつきます。誰かが2メートル以内の距離でくしゃみをしたばかりの空間を通ったときは、空中のウイルスが髪だけでなくお腹や肩にもつくでしょう。
街に感染者がいる限り、あらゆるところにペンキが付いている可能性があります。そしてそのペンキは、4日経たないと消えないのです。
全身ペンキまみれになっても、パニックになる必要はありません。鼻や口に入る前に洗えばいいのです。大事なのは、体についたペンキを鼻や口に入れないことです。
■飲食には細心の注意を払って
外出先で注意すべきことは、「手で口や鼻を触らないこと」。しかし、どうしても手を口元に持ってこなくてはならないのが「食べる・飲む」ことです。飲食しないことが一番ですが、やむを得ないときは細心の注意を払ってください。
食べ物にペンキが付いている可能性はないでしょうか? 作った人はマスクをしていましたか? 調理者がマスクをしないで作ったものは避けるか、やむを得ない場合は食べる前にレンジで十分加熱しましょう。
自分の手にペンキが付いていないかも確認しましょう。食べる前に手を洗いましたか? せっかく手を洗っても、マスクを外すときにマスクの外側を触ると、またペンキが付いてしまいます。外すときは耳の後ろのゴムを持って外しましょう。できればマスクを外した後、もう一度手を洗うと安心です。
周囲2メートルに人はいないか、部屋の換気は十分かどうかも確認しましょう。
マスクを外している人からはペンキのミストが出ているので、至近距離で食べるのは避けましょう。「この人は咳をしてないから大丈夫」と思ってはいけません。症状がでていない感染者から出たスプレーからも感染します。
■洋服は玄関で脱ぎ、シャワーに直行
さて、家に帰ってきました。家の中では、マスクも外して、ペンキのことなど考えずリラックスしたいものです。
でも、玄関では緊張感を持って、一挙手一投足を慎重に、神経質にやりましょう。
かばんは部屋に持ち込まず、玄関に置きます。上着も脱いで玄関に置いておきます。服は、玄関で下着以外すべて脱いで、洗面所に直行して洗濯機につっこんでください。そのままお風呂に入ってシャワーを浴び、髪の毛のペンキも落としてしまいましょう。
玄関ドアのノブ、玄関の電気のスイッチも、まだペンキを洗い落としていない手で触った場所です。これらは「家の外とみなして、外出時以外は触らない」のが簡単です。もちろん、その都度アルコールなどで消毒してもいいです。荷物の受け取りなどで、玄関のドアノブや電気のスイッチを触ったあとは、手についたペンキを洗い流しましょう。
思わぬ危険があるのがスマホです。せっかく帰宅してシャワーをあびても、外でペンキまみれの手で触ったスマホを室内に持ち込んで触ってしまっては元も子もありません。家の中ではスマホをファスナー付きプラスチックバッグに入れて、そのまま使えば自分を守れます。もちろん、アルコールや過酸化水素などで消毒してから使ってもいいでしょう。
これで「家の中にはペンキを持ち込んでいない」とリラックスできます。
■面倒ですが、我が家ではやっています
ここまで聞いて、「こんな面倒なことを、本当に毎日やっているの?」と思われるかもしれませんが、我が家ではやっています。
実は普段から、「風邪の患者さんを診察した」という日は、帰り道は鼻や口を触らないよう気を付けていますし、玄関のドアを開けたらお風呂に直行しています。風邪の患者さんを診察した日にこの手間を忘れると、大抵風邪を発症するので欠かさなくなりました。
医者が毎日、ノロやインフルエンザの患者さんを診察しても自分がかからないのには、理由があるのです。
何の特殊資材もお金もいりません。いずれにせよお風呂には入るのですから、帰宅後お風呂に直行することで失うものは何もありません。アルコールがなくても石鹸で洗えばいいことを知っているので、アルコールが売り切れていても慌てません。
■「情報リテラシー」が武器になる
さらに、ここまでの知識をベースに、今後の最新の情報をしっかりと受け取っていただきたいと思います。
例えば、今後研究が進めば、「実は新型コロナウイルスは、36時間後には病原性を失っている」などの新しいデータが出てくることもあるでしょう。そのニュースを聞いたとき、「では、『4日で消えるペンキ』ではなく『36時間で消えるペンキ』だということね」と、自分の文脈に置き換える力を身につけてくださると、とてもうれしいです。
こうした「情報リテラシー」を武器に、感染からも、流行に伴う恐怖からも、ご自身を守ってください。
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内科医
2011年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院、健康長寿医療センターを経て、現在は都内のクリニックに勤務。4月7日にFacebook上で、「コロナ感染から身を守る方法」という文書を公開、5月2日時点で閲覧回数が約23万回に上り話題に。5月9日には田口トモロヲさんのナレーションによるYouTube動画も公開された。
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(内科医 眞鍋 葉子 構成=大井 明子 写真=iStock.com)
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