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旅先で写真ばかり撮っている人は、旅の醍醐味をわかっていない

プレジデントオンライン / 2020年5月20日 15時15分

APU学長の出口治明氏 - 撮影=藤原武史

旅の達人は、旅先でどう過ごすのか。世界1200以上の都市を自分の足で歩いてきた立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏は「僕の海外一人旅は好奇心の赴くままにチケットだけを取る。後はノープランで、写真も撮らない」という——。

■考えるより先に現場に行った方が学べる

人間が賢くなるために必要なのは「人・本・旅」の3つだというのが僕の持論です。いろんな人に会い、たくさん本を読み、自分の足で歩いて広い世界を見る。

3つの中で「旅」はハードルが高いと思われるかもしれませんが、簡単に言えば「現場に行くこと」です。たとえば友人から「おいしいパン屋ができた」と教えてもらうと、どんなにおいしいんだろうと食べてみたくなります。そう思ったらすぐに行って、買って食べて、味わってみることです。

僕がそう話すと「わざわざ行ってまずかったらどうすんねん」と反応する友人がいました。でもまずかったら、「あいつの舌はアテにならん」ということが分かる。自分の中で腹落ちするので何も損はないのです。まさに百聞は一見にしかず。考えている暇があったら現場に行って体験した方が学びが多いですよね。

この旅による学びを最大化するにはちょっとしたコツがあります。そのコツはシンプルで、自分の好奇心に素直になること。そしてルールを決めずに現場でしか味わえないことに集中することです。

僕は本を読んで訪ねたくなった町は自分の目で見たいですし、おいしそうだと思えば自分の舌で味わってみたい。そのために現地に行く。教えてもらったパン屋へ行くのも動機は同じです。旅はまず目的ありきです。

■海外一人旅は、エアチケットを取るだけでいい

僕の糧になっているのは、大企業に勤めていた時代に夏と冬の2回、それぞれ2週間くらいの休みを取って世界1200以上の都市を一人旅したことです。

海外旅行も難しく考える必要はありません。心に引っかかったものがどこかの国にあるなら、熱が冷めないうちにエアチケットを取るだけでいい。

たとえば、ロンドンで地下鉄を待っている時に、ぼんやり壁を眺めていたら「ダビデの生まれた町に行こう」というポスターを目にしました。それがすごくカッコよくて、すぐにイスラエルのテルアビブ行きの格安航空券を買いました。

行く前からイスラエルへの出国審査が厳しいことは知っていました。しかしヒースロー空港に着くと、「何のために行くのか」「ポスターはどこに貼ってあったんだ」「イスラエルに友達はいるのか」など、審査官から想像以上の質問攻めにあいました。

やれやれ済んだと思ったら、パスポートを隣の審査官にわたされ、またゼロから同様のことを聞かれて2時間近く……。搭乗にこれほど難儀したのははじめてでしたが、イスラエルに行くための出国審査が厳しいことを、身をもって知ることができました。予期せぬハプニングやトラブルも旅の醍醐味(だいごみ)です。それはそれで学びになるし楽しめばいい。何より対応力が培われます。

■1つ目的を決めたら、あとはノープランの理由

海外を旅する場合、1つ目的を決めたなら、あとは原則としてノープランです。友達を訪ねることもありますが、基本的に予定は決めません。スケジュールを組んでしまうと現地でどんな面白いことがあっても対応できず、もったいないからです。

宿も到着した日と帰りの日くらいしか予約しません。飛び込みでも一人あるいは家族ならたいてい泊まれるので現地をぶらぶら歩きながら、雰囲気がよさそうなホテルに入ります。食事も楽しみのひとつですが、事前に行く店を調べたり決めたりすることはほとんどありません。

おいしい店はホテルのフロントで聞けば紹介してくれますし、聞かなくても現地の人がいっぱい入っている繁盛店ならまちがいないと僕は感じています。

ぶらぶら歩きまわるにはひたすら身軽が理想です。荷物ほど邪魔なものはありません。僕はいつもリュックか機内持ち込みできるトランク1つしか持って行きませんが、極端なことをいえばパスポートとクレジットカードと2日分の下着さえあればそれでいい。先進国でなくても空港で買えないものはないですし、下着も毎晩洗えば2枚で足りますよね。

■現場を最大限楽しむのにカメラは邪魔になる

身軽なら電車やバスでの移動も楽です。

僕はいつも地元のワイン一瓶を買って電車やバスに飛び乗ります。そのワインを車窓からの景色を眺めながらチビリチビリと飲み、きれいな町があったら適当に降りてみる。途中でパンやチーズでも買えれば最高です。地元の食を楽しみながら現地をぶらぶら歩く。こうしてイタリアやフランスはそれぞれ200近くの町を歩きました。

現場を楽しむための盲点はカメラです。僕は30代のはじめ頃まではカメラを持参し写真を撮っていました。凝り性なので地元の町の写真コンテストに入賞したこともあります。確かスペインのアルハンブラ宮殿の写真でした。でもある時、旅先で撮ったフィルムを現像すると見たことのない景色が写っていました。

その時、自分はいい写真を撮ることが旅の目的になってしまっていて、自分の目でしっかり見ていなかったのだと気付いた。それからは「忘れるものは大したものじゃない」と割り切って、カメラを捨てました。自分の目に焼き付けることの方が何よりも大事なことだと思ったからです。

■楽しみを増やすには日頃から学ぶこと

ですから旅に特別な準備はいりません。好奇心の赴くままに現地を自分の足で歩いて体験すればいいのです。楽しみを増やす方法があるとすれば、やはり「人・本・旅」で日頃から学ぶことです。知識は思わぬところでつながることがあります。

それで思い出すのが、中世ドイツの最盛期を築いたザーリアー朝(1024-1125年)の皇帝の墓が見たくて、ドイツのシュパイアー大聖堂を訪ねた時のことです。大聖堂の地下には歴代の皇帝が眠っていました。その中にハプスブルク家のルドルフ(1218-1291年)の棺もあり、これは勝手に大発見だと思いました。

ルドルフはハプスブルク家からはじめてドイツ王になった人物です。僕は歴史オタクですから、ルドルフがハプスブルク家初の王位に就いた人物だと知っていました。

ルドルフは昔の大王朝の皇帝の墓室に入れてもらうことで自分も同格だということを示そうとしたのでしょう。きっと自分からはじまる大王朝をつくりたいという野望を持っていたのだろうなどと想像をめぐらせるのは楽しいことですよね。

■アレキサンダー大王と宇宙戦艦ヤマトの相関関係

もう1つ印象的なのは、古代ギリシアのアレクサンドロス(アレキサンダー)大王の石棺があるトルコのイスタンブールの考古学博物館です。そこで、すばらしいレリーフ(浮き彫り細工)で飾られた石棺の案内板を見ると「イスカンダル」と書いてありました。トルコ語で(アラブ語も同じですが)「アレクサンドロス」は「イスカンダル」だったのです。

僕はそれを見て、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』の主題歌にある「宇宙の彼方 イスカンダルへ」というフレーズがすぐに頭に浮かびました。物語の中で地球を救うために、宇宙戦艦ヤマトが向かったのが宇宙の果てのイスカンダルという惑星です。作者の松本零士さんはアレクサンドロスが好きだったのかもしれません。

日頃から本を読み、人に会うことでいろいろな知識を得ることができます。しかしその上で現場に行くと、また新たな発見が加わるのです。

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出口 治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命に入社。2006年、ネットライフ企画(現・ライフネット生命)を設立、社長に就任。同社は12年に上場。18年から現職。

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(立命館アジア太平洋大学(APU)学長 出口 治明 構成=八村晃代 撮影=藤原武史)

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